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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


心機一転 / リフォーム@草間興信所

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OPENING

「お兄さん、これは二階ですよね?」
「ん?おぅ。書斎に頼む」
「わかりました」
「階段、気をつけろよ」
「はい」
何の変哲もない会話。
けれど今日は、二人にとって、特別な日。

草間興信所。
所長が間抜けだとか、貧乏だとか、
事実混じりの妙な噂も含めて、
知名度を右肩上がりに上げてきた探偵事務所。
吐く息白き、初冬の吉日。
その外観が、大きく変化を遂げた。

興信所所長の探偵、草間・武彦と、
その妹であり、探偵見習いである、草間・零。
二人で協力し、コツコツと貯めてきた改装費。
その全てを、惜しむことなく費やして。
今日。二人は、興信所を大胆に変貌させた。

過去の産物や記録を、現在に運ぶ二人。
改装は、もうすぐ終わる。

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興信所のリフォーム・改装。
その終了、完成を前に、シュライン・エマは憂いを含んだ笑みを浮かべる。
武彦や零と思うところは同じ。
彼女もまた、興信所を”帰る所”とする、草間ファミリーの一員ゆえに。
「何だか…寂しくなっちゃうわね」
ポツリとシュラインが呟く。
その切ない声色に反応し、
零はフッと顔を上げて、シュラインを見やった。
微笑んではいるものの、何かキッカケがあれば、
すぐに綻び泣き出してしまいそうな表情。
零は、すぐさま顔を背けた。
うっかり、つられて泣き出してしまいそうな自分がいるから。
感慨深く、しっとりとした雰囲気の二人。
そんな二人に苦笑して、武彦は言う。
「おい、何ボーッとしてんだ。とっとと終わらせちまうぞ。ほれ、運べ」
シュラインと零に軽い荷物を任せ、
自身は重い荷物を運ぶ武彦。
「…お兄さんは、寂しくないんですか」
ぬいぐるみの入った箱を抱え、小さな声で武彦に問う零。
武彦は、振り返らずに応えた。
「まぁ、適度に寂しいよ。適度にな」
荷物を持ち、スタスタと先を行く武彦の背中を見て、
シュラインと零はハッと同時に悟り、互いに顔を見合わせた。
そうだ。いつまでも寂しがってちゃ何も始まらない。
新しく生まれ変わった興信所を、めいっぱい愛して、
自分たちも気持ちを切り替えなくては。
寂しさや過去を、上手に思い出に変えて、
前進しようとしている、この所長を支えなくては。
そう思った途端、二人に、いつもの笑顔が戻る。




「ふぅ……」
同時に重なった二つの溜息に、
ソファに並んで座るシュラインと武彦はクスクスと笑った。
時刻は、午後七時十分。
早朝から開始されたリフォームの仕上げは、つい先程終了した。
「さすがに疲れたな」
目を伏せ、煙草に火をつけて言う武彦。
スッと立ち上がり、武彦の後ろに回って、
手際よく、硬くなった彼の肩を揉み解し始めるシュライン。
「おい、いいよ。お前も疲れてるだろ」
苦笑して武彦が言うも、シュラインは優しく微笑んで、
「いいから。ジッとしてて」
そう言って、マッサージを続けた。
気持ちのこもったシュラインのマッサージは、とても心地良い。
煙草を咥えたまま、口数少なく、ウトウトしかける自分に、
思いのほか疲れているんだと気付かされる武彦。
キッチンからは、美味しそうなシチューの香りが漂う。
リフォームを終えてから、零がキッチンにこもり、食事を準備をしているのだ。
いつものように手伝おうと腕まくりをしながら、キッチンに入って行ったシュラインだったが、
零の「今日は私に任せてください」の言葉に甘え、
パパッとデザートのみを作り、リビングへ戻った。
その為、今、武彦とシュラインがリビングに二人きりでいる、というわけだ。
「いい匂い…お腹、すいたね」
マッサージを続けながら言うシュライン。
武彦は目を伏せたまま、そうだな、と頷く。
料理を零に任せっきりにするのは、
シュラインにとって、とても珍しい事で。
慣れない所為か、しきりにキッチンに目がいってしまうようだ。
そんなシュラインに、武彦は笑いながら言った。
「いいから。座れよ」
自身の横を叩きながら言う武彦に、
シュラインは少し躊躇いつつも、
促されたとおり、隣に腰を下ろす。

いつものソファ。隣に、武彦。
何も変わらない筈なのに、何だか落ち着かない。
傷一つない、真っ白な壁。
外の灯が、はっきりと見える、曇りのない窓。
どこもかしこも綺麗になった興信所。
まるで、どこぞのホテルに泊りに来てるみたいな間隔に、
シュラインは微笑みつつ、小さな声で言った。
「色々…あったよねぇ」
「ん?おぅ。ほんとにな」
コーヒーを飲みつつ返す武彦。
「大変な仕事とか、妙な仕事とか…全部、どれも大切な思い出よね。今となっては」
「そうだな」
「変な大会の賞金も貯めといて良かったわね。ほとんど、なくなっちゃったけど」
「いいんじゃね。また、出場すりゃーいいだろ」
「あっははは。本気で言ってる?」
「くっく…冗談に決まってんだろ、ばぁか」
思い出を辿りながら、言葉を交わすシュラインと武彦。
二人だけの、二人にしか、かもし出せない雰囲気。
幸せそうな空気に躊躇いながら、
遠慮がちに零は言った。
「…いい雰囲気のところ、すみませ〜ん。ご飯、できましたぁ」




零の作ったシチューとサラダを前に、三人は乾杯。
生まれ変わった興信所と、これからもよろしくの思いを込めて。
「美味しいっ。ん〜。零ちゃん、また上手になったわね、お料理」
シチューを口に運び、驚きながらも嬉しそうに言うシュライン。
零は、空になった武彦のグラスに水を注ぎながら、恥ずかしさを紛らわせて言う。
「そ、そうですか?」
「うん。ビックリしちゃった。ね、武彦さん?」
「おぅ、そだな。…一番最初に作った、消炭ハンバーグとは比べモンになんねぇ」
「…は、はぅ」
「もうっ!武彦さんっ、意地悪なこと言わないのっ」
場所は変われど、三人の遣り取りには、何の変化もない。
いつもの、和気藹々とした食卓。
何だか落ち着かない…そんな感情は、
食事を済ませる頃には、すっかり消えていた。

シュラインの作ったデザート、マンゴーゼリーを食べ、満足そうにくつろぐ武彦と零。
幸せそうな二人に頷いて、シュラインは一人、自室へ向かう。
運び込んだ荷物が、まだ微妙に片付いていない自室で、
シュラインは、とあるものを探しだす。
「あ、あった」
それは、白い箱。
一つは小さく、もう一つは大きめだ。
シュラインは二つの箱を持ち、淡く微笑んで一人、呟く。
「喜んでくれるかな…」

何も告げずに突然姿を消したシュラインが、
フラリとリビングに戻ってきて、武彦と零は、キョトンとした表情で言う。
「どした?」
「どこ行ってたんですか?」
二人の顔を見て、シュラインはクスクスと笑う。
そんなシュラインに、武彦と零は、更にキョトン。
顔を見合わせて首を傾げる二人に、
シュラインは、ゆっくり歩み寄って、贈り物を差し出した。
「何だ?」
「…へ?」
わけもわからずに箱を受け取り、武彦と零は困惑している。
「お祝いっていうか、何ていうか。開けてみて」
人差し指で頬を掻きつつ、二人から目を逸らして照れ臭そうに言うシュライン。
その言葉で、ようやく理解した武彦と零は、
遠慮がちに、受け取った箱を同時に開いてみた。
武彦が渡された箱の中には、手袋。
零が渡された箱の中には、ブーツが入っていた。
それは、どちらも革製で、とても上質なもの。
この日のために。この日の記念に。
シュラインが翻訳の仕事で知り合った職人に依頼し、つくってもらったものだった。
「おぉ〜…かっけぇ」
「わぁぁ…可愛い…!」
シュラインからの贈り物に、大喜びする武彦と零。
二人の姿に、シュラインは幸せを感じて、優しく優しく微笑んだ。
「私達も、何かプレゼントしなくちゃ、ですね。お兄さん」
貰ったブーツを抱きしめつつ言う零。
武彦は、貰った手袋をはめて、満足そうに頷きながら返す。
「そうだなぁ。シュライン、何か欲しいモンあるか?」
武彦の問いに、シュラインはフルフルと首を左右に振って返す。
「いいの。いらないわ」
遠慮しているように見えるが、
シュラインは、心底。
お返しなんて、いらないと思っていた。
二人からは、毎日。元気と幸せな時間を貰っているから、と。




美味しい食事と乾杯。
それから、シュラインのサプライズなプレゼントを終えて。
場の雰囲気は、お祝いモードから、ミーティングモードへと変わる。
いつまでも浮かれているわけにはいかない。
ここは”草間興信所”なのだから。
誰が仕切りだしたわけでもない、少し張り詰めた空気の中。
その瞬間を待っていたかのように、興信所の電話が声をあげた。
RRRRR―
一斉に電話を見やる三人。
チラリと時計を見やり、現在時刻を確認する武彦。
手際よく時刻を傍にあったメモに書き留めつつ、シュラインを見やって微笑む零。
零の”合図”にシュラインはクスクス笑いつつ、
武彦の肩にポンと手を置き、電話を取るように促す。
「さぁ、どうぞ。所長さん」
シュラインの言葉に、武彦は肩を竦め苦笑して。
スッと受話器を持ち上げて言った。
「はい、毎度。新装開店、草間興信所」

十一月二十一日、午後九時十八分。
新生草間興信所に、一本目の仕事が舞い込んだ。


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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。

活動休止前に公開していたオープニング・シナリオですが、
今のところ再受注・窓開けの予定は、ありません。ごめんなさい;

椎葉 あずま(2007/11/26)