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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


午前0時の遺恨

●オープニング
 件名:腕の傷
 投稿者:アヤ

 話しても信じてはいただけないでしょうが、私の左腕には、突然できた傷跡があります。
 最初の傷は、一週間前の午前0時にできました。
 部屋で宿題をしている最中、急に痛みを感じたので腕を見たのです。
 すると……白いシャツの袖が血で真っ赤に染まっていました。
 袖をまくると、腕にはかなり深い切り傷が……。

 その日以来、午前0時になると左腕に痛みが走り、服が血で汚れます。

 何故こうなるのか、全く見当がつきません。
 今夜も痛みに襲われるかと思うと……恐ろしくて眠れません。

「突然できる傷……か」
 とりあえず、メールで詳しい話を聞いてみようと決めた瀬名・雫は、投稿欄にあったアドレスにメールを送信した。

 後日、投稿者のアヤから返事が。

「瀬名・雫様
 ゴーストネットOFFの掲示板に書き込みしたHNアヤです。
 この怪奇現象に関係あるかどうかはわかりませんが……私は、中学時代からの親友を見捨てました。
 親友の飛鳥は、学校でいじめに遭っていたのです。いじめられっ子の私を庇ってせいで……。
 私は、これ以上いじめられたくないので、飛鳥をシカトし続けました。

 それが原因なのかどうかわかりませんが……飛鳥は左腕を果物ナイフで切り、自殺しました。
 死亡時刻は、午前0時丁度だったそうです。
 まさかとは思うのですが……飛鳥は、私を恨んでいるのではないのでしょうか?
 だから、私の腕に傷が……」

「自殺した飛鳥って子の傷がアヤさんに……。飛鳥さん、アヤさんを憎んでいたのかな……」
 
 返事の後には、アヤの本名と、通っている学校名が記されていた。
「神聖都学園高等部の1年、クラスはA組か。神聖都の生徒なら、アヤさんに近づけるかも」
 雫は、神聖都学園の知り合いに携帯で事情を話したり、インターネットカフェの常連客に声をかけ、アヤの調査を行うよう必死に頼んだ。
「お願い、アヤさんを助けて! これ以上、あの人を傷つけたくないの!」

●調査依頼
 黒崎吉良乃(くろさき・きらの)は、どこの組織にも属さず、一人で依頼を実行しているフリーの暗殺者だ。
 風呂から上がり、のんびりしようかという時に携帯電話の着メロが鳴った。
「はい、黒崎です」
「黒崎さん、今、お時間ありますか?」
「大丈夫よ」
 彼女の携帯電話に電話したのは、仕事を斡旋し、吉良乃に依頼要請する知り合いの仲介屋だった。
「実は、知り合いに頼まれた事件を解決して欲しいんです。何でも、神聖都学園高等部に通う女子高生の腕が、午前0時になると切り傷ができ、血塗れになるという奇妙なものなんですけど……。詳細は、後でメール送信しますので確認願います」
 午前0時に起きる奇妙な出来事とはどんなものだろう?
「私は、暗殺者なんだけどね……面白そうだから、引き受けるのも良いかも」
 携帯電話を閉じると、仲介屋の指示通り、パソコンに送られたメールを確認した。
 そこには、指定されたサイトの掲示板を見るようにとの指示が。
 確認すると、仲介屋が話したとおりの出来事が「アヤ」と名乗る女子高生の身に起きていることが書かれていた。
 投稿欄にメールアドレスがあったので、アヤとの交渉はメールで行うことにした。

<吉良乃が送信したアヤ宛のメール全文>
 アヤ様
 はじめまして。あなたの投稿に興味を持った者です。
 あなたの身に起きる出来事の詳細を知りたいので、直接会ってお話したいです。
 できれば、あなたの自室で。

 お返事、お待ちしております。
 連絡先 090-XXXX-XXXX

 黒崎吉良乃   

●直接交渉                  
 その翌日、アヤから電話がかかってきた。
「あの……私、岩下綾香といいます。ゴーストネットOFFの掲示板に書き込みした「アヤ」といえば、おわかりでしょうか?」
「ええ、わかるわ」
 綾香は、吉良乃と自室で直接話をしたいと申し出た。
 土曜日の夕方、両親が出かけるので二人っきりで話しができると言うので、午後5時に岩下家を訪ねることに。
「では、これで失礼します」
「わかったわ。それじゃ、5時にお宅で」

 約束の時間、岩下家に向かう吉良乃を何者かが尾行していたが、吉良乃はそれをあえて無視した。その人物が、今回の事件と何か関係があるかもしれないと睨んだからだ。
 呼び鈴を鳴らすと、インターフォン越しに「黒崎です」と名乗ると、玄関から綾香が出てきた。
「お待ちしていました。どうぞ」
 綾香の希望で、依頼の詳細は彼女の部屋で話すことにした。
「聞いたところでは、午前0時に切り傷ができ、出血するということだけど……」
 吉良乃が話を切り出すと、綾香はロングTシャツの袖をまくり、腕を震わせながら包帯を解き、事の真相を全て離そうとしたその時、何者かが綾香の部屋に入ってきた。
「桐生君! 勝手にあたしの家に入らないで! あたしとあなたの関係はもう終わったのよ!!」
 桐生、という高校生くらいの少年の腕を掴むと、綾香は家から追い出した。
 その高校生は、追い出されようとしているにも関わらず、しつこく綾香に迫ったが、吉良乃が「やめなさい」と止めたことで、追い出すことができた。

「綾香……まだ足りないか? だったら、もっとしてやるよ!」

 彼の捨て台詞を、吉良乃は聞き逃さなかった。

「彼、何者なの?」
 玄関先でその様子を見ていた吉良乃が訊ねた。
「すみません、お見苦しいところをお見せして……。彼は桐生黎くん、神聖都学園の生徒で、あたしの幼馴染みです。暫くは交際していたんですが、彼がしつこく迫ってくるのであたしが振ったんです。この傷は……振られた腹いせに彼が呪いでつけたんだと思います。黎くん、呪いとかの類に興味があって、何度か試したことがあるって言ってたから……」
 傷口を押さえながら、綾香はそう言った。
 黎が綾香を独占したいがために呪いをかけ、脅して屈させようとした。
 あるいは、それで飛鳥を殺した。
 吉良乃が考えた可能性は、その二点だ。
「自殺したと言われている飛鳥さんだけど、彼と何か関係があったのかしら?」
「いえ。あたしと黎くんはクラスが同じですが、飛鳥は違いますから。でも、親しくしているところを何度も見ていますから……嫉妬したのは無理もありません」
 綾香のその言葉で、この一件は黎が関わっていると吉良乃は確信した。

●事件の真相
 深夜になってから、吉良乃は黎の家に忍び込むことに。
 勝手口が開いていることを確認した後、そこから進入し、黎の部屋を探し始めた。
 黎の部屋は、二階の奥にあった。黎が眠っているのを確認すると、ペンライトを取り出し、部屋を見渡した。本棚、机の上、ベッドの側には呪術関連の本や、呪いに使うものと思われる怪しい道具がずらりとあった。
 それを確認すると、吉良乃は黎をたたき起こした。
「……ん……誰だよ」
「黎くん、あなたが綾香さんの家を去る前に言った捨て台詞、あれはどういう意味かしら? たしか、足りないならもっとしてやるよって言ったわよね?」
 こいつ、聞いていたのか! という表情で驚く黎。
「ちっ……聞こえてたか。俺は、綾香に呪いをかけていたんだよ。飛鳥同様にな!」
 開き直った黎は。得意気に綾香に呪いをかけた理由を話し始めた。
「あいつは、昔は俺ととても仲が良かったんだ。でも、中学時代に知り合った飛鳥って奴と急に親しくなり、俺を捨てた。高校生になっても、二人の仲は続いていた。あっさり捨てられた俺は……人生最大の屈辱を味わった! だから、夜中に飛鳥の家に忍び込んで、自殺に見せかけて殺したんだよ! 綾香の傷は、飛鳥の怨念に見せかけるために俺が呪いをかけたんだ、こいつでな!」
 机の引き出しから黎が取り出したものは、綾香そっくりの人形だった。人形の腕は……ズタズタにされていた。中には、綾香の髪の毛が入っているのだろう。
「飛鳥が死ねば、綾香は俺を頼ってくれると思った。助けてくれってな。だが、綾香はそうしなかった。ムカついた俺は、綾香が俺を頼るまで呪いをかけ続けることにしたんだよ!」
 アハハと笑いながら、黎は全てを話した。
「すべては、あなたの歪んだ独占欲のせいだったのね。そのために、飛鳥さんを犠牲に……」
 それ以上何も言わず、吉良乃が厳しい表情で黎を睨み、破壊の力が宿る左腕で彼に触れた。すると……黎の肉体は、一瞬で塵と化した。
 立ち去ろうとした時、吉良乃は何かを踏みつけた。目を凝らして見ると、それは日記帳らしきものだった。
 それを拾うと吉良乃は黎の部屋を立ち去り、そっと桐生家を後にした。

●親友の気持ち
 翌日、吉良乃は綾香の家を訪ね、事のあらましをすべて話した。
 黎が飛鳥を自殺に見せかけ殺害したこと。
 自分に頼るよう仕向けるため、綾香に午前0時に傷ができるよう呪いをかけたことを。
「やっぱり……黎くんの仕業だったんですね……。飛鳥は、あたしのせいで殺されたことを恨んでいるかもしれません。呪いだけでなく、飛鳥の恨みもあると思います」
 俯いて涙を流す綾香に、吉良乃は黎の部屋で見つけた飛鳥の日記を手渡した。
「これを見なさい。あなたのことが書いてあるわ」
 そう言われた綾香は、日記を開き、一ページずつ丁寧に目を通した。
 最後のページには、こう記されていた。

『私は、いつかアヤに付きまとっている誰かに殺されるかもしれない。でも、私は後悔なんてしない。だって、アヤは私の大切な友達だから……』

 これが、飛鳥の本心だろう。
「飛鳥……ごめんなさい……!」
 綾香は、啜り泣きながらその部分を何度も読み続けた。

 そっとしておくべきだと思った吉良乃は「私の仕事はこれでおしまいだから、これで失礼するわ」と声をかけて岩下家から出て行った。

 飛鳥は、綾香の心の中にずっといる。そう信じて……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7293 / 黒崎・吉良乃 / 女性 / 23歳 /  暗殺者】

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■         ライター通信          ■
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>黒崎・吉良乃

 はじめまして。氷邑 凍矢と申します。
 このたびは「午前0時の遺恨」にご参加くださり、まことにありがとうございます。
 納品が遅くなってしまい、申し訳ございません。

 吉良乃様は、クールに仕事をこなすイメージがありながらも、優しさを秘めた女性と
 いうような描写にしてみましたが……よろしかったでしょうか?
 プレイングが事細かく書いてありましたので、ストーリー展開を考える際の参考に
 なりました。
 この作品をお楽しみいただけたのであれば、ライターとして嬉しく思います。

 リテイクはご遠慮なくお申し出ください。

 またお会いできることをお待ちしております。

 氷邑 凍矢 拝