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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


理科室の太郎くん

オープニング

神聖都学園、ここに一体の人体模型が存在する。
彼の名は『太郎くん』
学園創立から設置されているという古い人体模型だ。
しかし、古すぎるため廃棄処分にしようという話が最近出てきた。
…そして、その話が出てきたと同時に、夜中に『太郎くん』が廊下を走り回っている、という噂も出始めた。
「ふむ、夜中に走り回る人体模型か、どうもありがちだね」
繭神・陽一郎は噂を聞いて、呆れたようにため息をつく。
こんな話、響先生が聞いたら卒倒だろうなとも思い、少しだけおかしくなる。
「響先生の耳に入る前に、きちんと調査しておいたほうがいいかな」
陽一郎は一言呟いて、時計を見た。
時間は午前二時を少し過ぎたところ。
噂によれば一時〜三時までの間を走り回っているのだと聞く。
 ―カタン
「……何をしてるんです?こんな時間に、こんな所で」
懐中電灯で照らしながら、ため息交じりに陽一郎が呟く。
「まぁ、例の噂を聞きつけて―…という所ですかね?仕方ありませんね。一緒に調査しましょう」
離れて邪魔をされても困りますし、と嫌味を付け足しながら夜闇の校舎を歩き始めた。


視点→藤田・あやこ

「まず、模型の闊歩の有無を確認しましょう」
 藤田は繭神に問いかけ、学園内に設置されている監視カメラを見る為に警備室へと赴いた。
 もし、不審な人物が本当にいるのならば、監視カメラに映っているはずだ。
「もしかしたら、百数十万はする人体模型の買い替えを阻止し、予算を着服したい者の陰謀か、別の者を売りたい業者の流したデマという可能性もありますね」
 外見とはかけ離れた現実的な言葉、そして汚い大人社会の事をさらりと語る藤田に繭神は多少驚いた。
「予算を着服したいなら、もっと別な方法を使うんじゃないかな? 例えば――‥‥壊れている人体模型を応急でも修理するとか、着服を企むくらいだから人体模型を負かされている人なはずだから。それに売りつけたいという業者なら、デマを流すよりてっとり早く人体模型を壊した方がよっぽど効率的だよ」
 繭神の言葉に藤田は「なるほど、確かにそうですね」と納得したように呟く。
「もしかしたら着ぐるみを着た泥棒という可能性もありますね」
 確かに藤田の言う通り、泥棒なら着ぐるみを着る可能性は高い。
 しかし――‥‥泥棒を狙うような奴が、わざわざ目立つ人体模型の着ぐるみを着るだろうか? 目立たない色の着ぐるみを選ぶのではないだろうか?
 それに人体模型の着ぐるみなんてそんざいするのか? 繭神は心の中で葛藤しながら警備室へと向かって行った。

 そして、警備室に到着し、監視カメラの再生を始める。
 もちろん、教師などには許可を貰っているので問題はない。
「この辺から人体模型が出てくるまで早送りで見ましょうか」
 繭神が早送りのスイッチを押しながら人体模型が姿を現すまで待っていた。
「あ、此処ですね」
 藤田が呟くと、繭神が早送りから再生に変えてテレビに流す。
「‥‥確かに人体模型ですね」
 藤田の第一声はそれだった。確かに人体模型が走り回っている。しかも建物を壊す、廊下に飾られているものを壊す、そんな事など一切なく、ただ走り回っているだけ。
 ―――まるで、何かから逃げるかのように。
「ちょっと理科室に行ってきます」
 繭神に監視カメラのチェックを頼み、藤田は一人理科室へと向かった。

「心霊現象かもしれません。理科室には標本だの死体が一杯。交霊術を行って霊たちに事情を聞きだしましょう」
 そう言って藤田は人体模型が出て行くのを確認してから、理科室に入り、交霊術を行っている間に人体模型が帰って来れないように御札で理科室を一時封印状態にする。
 そして藤田は瞳を閉じ、交霊術を始める。
 一番最初に藤田の言葉に応えたのはホルマリン漬けにされているカエルだった。
「何故、あの人体模型は夜中に己を主張するかのように闊歩するのですか」
 藤田が問いかけると「廃棄を恐れている様子です」とカエルが答える。
「廃棄を恐れる‥‥?」
 確かに人体模型『太郎くん』の廃棄は決まったことだと聞いている。
「長くこの世に存在しているおかげで、人体模型は心を持ち、廃棄――つまりは死が怖くなったのでしょう」
 カエルの言葉に藤田は黙る。
 確かに死が怖いというのは分かる。
 しかし、今のようなことを続ければ人体模型は恐怖の対象でしかなく、現状を悪化させるだけだという事を人体模型は理解していないのだろう。
 藤田はため息を吐いて、予め撮っておいた校内の心霊スポット写真を取り出す。人体模型にも霊的なものが生じている‥‥という事は心霊スポットを中心に走り回っているのだろう。
 そこで藤田は清めの塩を取り出し、理科室から封印を解除して出て、心霊スポットを潰していきながら人体模型を追い詰めていく。
 そして最後の心霊スポット――音楽室で人体模型と鉢合わせになる。
「まさか‥‥某国の生物兵器?」
 呟いて藤田はこんな時の為にと用意しておいた『強力消化液ポリタンク』を人体模型に見せる。
「ま、まッてくダさい!」
 人体模型は慌てたように『自分は無害だ』という事を主張し始める。
 彼――‥‥というか、人体模型のそんな姿を見て流石に生物兵器とは思えず、ポリタンクを離れた場所に置く。
 そして、階段のところに腰を下ろし、人体模型を話を始める。
 もしかしたら人体実験された子供が人体模型に宿っているのかも、という可能性も考えたのだ。
「何でこんな事をしているの」
「僕ハ、こノ学校できタ時かラ理科室ニいましタ。デも、僕は壊レているソウなノで、逃げヨうと、しましタ。でモ、学校かラでられマせン」
 だから、毎日のように走り回っていたのか、藤田は心の中で呟きながら人体模型に多少の同情をする。
「‥‥あなたさえ良かったら、私のところに来る?」
 藤田の提案に人体模型は驚いた(表情は変わらないけど)ような顔で藤田を見る。
「あなたが学校を出られないのは、あなたが学校に縛られているからよ。私と一緒に出れば学校は出られる筈」
 藤田の言葉に「ぜひ連れて行ってください」と人体模型は頭を丁寧に下げた。

 そして、次の日から人体模型が闊歩する姿が見られることはなく、藤田の自宅には働く人体模型の姿があったとか‥‥。

「あ、繭神くん忘れてるわ‥‥」



END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名      / 性別 / 年齢 / 職業】

7061  / 藤田・あやこ   / 女性 /24歳 /IO2オカルティックサイエンティスト
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■         ライター通信          ■
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藤田・あやこさま>

はじめまして、今回執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
このたびは発注をありがとうございました。
話の内容のほうはいかがでしたでしょうか?
満足いくものに仕上がっていれば嬉しいです。
それでは、またお会い出来ることを祈りつつ、失礼します。

―瀬皇緋澄