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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


零ちゃんへの手紙
零ちゃんへ

初めてこの草間興信所で見た時から
ずっと可愛い子だなって思ってた。
この手紙の返信はいらない。
K駅を降りたところにある花時計のところで
12時に待ってる。

そんな照れくさいラブレターをその男はポストにコトンと入れてしまった。
そして逃げるかのように走り去って行った。早朝のことである。


草間零。この可愛らしい彼女をみて零鬼兵だなんて誰が想像しようか。
たしかに首に何かをつなげたような跡があるが、遠くで見る分にはわからない。

零は草間武彦が来る前に「草間興信所」に来て、いつもお掃除をする。
古い雑居ビルのドアの奥にある郵便受けから新聞と同時に、一通の手紙をみつけた。

「何かしら?これ」

「零ちゃんへ?」

そう書かれていた自分宛の手紙だ。住所も何もない。
仕事のことも忘れてオフィスに行き、封を開けてしまった。

……

相手の名前その他は記載されていない。零はあわてた。
こんなこと初めてだから。

そんな時にがちゃりとドアが開いた。

「おはようございます。あら今日は零ちゃんだけなのかしら?」
ドアを開けたのは時々事務員として働きに来ている「シュライン・エマ」であった。
シュラインをみつけた零の瞳はうるうるといかにも泣きそうな雰囲気だ。

「シュラインお姉さーん」

零は手紙を持ってシュラインの所に行き、わんわん泣いてしまった。

「おはよう零ちゃん。何かあったの?」
「てて手紙、手紙。読んで」

そしてシュラインはその薄っぺらい手紙を読んで、やや重苦しい顔になった。

「霊的なものは感じませんが、なんか気になってしまって」

と零が言うのも無理はない。
何故なら恋文というものをもらったのは初めてだからだ。

しかし本当に恋文なら微笑ましいことだけど、零のことを考えると
体質を狙ってる組織などがある危険性も否定しきれない。
事務所で見たって点も、外からか依頼人や協力者として零ちゃんと会ったか謎だ。
そうシュラインは考えながらもその手紙を見て、

「これじゃ返信しようがないわね、これ」
「おまけに花時計に行っても誰だかわかりません」


「ちーっす」

しばらく遅れて武彦が出勤してきた。途端に紙くずが勢いよく飛んできた。

「いたっ」

「武彦さん所長だからって出勤遅いわよ。零ちゃんは早くに来て掃除してるのに」

そしてラブレターについて会議になった。

「俺は許さんぞ……絶対許さんぞ。可愛い妹があんなことやそんなこと」
「武彦さん、エロな想像しすぎ」

そこでシュラインは零の方に向いて、

「どう、零ちゃんは行ってみたい?」

と尋ねた。

もちろん行くとしたら物騒なご時勢だから相手が誰かもわからない場合、
連れがいてもおかしくはないし、周囲から注意を配るべきだろう。
移動中や待合せ場所では、表面上は普通を装いつつ、周囲に玄人な足音や不穏なモノがないか常に注意。

本当は同行したいのだが……。ん?この手があるじゃないか!

「あたしは……」

シュラインは待っていた。あの回答を。

「お兄さんが一緒にいてくれるなら」

やった!と思ったのはシュラインであった。

「じゃあさ、ダブルデートを装いましょうよ」

これでおいしい思いができる。武彦さんとデートできる。
そう思ったシュラインであった。

しかし武彦は、

「それでは外で監視する者もいなくなる。外部からも雇おう。
 IO2のエージェントを一人、呼んでおこう」

こうしてダブルデートは決まった。

花時計の前で零そして邪魔者(武彦、シュライン)がいた。
そこでやってきたのはよれよれのTシャツによれよれの上着、そして真っ黒で短髪の
「いかにもモテない男」の典型的な例であった。

「待ちました?」
「いえ」

そして横にいる武彦とシュラインを見て、

「興信所の人ですよね。どうしてここに?」

と聞かれてシュラインはあわてて、

「あのね、せっかくだからダブルデートしようと思って」
と言ったのをいいことに武彦の腕を組んだ。武彦は複雑そうな顔をしている。

「じゃあ行きましょう。いい映画があるんです。あ、僕の名前は上矢・行広(かみや・ゆきひろ)
 適当に呼んでください」

「じゃあ行広さん」
「零ちゃんでいい?」
「うん、いいですよ」

そうしてダブルデートが始まった。零たちは前に、シュラインたちは少し後ろを歩いた。

「どう?何か不穏なものを感じる?武彦さん」
「いや、怖いくらいなにも感じないんだ」

やがて二人はおしゃれな映画館に入って行った。

「零、何の映画のチケット買ったんだ?」
「『哲学的純愛』という恋愛映画です」
「じゃあ俺らもそれを買う」

そしてスクリーンの前に来るといい具合に狭く、清潔で臨場感がある。

「ここだとね、家では味わえないくらいのすばらしい映画の醍醐味があるんですよ」
「そうなんですか。うわぁ楽しみ」
なんて若い二人は会話している。
その後ろでイラついているのはもちろん武彦である。
(このオオカミ男が。デートまでは許しても、お付き合いは反対だぞ)

やがて照明は暗くなり、スクリーンに映像が映し出された。
内容は日本人形のように美しい女性とどこにでもいる男の子が
お付き合いをするようになったのだが、美しすぎて手が出せないという
じれったい内容である。やがて日本美人はそんな男を捨てるというオチだった。

武彦は隣のシュラインをみると、ぼろぼろに泣いていた。
「なんでこんなのを選ぶのよぅ……化粧がとれるわ」
そういう問題か。

行広は零にこう言った。
「よかったでしょう? 興信所の近くではなかなかなかないですから。
 だからここまで出てきてもらったんです」
「そうだったの。でも行広さんは照れ屋さんなんですね。
 名前も書かず手紙を出すんだから」

その間、IO2のエージェントに武彦が連絡を入れていた。

「何か異常はないか?」
「その少年関係ではないですね。ただ最新型霊鬼兵が旧型霊鬼兵のところに近づいてます」
「それはかなりまずいのではないか?」
「だから超常組織スピリッターズからエル・レイニーズを派遣した。
 もうすぐ戦争が始まるだろう」


――雨が降ってきた。


行広は、「そろそろ帰ろうか」と傘を差し出した。
零はちょうど傘を持っていなかったので、行広の傘の中に入った。

「もっと寄って。濡れちゃうよ」

そう言われたことに照れてしまって、零は顔が真っ赤になってしまった。

やがてわずかな時間をあけて、上空からソレは現れた。
零の元に降りてきてその女は顔を挙げた。

「ユーが旧式ね。相変わらずダサーイ」
「あなたは誰ですか?」

零が勇気を持って聞いてみると、

「エヴァ・ペルマネント。最新の霊鬼兵よ。男とデートなんかしないで、
 もっとマシなことしたら?」

としゃべりすぎたのか、

「じゃあそろそろ始末しますか」

とエヴァは霊力から剣を作りだし、零のところに突進していった。
そこで霊剣をポキンと折れてしまった。

「何で?誰の仕業?」

するとすぐそこに金髪の異国の人が立っていた。霊能力者エル・レイニーズであった。

「そう簡単にいかせはしないわよ迷惑霊鬼兵」
「なんですって!」

とエヴァは人魂によるファイヤーボールを投げた。
エルは急いで零達の身を守るように霊結界を張ったので、
そのファイヤーボールは効かなかった。

しかしエルは困っていた。
結界は張れるが、人間相手の戦いには守ることしかできない。

「私がやります! エルさんはそこで待機しててください」

そこで零は結界がら出て、怨霊を呼び出しファイヤボールを打ち続けた。
そして鳥科の怨霊もつかまえたため、空をも飛んだ。

「旧式が新型に勝てるわけないじゃない。超回復!」

その一言で攻撃で傷つけた個所がきれいになっていく。

「これじゃいつまでも決着のつかない戦い。霊鬼兵の性(さが)ね」

そういった時、

「痛い!腕が巻き上げられるわ!」

そこで二人の10代とも思える男の子と女の子がやってきていた。
そのメンバーの男の子は、

「虚無の世界に帰れば?」

と言って異界の扉を開き吸い込ませた。
エヴァはどんどん吸い込まれていく。

「そう簡単にあきらめないわよ。旧型霊鬼兵」

そう言ってエヴァは虚無の世界へと消えていった。
そしてエルは子供たちの肩をぽんと叩き、

「じゃあ私たちも帰りましょう」
「あのプレハブ小屋へか?」
「そうよ」

そう言ってエルと10代の男の子と女の子を連れて帰るかと思ったら、
テレポーテーションをして消えていった。

零はそっと行広のことをみつめた。不安げな瞳で。

「ごめんなさい。私、人間じゃないの。半永久的に生きる旧型霊鬼兵……」

零は逃げていった。しかし行広は追いかける。

「待ってくれよ。待ってくれ!」

零の方が走りが早かったため、そのまま走れば振り切れた。
振り切れたのに立ち止まってしまった。
零が後ろを向いたら、そこに行広がいた。

「僕は人間だから零ちゃんのこと好きになったんじゃないよ」

その言葉を聞いて、零の大きな瞳から大粒の涙が顔をつたう。

「僕は零ちゃんのことが大好きです」

零は一生懸命首をコクコクとうなずき、

「私も大好きです」

そう言う二人の影から、武彦とシュラインが見ていた。

「主役は俺たちじゃねーのか?」
「まぁこんなこともあるわよ」


数日後。

「お疲れ様で―す」

零は早くに仕事を終わらせて、行広と夜景を見に行くそうだ。

「いいか!男はオオカミなんだぞ。
 あんなことやそんなことをされないように気をつけろ。っつーか行くな」

「はーいお兄さん」

旧型霊鬼兵・零。ただいま恋をしています。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【NPC / エヴァ・ペルマネント / 女性 / 不明 / 虚無の境界製・最新型霊鬼兵】
【NPC / 上矢・行広 / 男性 / 17歳 / 高校生】
【NPC / エル・レイニーズ / 女性 / 32歳 / 女刑事】

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■         ライター通信          ■
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いつもありがとうございます。草間興信所の人間ということもあってか、
毎回発注いただいているにも関わらず、なのに出番が少なくて申し訳ないです……。
エル・レイニーズさんは今回ゲスト参加です。普段は「超常組織スピリッターズ」
という異界でPCゲームノベルをやってます。戦隊モノではありません(おい)