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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


心機一転 / リフォーム@草間興信所

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OPENING

「お兄さん、これは二階ですよね?」
「ん?おぅ。書斎に頼む」
「わかりました」
「階段、気をつけろよ」
「はい」
何の変哲もない会話。
けれど今日は、二人にとって、特別な日。

草間興信所。
所長が間抜けだとか、貧乏だとか、
事実混じりの妙な噂も含めて、
知名度を右肩上がりに上げてきた探偵事務所。
吐く息白き、初冬の吉日。
その外観が、大きく変化を遂げた。

興信所所長の探偵、草間・武彦と、
その妹であり、探偵見習いである、草間・零。
二人で協力し、コツコツと貯めてきた改装費。
その全てを、惜しむことなく費やして。
今日。二人は、興信所を大胆に変貌させた。

過去の産物や記録を、現在に運ぶ二人。
改装は、もうすぐ終わる。

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外国、フランスでの仕事を終えて、日本へ戻ってきた冥月。
言うほど離れていたわけではないが、
それでもやはり、自宅へ戻れば、ホッとするものだ。
荷物を影から出し、部屋の隅に置いて、冥月は、フゥと息を吐く。
チラリと見やる時計が示す時刻は、十九時半。
(一応…。顔、出しておくか…)
数ある荷物の中から、黒い紙袋を二つ持ち、
冥月は ”いつもの場所”へと向かう。
そこにいる兄妹は、ちょっと面倒で、落ち着きがない。
日本を離れる際も、いつ帰ってくるんだとか、何しに行くんだとか。
根掘り葉掘り、何でも聞いてきた。
揃って世話焼きで、お節介で、お人好し。
その所為か、いつもトラブルに巻き込まれて。
冥月は、幾度となく巻き添えを くらってきた。
その度に、呆れて肩を落として。
それでも、冥月は、彼等との関係を絶とうはしなかった。
いや、絶てなかったのだ。
どうしてかは、理解らないけれど。
いつしか、彼等と居ることが自然になってしまって。
フランスに着いて、すぐさま買った二人への土産を手に。
冥月は向かう。
心の片隅で、二人の笑顔を思いながら。


冥月が向かった先、それは ”草間興信所”
都内に暮らす者なら、知らぬ者はいない程、
あらゆる意味で、有名な探偵事務所だ。
その興信所の前で、冥月は呆然と立ち尽くす。
「…何だ、これは」
ポツリと、そう呟き見やる興信所は。
彼女が知っているものとは、全くの別物だった。
傷一つない綺麗な外壁、立派な看板。
彼女の知りえている興信所は酷く質素で、
こう言っては何だが、貧乏臭が漂っていた。
それが、一体どういう事か…。まったくの別物と化している。
まさか、住所が変わったのか、と思うものの、
看板には、ハッキリと ”草間興信所” と書かれている。
目の前の信じ難い事実に、ボーッと立ち尽くす冥月。
そんな冥月を発見する零。
零は、二階の窓から大声で叫んだ。
「冥月さぁぁ〜〜ん!!」
名前を呼ばれてハッと我に返る冥月。
見上げた先には、ブンブンと手を振る、いつもの零の姿。
「おかえりなさぁ〜〜い!!」
嬉しそうに微笑み叫ぶ零に、冥月はクッと笑った。




興信所は、内部もキッチリと変貌していて。
以前とは比べ物にならない美しさ。
リビングのソファに腰を下ろして、
どういうことなのか、何があったのかを確認したところ、
興信所の所長である武彦と、
その妹であり、探偵見習いの零。
兄妹でコツコツ貯めた金で、興信所を改装した、とのこと。
(貧乏人が、何やってんだか…)
話を聞いて、真っ先に冥月が思ったのは、それだが。
冥月は、別の言葉を選んで発した。
「幾ら見た目を変えても、怪奇探偵の異名は変わらんぞ」
「相変わらずだなぁ。安心したよ」
冥月の苛めに、クックッと笑いながら言う武彦。
言ってることが正しいのもそうだが、
こういう冥月の苛みを、武彦は心のどこかで求めていたようだ。
いつもの”冥月”を感じる為に。
「っつーかさ、もうちょいで終わるんだよ。手伝え」
煙草を消しながら、偉そうに言う武彦。
冥月はハァと溜息を落として、
「疲れてるんだがな」
そう呟きながらも、手伝いを始めた。


冥月の能力は、影の操作。
拘束能力に長ける為、捕物などの事件では大いに頼れる存在だ。
けれど、冥月が操る影は実に応用が利く。
それ以外にも便利な使い方が、数え切れないほどあるのだ。
「これは…二階か?」
荷物の山を示しながら問う冥月。
「あ、それは三階…ですよね?お兄さん?」
零の言葉に、武彦は腰をトントンと叩きながら返す。
「おぅ。三階の書斎に頼むわ」
「………」
階段の上り下りを何度も繰り返した所為で、
腰を痛めたであろう武彦を見やり。
(こんなに広くする必要あるのか…?)
そんな疑問を抱きながら、冥月は影を操って一瞬で荷物を三階へと移動させた。




荷物の整理を終え、改装は終了。
「あっという間に片付いたなぁ」
リビングでくつろぎながら言う武彦。
「誰の お陰だろうな」
そう言いながら、キッチンから出てくる冥月。
武彦は、冥月を示し ”あなたのお陰ですとも” と大袈裟にジェスチャーして言った。
「腹減ったなぁ…」
「零が作ってる。おとなしく待て」
武彦の向かいに座り、目を伏せる冥月。
そんな冥月を、武彦はジッと見つめた。
視線を感じ、フッと目を開いて武彦を見やる冥月。
「…何だ」
淡々と言う冥月に、武彦はケラッと笑って問う。
「なぁ、何しに行ってたんだ?フランス」
「…仕事だ。発つ前に、散々言っただろう」
「だから、その仕事の内容だよ」
「聞いてどうする」
「気になるから。いろんな意味で」
「…フランス人は、気位が高い癖に節操がなくて好かん…とだけ言っておこう」
冥月の意味深な言葉に、武彦が反応しないわけもなく。
何だかんだで彼も感の鋭い男ゆえに、何があったのか、悟る事ができる。
その為、不機嫌になってしまう。
「へー。そう」
プイッと顔を背けて無関心を装う武彦に、冥月は笑いを堪えた。


零の作った夕食は、エビグラタンと、あさりのパスタ。
上出来なそれらに、今にもがっつこうとしている武彦を冥月は制止し、
持ってきた黒い紙袋をズイッと武彦の前に差し出した。
「何これ?」
キョトンとする武彦。
冥月は、もう一つの紙袋を零に渡しつつ言う。
「土産だ。大したものじゃないが」
「マジでか」
「わぁ。ありがとうございます〜」
驚く武彦と、大喜びする零。
二人は、すぐさま受け取った紙袋から中のものを取り出した。
武彦が受け取った紙袋の中には、
フランスの高級ワインと、白ワインのボジョレー・ヌーヴォーが一本ずつ。
零が受け取った紙袋の中には、
”sephora”の香水と、可愛らしい動物型の入浴剤が入っていた。
「おぉ…ナイスタイミングな一本じゃねぇか」
テーブルの上にあったワインオープナーを手に取り、満面の笑みで言う武彦と、
「可愛い〜…」
貰った香水と入浴剤に、うっとりと見惚れる零。
二人の嬉しそうな顔を見て、
(そう。その顔を見たかったんだ)
冥月は目を伏せ淡く微笑む。




「んじゃっ!新生草間興信所に、幸あれ!」
武彦が言うと同時に、グラスの交わる音が響く。
「幸ねぇ…」
ワインを口に運び、笑みを浮かべながら言う冥月。
「んだよ、一緒に願えよ。可愛くねぇんだから。っとに」
一気にグラスを空にして、ぶすっと言う武彦。
一人ワインではなく、ジュースを飲む零は、
そんな武彦見ながら、フフフと笑って言った。
「お兄さん、嬉しそうですね」
零の言葉に、一瞬ピクリと眉を揺らす武彦。
(嬉しそう…?どこかだ…?)
冥月は、そう思いつつワインを飲み干す。
零は、冥月の肩をポンポンと叩きながら、耳打つ。
「お兄さん、寂しがって酷かったんですよ」
「…な」
ギョッとする冥月に被せて、
「寂しがってねぇよ」
武彦が、きっぱりと否定した。
けれど、顔は背けたままだ。
武彦は、嘘をつくとき、人の顔を見ない。
それを知っている冥月は、事実であることを悟ると同時に、
頬を赤らめて、俯いた。
照れ隠しに、ワインを口に運ぶ冥月に、
追い討ちをかけるように零は、耳打ちを続ける。
「冥月さんの部屋、作ったんですよ。お兄さんが作るって聞かなくて」
「ぶっ…」
零の言葉に、思わずワインを吹き出す冥月。
零はクスクス笑いながら続けた。
「三階の奥です。家具とかも、揃ってますよ」
零の言った事は事実で。
改装された興信所の三階には、冥月の部屋が用意されている。
手伝いなどで、頻繁に出入りするから…というのが理由らしいが、
実際のところは……。
「あ〜!もう、うっさい!いいから、飲むぞ!カンパーイ!」
恥ずかしい空気になってしまった場を、
必死に転換しようと仕切りなおす武彦。
と、その時。
RRRRR―
興信所の電話が鳴り響いた。
ピタリと同時に動きを止める三人。
例外もあるが、興信所の着信は、大抵、仕事の始まりを意味する。
武彦は、助かった!とばかりに、受話器をとって元気に告げた。
「はい、毎度っ。新装開店、草間興信所っ」

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。

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椎葉 あずま(Azma Siiba)

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