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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


心機一転 / リフォーム@アンティークショップ・レン

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OPENING

怪しげな、アンティークショップ。
いつからか、そう呼ばれるようになり、
また、いつからか、それが定着してしまった店。
こう言うと聞こえは悪いが、当の店主は、まったく気にしていない。
いや、寧ろ…気に入っているのかもしれない。
そんな変わり者の店主、碧摩・蓮が、
今日もまた、何の前触れもなく、妙な事を始めた。
彼女は、いつもそう。
思いつきで行動する。
そんな彼女に魅力を感じる者もいれば、
いつか面倒に巻き込まれるのではと、案ずる者もいる。
今日も何か、”イイ事”を思いついたのだろうか。
それとも何か、”イイ事”があったのだろうか…。

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十一月から十二月にかけて、翻訳の仕事が立て込む。
その理由は未だに理解っていないが、
当のシュラインは、そんなことに疑問を抱かない。
仕事を貰えるのは有り難いことだし、勉強にもなるから。
目の回る忙しさが一瞬解けた、貴重なある日のこと。
シュラインは、しばらく足を運んでいなかった蓮の店へ向かう。
自信作の、旬の洋梨のシャルロットを手に。

蓮の店が在るのは、人気のない路地裏。
妖しい店構えのとおり、扱う品も妙なものばかりだ。
これだけ聞けば、薄気味悪く近寄りがたい店だという印象を受ける。
事実、近寄りがたい店ではあるのだが…不思議と蓮の店は、繁盛している。
妖品を好んで求める物好きな者から、蓮と話したいだけの者、
ただ暇つぶしに来るだけの者など、客は様々だが、閑古鳥が鳴くことはない。
何故か吸い寄せられるという者が多いのも、また事実。
蓮の魅力の賜物か、それとも…?
かくいうシュラインも、そんな客の一人。
本が好き、という共通点を持つ故に、その貸し借りを行うことも多いが、
特に何の用もなくフラリと立ち寄ることも多い。
訪ねる度に"いらっしゃい"と迎えてくれる、蓮の笑顔。
心安らぐ "帰るところ" が在るシュラインだが、蓮の、その笑顔にも癒されるようで…。
(久しぶりよね…本当)
店へ向かいながら、シュラインは思う。
長らく足を運んでいなかったけれど、蓮は元気だろうか…とか、
また、素敵な商品が増えているのかしら…とか、
多忙になる前に、軽く頼んでおいた古書は手に入れてくれたかしら…とか。
様々な思いを巡らせると同時に、歩みが少し速くなる。
それは "会いたい" という感情が成すもの。



いつもの路地裏、いつもの店。
扉を開くと、カランカランと鐘の音が響く。
それが、シュラインの知る、蓮の店。
けれど…。店は、変貌していた。
以前の影など、見当たらないほどに。
(モダンな感じになってる…)
変貌した店を、ポーッと眺めていると扉が開き、
中から荷物を抱えた蓮が現れた。
「はぁ…よいしょっ、と」
おそらく、不要物が入っているのだろう。
蓮が入口付近に置いた箱には、紫色のペンで大きなバツ印がついている。
「おや…」
シュラインを見つけ、微笑む蓮。
シュラインはタタッと蓮に駆け寄り、ニコリと微笑んだ。
「久しぶりだねぇ」
微笑み返して言う蓮に、シュラインは腕まくりをしつつ言う。
「うん。ねぇ、手伝うわ。一人じゃ大変でしょう?」

シュラインが来ない間、
蓮は、とあるデザイナーに頼んで、店の改装に着手。
ちょっとしたリフォーム、程度のものではなく、
店を丸ごと取り替えてしまう、大規模な改装。
常連客に手伝ってもらったり、知り合いの大工を呼んだりして、
改装は手際よく進み、今日は、仕上げの日らしい。
仕上げ、といっても、残す作業はひとつだけ。
店の顔である、看板の取り付けだ。
「脚立、もう一つあるかしら」
シュラインの問いに頷き、店の奥へ脚立を取りに行く蓮。
蓮の背中を見つつ、シュラインは思う。
顔を合わせた時から、ちょっと気になっていたことを。
(柔らかいのよね…笑顔が)
蓮が浮かべる笑みは、妖しさを含むものだった。
けれど、今日の蓮が浮かべる笑顔に妖しさは微塵もない。
優しく、柔らかい笑みなのだ。
付き合いが長いゆえに、変化にも、すぐ気付く。
今日だけ、特別な笑顔だというわけでもないらしい。
自分が遠のいていた数ヶ月の間に、
何か、持続する"良いこと"でもあったのだろうか。
そんなことを思いながらも、シュラインは、意図的に違和感を拭わぬまま、手伝いを続けた。

「せーの」
声を合わせて、右と左、両サイドから看板の取り付けを行う。
改装した店の雰囲気にピッタリの御洒落な黒い看板。
看板には、白いペンキで丁寧に "REN" と書かれている。
店の名前だけ記されても、正直入りにくい。
これでは何の店なのか、わからないではないか。
看板を見た瞬間に、そう思ったシュラインだったが、それを口にしなかった。
取り付けを終えて、右の脚立からピョンと飛び降りるシュライン。
蓮は、まだ左の脚立の上だ。
取り付けた看板に見惚れているかのような…蓮の幸せそうな表情。
普段は決して人前で見せないであろう、その表情。
その表情こそが、看板についての意見を口篭らせたものだ。
(意外と子供っぽいのよね。すぅぐ顔に出るんだから)
シュラインはクスクス笑い、脚立の上の蓮を手招きしながら言った。
「洋梨のシャルロット、食べましょ。自信作なの」



「んん…美味しい。また腕を上げたね」
シュラインが作った洋梨のシャルロットを口に運び、
その完成度を、素直に褒め称える蓮。
シュラインは、褒め言葉に軽く会釈して、ジッと蓮を見つめた。
「何だい」
不思議そうな表情をしつつも、サッと目を逸らす蓮。
わかりやすすぎる蓮の態度に、シュラインはフフッと笑って言った。
「駄目よ〜逃がさないから」
シュラインの、その言葉に蓮は目を逸らしたままフゥと息を吐いて、
フォークを置くと、テーブルに肘を付いて目を伏せた。
それは、降参の合図。
シュラインは勝ち誇った笑みを浮かべつつ、質問を始めた。
「で?何があったの?」
「何がって…うーん…」
「こんなに大規模な改装するなんて、何かあったとしか思えないもの」
「そんなことないだろう。気分次第さ」
「ふぅ〜ん?」
確かに、蓮は気分屋だ。
その時の気分次第で、店に並べる商品を替えたり、頼み事を替えたりする。
けれど、ここまで大規模な改装に着手するなんてことは、珍しいことだ。
それに、店をオープンしてから、初めての改装にあたる。
壁紙が剥がれてきても、カウンターが傷んできても、
何があっても改装する気配を見せなかったのに。
どうして、突然、改装することにしたのか。
どうしてかは理解らないが、以前の店を蓮はとても気に入っていたようだから、
何か、心境に大きな変化があったからとしか思えないのだ。
店を丸ごと取り替える、そう…再出発を意味するかのような。
「ひどいなぁ。せっかく手伝ったのに」
プーと頬を膨らませて言うシュライン。
そんなシュラインを見て、蓮はヤレヤレと肩を竦めると、
小さな声で呟くように言った。
「帰ってくるんだよ。あの人が…」
蓮の言葉にシュラインはニコリと微笑んで言った。
「あ〜。やっぱりね〜」
「な、何だい。その言い方」
「そんな予感がしてたのよ」
「…なら、聞くんじゃないよ。まったく…」
フイッと顔を背けて言う蓮。
文句を言ってはいるものの、口元は笑んだまま。
ミステリアスな蓮を、普通の女に変えてしまう、唯一の存在。
それは、夢を追い続ける、とある男性のこと。
シュラインは、彼と面識がある。
故に、会話は弾む。
「帰ってくるってことは…彼、研究をやめるの?」
「いいや。次は、スカイ・フィッシュの本を書くんだってさ」
「へぇ〜。実際に目にした奇跡を綴る…ってことね」
「そういうことさね」
「夢追い人って、やっぱり、いつまでも夢を追うのね。ふふっ」
「結局、執筆で部屋に篭りっきりになるんじゃないかと不安だけどねぇ」
「前よりずっと気軽に差し入れとかできるんだもの。いいじゃない」
「そんな…尽くす女みたいな真似できるかい」
「え〜?そういうタイプでしょ?蓮さんも」
「あはは。も、って言ったね」
「ふふん。私は好きな人に尽くすこと、恥ずかしいだなんて思わないもの」
「はいはい、立派だねぇ」
モダンに生まれ変わった店、漂う洋梨の香り。
気を許しあう二人には、会わなかった期間や時間など関係なく。
暖かい雰囲気の中、会話は続く。
「ところで、あんたはどうなんだい?」
「私?私はねぇ…」

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2007.12.07 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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