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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


狼男の恋(前編)

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OPENING

「はぁ〜…またかよ」
呟くように言い、コーヒーを飲み干す武彦。
武彦のボヤきを聞いた零は、
窓を閉めながら不安そうな表情で言った。
「怖いですよねぇ…」
「怖いっつーか何つーか…呆れるわ」
空になったコーヒーカップをテーブルに置き、苦笑する武彦。
武彦が呆れ、零が不安がるもの。
それは、ストーカー事件。
近頃、都内で大騒ぎになっている事件だ。
毎朝毎晩、ニュースで聞く速報。
新聞や雑誌にデカデカと掲載される見出し。
あまりにも同じ事が繰り返されて、感覚は、まるでタイムループ。
武彦は、その現状にイラついている。
彼の性格からして、まぁ、無理もない。

だがしかし、残念な事に。
武彦の苛立ちは、五分後を境に、募る一方のようだ。

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「っとと…」
紙袋から溢れんばかりの肉まん。
ちょっとした用で中華街に足を運んだ冥月は、
土産に、と有名店の肉まんを袋いっぱいに買ってきた。
その数の多さは、後ろに並んでいた老婆が驚きつつ、
「細いのに、よく食べるねぇ」と言ったほどだ。
これは、あくまでも土産。
いくらなんでも、これをペロリと平らげるほどの胃袋は冥月には備わっていない。
捧げる先は、いつもの。興信所の二人。
二人共、肉まんや海老シュウマイを好むことを知っているが故に、
中華街へ出かける際に、真っ先に"土産は肉まんでいいか"と冥月は思った。
ちょっとした用事で、二人には何の関係もないのに。
それでも、土産だと言って何かを買ってもってくる。
いつからだろうか。冥月は、それが習慣と化してしまった。
同時に、それだけ頻繁に興信所へ赴いているということにもなるのだが。

「……はむ」
袋から肉まんをひとつ手に取り、パクリとかぶりついて、
冥月は興信所リビングで向かい合わせに座る武彦と、見知らぬ女性を見やる。
女性の思いつめた表情、煙草をふかす武彦の真剣な表情。
それらから、冥月は すぐさま悟る。仕事か、と。
「あれ。冥月さん、おかえりなさい」
背後から、零が声を掛けてきた。
冥月は顔をしかめ、
「何だそれは。ただいま、なんぞ言わんぞ」
そう言いつつ、零に肉まんが沢山入った紙袋を預けた。
「え〜。だって、もう冥月さんの部屋もあるし〜…」
「うるさい」
肉まんを飲み込み、零にパタパタと手を振りながら、冥月はリビング中央へ。
「随分と深刻そうだな」
ストンと武彦の隣に腰を下ろして言う冥月。
武彦は苦笑しつつ、依頼内容を簡潔に説明した。
「あぁ…例のストーカー事件か」
足を組みなおして言う冥月。
今、都内を騒がせている物騒なストーカー事件。
死者は一人も出ていないが、犯行内容が酷く不気味な為、
いつ、最悪の事態になるかわからないということで、
警察が、今一番 躍起になっている事件だ。
新聞やニュースで嫌というほど情報が垂れ流されている為、
冥月も、おおよその内容は把握している。
とはいえ、これだけ大きくストーカーが取り上げられている状態だ。
些細なことでも、それに結び付けてしまっている可能性も否めない。
実際は、ストーカー事件と何の関与もない…という肩すかしも、十分に有り得ること。
そう思った冥月は、女性の顔をジッと見やる。
すると女性はカタカタと震えながら、
鞄から、不気味な品を取り出して、それをテーブルに乗せた。
それは、不思議な装飾が施された牙。
そして、それは”証拠”の役割も兼ねる代物。
「ふむ…勘違い、ではないようだな」
テーブルに置かれた牙を手に取り、マジマジと眺めながら言う冥月。
ストーカー事件の被害者は、皆、この牙を示して恐怖を訴える。
テレビで何度も見た それが、今、実際に手にある。
疑う余地は、無いに等しい。
「私…どうしたらいいか…」
涙声で呟く女性。
冥月は牙をコトリとテーブルの上に置き、武彦を見やって言った。
「どうするんだ?」
冥月の言葉に、武彦は頭を掻きながら返す。
「調査するよ。とりあえず、張り込みからだな」
「………」
女性の様子から察するに、おそらく、まだ報酬の話は出ていない。
それどころか、女性の名前すら、まだ聞いていない状態であろう。
それなのに、即決。調査・張り込みを宣言。
珍しい武彦の迅速な対応に、冥月は違和感を覚える。
(珍しいな。いつもは、何だかんだと うだうだ考えるくせに)
「じゃ。とりあえず、あんたの名前から聞こうか。あと年齢と…」


女性の名前は、佐久間・亜由美。十九歳。デザイナーの卵。
都内のアパートに一人暮らし。両親は、すでに他界している。
仕事は、平日月曜から金曜で、朝九時から二十時まで。
妙な視線を感じるようになったのは五日前。
そして、不気味な牙が届いたのは三日前から…。
女性、亜由美の情報をひととおり聞き終え、
武彦は、フゥーッと溜息混じりの煙を吐いて告げる。
「今晩から張り込む。問題ないか?」
「はい…。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる亜由美。
すがるような亜由美の態度に、冥月はポツリと呟く。
「どうして欲しいんだ?」
「…え?」
顔を上げ、小首を傾げる亜由美。
「この牙は本物の獣の牙だ。猟奇的な趣味のイカれた奴という可能性もあるが、もしかすると、人間じゃないかもしれない」
「………」
牙を示しながら言う冥月に、一瞬ホッとしたはずの亜由美の表情が再びフッと暗くなる。
「まぁ、その場合は問答無用で始末する。だが、友人の男が悩んだ末、犯行に及んだ…としても。始末、で構わないか?」
「えっ…?そ、そんな…」
俯き、困った表情を浮かべる亜由美。
確かに、冥月の言い様は、相手を困惑させてしまうものかもしれない。
亜由美は、心の中で思った。
(私に、そんな…)
その瞬間、冥月はキッパリと言い放つ。
「少し、自覚したほうが良いな。自分というものを」
「………」
首を傾げる亜由美。
冥月が言いたいのは”自分に言い寄る男に気を配れ”ということ。
八方美人に、誰にでも良い顔をしろというわけではない。
自分に言い寄ってきている男、自分に想いを寄せる男が、
目に見える範囲だけだと思うな、ということだ。
口にはせずとも、想いを寄せている男だっている。
そういう男に限って、ある日突然、突飛な行動を取ったりするものだ。
要は、自分が、そう想われていても不思議じゃない人間だと認めろ、と言いたい。
もっと理解りやすく言えば、
あなたは、綺麗な女性だ、と言いたい。
けれど、人を褒めることが苦手で、
ましてや相手が女となると…冥月も、口篭ってしまう。
同姓に向かって綺麗ね、と褒めるなんて、一度もしたことがないのだから。
「いや、もう、いい。で…張り込みの件だが」
フイッと顔を背け、話を逸らす冥月。
冥月が何を言いたいか、言おうとしていたかを理解しているが故、
武彦は、クックと肩を揺らす。
ベシッと武彦の頭を叩いて、少し気恥ずかしそうに咳払いをする冥月。
二人の遣り取りを見ても、さっぱりワケのわからない亜由美は、
ただただ、首を傾げるばかりだ。



「人通りが少ないな。これは危険だ…」
神妙な面持ちで言う冥月。
武彦は苦笑し、言う。
「肉まん頬張りながら言われてもな」
「うるはい」
依頼人、亜由美が興信所に来た同日の二十一時半。
武彦と冥月は張り込みの為、亜由美の自宅へ同行する。
亜由美の自宅、アパートがある地域は、確かに人通りが少ない。
襲われて悲鳴を上げても、救助がすぐに来ることはないだろう。
二人の前を歩く亜由美は、そわそわと落ち着かない様子。
仕事を終えた後、いつも歩く道。
視線を感じる、不気味な道だ。
後ろに二人がいると知ってはいても、緊張してしまう。
「はぁ〜あ…しかし、まぁストーカーとか…うんざりだな」
ポツリと言う武彦。
いつもと何ら変わらない口調ではあるものの、
武彦の表情は強張っていて、どこか、ピリピリしている。
今に始まったことじゃない。
興信所に入り、リビングで亜由美と向かい合っていた時から。
武彦は、どこかイラついていた。
冥月は指を舐めながら、武彦に問う。
「何イラついてるんだ」
「あん?別にイラついてねぇよ」
「…ふん。なるほどな。わかったぞ」
「何だよ」
「零が心配なんだろう」
「ん?」
「零もストーカー事件に巻き込まれないか不安だから迅速なんだろう。対応が」
「………」
沈黙する武彦。
(シスコンめ)
そう思いつつ苦笑する冥月を見て、武彦はポツリと呟いた。
「お前もだよ」
「…うん?何だ?」
聞き取れず、聞き返す冥月。
武彦は、プッと笑って言い直した。
「お前はストーカーなんて縁が無いだろうな。強暴だから」
ガボッ―
「むぐぁ」
「これでも、中華街では何度もナンパされたんだがな」
武彦の口に肉まんを押し込み、フンと顔を背けて言う冥月。
それは事実で、中華街を歩いていた時、
冥月は、ひっきりなしに、何人もの男に声をかけられた。
まぁ…全員「うるさい」「黙れ」「邪魔だ」と一掃されたわけだが。
「へー、そう。物好きもいたもんだな〜」
ワザと腹の立つ口調で言う武彦。
口では、こう言うものの、武彦も理解している。
亜由美と同じように、冥月も、悪い虫が嫌というほど寄ってくる女だということを。
それ故に、心配なのだが。
素直に、そう言わない…いや、言わないあたりが…彼らしいところだ。

「ここです」
アパートの二階、部屋の扉の前で二人に告げる亜由美。
扉には、可愛らしい装飾が施されている。
もうすぐクリスマスゆえに、飾ったものだろう。
((二階か…まぁ、まだマシだな))
被害者の立場に立って、同時に安全性を確認する武彦と冥月。
確実に安全だということもないが…一階よりは、いくらかマシだろう。
「じゃあ、邪魔するぜ」
「どうぞ」
二十二時。武彦と冥月は、亜由美の部屋へ踏み入った。
張り込み、開始。

(後編に続く)

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い

NPC / 佐久間・亜由美 (さくま・あゆみ) / ♀ / 19歳 / デザイナーの卵


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
少し、納品が遅れてしまいました。申し訳ございません。
気に入って頂ければ幸いです。続きは、後編で。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2007.12.19 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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