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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


東京崩壊レシピ
 探偵、草間 武彦(くさま たけひこ)は、報酬代わりに手に入れた不思議な針の力で義妹、草間 零(くさま・れい)の力を暴走させてしまう。手に負えなくなった武彦は、この道のスペシャリストに声をかける所から話は始まる。

 ○

「っくそ!」
 武彦は火のつかないジッポに毒づいていた。くわえている煙草がやたらと揺れている。いや、震えているの間違いか。武彦は我慢ならず、くわえていたタバコを地面にたたきつけた。
「あー! ちくしょう! どいつもこいつも臆病者揃いか!」
 東京中の強面から強者まで、片っぱしから電話をしたが……。
「零が切れたって知った途端に電話を切りやがって、あいつがその気になったらこの地球上に逃げ場なんてねぇんだぞ!」
 そうだ。武彦は自分で叫んでおいて今気づく。
「そりゃ、俺だってこうして逃げ出して……皆怖いのは分かるけどよぉ」
 藁にも掴む思いで電話をかけて、散々の結果。それでも、一縷の望みが独特の排気音を巻き上げて近づいてきている。
 震えてあいつを出迎えてちゃサマにならない、ポケットに入っていた煙草の皺を伸ばし、再度ジッポに手をかける。
「へへっ、悪あがいてみるとつくもんじゃねぇか」
 満足げに紫煙をくゆらせる、一息吸ってニコチンが体に巡ると、すっと体の震えが止まった。
「あとは頼んだぜ……」
 ナイフを連想させるフレーム、対照的に豪快に自己表現するエキゾーストノート。表裏を彷彿とさせるバイクから颯爽と飛び立つは―
「風宮 駿 (かざみや しゅん)」
 駿は、武彦の強いまなざしに涼やかにほほ笑んだ。

 ○

 駿は武彦から詳しく説明を聞くと、じっと針を見つめてずっと唸っていた。
「どした?」
「いえ、やはり俺に零さんと闘うなんて事は―」
 武彦が反射的に駿の肩を掴むと。
「違いますって、だからこそ零さんの力を解放した、この針を使えばふっきれて戦えるかもしれないかと」
「危ない賭けだぞ、何か他にあるかもしれねぇ」
 武彦の否定に駿の表情が険しくなっていく。確かに他に手はなさそうだ。
「兄さん……」
 既にこうやって、零に対峙しているのだから。
 駿が武彦に手の平を差し出している。視線を合わせると、武彦は駿の掌に針を放り投げた。
「お友達ですか? 兄さん」
 言葉とは裏腹に、武彦と零の間にいる駿には全く注意を寄こさず、ぴたりと武彦を瞳の中へよこす。
「そうだ、零。お前を止めてくれる最高の助っ人だ」
 武彦の言葉にぴくりと腕を震わせた。
「へぇ……」
 凶暴なまでの眼差しを駿に突き刺すも、それとは別に駿の様子がどこか変だ。
「ぬ……、ぅ、ぁ……」
 うずくまって、必死に何かにこらえている駿。ひざをがくがくと震わせて、歯をしきりに軋らせている。
「っちぃ、針のせいか!」
 このまま駿が倒れてしまえば、東京は蒸発、地図が一瞬で書き換わる事になる。あんなもんに頼るべきじゃなかったのだと、今更舌打つ自分が歯がゆい。駆け寄って逃げ出したいが、殺気をひしひしと伝わってくる。
―既に間合いだと
 きっかけさえあれば、すぐにゴングと化して駿に襲いかかるだろう。
「うぅぅぅ、ぐがぁあああ」
 頭を抱えて、天を仰ぐ駿。
「楽にして差し上げます」
 零が右手を差し出した瞬間。
―武彦の視界から駿が消えた
 零が駿を消してしまったのか。違う、武彦の探偵で培った直感力がそう告げる。すぐさま武彦を襲ったのは、今にも吹き飛ばされそうな衝撃波。
「へへ、あの野郎。賭けに勝ちやがった」
 帽子を深く抑えて、唇を釣り上げる。
「零さん! 好きだ!!!」
 衝撃波と共に聞こえる駿の告白。
 武彦の眉間に皺が寄り、先とは違う舌打ちが鳴った。殺気も零にひけをとらない。
 そう、駿の感情を一際駆り立てたのは戦闘意欲ではなく恋愛感情。零に高速で抱き締めようと迫っているだけだ。よくみれば、何度もめげずに吹き飛ばされているのが見える。
「そんだけ、拒否られてんなら空気読めよ……」
 怒りを通り越して、零が気の毒にすら思える。当の零は、一瞬あっけに取られた隙にリズムを狂わされ防戦一方。
「っく!」
 零が苦し紛れに出した手刀を避けると、駿は全力で零を抱きしめた。
「零さん!」
 零は全身から霊気を放出、青白い気圧の波が駿の体を壊しにかかる。
「君に誰も傷つけさせやしない!」
 駿は生身のまま零に愛を叫ぶ。
「くぉおおおおおおおおのぉおおおおおおおおおおお」
 零は瞳を血走らせ、拳が入るほど口を開き、体の底から細胞という細胞から霊気をかき集め、二波を駿めがけて直接照射、駿の全身に纏わりつくように霊気の波が駿を分子レベルまで粉々に……。
 ならない。
「っ!」
 零は初めて戦慄する。とんでもない奴に告白されたもんだと。
「君に何も壊させやしない! 君が元の君に戻るまで俺は君を離さないッッ!」
 零の頭の中は真っ白だった。何故人間がこの攻撃を受けてばらばらにならない、対象が硬いとかそんな問題じゃない、「分解」する技なんだ。
「なんで……」
 ふと漏れた疑問に、駿は顔を赤らめ。
「愛あればこそ……だよ」
 駿の言葉が引き金となって零はかっと目を見開くと、咆哮をあげて全霊気を暴発。零はその場で意識を失った。
「駿!」
 駆け寄る武彦に、親指を立てる。
「大丈夫です。力を使い果たして気を失っただけです」
「終わったのか?」
「いえ……」
 駿の歯切れの悪い言葉に武彦が怪訝な表情を浮かべる。
「まだ、するべき事があるんです」
 駿の頬が少し赤らめていた。

 ○

 しばらくして、零は意識を取り戻した。暴走していた時の記憶も断片的ではあるが残っている様で、自分のしてしまった事を真剣に悔やんでいた。そんな零の手を取る男、風宮 駿。
「いいんです。終わってしまった事は仕方ない。それに、僕も一緒に償います。だから―」
 駿は一拍置いて。
「好きです。貴方を愛しています。一緒に歩んでいきましょう」
 駿の言霊が響き渡る。
「申し訳ありません」
 すぐ様、言霊は空っ風にかき消される。零は駿の握る手を解いてから。
「お気持ちは本当に嬉しいです。あの時駿さんが全力で私を止めてくれなかったら私、それこそ取り返しがつかなかった」
 零は、立ち上がって駿に深々と頭を下げる。
「でも、これとそれとは……。本当にごめんなさい」
 駿から生気が抜けていく、零の霊気は堪え切る奇跡的なタフネスを誇る駿もこればっかりは全く慣れない、むしろ傷を深めている気さえしてくる。
「こら! 人の妹を何口説いてんだ!」
 武彦は駿をはたくと、零を隠すようにして駿を睨みつけた。
「ひどいじゃないですか! ピンチの時は「頼んだぜ!」なんて言っておきながら!」
「それとこれとは別だ!!」
「そんなぁ〜〜〜〜〜〜!」
 駿の悲しみの方向が都内に響き渡る。
 こうして、風宮 駿の連敗記録が更新されていく。
 いけ! 愛の戦士風宮 駿、お前の連敗記録を止めるのは誰だ! (おそらく出てこない!)

 【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【二九八零 / 風宮 駿 / 男性 / 二十三 / ソニックライダー】

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■         ライター通信          ■
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 ご購読ありがとうございました! 今回如何でしたでしょうか、爽やかでこういうキャラを見ていると、振られる所までどうしても爽やかになってしまい、失恋の苦しさを描けずにいます。
 故に風宮 駿ありき!
 なんて、自己完結して書いていました。
 また、他の世界でお会いしましょう!
 ではではー!