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INNOCENCE 01 スカウト
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OPENING
異界の辺境、廃墟が並ぶ不気味な地域。
魔物の出現が頻繁な、物騒地。
異界の住人でも、好き好んで寄り付く者はいないであろう、この地に存在する、
美しき白亜の館。
その館から、今。
一人の少年が、姿を現した。
「はぁ〜。ひっさしぶりだよな。スカウト!腕が鳴るぜ〜」
伸びをしながら、サクサクと歩く、何とも楽しそうな表情の少年。
そんな少年の後ろを、小柄な少女が、ゆっくりと付いて行く。
少女は、少年の背中に忠告を突き刺した。
「…誰でも良いわけじゃないんだからね」
「わ〜かってるよ」
ケラケラと笑いつつ返す少年。
無邪気な少年に、少女は溜息を落とす。
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テクテクと、異界の辺境を歩くシュライン・エマ。
こんな物騒なところを散歩しなくても…と お思いの方もいるだろうが、
彼女が ここを散歩しているのには、ちゃんとした理由がある。
シュライン本人には関係のないことなのだが、
その理由に関しては、後で御教えしよう。
どうやら、シュラインが、異変を感じ取ったようなので…。
(何だか…妙な雰囲気なのよね)
歩きつつ、後ろに感じる二つの呼吸音に耳を澄ますシュライン。
足音の整ったそれからは、大きな危険は感じないけれど、
一時間ほど前から、ずっと ついて来ている。
偶々、行く先が同じだとか、そんなことは…ないと思う。
ここは異界で最も不気味で物騒な地域。
魔物の巣窟とも言われている。
こんなところを好き好んで歩く者は、滅多にいない。
異界に住まうものでも、近寄らないほどなのだから。
うーん、と悩んだ末、意を決して後ろを振り返ってみるシュライン。
目に映るのは、少年と少女。
うん…どこにでもいそうな、至って普通の少年と少女だ。
シュラインはペコッと軽く頭を下げ、
二人に会釈すると、再び前を向く。
(何なんだろ…この感じ)
疑問と違和感を抱きつつ、テクテクと歩くシュライン。
気のせいかなぁ、疲れてるのかしら。
それとも、この場所の雰囲気の所為で、異常に警戒しちゃうのかしら。
そんなことを思っていると。
ボッ―
後方から、炎が上がるような音。
何だろう、と再び振り返ったシュラインは、ギョッとした。
(ちょ…何っ?)
少年が、シュラインに向けて、銃を構えていたのだ。
銃口には、赤い炎が灯っている。
どうやら、普通の銃ではなさそうだ。
炎を放つ…とか、そんな感じだろう。
(何で、いきなりそうなっちゃうかな)
内心焦りつつも、二人の呼吸音を探るシュライン。
少年の呼吸は…少し興奮気味か。
まぁ、攻撃をしかけようとしているのだから、それも当然だ。
もう一人、少女の方は…先ほどと変わっていない。
落ち着いていて、柔らかい呼吸だ。
彼女が攻めてくることは、ないだろう。
問題は、やはり銃を構えている、少年の方だ。
二人との距離は、およそ二十メートル。
発砲されたら、避けることなんて出来やしない。
さて、どうしたものか。
思案しながら、シュラインは "二匹" が戻ってくるのを待っている。
それが、突破口に繋がるであろうから。
「警戒してるわ。やめておいた方が無難じゃない?」
銃を構える少年に言う少女。
少年はベ、と舌を出して「嫌だね」と意思を示す。
少女はハァと大きな溜息を吐くと、
「どうなってもしらないから」
そう呟いて、少し離れた木の下に腰を下ろす。
コツンと銃を叩く少年。その度に、銃口に灯る炎が鮮やかになっていく。
少年が扱う銃は、魔銃という代物。
とある組織に属する者だけが持つ、特殊な武器だ。
シュラインは普段、草間興信所に暮らし、
所長である武彦の手伝いを率先して行う。
また、ここ、異界でも武彦は探偵として事件解決の任務にあたっている。
その際も、シュラインは彼の手伝いを行う。
彼と行動することが多い中、自然と身に付いた情報収集能力。
それを持ち合わせるがゆえに、シュラインは非常に情報通だ。
彼等が持つ銃についても、また、彼等が属する組織についても、
ある程度の知識と理解を持ち合わせている。
けれど、知り得ているからこそ、不思議でならない。
どうして、自分が狙われるのか。全く見に覚えはない。
いつ、発砲…攻撃をしかけられてもおかしくない状況が、
三十秒ほど経過したときだった。
シュラインの目に、待望の "二匹" の姿が映る。
森の奥から、こちらへ駆け寄ってくる二匹の獣。
影猫の"エク"と、光虎の"タシ"だ。
そう、シュラインは人気のないこの地域で、
愛しいペットである二匹の散歩も兼ねて、歩いていたのだ。
少年と少女は、二匹に気付いていない模様。
シュラインは片目を閉じて合図をする。
合図に応じ、タシは体から、眩い光を放った。
「うわっ!?」
「…っ」
突然の閃光に、視力を奪われる少年と少女。
シュラインは、今だ、と二人に駆け寄った。
視力が戻らず、目を擦っている二人。
シュラインは迷わず少年の方へ歩み寄ると、少年の手から銃を奪い取る。
同時に、戻り始める二人の視力。
少年が ゆっくりと目を開くと、そこには、
自分の銃を持ち、腕を組んでいるシュラインの姿。
ペチッ―
「あいて」
シュラインは、少年の頬を軽く叩いて言った。
「初対面の人に銃を向けちゃいけません」
シュラインに叱られ、少年はヘヘッと笑いながら頬を掻いて言う。
「や。ちょっとしたテストがしたくてさ。ごめんごめん」
「テスト…?」
シュラインが首を傾げると、
目を擦りながら少女が歩み寄ってきて説明した。
「私達、イノセンスのエージェントなんです。あなたをスカウトしたくて」
「スカウトって…私を?」
「はい」
「どうして?そんなに人手不足じゃないわよね?イノセンスって」
シュラインの言葉に、少年はキョトンとして言う。
「何だ。おねーさん、知ってたんだ?俺達の組織のこと」
「えぇ。そんなに深くは知らないけど…ある程度はね」
「へー。うん、まぁ確かに人手不足ってわけじゃ〜ないんだけどさ」
「…?」
首を傾げるシュライン。
少年と少女は顔を見合わせると、互いに頷いた。
グッとシュラインの腕を掴む少年。
「へ。何?」
「くわしいことは、アジトで。マスターに聞いてよ」
少年の言葉にシュラインはフルフルと首を振る。
少女は呆れて言った。
「強引すぎるのよ、あんたは…」
少女の言葉にも、シュラインはフルフルと首を振って、
クスクスと笑いながら、二人に告げた。
「違うの。そうじゃなくてね。私、あなたたちの組織に加入できないのよ」
「え〜。なんで?」
プゥと頬を膨らませて言う少年。
シュラインは微笑みながら、続ける。
「武彦さんの…うーんと、草間興信所ってところで働いてるから。無理なのよ。ごめんなさいね」
シュラインの言葉にピクリと動く、少年の眉。
少し、不機嫌そうな表情に変わった少年に、シュラインは問う。
「うん?どうしたの?」
「ってことは…IO2のディテクターとも知り合いなわけだね」
ボソリと言う少年に、シュラインはキョトンとして返す。
「え?うん、そうね…同一人物だし。こっち(異界)でも、彼のお手伝いはしてるわ」
シュラインの言葉に、少年の表情は曇るばかり。
(どうしたのかしら…)
何か、機嫌を損ねるようなことを言ってしまったのかと不安気なシュライン。
少年は、シュラインの腕を掴む力をグッと強めて、
「それなら、尚更。引き下がれないね」
そう言うと、シュラインの腕を引き、強引に、どこかへと歩き出した。
「ち、ちょっと待って…私…」
戸惑うシュラインだったが、少年は聞く耳持たずのようで。
少女を見やってみたが、少女は申し訳なさそうに頭を下げるばかり。
そう簡単には、離してくれないんだと理解せざるをえない。
シュラインは少年に手を引かれつつ、携帯で武彦に連絡を入れた。
「あ、もしもし。武彦さん?ごめん、ちょっと遅くなるわ」
『ん?何かあったのか?』
「ん〜…ちょっとね。帰ったら、詳しく話すね」
『大丈夫か?』
「うん。大丈夫。ごめんね」
『おぅ。気をつけてな』
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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 黒崎・海斗 / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 草間・武彦(ディテクター) / ♂ / 30歳 / 草間興信所の所長 (IO2:エージェント)
■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
こんにちは。毎度、どうもです^^
ゲームノベル”INNOCENCE”への参加・発注ありがとうございます。
心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです。
バトル外のプレイング・行動でも、全然構いませんよ^^
INNOCENCE には、まだまだ続編・関連シナリオがありますので、
是非。また御参加下さいませ。 お待ちしております。
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2007.12.09 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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