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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


+飛行能力


 私は見ていた、いや、私達は見ていた。
 この星の有様を、星に這う者達を。
 かつて一つだった我々は、同じ志を抱いていたゆえに、環境に適応し、年月を糧に進化して、必要の為、今後、様々に(例えば酸素の製造や食料の為の食料として)活用する為にあらゆる者を置き去りにし、遂には、大気を食らう事がかなった。
 だがやがて、意見の相違が産まれる。
 私達は空を選び、お前達は大地を選んだ。
 私は見ていたのだ、巨大なお前達が、地を踏みしめ、草を貪り、肉を喰らう。その繰り返しの毎日を。そう、敢えてこう呼ぶか、竜《ドラゴン》と。
 隕石一つで、凍えておっ死んじまったお前等だけれど――
 ……まるで、そう、まるで一度会議でもしたかのように、次の者達は、膨大な力では生き残れやしないとばかり、巨躯を削ぎ、牙を捨て、爪を折って、……猿となった。
 知のあるお前達は、ほどなく人間として、この地を埋める。
 だが、所詮それも竜の繁栄と同じ、地上に蟻のようにのたうち回る姿と同じ、ああ、全く哀れだと、
 私達は、いや、私は思っていた。
 ……ふざけるな。
 貴様は、貴様達は、何をしでかしたのか解っているのか。
 あの日お前達は捨てたのだ、捨てたじゃないか! それを、何を、今更、待て、待て! 待てッ!
 ……空を、空の向こうを。
 ……私はあの日空を選んだ、大地から自由になる為に。この身体を、風の友にした。
 けれど、お前は、人間は、羽一つない翼で、私達を作り上げた。地を支配する遠回りの末、やがて我々の高度へ立ち、遂には、その領域を突破、して。
 憎い。
 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
 ああ、嫉妬だ、全くのッ、ふざけるな、空は私だ、私達だ! あの日にそう決めたじゃあないか!
 だのに、ああ、だのに!
 ……言葉に、この感情は、言葉になる。
 頭の中が沸き立ち、全身がそれに焦がれるのに、けして、認めたくない。歯噛みする、ふざけるなと、否定したい、ああ、そう、道理があちらにあるからこそ、この感情の名前は、
 嫉妬。
 ……そうだ、そうなのだろう。
 そうなのだ。
 あの日から、私は、嫉妬の為にあったのだ。
 千二百五十回の冬と、千二百四十九回の春と、千二百四十九回の夏と、千二百四十九回の秋は、この嫉妬の為にあったのだ。この嫉妬の為に、生きてきたのだ。
 さぁ、止めるなら止めればいい、同族達よ。けれど、言葉等に最早この心は停止しないのだよ、心臓と同調しているから、死ぬまで、この気持ちは停止しない。
 私は今から八つ当たりをしよう、全く理不尽な怒りを行使しよう、暴虐になって、思う様に、未来を壊し続けてやる。つまりそれは永久ボレロ、終わる事無く、終わる由縁も無く、
 この空は私達の、私の、
 鳥の空だ。

「全く、どこにでも転がってるような、ありきたりな、生物兵器開発プロジェクト」
 東京、やけに、鳥が多い。それどころか、人を襲う。天気予報では、言っていない。言うはずもない。こんな事は不可思議、怪談の類。
 知っているのは、この男くらい。
「コンゴで捕獲した怪鳥を基盤に、霊力を組み込み、打たれれば滅ぶ肉の理を、痛めれば膨れ上がるよう覆して、そして、……言葉を教え、言葉で、洗脳した」
 生まれたての、千年以上生きた、人を憎しむ鳥。
「元の姿はあれだが、真っ白に光る霊力の羽をたっぷり纏っている。……で、その羽に触れた鳥は操られるし、場合によっちゃ、その羽が単独で鳥の形になって、人を襲う」
 太平洋側の小さな離島から、逃げ出したそいつは、そんな感じで増殖して、まっすぐに、人がいっぱい居る所へ向ってるのだけれど。
「軍も一応は出たらしいが、……正直持たないだろうな。まぁ、弾除けにでもなんにでもすればいいさ、あいつらの無事は依頼に入ってない」
 全く、この男は、
 目の前に居る者を、仕事を引き受けさせるつもりらしい。いい迷惑だが、
「経過は問わない。怒り、狂乱、哀れみ、無慈悲、因縁、利己、奉仕、その他……まぁ、結局、なんだ、ようは」
 探偵は、仕事の斡旋者は、
 草間武彦は別に悪い事等していませんとばかりに、台所の換気扇のスイッチをいれてから、煙草を吸う。
「撃墜してこい」
 いってらっしゃいませと言う様に、彼はひらひら手を振った。そうなれば仕方なく、頼まれた者は空を目指す。東京、東京の空を飛ぶ。Jを冠する名前じゃなくても、冠する名前であっても。
 古今東西問わず、ヒーローは、空を飛ぶ。


◇◆◇


 こんな夜に、女子中学生みたいな彼女が、仕事で急いでると乗ってきた。
 ああそうかそういう仕事か、まったく都会の闇って奴はと、彼女の思慮外の想像をして、タクシーは走っていくのだが、
 どうにも、反対の車線が混み合っている。
「情報の操作は上手くいっているようだな、混乱も無く、避難させている。……国が優秀か、いや、草間の周囲が噛んだのか」
 そうPDAを片手に、後部座席で通話相手に呟く姿をバックミラーで見て思う。おかしな客を乗せてしまったかと。そしてその疑惑は、
「ここじゃない、もっと先です、東京湾まで」
 彼女の思慮外の想像にて導き出した仕事とは、全く、縁のなさそうな場所を指定されたから余計深まるのである。でも距離が遠い程お金にはなるのだから、文句は無い。かくして個人タクシーは、目的の場所まで着いて、そして代金として、
 十万円をごっそり渡された。
「では」「ちょ、ええ?」
 戸惑う運転手を置き去りに、彼女は、降車する。待てよ待てよと視線を追って、
 その行為により、彼女への疑問が次の疑問で吹っ飛んだ。
「なんだ、あの空」
 東京湾の彼方に見える、夜だのにそれよりも濃く見える霧みたいな物――
「速いのが、来るか」
 何が、と窓から顔を出し問おうとしたよりも速く、確かにそいつはやって来た。もっとも、そいつが何であるかを知ったのは、その成れの果てを見た時なのだが。

 だって突然彼女の目の前で、ばちがちと何かが何かにぶつかり、破裂する音がして、
 そして彼女の目の前には、線のように、身体の一部を破裂させた鳥の骸が。

「は、は?」
 なんだ、これ、なんだ? なんか、まるで、
 ガラス窓にぶつかったように、彼女の前で鳥が。いやでも、そんな窓なんか。
「……今から貴方の目の前で起こる事を、いくら話しても構いません、しかし」
 誰も信じないと、彼女は言って、そして、
「せいぜい、東京で起きた怪談としか認識されないとだけ、注意を」
 言って、そして、
「ではここで、ありがとうございました」
 言って、そして、
「貴方が安全に帰れるよう、全て、撃ち落しますから」
 言って、そして、
 そして、

 走って、そして、
 空中を走って行く。

 まるで階段を駆け上がるが如く、どんどん高度を増していく、走る彼女。
 二十メートルくらい高くなった所であろうか、鳥の霧と彼女が接触して、
 まるで核みたいな爆発が爆ぜて、目が痛いくらい明るくなっているのは。ああ、どうやら戦っている、鳥と。本当、誰に話したって信じない。
 信じられるのは、十万円というこの金だけ。
「……飲もう、うん」
 今夜の出来事を一生の思い出にしては、自分が狂いそうになる。そう感じた運転手は、酔って、思い出の品を払いつくし、全てを忘れる事にした。


◇◆◇


 全くどうしてあの男は、こんな雨に放り込むのだ。
(東京という世界へ今)
 水では無い、水ならば、フィルムに映りやすいように、ミルクで色付けした水ならば、その下で傘も差さずに唄ってやる事も出来るのに。
(一匹の鳥と、たくさんの鳥が)
 雨霰なのは、弾、弾、弾、……命へ向って。
(向っていきます一直線に)
 全く、溜息を吐くしかない。溜息を吐きながら、仕事だと割り切るしかないのだが、自覚はせねばならぬのが、癪だ。
(たくさんたくさんの戦闘機とか、たくさんのミサイルとかを、ぼかん、ぼかぁんと落としながら)
 水の雨でなく弾の雨、その中で踊っている私は、
(増殖していく。異形に帰られた渡り鳥、霊羽に侵食された飛行機等です)
 ……屠っていく私は、
(無敵の、空飛ぶ軍勢、それに立ち向かえる術など、普通は無い)
 まるで、
(ただし、)
 ……。
(世界には、もう一つ、揺ぎ無い普通があるのを、鳥は知らない、いいや)
 私はササキビ・クミノ、
(知りたくない、認めたくない、それは自己の否定に繋がるから。自分が、鳥があらゆる意味で最高でなければいけぬから)
 千の鳥から千の雨、つまりは百万発の弾に撃たれてはいるが、
(こんな事をしているのだ、けれど)
 割と訳無く、障壁でそれらを防ぎ、紙一枚に過ぎぬ隙間を通り抜けて、その悉くをかわして、そして、
(認めなくても、普通は、そこに普通にある)
 一の人から一の雨、つまり一発の弾で、そう、もれなく一羽の鳥の、
(そうこれは普通の事です、世界には)
 命を奪っては、居るが、
(普通じゃない、人が居る)
 ……、
(そんな普通の事ですら、もう、認められなくなってしまったのなら――と)

「殺し屋では無い」
 殺し屋では無い。

(非自称殺し屋が)
「殺し屋では、断じてない」
 だが、殺さねばならない。
(普通でない人が、依頼を押し付けられたからには、燃える空が消化されて行く事になって、そして、その末で、例えるならば旅路の果て)
「殺さねばならない」
 お前を。
『お前は、なんだ』
(鳥の言葉に出会いました)


◇◆◇


 霊羽で厚着した偽の巨躯。まぁるで絵如く満ちた月のように浮かぶ、浮かんでいる。人は見上げる、彼女の異能障気は、高度20m迄直立させるのが精一杯だから。必然、それより遥か高い位置の鳥、見上げる当たり前。
『ならばなんだ』と鳥は言う、ここまでやってきた人に言う。ここまで、
 走ってきた、人間に言う。
 殺し屋で無いというのなら、なんだと、
 鳥は、憎き、人に言う。人は、ササキビ・クミノは、
 ――千年以上生きたと教え込まれている目の前に
「仮初にも、お前がそうであるなら」
 悠然と構えながら、
「私もまた、仮初に名乗ろう」
 何処か寂しそうに見えなくもない瞳ではあるが、
「私は人、この手で大地を踏破し、季節も無き深海を辿り、そして、無限に接続する空を飛び、そして、空を突破した者」
 語りは、憐憫よりでは無く、
「お前を、」
 戦闘の構成部分、
「今より見下ろす者」
 煽り。
 ――感情を添加すれば射程範囲である20メートルの半径にやってくるから
 迎撃をあれ思ったより「速」
『死ぃねぇやぁッ!』
 鳥が猛々しく叫んだ時には、とっくに、二百五十六の霊羽の内六十四が直撃して、爆発炎上、『死んだぁ!』普通ならそう、
 だが、普通じゃあないから、そう叫んだ時、0.04秒後と0.06秒後の狭間からやってくる、
 ビーム。
『……』
 自分の羽を、一つ剥がした。死んでいない、いや、それどころか、
 増えている。
「オプション」
 銀色に輝く人間が。
「スペースディテクター」
 ササキビ・クミノの傍らに、召還され、武装されるのは、もう二十年以上前になる、ブラウン管のヒーロー、それは実態なのか、模造なのか、玩具なのかは解らないけれど、
 それを手毬のように引き連れた彼女は、総攻撃を開始するから、
『ああがああぁぁッ』
 削れて行く、鳥の霊羽が、彼女の両手に握られた銃でオプションがわざわざ叫びながら繰り出す技でひたすらひたすら鳥とて抵抗するがまるで透明になったかのように避け続けて単調に繰り返される攻撃、
『ぐああらぁあぁぁッ』
 耐えかねた鳥は、捨て身で一直線突撃かましてくるから、
 ササキビ・クミノはオプションを前にして、そして、とても綺麗にドロップキック――
 銀色の刑事が、束の間の命と引き換えに振り上げたブレードは、絶命と引き換えにあの声と供に振り下ろされたから、鳥は両断される。波が割れていく中にいるよう、両方の左右で、斜め後ろへ吹っ飛んでいく羽吹雪に見向きもせず、正面を見据えてササキビ・クミノは、
 中心である怪鳥を、召還したグローブをはめた拳でカウンター、
 これで、
 終わり、
『終われない』
 、
『終われるかぁッ』
 鳥に注ぎ込まれた偽の記憶は、偽造された憎悪は遂に、かの鳥に、自分の魂を失う事すらも厭わなくさせて、
 自分の命を変換して、真っ赤に燃える羽を新たに纏い、上へ、上へ!
 ――空へ
 人の領域では無い空へ。
 ……見上げる、ササキビ、まだ、仕事は、完了していない。「ほっておく訳にもいかない」召還武装が起動する、
 竜を彼女は踏みしめる。


◇◆◇


 夢でも無く希望でも無く、嫉妬と憎しみで宇宙へ駆け上がっていく燃える鳥、一心不乱に向っていく鳥、ねぇ、それを、
 竜と供に止めようとする彼女は酷い人?
 ……全く、どこにでも転がってるような、ありきたりな、生物兵器開発プロジェクト、
 ムーの魔法科学技術によって構成された、兵器に乗って、殺意も無くただ堕ちてくる火の羽をくるりくるりとかわしていきながら、ようやく20mに収められた、ああ、矢張り、
 疲弊している――重力に、空気に、何もかもに、
 ……それでも魂の燃焼という、理解し難い動力を糧に、必死に限界を突き破ろうとする鳥よ、ああ、こうやって降る羽すら、お前の涙のように思えるけれど、無駄な、足掻き、残念ながら、
 石は風になれない。
 鳥は宇宙を飛べない。
『……やだぁ』
 それでも、認めたくないなら、
『やだぁッ!』
「……お前は、良く頑張った」
 さぁ、
「私に八つ当たりをしろ」
 千年生きたという記憶なのに、全く子供みたいに、癇癪を起こして、ササキビ・クミノはまるで母のように、それを肯定してやって、
 こんな思いの侭空を彷徨わせる訳には行かないから――
 手助けして宇宙へ行かせても、
 哀れむなと、きっと、鳥の心を破る事になる、
 殺し屋ではなくても、殺さなければならない、だから、
 降りしきる魂の雨に紛れ、時折来る鳥自身の嘴と、全方位に展開される弾の幕、かわしながら、撃ち潰しながら、超接近しての一点集中射撃や、十秒毎の広範囲攻撃を繰り返して、余りにも死が傍にある単調な作業、
『やだ』
 人間は酷い、
『やだ』
 鳥を、こんな風にも出来る、
『やだ』
 鳥を、
『や』
 殺す事も出来る。
『だ』
 ……何処か遠い国で、子供が、ゲームのスイッチを入れたかのようなタイミングで突然、鳥の魂による姿は、
 出来損ないの人の形になった。
 まるっこい頭、四角い体、そして、蛇のように長い腕に付いている指の長さが不揃いの手、
 目と口は無いから、笑ってるか悲しんでるのか解りやしないはずなのだけど、
 鳥の心が晴れた訳ではないと、彼女は思った。
 雲を突き抜け、東京湾へと落下していく、人の形になった鳥を見下ろしながら、彼女はそう思った。


◇◆◇


 大量の鳥が凶暴化し、それに包まれながら、東京湾上空に未確認飛行物体がその意義を失う程に確認された事は、記事にならないはずも無いのだが、……磁場が狂ったとか軍の演習のカムフラージュとか、現実的な非常識の範囲で語られる限りは、彼女が、インタビューされる事も無いだろう。月刊アトラスなら別かもしれないが。
 だから、彼女のインタビュー記事は無い。
 後味が悪いと思ったのか、仕事だからとさばさばしてるのか、そういうコメントは一切取れない。草間興信所から頼まれた仕事を引き受け、完遂し、そして報酬も受け取ったのだから、もうこの依頼はおしまい。
「……」
『……』
 ……もう終わったのだから、ササキビ・クミノの目の前に、出来損ないの人の形をした物を、殺す必要も無く、
 彼女は無言で、召還、平賀源内が初出とされる石の糸で編まれた布に、飛行機の設計図を簡単に写して、燃える彼の手に渡した。言葉は無い。
 出来損ないの人の形は無言で、のそりのそりと、去っていく。飛びはしない。去っていく先を、視点の移動で追う事はしなかった。もう終わった依頼なのだから。
 嫉妬も稀に、憧れと同じくらい、進む為には必要なのかもしれない。
 そう思ったのか、どうか――
 通信機能付きのPDAの、通信機能が作動した、
「私だ、……草間か、今度はなんだ?」
 この依頼はもうおしまい、もしかしたらめでたしめでたし、よって、また新しい依頼で、彼女は空を飛ぶ必要は無く、歩行で、興信所へ向っていった。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 1166/ササキビ・クミノ/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。

◇◆ ライター通信 ◆◇
 ……久しぶりすぎてここの書き方が一瞬忘却の彼方に(おいお前
 ええと本当ご無沙汰しています、方々に色々ご迷惑おかけしていました。エイひとです。
 ご参加おおきにでした。ササキビ・クミノの能力はかなりムテキング(否クィーン、ムテクィーン、足洗)なので、描くのが大分楽しいです。しかしスペースDは予想外でした、もういっそスペースリポーターも呼び出したろうと考えましたが、駄目だ、別物の依頼になる、踊る感じで。
 えーととりとめありまへんが今回はこのへんで。複数募集もゆっくりと始めたいなと思っていますので、またよろしければお願いします。