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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


神の剣 宿命の双子 姉の苦悩・怒る弟

 鳳凰院紀嗣は、織田義明のことが気になっていた。
 まだ、出会ってから数日経っていないのに。
 物静かな人物で、しかも実は学園大学部所属だと。なんと、若いのに剣術場を所有している。
 謎だった。ただ、なにか似ていると思っていた。
「で、草間さん。織田さんって、何者?」
 と、草間武彦が公園にある喫煙スペースで昼寝していたところを捕まえて、訪ねていた。寒いのに。
 紀嗣は、飲むヨーグルトを飲んでいる。
「ああ、あいつか?」
 草間は知っている。影斬はもう少し、二人と親しくなってから、本題に入ろうと思っていたのだ。
 良い傾向なのかと考えてしまう。力について話すのは慎重で無ければならないのだが。
「本人に訊いてみろよ。」
「あまり、教えてくれないんだ。悪い人じゃないのは、何となく分かるけど。」
 ため息をつく。
「んじゃ、いってきます。」
 紀嗣は去っていった。
 その直後に、草間はなにか不安を覚える。虫の知らせだ。
 いつになく、いつも吸っている銘柄が不味く感じたのだ。
「なにかやばいことになりかねないぞ……。」
 早速、彼は知り合いに全体メールを送り、急いで天空剣道場に向かった。


 天空剣道場に美香がやってきた。
 美香は気づき始めていた。織田義明が、なぜ関わろうとしていたのか。
「織田さん。あなたはいったい何者ですか?」
「……私は、君たちと仲良くしたい。それだけではダメなのかな?」
 影斬が言う。
「はい、あなたはなにかを考えています。」
「……そうだ。とても大変な問題を君たちは持っている。その手助けを。」
「……まさか、私と弟の力を知っているのですか!?」
 その言葉に影斬は頷いた。
「これは私たちの問題……、他の人に関わりを持ちたくはありません。」
 彼女は拒否をする。
「君は、その力を知っているはずだ。既に本能と理性で。」
 影斬の言葉が、美香を硬直させた。
「……まさか? あなたも……? 神格保持者?」
 恐怖で一歩退く。
 自分がそうなのだから、以下に危険な存在か分かるのだ。
「私もこの“能力”が、不安定で苦労した時期があった。あなたの将来を考えて、接触をしたかったのだ。」
 静かに、真剣に彼は話し続けた。
 そう、彼が影斬になるまでの経緯を。命をねらう者がいたこと。その力が不安定により、強大な敵が生まれてくることなど。
 美香はそれで理解した。

 ――ああ、この人は優しいけど、怖い。私にこの能力を制御できるのか? 私は、本当にどうしたいの?
 
「考えさせて。まだ、私……。まだ、あなたのことが信用……できない。」
 と、美香が言う。それは苦悩だった。
「……。わかった。すまなかった。苦しくさせて。」
 影斬は謝る。
「すみません。し、失礼します!」
 美香は様々な気持ちを込めた鋭利な口調でそう言い、去ろうとした。
 しかし、いきなり立ち止まる。
「の、紀嗣……?」
 美香が去ろうとしたとき、紀嗣が居たのだ。
「な、姉ちゃん?」
「紀嗣、帰ろう。ここに、用はない。」
 その、言葉には苦悶。
 紀嗣は影斬をにらみつける。
「姉ちゃんを泣かせた! 織田さん!」
 周りが、熱を帯びてきた。紀嗣の周りから。

「紀嗣! 違うから! 違うから!」
 紀嗣を引き留めるのだが、熱くて、引き留められなかった。
 この状態では止められそうにない!
「織田さん! にげて!」
 美香が叫んだ。

 ――暴走一歩手前か?
 影斬は構えた。



〈道場〉
 御影蓮也が、そばにいた。
「ここは俺に任せてくれ。被害が及ばないようにしてくれたらいい。」
 襲いかかってくる紀嗣に向かって、蓮也が小太刀の木刀二本を持って立ちふさがる。
「美香悪い、一寸怪我させてしまうかも。」
 木刀を交差し、我を忘れた紀嗣の蹴りを、受け流す。
 空気が熱気でゆがんだ。
 影斬は、構えを解き、じっと紀嗣を見る。
「止めて紀嗣!」
「我を失っているようだ! 暴走か? その程度で俺たちが何とかなると思うな!」
「うあああ!」
 紀嗣の正拳突きが、蓮也の木刀を粉砕し、炭にした。
「!?」
 そのとき、影斬が割ってはいる。手には具現剣『水晶』と蓮也の傘!
「義明!」
「暴走した! お前だけではムリだ! 抑える!」
 あたりが、灼熱化する。影斬は、すぐに、道場の床を強く踏み、結界を張った。
「なにごとですか!?」
 天薙撫子がお茶を持ってきたが、この尋常ではない状況を、すぐに理解し、静止の叫びを言おうとしたが、前に体験している、神格暴走状態には威圧はムリだと。しかし、叫ばなくてはならない。
「お待ちなさい! あなたが美香様を泣かせるおつもりですか! 落ち着きなさいませ!」
 威圧ある叫び。しかし、我を忘れた紀嗣に届いてない。
「紀嗣! やめて! 違うから!」
 美香が泣いていた。
 止めようと走るところを、御柳紅麗が止めた。撫子もそれに加わる(もちろんそのとき二つ目の結界を張った)。
「あの空間に、まだ、入ってはだめだ! 尋常じゃない!」
「でも……止めないと! 織田さんが!」
「二人なら大丈夫だ!」
 紅麗は、言い聞かせる。
 隣から、水滝・刃が駆けて行く。
「紀嗣、お前何か勘違いしている! ああ! 聞いちゃ居ないっぽいが、すまんが止める!!」
 呪符を取り出し、捕縛するために紀嗣に向けて発動させようとするが、その呪符が燃え尽きる。
「え? あつっ!」
 周りが尋常じゃない熱気なのだ。紙程度はすぐに発火するほどのようだ。
 三体一。しかし、怒りにまかせて暴れる紀嗣は、止まらない。蓮也に傘を渡した影斬は、『水晶』で受け流す。衝撃が道場内に響く。紀嗣のもつ熱気が徐々に何かを燃やそうとしていた。このままでは、火事になる!
「冷却! 頼む!」
 蓮也は愛用の傘に命じた。一瞬にしてその空間の気温が下がっていく。屋内なのに雪や氷が舞う。しかし熱気ですぐに蒸発する。幸い水蒸気爆発は起きない(傘がコントロールしているようだ)。
「これが暴走なのか! これほどまで!?」
 刃や蓮也はこの威圧感に驚く。実は暴走は見たことがないだ。
「私が抑える!」
「ああ!」
 三人の連携で、紀嗣の無謀な攻撃を受け流すが、影斬は紀嗣の拳をもろにうけるが耐え、額に人差し指を当てる。
「封の技・鎮(しずめ)!」
 光が発され、神格の「威」を封じ込める。同時に彼の持つ『水晶』が砕けた。その音は周りの人に耳鳴りを起こすほど強烈だった。その隙に蓮也が持つ傘の柄による紀嗣の鳩尾に一撃、横隔膜を圧迫させる。同時に、刃が捕縛符を彼の背中に張った。
「が! ごほ……っ」
 紀嗣はひるんだ。その時周りの熱気が無くなった。
 それでも、彼は立っている。
「姉ちゃんをなかした……。」
 力の暴走は止まったとしても、影斬にむけた敵意は消えてない。殴りかかろうとする。しかし、3重の力で動けない。
 そこに、彼に水がものすごい勢いで降りかかった。
「え? ?」
 紀嗣は、我に返った。
 シュライン・エマがバケツを持っていた。そして雑巾も。
 彼女は無言で、雑巾を紀嗣の顔に叩き付ける。そして、床を指差した。
「……。」
 呆然とする紀嗣。掃除をしろと言う事らしい。
「美香さん水汲んでくれないかしら? あたしもいくから。織田君、掃除道具ってどこに?」
「外の物置の隣にあります。」
 一緒にずぶ濡れになった影斬がそのまま答える。
「そ、美香さんいきましょ。」
「あ、は、……はい。」
 彼女を連れて、いまの場所から離れた。
「ふう、なんというか、色々ありすぎだな。あ、俺も行きます。」
 紅麗がため息を吐いて向かった。
「ぎりぎり間に合った……。」
 影斬は、冷静につぶやいた。
「義明さん!」
「なんだ。」
「あなたもあなたです。女性は繊細なのですから、注意してくださいまし!」
 撫子は義明にも怒っていた。
「……ああ、すまない」
 義明は、撫子に謝ってから、紀嗣に近寄った。
「体、大丈夫か?」
「……。」
 紀嗣は、その場で倒れそうになるが踏ん張っていた。そして、
「あんた何者なんだよ!? なぜ姉ちゃんを……。俺を」
 泣きそうな声で、訴える。
 手足からなにやら、灰の塊が零れている。影斬と撫子はそれをみて、神妙な顔になっていた。
(暴走の灰化ですか……?)
(ああ、しかし、まだ軽症だ。)
「話す。まずは……掃除をしよう。それからだ。」
 蓮也が代わって、言った。

 シュラインは美香を連れて行く。美香が、バケツをもって水を汲もうとすると、そのままへたり込む。
「紀嗣……。」
 泣いていた。
 シュラインは、美香の隣に屈み込み、肩を抱き寄せた。落ち着くまで、彼女を待っていた。
 紅麗は、そこに気づいて、無言で掃除用具とバケツに水を汲んでそのまま去っていく。こっちは自分の出る幕ではないと思ったのだ。


 草間がたどり着いたのはその後である。


〈暴走の力〉
 義明と蓮也、刃がモップや雑巾で床を拭いて、綺麗にした。紀嗣は、力の放出と様々な効果で動けないでいる。撫子が、彼の腕を見て、青ざめていた。ヒビ割れと所々が黒ずんでいる。
「義明さん……。」
 撫子は影斬を呼ぶ。
 軽症でも後一歩で危ないらしい。撫子はこのまま暴走していれば、一気に加速する状態だったと目で訴えている。
「……やはり……。撫子、抑制霊薬と軟膏を。足りない場合は加登脇先生に連絡。それで大丈夫なはずだ。」
 撫子は頷いて、奥に入っていく。
「どういう事だ?」
 刃が聞いた。
「人の体が、力に耐え切れていない。私もかつて“織田義明”としてその経験がある。」
 彼は右腕を見せる。そこはまるで陶磁器にヒビが入ったような傷が走っていた。傷と言うより、“割れて”いる。
「私の場合は、敵との戦いを繰り返し、力の酷使でこうなっている。しかし、紀嗣は暴走。そのときは即座に自分の体の組織が炭に近い状態になり、ヒビが入るか、灰になる。それでも、自分が“なくなる”で暴れ続ける。何度も言うが、今回その境界で抑えられたのは本当に幸運だ。」
「……。」
 つまり、暴走は……我を忘れ、暴れ、人として死ねない。残るのは、荒野と灰燼のみ。そこに人の姿ではない獣が、灰となって崩れるのだと。
「……。こわいな」
 刃は想像するだけで震える。憑き物を押さえることと訳が違うのだと。
 撫子は過去それを目の当たりにした、草間も同じだ。
 タバコはくわえず、義明の肩をかるく叩き、
「こいつの暴走は二回目というが……、治療の見込みは?」
「完全暴走ではないから、まだ、大丈夫だと思います。」
「お待たせしました。足りるようです。念のために先生にも伝えました。」
 撫子は、すぐに戻ってきた。見た目は代わらない救急箱をもってきて、手当をした。なかには、神格保持者用の軟膏などが入っているものだった。
「ところで、おまえ『水晶』壊れたろ? 大丈夫なのか?」
 蓮也が訊いた。
「あ、あの封印技は具現剣が触媒だ。多少疲れる程度だ。数日寝れば問題ない。」
「それならいいが。あれが砕けると死ぬと思っていた。」
「それは、まだ普通の“人間”で居たときだけだ……。」
 影斬は少し哀しい顔だった。


〈シュラインと美香〉
 シュラインと美香はまだ掃除道具前にいる。
「弟さんに話したことはある?」
「……。」
 落ち着いた、美香にシュラインは尋ねた。
「今の態度では、紀嗣君、勘違いしてしまうわよ?」
「私は、私は……怖い。紀嗣にどう接すればいいのかも、もう、あの事を……」
「彼はあなたを心配している。お姉さん思いだけど、美香さんが避けていると、彼はまた……」
「でも……。」
「独りで抱え込まないで。ちゃんと相談して向かい合って話しましょ? ね?」
「シュラインさん……。」
 美香は頷いた。
 焦燥している顔がとても辛かった。シュラインは力については言わない。それは、専門外だから。しかし、この姉弟の関係が傷つけあうだけという事だけは何とかしたいのだ。それはとても悲しいことだから。
「シュラインさん、掃除終わったので、片づけますね。」
 紅麗が、両手に沢山掃除用具を持って来た。
「弟君は?」
 シュラインが訊く。
「手当うけてる。でも大丈夫って義明が言っている。」
「そう……よかった。」
「御影君達は?」
「ああ、大丈夫。あっちには怪我はない。」
 紅麗はてきぱきと掃除用具を片づけてから、
「ここでいるのもなんだし、落ち着いているなら、中はいる?」
 と、聞いた。
 
 紀嗣が、呆然としている中で話は進められそうにない。
「廃人になってはないか?」
 紅麗が、紀嗣の顔をみる。または顔の前で手を振ってみる。
「寝かしておく方が良い。」
 力を使えば、大抵眠るか気を失う。そのあと待っているのは激痛の伴う筋肉痛だ。美香に話が集中することも、避けるべきだが、もう一度、影斬は言う。
「すまない。」
 影斬が謝るが、
「すまない。私が……。弟を止められないばかりに……迷惑を……。」
「迷惑ではありません。話す相手が居ない。それは悲しいことです。」
 撫子がお茶を持ってきた。そして各人の前に置く。
 沈黙が続く。
「まずは、一度、戻られた方がよろしいと思います。」
 撫子が、提案する。
「そうね。」
 シュラインは頷く。
「よっこいしょ。」
 紅麗が紀嗣を負ぶった。紀嗣はまだ眠ったように動かない。
「あ、痛み止めとかその辺は? 義明。」
「筋肉痛だけは、耐えるしかない。外傷などは、この軟膏を使えばいい。」
「神格による肉体破損は、普通の薬でも秘術でも治らないわけ……か。」
「ああ。」
「んじゃ、行ってくる。」
 シュラインと紅麗が道場から出る。撫子も途中まで送るそうだ。
 草間は、影斬に話があるようで、まかせたという表情だ。

 玄関で、
「先ほどは大変申し訳ありませんでした。」
 撫子は美香に謝った。
「いいえ、私が悪いんです……私が……。」
 と、自分を責めている。
「もし、……あ、いえ、すみません。」
 紅麗が撫子を見て、今は“止めろ”と止められた。
 美香は、お辞儀して道場を後にした。
 その後に、シュライン紅麗が続く。
「まかせて、撫子さん。織田くんを怒っておいて。」
「はい……。」

 鳳凰院家に帰る道。
「美香さん……、弟さんのあの態度事考えたことある?」
「……。」
 シュラインの言葉に美香は黙っていた。
「色々心配する事があるけど、お互いが傷つけあっては、悲しいわ。」
「はい。」
「もしかしたら自分では手に負えないとき、必ず紀嗣くんに伝えるって約束すれば、彼も感情に任せて動くより、一度立ち止まって考えてくれる。そうと思うの。人は……。」
「シュラインさん。」
「なに?」
「ありがとうございます。」
「ううん。お節介でごめんね。」
 美香は首を振った。
「姉弟は仲良くないと行けないし。ああ、そうだ、うん。」
 紅麗が、弟を負ぶって言う。
「きょうだいげんかってのは良くあることだけど、さ。なんつーか、俺のところは一寸違うけど……」
 自分の家族・きょうだいの事を考えたら寒気が走ったようだ。
「皆さん、ありがとう。弟が、気が付いたら話します。」
 美香は深々とお辞儀をした。


〈再び道場〉
「とんでもないことになったな。」
「ですね。」
 道場に残った蓮也、刃、草間、撫子、影斬。
 居間でまだ沈黙が続いている。
「……。」
「俺は紀嗣に話をするよ。力のこと。」
 蓮也が言う。
「あれは一寸、美香さんだけで問題ではないし。お前もそうだったろ?」
「だな。」
「やっぱり、いがみ合うより、距離置くのは、きっついと思う。」
「あ、俺も思うな」
 刃も頷く。
 彼も状況に似たことがあったのだろう。
「姉弟で話ができたあと、個人的にってことが良いかもな。友情を深めあう方が良いって事だ。」
 草間が言った。
「そうでしょうね……。ところで、義明さん。」
「?」
「後でみっちり、お話がありますから。」
 まだ撫子は怒っている。
「いや、私がまた何をした? まだ、私に悪いところがあったのか?」
 影斬はとまどう。
「こういう事態を想定するべきだったな。」
 苦笑するのは草間。
 早めに話しておくかどうかもあったのだろう。全部義明が悪い訳じゃないが。責任はあるのだ。色々悲しいことに……。
「撫子さん、義明をあまりいじめてはダメですよ。元が天然、それに不器用だから。」
 蓮也がフォローといえないフォローを言う。
「ひどいな。それ、思いっきり貶されているな。」
 影斬はフンと鼻を鳴らした。


〈目覚め〉
 紅麗とシュラインは帰った。
 気が付いた紀嗣は見慣れた天井を見上げる。体中が激しく痛い。
「また、なにかしたのかな?」
 涙が出るほどの激痛。
 怒りで我を忘れてまた姉を困らせたのか。姉を守ったのか。その事が気になった。
「紀嗣。」
「姉ちゃん。」
「大丈夫か?」
「体中が痛い。」
「筋肉痛だ。しばらく続く。我慢しろ。」
「うう。」
 美香には怪我はない。なら、大丈夫だ。紀嗣は安堵した。
 美香は意を決し、言う。
「紀嗣、私だけではどうしようもないとき、必ずお前に言う。だから、私が苦しんでいる様な顔になっても、まず、話を聞いてくれ。」
 と。
「……飛び出しちゃったか……。ごめん。姉ちゃん。」
 紀嗣は、それだけ言うと、黙ってしまう。表情は泣きそうだった。
「動けるようになったら、謝りに行こう。そして、織田さんの話を聞きに行こう。これは、私たち姉弟の問題でもあるけど、あの人達に手伝ってもらわないと。この問題は……、お父さん達では手が……負えないんだ。」
 美香は泣いていた。
 紀嗣は、美香の手を握る。
「うん。姉ちゃんの言うとおりにする。」
「紀嗣……。」
 仲直りの瞬間だった。

 その後、シュラインにメールが届いた。
 ――話しました。
 と。


 数日後。
 道場で全員が集まった。
「すみませんでした! 織田さん!」
「先日は本当に済みませんでした。」
「私の方こそ、配慮が足らなかった。」
 と、謝り、本題に入る事となった。
 影斬が話し始める。
「君たち姉弟は、先天性神格保持者と言う状態だ。人間が持つ霊力や魔力など、神秘力が許容量を超す状態とは違う。神の権能とその力が、“そのまま”人間に宿った状態とも言っても良い。」
「そのまま?」
 紀嗣は自分の腕を見た。ヒビとやけど。不可思議な傷だ。
「ああ。神秘力が度を過ぎているだけなら、訓練次第で問題はない。神格保持者はその訓練が難しい。抑えても、扱っても、肉体を破滅に導くのだ。いつでも割れる風船のように危険である。」
 強力すぎる故に、肉体が滅ぶのだと。元から神の座等ふさわしい所に立っていない物が、力を持っている危険性を説明したのだ。周りにいる人も、嫌な汗が出ていた。
 紀嗣は、まだ信じられないような顔をしているが、その前に美香が教えてくれた。それが真実だというショックがあり、怖いみたいだった。
「そうすればいいんだ?」
「私たちで、その制御を助ける。それが、私たちが君たちと親しくなる一つだった。そして、」
 それに続いて、
「本当に友達になりたい。」
 刃、蓮也、紅麗が言うのだった。
「そうよ。あたしたち、ここにいる人全員はそう思っているわ。」
 シュラインが言う。
「俺どうすればいいかわかんないや……。」
 紀嗣も、色々とまどっているようだ。
「ご自分の力を今一度よくお考えになって下さい。否応ともご自分の力、人を傷付けるも護るもご自分次第です。力でお悩みでしたらご相談下さい、答えを見付けるお手伝いを致しますから」
 と、撫子。
「……。」
 美香は、うつむいていた。
「姉ちゃん?」
「……あ、ありがとう、ご、ございます。」
 と、泣く。
 今まで溜めていた想いがあったのだろう。
 シュラインが、彼女の肩を抱いた。先日のように。
 ひとまず、この騒ぎは収まったようであった。


〈紅麗君は結局……と、ある人の決意〉
 ある日のこと。刃と紀嗣、蓮也と紅麗が公園でぼうっとしていた。いつの間にか、たむろする仲までになっている。
「ああ、そうだ。紀嗣。」
 紅麗が紀嗣に話しかける。
「なに?」
 まだ前のことで根に持ってそうな顔つきで言う。
「なんか、言いたいみたいだが、これだけは言っておかなきゃならね。」
「?」
「影斬。すなわち義明の本気モードを倒すのは俺なんだ。」
「ライバル?」
「ああ、そうだ。俺は影斬のライバルだ。」
 と、胸を叩く。
「勝ったことはあるの?」
 紀嗣は知っていそうな、蓮也に尋ねた。
「勝ったとかという報告はないし、俺は見たことがない。」
 蓮也が即答する。
「……。」
「……。」
 紀嗣と刃の目が紅麗に向けられる。
 これでライバルといえるよな、と。
「よーし! 近くに彼奴の家がある。今すぐ試合だ!」
「おいおい! 迷惑じゃないのか?」
 刃が驚く。
 それは、まさしく道場破り。
「こいつの力がどれほどなのか見てみたい。」
 でも、好奇心はある。
「リミット解除でも、義明には負けそうだけどなー。」
「言ったな! 蓮也!」
「拳?」
「剣でだ!」
「あと、人間性とかもな。連敗更新を拝ませてもらおう。」
「いわせておけば〜!!」
 怒った紅麗は走っていく。
「俺も人のこと言えないけど、頭に血が上りやすい? 御柳は?」
「ああ、思いっきり猪突猛進だ。周りが見えない事が良くある。」
 紀嗣の言葉に、蓮也は答えた。
「ああ、結構間抜けだ。それは先日知った。」
 刃も頷いていた。

 道場では、美香が木刀を素振りしていた。
「あれ? 美香ちゃん?」
 紅麗が素っ頓狂な声で言う。
「美香? どうしたの?」
 蓮也と刃。
「姉ちゃん?」
「みんな? 遊んでいたのではないのか?」
 剣道着姿の美香が凛々しかった。
「剣道、家でしないの?」
「私は天空剣を習おうと思う。」
 弟の問いに、美香が答えた。
「はいいい?」
 裏声で大声をあげるのは、紀嗣となぜか紅麗。
「制御できるようにしたい。そして、色々見極めたいのだ。それに、夢もあるから……。」
 と、はっと気づいて、そっぽを向き、
「えっと、鍛錬のじゃまをするのなら止めて欲しい……。集中がとぎれる。」
 と、言う。
「姉ちゃん。いまからね。御柳が織田さんと試合するとかいっていた。」
「本当か? 師匠は何も言ってない。」
 首をかしげる。
「えっと、道場破りらしいよ。」
「ヒドイやつだな。御柳は。」
 美香はジト目で紅麗を見る。
「ひでぇ。」
 立場悪し。
「いつものことだ。相手になる。」
 と、奥の方から影斬がやってきた。
「よおし!」
 指を鳴らす。
「師匠。大丈夫なのですか?」
「いつもしている。負けることは無い。」
「うわ、なんかすげぇ余裕すっねっ!」
 子供扱いされている。
「見てみましょう。皆さん、脇に座ってください。」
 同じく稽古着に着替えている撫子が居た。
 そして見守る。

 心地よい音と共に、紅麗の木刀が宙に飛んだ。


 草間興信所。
「楽しそうにしているんだな。それは良かった。」
「みたいよ。雨降って地固まるみたい。仲良くなっていくところを見て安心してるわ。」
 シュラインが、草間に話していた。実は、彼女も道場の奥で見ていたのだ。
「日常に、彼らがなじめばいいと思います。」
 影斬がコーヒーを飲もうとしたが、頭に猫が乗っているので、一度猫を膝に乗せてから飲む。
「でも、これからが大変よ? 織田君。」
「はい、分かっています。」
 猫が、また頭に登ろうとしているので格好悪いが、影斬の目は真剣であった。

 ここから、双子の試練は始まるのだろう。


END

■登場人物紹介■
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 死神】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】
【3860 水滝・刃 18 男 高校生/陰陽師】

 NPC
【草間・武彦  30 男 探偵】
【影斬(織田・義明)? 男 剣士/学生/装填抑止】
【鳳凰院・紀嗣 16 男 神聖都学園高等部】
【鳳凰院・美香 16 女 神聖都学園高等部】


■ライター通信
 どうも、こんにちは。
 滝照直樹です。
 このたびは『神の剣 宿命の双子 姉の苦悩・怒る弟』に参加して頂き、ありがとうございます。
 皆さんの行動の良さで、また収まりました。ありがとうございます。
 今回は、シュラインさんの行動にしびれました。本当にありがとうございます。影斬は巻き添えですが、それは仕方ないです(たぶん、蓮也君も刃くんも濡れている可能性もありますが、間合いをとって避けている……はず)。
 皆さんも、懲りずに、この鳳凰院姉弟を助けてあげてください。


 では、また別のお話でお会いしましょう。

滝照直樹
20071122