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響・カスミの夜勤騒動
「反対です！ それだけは絶対反対です！」
響・カスミは職員室の壁を響かせるほどの声でそう言った。
「私がユーレイ、ヨーカイが苦手なのは前から言っていたことです」
「しかしなぁ。この日だけは運悪く空いてる教師がいないんです」
「それに初等部、中等部は別の教師が担当してるので、高等部のみお願いしますね」
その高等部が一番恐ろしいのに……カスミの顔は真っ青。憂鬱。
教室の引き戸に手をかけ、開けたその先に、
「せんせーい。とうとう夜勤なんだってー？」
「えぇ。確かにしますけど、別にユーレイなんていませんから大丈夫です」
「へ〜。高等部は結構出るみたいっすよー」
そんなのは無視！カスミはすみやかにホームルームを済ませた。
そんな中に何か企んでいる男子生徒がいた。
「先生を何回失神させるかで賭けないか？」
「俺3回！」
「甘いな。俺は8回だな」
夜勤の日は3日後。
車で家路まで走っている。
ここらへんは田舎だからまばゆい光もあまりない。
そんな当たり前のことなんて気づかずに、カスミはあることを思いついた。
「そうだ！ ボディガードを雇えばいいんだわ！」
そのアイディアが出た途端、アクセルをぎゅうっと踏み込み、自宅へ戻った。
自宅に戻るやいなや、カスミは履いてる靴を脱ぎ捨てパソコンを急いで起動させた。
そして烈火の早さで検索し、一つのホームページに辿り着いた。
「ゴーストネットＯＦＦ」
ここの掲示板は基本的に怪奇事件の報告であふれかえってるため、
「心霊スポット神聖都学園の見回り募集」
と書きこんで、エンターキーを押した。
ここでダメなら怪奇探偵で有名な草間興信所もリストに入れておこう。
カスミの書き込んだ次の日に、
「ボディガードの件 承りました。今夜８時、学園の屋上でお待ちしております……」
「やった！ これで夜も安心だわ」
そう喜んだカスミであった。
* * *
針は丸時計の午後８時を指した。
この時間に約束したはずだ。何故来ない。
ちなみに今、俺、ライオンのレオンだ。ご主人のアレーヌ・ルシフェルさまと
一緒に依頼人を待っている。しかし思ったよりすぐに来たようだ。
「すみません。少し遅れてしまっ……」
この女はは語尾を言い終える前に止めてしまった。
何か言いたいことでもあるのか？
「なんか……横に猛獣がいるんですけど……」
俺のどこが猛獣だと言うんだ？ 小さい頃から厳しくしつけられているというのに。
「紹介いたしますわ。彼の名前はレオン。よく言うことを聞いてくれるいい子ですの」
「そ、そうですか？」
「ガルル……（訳：俺を野放しのライオンと一緒にするな）」
「で、わたくしはアレーヌ・ルシフェルと申しますわ」
「私は響・カスミと申します。今日はよろしくお願いします」
階段を降りて夜直室で2人（と1匹）で今後の対策について話をしている。
退屈だ。
「まず、学園内の噂を聞かせていただけるかしら？」
「生徒がいっぱい吹き込んでくるんでいくつか知ってます。
まずは女子トイレに開かずの間があるんですが、
そこでいじめられて閉じ込められた霊がいること」
かわいそうな奴だ。弱く生まれた人間の寂しさだな。
それからも先生は何か思い出すように心霊スポットを言い出した。
「あとあの屋上も霊スポットだったんですよ。飛び降りた霊が出るとか。
それから音楽室、図書室、理科室、今は使われていない5階の教室。あぁキリないわ」
どんだけあるのだ先生よ。つまり学園自体が心霊スポットって覚えりゃいいか。
「残念ながらわたくしには霊能力はないんですの。
だけど悪霊退治ができる灼炎のレイピアを持ってきておりますわ。
それからあなたにはこれを持ってきましたの」
ご主人さまはコタツテーブルの上に御札や聖水などの魔除けグッズを見せる。
こういう気配りができるご主人さまはすばらしい。
「これはアンティークショップで購入したものですわ。
もし本当に悪霊が出ればあなたの命も危ないので、安心のために持っておいてください」
やがて恐怖の見回りが始まった。
「わたくしは一人で周りますから、先生はレオンと一緒に見まわってくださる？」
「レオンは何か霊能力とかあるんですか？」
「ありませんけど何か？」
「ガルルル……（訳；俺のことを馬鹿にするんじゃねぇ）」
「わ、わかったわ。ルシフェルさんの道具とレオンくんさえ信じていればいいのね」
* * *
先生と俺で二手に分かれて見回ることになったのだが……。
その間、この先生は好き放題言いやがった。俺が人間の言葉がわからないと思って、
「力の塊みたいな猛獣と散歩しても泥棒さんしか相手できませーん」
だって。そんな暴言を聞きながら階段を降りてると、
「ガルル……」
と低いうなり声を上げ、身体を震わせでしまった。何かの気配がする。
階段を降りきって廊下を眺めると白い影が2つ見えるぞ。
今時そんなお化けはいないだろう。ちょっとからかってやるか。
「ガオォォォー」
と幽霊もどきを威嚇した。
「げっ。なんでライオンが学校にいるの？」
「逃げろ！」
それを聞きだした生徒たちは逃げる。
俺はおもしろいので追いかけてみよう。
「ガオォォォーッ！（訳：さあ、もっと逃げろっ！逃げろっ！遅い奴は喰っちまうぞ♪）」
「俺こんなことで死にたくないよう」
すると別方向から来たお化けもどきを追っているご主人さまを見かけた。
そうだ！ここではさみうちだ！そうして3人のお化けが集まった。
「あなたたち、こんな夜遅くまで何か用事でもございましたの？」
すると1人の少年は、
「ごめんなさい！響先生を脅かして、失神した回数をかけてて……」
「そうですか。ところでもう1人幽霊の格好をした生徒いませんでした？
わたくしが追ってたのは2人、レオンが追ってたのも2人ですわよね、レオン」
「ガル（訳：その通り）」
「じゃあもう1人の子が行方不明じゃなくて？」
「おかしいなぁ。俺と坂下と中田の3人で脅かす計画練ってたんだ」
ということはそのうちの1人は……？
「俺は坂下と組んでたから」
「いや、坂下と組んでたのは俺だよ。途中で迷子になったって坂下が」
ぞくり。
本物さんが出たようだな。
その直後。
「きゃぁぁぁぁぁ！」
先生の声だ。
「今からいきますわよ！ レオン」
1人（と1匹）は声のする方へ一目散で走っていった。
* * *
先生は自分の教室で倒れて気絶していた。
「だからあの聖水とかお渡しになったのに、意味がありませんわ」
そうだ、そうだ。せっかくご主人さまが持ってきたのに。
「ここにはもういないみたいね。ついてきて、レオン」
ご主人さまのおもむくままに。
ご主人さまが行ったところは5階の教室だった。
「熱中症に気を付けてねって声かけただけなのに……」
何だ？この女生徒。半分透けてんぞ。
「あたしがここで勉強してた夏の日、エアコンがまだなかったの
水分もろくに取らずただ、ただ、暑さに耐えてたら死んじゃった」
そりゃそうだよなぁ。一番上の階でエアコンなしはひどいぜ。
「だから夜、見回り担当の先生にはいつも言うの『熱中症に気を付けて』ってね。
あ、昼は5階の教室に隠れてるけど」
どうやら悪い霊ではないようだ。
レオンがカスミを夜直室に運んだ直後、カスミが目をさました。
「何よーー。私を一人にしないでよぉ」
だから安全なところに運んでやっただろう。
「響先生。あとはわたくしにまかせてゆっくり寝ていてくださいませ。
ボディガードにレオンを置いてゆきますので」
ご主人さまはそう言って灼炎のレイピアを持ち、闇の中に消えていった。
おそらくご主人さまは一人で戦うつもりなんだ。俺がいるのに……。
あの灼炎のレイピアを持つ時はたいてい悪霊退治だ。そういう時
いつも俺は何もできない。悔しいんだ。
「ルシフェルさん大丈夫かしら？」
その一言にチャンスを感じた俺。なんとしてでもご主人さまを助けに行くぞ。
しかし俺には能力がないので、聖水と御札を俺が差し出して、
「ガルル（訳：これ持っていってくれ）」
と頼んだら通じたのか、魔除けグッズを持っていかせることに成功したぞ。
とはいえ、どこに行けばいるのかさっぱりわからないぜ。
少なくともバトルが行われているのは確かなので、1階から5階をダッシュして
何か感じたところに――先生が倒れたところにご主人さまがいるはず。
すると5階のトイレの前で先生が倒れてしまった。ここだな。聖水と御札をくわえて
中に入っていった。すると重力のゆがみを感じて気が変になりそうだぜ。
なんと口にくわえていた御札は勝手に悪霊のところまで飛んでいった。
少し効いてるようだ。
「レオン！」
そしてご主人さまに口にくわえた聖水を渡した。
「ありがとうございますわ、レオン」
持ってきてくれた聖水をかけると、女生徒の悪霊はぐわぁぁと言い、重力も元に戻った。
そこですかさずご主人さまがレイピアを突き刺す。
傷口から炎が上がり、その悪霊は燃え上って消えてしまった。
さすがご主人さま。すばらしいフェンシング技術であった。
そしてまた先生を俺が運ぶことになった。やれやれ。猛獣も楽じゃないぜ。
「レオン」
ご主人さまは請求書を差し出した。
「ガルガル（訳：高すぎるんじゃないか？）」
「いいんですわ。それなりのことをしたわけですし。
帰りに職員室の響さんのデスクに置いたら帰りましょう」
「ガウ（訳：うん）」
あの請求書を見てびっくりする先生の姿を是非見てみたいものだ。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【6940 ／ 百獣・レオン ／ 男性 ／ 8歳 ／ 猛獣使いのパートナー】
【6813 ／ アレーヌ・ルシフェル ／ 女性 ／ 17歳 ／ サーカスの団員／退魔剣士】
【NPC ／ 響・カスミ ／ 女性 ／ 27歳 ／ 音楽教師】
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■ ライター通信 ■
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初めまして。真咲翼です。初のご依頼ありがとうございます。
オープニングでレオンが出てくるまでは3人称で書き、
レオン出現以後はレオンの1人称で描きましたので、かなりレオンの私語が
入れてしまったので、同じ内容なのに少しイメージが違うかもしれません。
また何かあればよろしくお願いします。
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