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<WhiteChristmas・聖なる夜の物語>


  「オーロラ国のヨウル・プッキ」

「わぷっ」
 お城から飛び出し夢の世界に出発したエファナは、ソリごと何かに激突して地面に転がってしまう。
 ソリから投げ出され、ぼふっと雪の中にうずもれる。
「わ、ごめん。大丈夫?」
 背中にぶつかられた14歳の少年は、振り返るなり慌てて手を伸ばした。
「もぉ、なんでそんなとこにいるのよぅ!」
 その手を借りながらも、頬を膨らませて文句を言うエファナ。
「……サンタ?」
 真っ赤なサンタドレスに身を包んだ金髪碧眼の少女を、少年はまじまじと見返した。
「そうよ。まだ見習いだけどね。『人々が最も喜ぶプレゼント』が何なのか探しているところなの。あなた、何か知ってる?」
 エファナはエヘン、と胸を張って答える。
「僕もそれを探してるところなんだ。サンタ見習いのお嬢さん。この光景をどう思いますか?」
 少年はそういって、周囲をさっと見渡した。
 一面の雪景色。木々も雪化粧を施され、湖は固く凍り、空は雪の光を反射して青白く輝いている。
「――あたしたちの住んでるところと似てる……」
「本当? よかった。実はね、これサンタクロースの国と言われるフィンランドをモチーフにつくったものなんだ」
「つくったって……あなたが?」
「そう。あ、申し遅れました。僕は『夢屋の獏』こと、幻術使いの藤凪 一流でございます」
「あ、えぇと、エファナです。12歳」
 恭しくお辞儀をする一流に、頭を下げ返すエファナ。
「オーロラの国であるフィンランドの世界をベースに、クリスマスらしい夢を紡ごうと思ってたんだけど、サンタが来るとはちょうどいいや」
「あたしがつくりたいのは、夢じゃなくてプレゼントなんだけど」
「同じ同じ。人望むものっていうのがプレゼントの鉄則でしょ。喜んで欲しいのは一緒だから。と、いうことで。協力しよう。お互いに」
 人なつっこい笑みを浮かべる一流の手を、エファナは「仕方がないなぁ」とため息をつきながら握り返した。


「……寒くないですか? あやこさん」
 耳あてつきの帽子にマフラーなど、がっちり着込んだ一流は、膝上丈のスカートをひらひらさせるあやこに問いかける。
「平気よ。私、暑い方が苦手なの」
 白い息を弾ませながら、あやこはにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、早速イグルーつくりましょ♪ 私、いっぺんやってみたかったのよね〜」
 うきうきした様子で、雪原をさくさくと歩いてゆく。エファナと一流はその両脇に従った。
「今回は、どのようなツアーをお好みですか?」
「氷を積んで干草のベッドに寝転がって、甘酒を飲むの。かす汁でもいいな。それでオーロラを見て、次の日はソリで釣りに行くんだ。氷に穴あけてね、釣った魚でシチューを作るの。で、最後は氷をどーんと溶かしてジャグジーしよー♪」
「いいですねぇ、じゃあそれにフィンランドの本格クリスマス料理ってな感じでいきましょうか」
「わぁ、楽しみ!」
 手を叩いて喜ぶあやこは、まるで幼い少女のように無邪気だった。
「あ、あたし、何かプレゼントします。欲しいものってないですか? 何でもいいんです。何か、おっしゃってください」
 エファナは両手を握りしめ、必死になって懇願した。あやこは少し驚いたような様子で。
「欲しいもの? そうねぇ……あ、そうだ!」
 ぽん、と手を叩くあやこに、エファナは瞳を輝かせる。
「甘酒とかす汁用の酒粕ってないわよね。それもらえる?」
 しかしその返答に、ガクッと肩を落とした。
「あやこさん、あやこさん。そのくらいなら僕が用意致しますよ。もったいないですよ。そのコ、本物のサンタさん……の、見習いさんですから。もっといいものねだってあげてください」
「あら、そうなの。じゃあ……そうねぇ。ちょっと待って、考えておくわ」
「そうですね、まだまだ時間はありますから。じゃ、イグルー制作しちゃいましょうか。雪をブロックにする方が簡単ですけど、寝ながらオーロラが見えるように全面氷のがいいですよね。せっかくなんで、ちょっとだけ本格的にやっちゃいましょうか」
 一流が合図をすると、真っ白な雪の中にどん、どん、どん、といくつもの氷の塊が出現する。
「さすがに氷切るとこからはしんどいので、積み重ねるとこから行きましょう。ちょっと重いですけど、持ち上がります?」
 あやこは氷のブロックを細腕でぐっと持ち上げてみる。少しよたつくが、何とか大丈夫そうだ。
「こ、これをどこにおけばいいの?」
「あ。ちょっと待ってください。その前に、円形に地面を掘るんです。床の部分」
 出鼻をくじかれ、元の位置にブロックを落とすあやこ。早く言ってちょうだい、とばかりに頬を膨らませる。
「すみません、説明が遅れて。えーと、広さはお好きなように。部屋の数は居間と寝室2つでいいかな。それを通路でつないで……。こりゃ、ちょっと大変かも」
 独り言のようにそう言って、長いロープを投げ出し、3つの巨大な円の線を描く。
 そして、大きなスコップを三つ取り出した。
「もしかして、あたしも数に入ってる?」
 エファナが自分を指さして訪ねかけると。
「当たり前だろ。サンタ見習いなら、他人のための労働に骨を惜しまないの」
 と、厳しい言葉が返る。
 あやこは自らスコップを手に取り、早速円の内側を掘り出し始める。
「……意欲的ですねぇ。そういう作業、女性は嫌がるかと思いました」
 一流が言うと。
「どうして? 楽しいわよ。自分の手で何かをつくるなんて素敵じゃない」
 長い黒髪をかきあげ、あやこは微笑む。
「ですね。これは、負けてられないな」
 一流もスコップを片手に作業に入る。
「まずは、床を掘ります。全体を均等に……そうですね、80センチくらい掘っちゃいましょう」
「80センチ!?」
 あやことエファナは声をそろえた。
「はい。円形なんで、天井高くするより下掘る方が簡単なんです。あと、壁の内側に溝をつくると解けた氷がそこにたまるとか」
「大変そうね……。3つもつくれるかしら」
「大丈夫、1つだけちゃんとつくって後の2つはコピーしちゃうっていうのもアリですから」
 不安そうなあやこに、ウインクして見せる一流。
 そうして、3人で雪をかき出し始める。新雪らしく柔らかいが、中々の重労働だ。  気温は低いのに汗ばんでしまうくらいに。
 そんなこんなで何とか穴掘りを終わらせ、内側部分に階段を作成する。
 そしてようやく、氷を積み上げる作業に入る。
「氷と氷の間に雪を詰め込むのがコツですよ。で、1段目を並べ終わったら2段目は少しずらして置いていくんです」
「並べていくときって、入り口の部分はどうするの」
「後で掘るんで大丈夫ですよ」
「そこは日本のかまくらと同じなのね」
 内側には一番非力なエファナが入ってブロックを押さえたり大きくずれているのを直したりしてバランスをとっていく。
 身長が足りなくなってくると、その役目はあやこに変わった。
 内側から見て光の入ってくる隙間部分にどんどん雪を埋め込んでいった。
「ようし、最後だ。これはちょっと台をつかって、みんなで乗せましょう」
 そういって、ぽんと叩いたのは今までのブロックよりもずっと大きな塊だった。雪で隙間を埋めるとはいえ、さすがにてっぺん部分に小さなものを使うと崩れやすくなってしまうのだろう。
 それぞれが雪を台にして、巨大の氷を一番上に乗せる。
 誰からともなく、3人は拍手をする。
 それからチェインソーで氷に穴を開けて入り口をつくり、入り口の周囲にもブロックを重ねて、屋根と壁をつくる。そして空気穴の意味も込めた小窓もつくっておく。
「完成ですね。お疲れ様です。後の作業や準備はしておきますんで、あやこさんは先にお風呂でもどうぞ。本当はサウナの故郷といわれるフィンランドのサウナを用意したかったところですが、暑いのダメなんですよね」
「38度以上はもう無理!」
「一応、『氷溶かしてジャグジー』は明日のお楽しみにするということで……五右衛門風呂なんてどうですか。中々シュールですよ〜」
「えぇ、何で?」
「おもしろそうね」
 眉をひそめるエファナとは対照的に、あやこは興味を示す。
「よかった。かす汁に甘酒のあやこさんなら理解してくれると思ってました」
 言って、雪原にどかん、と鉄製のかまど型をした五右衛門風呂を作り出す。
 もちろん台座やはしごも用意してある。
「一応いい湯加減にはしてるけど、この気温じゃすぐに冷めちゃうんで温度調整よろしくね、エファナ。僕は中でベッドと料理の用意をしとくから」
「はぁい」
「お願いしまーす」
 あやこは中に入っていく一流を見送ると、服を脱いで水着姿になる。
「あ、なんだ。下に着てらっしゃったんですか。あたし、裸になっちゃうのかと思って少しびっくりしちゃいました」
 そういって、エファナは顔を赤くする。
「いつも着てるの。念のためね。それに、今回はジャグジーにも入るつもりだったし」
「ですよね。えっと、寒くないですか? お湯加減は?」
「大丈夫〜。うん、気持ちいいなぁ。労働の後のお風呂って。お風呂のなんて少々冷めてもいいから、エファナちゃんも入っちゃえば〜?」
「え……いいです。大丈夫です」
 縁の部分から顔を出して見下ろすあやこに、エファナは慌てて首を振る。
「そう? 残念ね」
「――あの、それであやこさん、プレゼントって……」
「キレイねぇ」
 蚊の鳴くような声でつぶやくエファナの声は届かず、あやこは星空をみあげてうーんと伸びをする。
 雪でおおわれた真っ白な木々の間にまん丸の大きな月が浮かんでいた。
 結局、プレゼントについては尋ねられないまま、あやこは服を着て風呂からあがる。
 いつの間にか、一つしかつくっていないイグルーは3部屋になり、それをつなぐ通路も完成した。そして、周囲には小さなかまくらが並び、ろうそくが灯されている。
「ロマンチックだわ」
 ぽつりともらして、あやこはイグルーの中に入っていく。
 すると、その中には大きなクリスマススリーと、とりどりの料理が並べられていた。
「わぁ。このツリー、本物のモミの木?」
「はい。本当は、森の中にみんなで探しに行こうかと思ったんですけど、イグルーづくりに意外と苦戦しちゃったもので。飾りつけも勝手にしちゃいました。まま、お二人とも、座って座って」
 勧められ、2人は腰をおろす。
 床には毛皮の絨毯が敷いてあり、風も入ってこないのでまるで寒くない。
 天井にはランプが吊り下げられ、地面には赤く大きなロウソクたちが並べてある。
「はい、コレ。まずはグロギ。レーズンとスライスアーモンドにワインとスパイス入れて温めたものです。子供用はワインの代わりにぶどうジュースね」
 二人に飲み物を渡し、並べられた料理を更にとりわけていく。
「にんじんとチーズのスープに、じゃがいもとひき肉のグラタン。サーモンサラダに厚切りローストハムと定番の七面鳥。牛乳で炊いたおかゆに、オーナメントにもしちゃったジンジャークッキーと星型プラムパイもございます。更にはクリスマスの定番ケーキ、ブッシュ・ド・ノエルも。ちょっとデザート系が多すぎですけど」
 それぞれ料理を指さし、一つずつ説明していく。
「すごいわ、どれもおいしそう」
「あ、それと甘酒にかす汁は別に用意しているんでご安心を」
「そんなに入るかしら」
「大丈夫ですよ、残った分は明日食べればいいんですから。じゃあ、乾杯しましょうか。ここはやっぱり、聖なる夜に」
 3人はかちんとグラスを合わせる。
「うん、おいしい」
「あったまる〜」
 グロギを口にした2人は、ほっとしたように声をあげる。
「けど、おもしろいなぁ。サンタ見習いのエファナよりあやこさんのが寒さに強いみたいですね」
「あたし、寒いなんて言ってないもん。全然平気よ」
 エファナは口を尖らせるが「別にいいんじゃないかな。雪国に住む人だって寒がりはいると思うけど」というあやこのフォローに笑顔になる。
 どうやら、本当に寒かったらしい。
「ちなみにこのおかゆは、どれかに一つだけアーモンドが入ってるんですよ。それが入っていた人は幸せになれるという。ドライフルーツのソースをかけてデザート感覚でいただいちゃってください」
 あらかた食事が終わると、一流が牛乳のおかゆを指さして説明する。
「細工は?」
「しませんよ。ですから僕やエファナがもらっても恨まないで下さいね」
 甘いおかゆを口に運び、グロギのおかわりを飲む。中々いい組み合わせだ。
「あ……あったぁ!」
 大声で叫んだのは、エファナだった。大喜びでアーモンドの入ったスプーンを掲げあげる。
「おめでとう」
 あやこは、手を叩いて微笑んでみせる。
「これ、あやこさんにあげます」
 しかしエファナはそのアーモンドをあやこに差し出す。
「え?」
「人を幸せにすることが、サンタにとっての幸せだから」
「……ありがとう」
 あやこは、素直にその気持ちを受け取った。
「うーん、美談だねぇ。ささ、まだまだクッキーとケーキもあるんで思う存分食べちゃってください」
 そうして、宴会は続く。
「今晩、オーロラは見えるかしら。お風呂に入ってるときは出てなかったみたいだけど」
「きっと見えますよ。あなたが望めばね」
 ランプを片手に寝室に向こうあやこに、一流はそういって床のロウソクを消していく。
「おやすみなさい。いい夜を」
 エファナは、あやこと同じ寝室なので一緒に通路を歩いていく。寝室は、やはり毛皮の絨毯が敷かれ、干草のベッドと毛布が用意されていた。
「うん、いい感じね」
 ランプを天井に吊るし、甘酒とかす汁の入った盆を脇に置いて背中からベッドに倒れこむ。
 寝室の天井は、居間のものより薄くつくられているようだった。おかげで空が中々キレイに映っている。
「あ……」
 青緑色の光のカーテンが夜空にゆらめいていた。紺碧の夜空をなでるように、ゆったりと。
「素敵」
 横になったまま、あやこはぽつりとつぶやいた。
 そして、横にあるかす汁を手に取り、ずずっとすする。
「うん、おいしーい。フィンランド料理もいいけど、やっぱりコレよね!」
 鮭に大根、じゃがいもと小松菜の入った具沢山のかす汁を手に、あやこは喜びの声をあげる。
 お腹一杯に食べたつもりだったけど、おいしいものはまだまだいける。
「そういえば、カスジルって何なんですか。白いスープ?」
「うーん、そんな感じかな。ちょっと飲んでみる? おいしいわよ〜。あったまるし」
 と、エファナに手渡してやる。
「ほわ……あったか〜い」
「ほらほら、甘酒も。これなら子供でも大丈夫だから」
「あ、こっちは甘い。おいしいですね〜。初めて食べました」
 エファナは白い頬を赤く染め、嬉しそうに微笑む。サンタの格好をしていても、そういうところはやはり子供らしい。
 そんな風にして、聖なる夜は更けていった。


 チーズにビートサラダ、ライ麦パンにニシンのマリネと、中々豪勢な朝食をとり、イグルーを出ると数頭のトナカイを連れた、大きなソリがあった。
「わぁ、トナカイ」
「ちなみに、フィンランドの郷土料理にはトナカイの肉を使ったものも多いみたいですが、今回はあえて避けさせてもらいました」
「……その方がいいと思うわ」
 そんな会話をしながらもソリに乗り込み、真っ白な雪原を滑るように走っていく。
 イグルーから遠ざかり、森の中を抜け、湖に向かって。
 湖の水は、完全に凍っていた。そこを歩いていって、手動のドリルを使って穴をあける。
「せっかくなんで、競争しましょうか。だれが一番たくさん連れるか、でもって誰が一番大きいのが釣れるか」
腰掛け椅子と釣竿、バケツに餌を3人分用意しながら提案する一流。
「いいわよ」
「負けないもん」
 それぞれに釣り糸を垂らし、待ち構える。
 最初にヒットしたのはあやこ、次に一流。しかし一流の獲物はかなり小さかったため、キャッチアンドリリース。また一流にかかるが、今度は逃げられる。
 エファナはその様子を見ながら、自分の釣竿を軽く揺らしてみる。
「あ、またかかった。ちょっとまって、今度は大きいかも……誰か、手伝って」
 あやこが叫ぶと、一流とエファナが一緒になって駆けつける。
 簡易の釣竿が大きく弓なりになり、糸切れないように慎重になりながら手繰り寄せる。
 勿論、それが一番大きな獲物だった。
 その後、エファナのところに連続してかかり、結局は大きな獲物一位があやこ、数ではエファナ、ということになった。
「はー、おもしろかったわねぇ。じゃあ、このお魚使ってシチュー作るわね」
「あやこさんが作ってくれるんですか?」
「うん。エファナちゃんも手伝ってね。あなたは……その辺ぶらぶらしてきていいわよ」
「ぶらぶらっスか……。了解です。では、材料になりそうなもの適当に用意しとくんで使ってください」
 一流は鍋にコンロ、まな板に包丁に、様々な食材を並べ出した。
 そしてスケート靴に履き替えると、スイスイと滑っていく。
「あ、スケートかぁ。それもいいなぁ。あとでやろうかしら」
 そんなことをつぶやきながら、適当に食材を選んでいく。
「……あの、あやこさん?」
「なぁに?」
「確か、シチューつくるって、おっしゃってませんでした?」
 それを見ていたエファナが、引きつった表情でそう尋ねる。
「勿論よ」
 あやこは、にっこりと微笑んで見せた。


「できたわよ〜」
 おたまをふって呼ぶあやこに、一流は飛ぶように帰ってくる。
「待ってました。もうお腹ぺこぺこです。……あれ、どうしたの? エファナ」
 上機嫌のあやことは対照的に、エファナの表情はどこか暗い。
「さぁ、食べましょう」
 あやこは大きな鍋いっぱいに作ったシチューを器によそって、スプーンをつけてそれぞれに差し出した。
「――あの、なんか、目玉っぽいの浮いてますけど」
「コラーゲンとDHAタップリなのよ♪」
「えっと、なんかこのシチュー、赤みがさしてますけど」
「うん。ちょっと隠し味を入れたから」
「そうなんですかぁ。あは、あははは」
 一流は乾いた笑いを浮かべてから、さっとエファナに目を向ける。エファナは目をそらし、小さく首を振った。
「お、おいしそうだなぁ。いただきましょうか」
「勿論。いっぱいあるから、たくさん食べてね♪ エファナちゃんもね」
「はぁ〜い」
 一流は半泣きになりながらも笑顔を浮かべ、エファナは無言のまま、こくこくとうなずく。
 幸い、すこぶるまずいということはなかったものの、随分とマニアックな上級者向けコースだった。


 食事が終わると、あやこの希望で腹ごなしにスケートをすることになった。
「あやこさん、滑れますか? そのスカートで転んだら悲惨ですよ〜」
「大丈夫よぉ。これでも運動神経はいい方なんだから」
「きゃあっ」
 ずべ、と転んだのは、あやこではなくエファナの方だった。
「……あのさ、君って確かサンタ見習い……」
「サンタはスケートなんてしないもん。できなくてもいいんだもん!」
 一流の言葉に半泣きになるエファナに、あやこが手を差し伸べて立ち上がらせてやる。
「でも、せっかくだからちょっと練習してみない? 教えてあげるわよ」
「本当ですか? うん……じゃあ、頑張ってみる」
 そんなやりとりの後、お約束というかなんというか、一流が釣り用にあけた穴の中に落っこちる、なんていう悲惨な事件も起こる。
 勿論すぐに助かったのだが、一流は「氷がね、分厚いんですよ……テンパちゃって、どこに穴があいてるかわかんないんですよ……」と、毛布にくるまってつぶやいていた。
 日が暮れ始めた頃、ようやく次のメニューであるジャグジーを開始する。
「じゃあじゃあ、ちょーっと待ってて下さいね〜。まずはこの方たちにどいてもらってぇ」
 巨大な水槽をでん、と用意すると、釣り用の穴から水槽まで水のアーチを描き、その流れに乗せて魚たちを移動させていく。
「雪の中じゃ解けちゃうんで、この湖をそのまま利用します。よーし、移住完了だな。はいはい、危険なんで湖から離れてください。いいですか、いきますよ〜」
 ぼっ。
 いきなり、湖の氷に火がついて高らかに燃え出した。
 巨大なキャンプファイヤーのようで、周囲の気温が一気にあがる。
 そうして氷が溶けきる頃には、どう熱せられたのか湖の底まで温かくなっていた。
「……こんな巨大な天然浴場は初めてよ」
「あはは、温泉じゃないですけどね〜。まま、どうぞどうぞ。エファナも一緒に入っちゃいなよ。僕はまた、ぶらぶらしてくるから」
「え、でも……」
「まだプレゼントあげてないんでしょ? 2人でゆっくり話しなよ」
 湖の傍にすのことタオルを用意して、一流はその場から退出する。
「別に、一緒に入ればいいのにねぇ。水着なんだから」
 あやこはさっそく水着になり、中に入っている。中心部は少し深いようだが、それ以外は比較的浅く平坦なのでお風呂としてはちょうどいい。
「あ……でもあたし、水着は……」
「あ、そうかぁ。じゃあタオル巻いてでもいいんじゃない? 女だけなんだし、気にしなくても」
 あやこに促され、エファナもそれに従う。
「わぁ、気持ちいい」
「でしょ〜。んー、これでもう一度オーロラが見れたら最高なんだけど、時間的にまだ早いかなぁ」
「……オーロラ、見たいですか?」
「そうね。やっぱり氷越しなんかじゃなくて直に見てみたいかも」
「じゃ、じゃあ。それプレゼントっていうのでどうでしょう?」
「えーでも……私もうすでにもらったしなぁ」
 エファナの提案に、あやこはうーん、と考え込む。
「え?」
「幸せのアーモンド」
 言われて、エファナは一瞬きょとんとして、それから嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあこれは、その幸せの一つとして受け取ってください」
 エファナが言って、両手を広げるとキラキラとした光のカケラが空に集まっていく。
 紺碧に染まった空に、今度は赤色の光が舞う。
「わぁ……前と色が違うのね。形も、今度のは少し塊っぽい」
「オーロラって、時間や気温で色や形が変化するみたいですよ。だから、空のみんなに今の気分でオーロラをつくってもらったんです」
「今の気分で、かぁ。すごいわね。……ありがとう。素敵なクリスマスプレゼントだわ」


 そんな風に、1泊2日の旅行は終わり。
 見事に任務を果たしたエファナは、あやこに感謝をしながらお城に帰るのだった。
 来年は、子供たちのために夢いっぱいのプレゼントを用意しようと心に誓って。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:7061 / PC名:藤田 あやこ/ 性別:女性 / 年齢:24歳 / 職業:IO2オカルティックサイエンティスト】

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■         ライター通信          ■
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 藤田 あやこ様

いつもお世話になっております。ライターの青谷 圭です。『聖なる夜の物語』へのご参加どうもありがとうございます。
今回は温泉と北欧体験の観光旅行仕立てで作成いたしましたが、相変らずの長文で申し訳ございません。
三人で遊びながら軽くエファナちゃんとの交流も入れさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
蛇足となりますが、本編では触れていないヨウル・プッキというのはフィンランド語でサンタクロースという意味です。 

ご意見、ご感想などございましたら遠慮なくお申し出下さい。