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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三下くん、アルバイトと勝負!
 冬がやってきた。ちらちらと粉雪が舞い散って、冬の訪れを感じさせる。
 しかしアトラス編集部にとっても、この季節は冬そのものだった。

「雪山に存在する雪男ぉ〜?」

そう言いながら、碇・麗香(いかり・れいか)は、三下・忠雄(みのした・ただお)
の原稿をチェックしていた。

「ちゃんと取材したの?」
「はい。あのゴーストネットOFFの管理人、オカルトに詳しい瀬名雫さんに聞きました」
「馬鹿ねぇ。こういう時の取材っていうのは、冬山に山ごもりしてするもんなのよ!」
「じゃあ今から山ごもりしてきます!」
「遅い!」

 麗香は胸ポケットからタバコを取り出し、ジッポーライターで火をつけた。
煙を肺まで送り込み、ふーっと遠い目をしながら煙は流れて消えた。

「……もうあなたには辞めてもらおうかしら?」

三下の頭がピストルで貫かれたような気分になった。

「へっぽこなりに危ない取材はがんばったかも……でも、もういいかな」
「そ、そんなこと言わないでくださいよ〜〜校正とか雑誌のまとめ部分は僕が……」
「うるさい! もっとセンセーショナルな記事を書かないと、この編集部ごと潰れるのよ」
「じゃあどうするんですか〜〜?」

タバコを途中で灰皿にぐりぐり押しつけてから、ある計画を言い放った。

「アルバイトを数人、雇うことにするわ。テストも行って」
「テスト?」
「ある危険な工事現場に心霊現象が起きると言われているわ。とっても危険な場所ね。
 そこにあなたとアルバイト志望の人と行ってもらう。見事な記事を書けた方が採用ね」
「で、ボクが負けたらどうなるんですか??」
「解雇」

解雇……解雇……解雇……。

その文字が三下の頭の中をめぐった。


次の日、三下が着いた時には「アルバイト募集。優秀者は正社員へ昇格可」
と書いた紙がドアに張り付けてあった。

「すごいわ。かなりの人間が応募してきてるから、書類選考が必要なくらいよ」

麗香は誰を選ぼうか、厳しい目つきでみていた。
でも応募が多いのは当たり前だ。バイトであれ、狭き門の編集部に入りたい
人は後を絶たない。中には人脈作って退社し、フリーライターになるのも多い。

三下は仕事を早めに切り上げ、

「ちょっとぉ、明日はちゃんと来てね。ただし今日早いから徹夜になるけど」

と麗香さまに言われ、駅に続く繁華でを肩を落としながら歩いていた。

「あ、ドラッグストアに行かなきゃ。シャンプー切らしてたんだ」

と店内に入っていった。
 最近のドラッグストアは何でも置いてるので、
朝軽く食べられるプロテインも売ってるし、ペットボトルのお茶も買える。
そういったものをぽいぽいカゴに入れていると、ふと誰かにぶつかった。
三下の性格上、怖がりなため、「すみません!」と言うのだが、
ぶつかったことさえ気にならないほど上の空だった。

「あなた、一言くらいあやまってはいかが?」

ぶつかったのは女性だった。女性は怒り心頭、強気の態度である。
銀色の髪と赤い瞳の組み合わせが光り、
ミリタリーファッションにビジュアル系を合わせた服を着ているため、
そこらへんの気の強い女かと思われたが……。

「なんだ。三下じゃない。あなたどうしたの? ゾンビのようにげっそりしてるよ」
「そうなんすよ……」
「とりあえず話くらい聞くから。モックにでも行こう」

 声をかけたのは、小学校からの幼馴染である黒崎・吉良乃(くろさき・きらの)であり、
モックというのはわりと遅い時間までやってるファーストフード店である。
三下はコーヒーのみ、吉良乃はモックバーガーセット、サラダバージョンを頼んだ。

そこで一通りの話を聞いた。

「あなた、頑張ってたのね。危険な現場を何度もくぐり抜けて。えらいわ」
「でも肝心の記事が書けなければね」
「今から家で添削しに行こうか。行こう」

途中で吉良乃は、
「私に手を出したらタダじゃすまないから」
「僕にそんな勇気ありませんよ」
 
 さぁいざ三下のアパートへ。

原稿をいくつか見たが、吉良乃は2つの点が微妙に欠けてると判断した。

「無難といえば無難。無難すぎて面白見がない」

ぐさっ。
三下の胸に心のナイフが刺さった。

「あとこういう雑誌は取材が大事なんだよね。その取材経験を生かし切ってない」

ぐさぐさっ。

「とりあえず新聞などをしっかり読んで、レベルアップしなきゃ」

そこで三下は無言になった。

「まさか新聞読んでないの?」

三下はこくりとうなづいた。
吉良乃はそれ以上口を動かすことをやめた。

* * *

 麗香は何人か一次選考を突破したものにペアになってもらい、
幽霊が出る建設中止になった工事現場を取材してもらって、
より良い記事を書いた人を正社員にする予定だ。
もちろん適任者がいなければ、正社員のいないバイトばかりの編集部になる。

「ラストは三下くんと白井さんね」

 白井は能力を買われてアルバイトで雑用をしていた人だ。
長い黒髪に目には茶色のカラコンを入れてる人だが、
三下は嫌われてるらしく、あまり声をかけてくれない。

 2人はまず、工事現場を観察した。
なにかの事務所でも作るかのような建物。
そして夜は不用心に誰でも中に入れるようになっている。

 工事中とはいえ、骨組は出来上がっているので、安全に観察できる。
2階から3階の間に血文字が壁いっぱいに書かれてた。

「Discover to him」

「『彼をみつけて』か」

 三下は重要なメッセージをメモしてそう言った。
しかし、白井は三下の行動を何気なく見ていただけだった。
 三下はそこらへんを探しまくった。しかし何もみつからないのか
自分に霊感がないから見えないのか。

「お願いだから出てきてくれよーー!」

と叫ぶと、白井は初めてしゃべった。

「屋上」

 そこで工事現場に転がっていた長いハシゴを麗香と白井が支え、三下は屋上へ行った。
 すると少女の霊がいることに気がついた。半透明の身体、足の方にいくと
更に薄くなっていて、まさしく幽霊だった。

「『Discover to him』って書いたのキミでしょ?」
「うん」
「あれはどういう意味なんだい?」
「あれは……お兄ちゃんのことを探して欲しくて書いたの」

 少女は三下を案内して地上に戻り、コンクリートの塊の場所に行った。
「ここにお兄ちゃんがいるの」
「えぇえ!」

すると麗香は、
「これは霊現象じゃないから警察に回しましょう」

「お兄ちゃん、あれから悪霊になって殺した連中を全部殺してどこかに行っちゃった。
きっとずっと成仏できないんだろうな。お兄ちゃんが傷つけた人の中に、怖い人と
つながりのある人がいて、あたしの家全部焼かれちゃった。そこであたしも死んだ」

まさに負の連鎖である。

「そこでお願いがあるの。あたしたちの記録を本にして」

三下は二つ返事で、
「うんうん、わかった。必ずいい記事書くよ」

すると少女はすぅっと消えていって星空へ上がっていった。

* * *

 舞台は再びアトラス編集部へと戻る。

「じゃあ正社員になるべく記事を書いた人物を発表するわ」

緊張の瞬間である。

「三下・忠雄。文章力だけなら上はいるが、細かく調べ上げた取材能力を評価します」

他の候補者からは拍手が送られた。

三下はへろへろと肩の力が抜けるように疲れが出てしまった。

「これからも働いてもらうんだから、へろへろしてないでシャキっとしなさい」
「そうですね。これからも働かせていただくわけだし」

 しかし三下はあることに気づいた。

「あの……白井さんが見当たらないんですけど」
「ああ、彼女なら棄権したわよ」

一体何者なんだろう?

 応援してくれた吉良乃に喜びを伝えたくて、吉良乃の事務所まで
馬が地面を蹴るような駆け足でやってきた。

「どうした? 三下くん。とうとうクビになったのかしら?」
「逆だよ! 無事正社員でいれたよ。それを報告したくて」

三下の目には嬉し涙が浮かんでいる。

「よかったね」
「もっとオーバーに喜んでくれよぉ」
「はいはい」

 (喜べないわよ。編集部にこっそり潜入する際、髪の毛は黒に染めて、
エクステで長髪にして、オレンジのカラコン入れて、声は気づかれないように
低音でしゃべってたら、全然気づいてくれないんだもの。白井=私だってこと)

 吉良乃は屋上に幽霊がいるのわかったから、三下が下りてきたら聞くこと聞いて
最後に除霊るつもりだった。その霊を自らの心の会話で成仏させた三下は
ただの落ちこぼれじゃないんだなと、ちょっと見直した。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7293 / 黒崎・吉良乃 / 女性 / 23歳 / 暗殺者】

【NPC / 碇・麗香 / 女性 / 28歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長】
【NPC / 三下・忠雄 / 男性 / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員】

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■         ライター通信          ■
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初めまして。真咲翼と申します。
せっかく発注してくださったのに吉良乃ちゃんがどうしても脇役になってしまって、
さんした君が主人公になってしまったようです。
でも吉良乃ちゃんはさんした君を影で支えた功労者であり、
彼女がいなければ正社員に戻れなかっただろうなと思います。
吉良乃ちゃんに言われるまで「屋上」を思いつかなかった可能性ありますしね。
ご依頼ありがとうございます。