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プレホワイト
●プレ・ホワイト
ひらり ひら ひら
クリスマス色に染まる街に、新たに白が舞い落ちる。
ひらり ひらり
ホワイトクリスマス…ではなく、その前触れ。
ひら ひらり
雪の白ではない。
ひらり
アルバイト募集の、白いチラシ。
たくさんの、量産されたそれが、街中に散らばっていく。
「どんな人が来てくれるかなっ?」
空の上から街を見下ろしていたのは、サンタの少女。
夢の世界から飛び出した彼女は、まだ見ぬ同行者を待つため、自ら指定した場所へと向かうのだった。
●それぞれの理由 〜吉良乃〜
街中がクリスマスにわきたち、人々がいつもより気を抜いて、ただ年末のイベントを楽しんでいる、その中。
黒崎・吉良乃(くろさき・きらの)は一人共もつれず、ただ義務的であるかのように家路へとついていた。少し俯きがちな様子からは、その表情は読み取れない。
それもそのはず、吉良乃はたったいま少し前まで、暖かい部屋での仕事をしていたのだ。
手が赤く染めあがるようなミスをしたわけでは、ない。ただ寒いのだと、心持ち肩をすくませるようにして、両手をポケットにしまいこみ歩く姿からはやはり、彼女の本来の仕事は読み取れないのが普通なのかもしれない。
クシャリ
急ぎすぎない速度で歩いていた吉良乃の足が、そのときはじめてとまった。何かが潰れたような音だ。
それほどたくさんの人に踏まれていたわけではなく、まだ紙と分かるそれ。真新しいブーツの足跡の他にも少し足跡がついてはいるが、読めないというほどではない。
何の変哲もない、味気ない文字だけのチラシ。
「………ぷっ」
思わず噴出したのも無理は無いだろう。その内容は、普通とは違う、まさに夢とよぶべきことだったのだから。
(雪降らし…ね。ご尊顔、拝見するとしますか)
●サンタクロースは見習い娘
「今日はみんな、集まってくれてありがとーっ♪」
集まった三人に向かいぺこり、とお辞儀をしたのはサンタ服の少女、エファナだ。
「よかったぁ、人が集まってくれるか分からなかったから、とりあえずは6人乗りの橇を用意しておいたんだけど…全員乗れそうだねっ」
にこにこと続けたと思えば、すぐにはっと慌てた様子になり手をばたばたと動かす。
「いっけない、自己紹介がまだだったよね、あたしはサンタのエファナ! まだ見習いだけど、今年のクリスマス次第では本物のサンタに昇格する…予定っ! お姉さん達は、何て呼ばせてもらえばいいのかなっ?」
「藤田・あやこよっ、エファナちゃん、いざ尋常にミニスカで勝負、勝負〜っ!」
びしぃっ! と人差し指をエファナに突きつけたあやこの風体は、自分でも言っているとおりにミニスカート。シンプルなエファナの衣装よりもリボンやレースが多かったりして、かなりフリフリ。ポーズを決めた時にちらりと見えた下着の柄も、トナカイだったようである。
「ミオは式野・未織って言います…良かったらミオって呼んでください」
遅ればせに答えた、白で統一した衣装が眩しいのは未織。彼女もスカートではあるがミニではない。雪が降ったら、彼女の姿はとてもよく雪景色に映えるだろう。
よく見ると、三人の中で一番荷物が多いようだが…その理由はきっと後ほど明かされる。
「…黒崎・吉良乃、呼び方は任せるわ」
サンタは老人であるべしと思っていた吉良乃は、エファナの登場に少なからず驚いていたようで自己紹介が最後になった。彼女は他の面子と違いスカートではなくズボン着用だ。今はあやこの勢いに圧倒されているが、まだ彼女はエファナがサンタであることを信じ切れていないようだった。声の調子が、低い。
「あやこおねーさんに、ミオおねーさんに、吉良乃おねーさんだねっ、それじゃ、今日はよろしくお願いしまっす♪」
●未経験者歓迎♪
「細かい作業って、実際はどんなことなんですか…?」
顔の横に小さく手を挙げて、質問をしたのは未織だ。さっそく仕事の質問に入るあたり、真面目な方なのだろう。
(どうして雪の精さん達が眠ってしまったのかも気になりますが、雪を降らせるお仕事をするほうが先ですね!)
そんな、実際に言ったら体調が危険になるようなことを考えてはいたようだが、実際は他の誰にも気づかれていない。
「それは、『雪のモト』を…実際に見てもらったほうが早いよね、雪の精さん達、トナカイさん呼んできてっお願いっ!」
エファナが虚空に呼びかけると、はぁーいっ! と何かの声がいくつか重なり、更にしばらくして聞こえる物音。
しゃんしゃんしゃん…しゃんしゃんしゃん…
トナカイの橇に付き物とも言われている、鈴の音だ。勿論、空から。
「きゃ〜、待ってたの待ってたのよこれを〜♪」
「………っ!!!」
空飛ぶ橇とそれを引くトナカイ、トナカイの上空でどうやらトナカイに指示を出して居るらしい、白く光るいくつかの球体は多分雪の精。
あやこはとにかく黄色い声を上げてはりきり、二回同じ言葉を繰り返したことにも気づいていない。更には衣装にも無いのに袖を捲り上げる仕草。彼女は寒さにめっぽう強いためか、なんと素肌をおしげなく晒していたりするのである!
吉良乃はエファナを疑っていたこともあり、それこそエファナが虚空に呼びかける瞬間も無駄なことを…等と考えていたようだったのではあるが。エファナが御者席に颯爽と飛び乗りトナカイの手綱を引いて、橇を自在に操り皆の目の前に見事着地させたときは、エファナをみる目は優しかった。つまり彼女をサンタとして認めたということである。
「ここに袋入りの『雪のモト』と、袋に入れる前の『雪のモト』があるんだよ。基本的には袋入りになって居る細かいのを空から撒けばいいんだけど…ちょっと人手が足りなくて、大きい分から細かく砕いて、ばら撒く分も増やさないといけないってことなんだ」
エファナが指差し、実際に中身を見せながら説明していく。
未織はそれを丁寧にメモに取り、砕く道具も見せてもらったりしている。
横に居た吉良乃はメモこそ取っていないが、さりげなくエファナと未織の会話を補助する等気を配って居るようだ。そこは年上のお姉さんといったところか。
ところであやこだが、エファナの説明を尻目に、雪の精のほうに話しかけていた。サンタであるエファナを通してしか上手く会話をできないはずの彼らだが、語学堪能で精霊の会話にも通じているあやこにはその心配も無用であるようだ。
●いざ空の旅へ!
ひとまずの説明を終えたところで、一行は橇の座席に座った。
「おねーさんたち、最初だけちょっと捕まっててね?」
少しだけ勢いが必要だから、そう言われて三人はめいめい、思うところにつかまり態勢を整える。
「それじゃ、いっくよ〜!」
ビュウンッ!!!
エファナの掛け声の後に続いたのは強い風の音。
寒くも無く、強くもないように感じたのはきっと、それだけ不思議な力が働いたせいなのか、ただ信じがたい出来事過ぎて認識ができなかっただけなのか…わからないまま、三人がいつのまにか閉じてしまっていた目を開けるとそこは満天の星空の下。
橇の端からそっと見下ろせば、先ほどいたはずの大きなイルミネーションで飾られたツリーのある広場と思われる場所が、どこかも特定できないほど。
見えるのは、クリスマスのイルミネーションの光だけ。
「空の星空と、地の星空…どちらも綺麗ですね…」
そう未織が零せば、吉良乃がそっと頷く。
(地平線も見分けがつかなくなって…いうなれば星だけの世界)
我ながら乙女な表現だと思い、声には出さなかったが。
吉良乃が思ったとおり星とイルミネーション、色の多さや輝きの感覚に際はいくらかあるものの…雲もない空に居る一行を中心に、全てが光で構成されているかのようだった。
●格別な時間 〜吉良乃〜
仕事も終わり、橇に最後まで残っていたのは吉良乃。彼女が報酬に所望したのは、エファナと二人での夜空の散歩だったのだ。
雪はだいぶ小降りになっていたが、橇は雪雲の下を飛んでいたから、時折吉良乃の頬や紙にも舞い降りて、すぐに消えていく。
「…ねえ、募集のチラシ、もし余っていたら一枚、もらえるかしら」
記念にしたいと申し出れば、少しだけ首を傾げつつも、エファナが懐から出した真新しいチラシを吉良乃に手渡す。
「ありがとう。 …素敵なプレゼントをありがとう」
はじめはチラシへのお礼。少しだけためらった後、小さく続けたのはまた感謝の言葉。
「えぇと…チラシがプレゼント、じゃないよね?」
さらに首をかしげつつ意味を問うエファナ。だが、吉良乃は笑って答えなかった。
(形のないプレゼントも、あるってことよね)
いつもの吉良乃ならば気にもかけなかったであろう、そのチラシ。彼女がそれに興味を持った事も、クリスマスという夜が起こした、一つの魔法だったかもしれない。
●ホワイトクリスマス
ひらり
はじめのひとひらを見つけたのは、誰だっただろう?
ひら ひらり
舞い落ちるそれは、時を追うごとに数を増し。
ひらり ひらり
イルミネーションの光に優しく照らされ、舞い落ちる。
ひらり ひら ひら
静かに、街に積もっていく…
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7061 / 藤田・あやこ (ふじた・あやこ) / 女性 / 24歳 / IO2オカルティックサイエンティスト】
【7293 / 黒崎・吉良乃 (くろさき・きらの) / 女性 / 23歳 / 暗殺者】
【7321 / 式野・未織 (しきの・みおり) / 女性 / 15歳 / 高校生】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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メリークリスマス♪ 桐島めのうです。
予定納期より遅れてしまい、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
遅れた分、よりよいものに近づけた、よりお口に合う仕上がりになっていれば幸いです。
今回のご参加、本当にありがとうございました!
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