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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ロスト・ボイス(前編)

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OPENING

”喉が痛い”
零が、そう言い出したのは、五日ほど前のこと。
本格的に寒くなってきたし、
興信所を改装してから、毎日何かと忙しい為、
風邪を引いたのかもしれないと思っていた。
けれど、喉の痛みは激しくなる一方で。
医者に診てもらっても、薬を飲んでも一向に良くならない。
毎日具合の悪そうな零を武彦は心配し、
慣れない家事をやったり、食事を作ったりして、
極力、零に負担をかけまいと努力した。

一日の大半をベッドで過ごす。
それが何日も続き、気分最悪の零。
そんなある日、事態が深刻と化す。

ロスト・ボイス。
零の、声が出ない ――…

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ベッドで眠る零を撫でながら、涙目のシュライン。
(代われるものなら、代わってあげたい…)
零が声を失って、およそ二時間が経過した。
出来うる限りのことはした。尽くしたつもりだ。
喉を暖めてみたり、逆に冷やしてみたり。
喉飴を舐めさせてみたり、もちろん薬だって。
けれど、一向に良くなる気配はない。
声が出ないだけならまだしも、
時折凄く苦しそうに呼吸をする姿が、見るに耐えない。
自分に出来ることは、ほかに何かないか。
少しでも、痛みを苦痛を和らげる方法はないか。
シュラインは、昨晩から一睡もせず、零に付きっ切りだ。
「はぁ…参ったな…」
リビングで煙草を吸い、零の部屋に戻ってきた武彦が溜息を漏らす。
まさに原因不明。手の施しようがない状態に、武彦もお手上げだ。
「何だか…思い出しちゃうな」
ポツリとシュラインが呟く。
「何をだ?」
「妖魔に憑かれていた時のこと」
「あぁ…って、あ」
シュラインの言葉で、何かに気付く武彦。
「そういや、あったよな。そんなこと。もしかすると…」
ゴソゴソと棚を漁りだす武彦。
そして、棚から白い呪符を取り出すと、それをシュラインに渡した。
「なるほどね…」
シュラインは、呪符を受け取り、それを零の喉に宛がう。
零は呪符を収集するという、少し変わった趣味を持っている。
白い呪符には”癒”の文字。浄化作用があるとされている。
そもそも、零は、普通の風邪にかかる体質じゃない。
ということは、何らかの”妖”の所為で、体に異変が生じている、と考えることができる。
寧ろ、そういった存在を寄せ付けやすい体でもある為、
そう考えるのが妥当でもあった。
突然の異変と事態の悪化に囚われ、見落としていた事実だった。
呪符を喉に宛がった途端、
それまで苦しそうに呼吸をしていたのに、少し和らいだ…かのように見える。
シュラインは懐を漁り、
先日、アンティークショップ・レンで手に入れた聖水を取り出すと、
それを呪符に少し垂らしてみた。
効果は、すぐに目に見える。
スゥスゥと寝息をたてる様は、いつもと何ら変わりないものだ。
「…もっと、早く気付いてあげるべきだったね」
申し訳なさそうな表情で、零の頭を優しく撫でるシュライン。
けれど、完治したというわけではない。
零の喉の腫れは、ひかないままだ。
「そういうことなら、あいつに話してみるしかねぇな」
症状の和らいだ様を確認した武彦は、
そう言って携帯を取り出し、どこかへ電波を飛ばした。
「あぁ、俺だ。今、ちょっといいか?実はな…」
繋がった誰かと話しながら、一旦部屋の外へ出て行く武彦。
シュラインは、誰と話しているのかと気にしつつ、零の喉を撫でている。

『喉の腫れは、どんな具合?』
「喉仏みたいな感じだな。少しずつデカくなってる気もする」
『色は?』
「赤い」
『体に似たような腫れはないかしら?』
「今のところは、見当たらないな」
『おそらく吸妖ね。すぐに来て。すぐによ』
「おぅ。わかった」
ピッ―
携帯を閉じ、懐にしまうと、武彦はフゥと息を吐いて、
壁にかかっていた車のキーを手に取る。
武彦が話していたのは、とある学者で。
古くからの付き合いだ。
彼女は、魔術や妖、妖術に感じて研究・追求している。
「シュライン。出かけるぞ」
電話を終え、部屋に戻ってきた武彦が言った。
「どこに?」
立ち上がりつつシュラインが問うと、
武彦は車のキーをチャリ、と鳴らして返す。
「学者んとこ。多分、すぐ治る。急げばな」
「本当に?わかったわ。でも、ちょっと待って」
ホッとした表情を浮かべ、シュラインはパタパタとリビングへ向かうと、
事務所電話の子機を持って再び部屋へ戻ってきた。
「何かあったら、教えて」
そう言いつつシュラインは、子機をコツンと叩く。
すると、子機からニュッと電気を纏った毛玉が飛び出し、言った。
『おぅ。任せな!』
興信所の電話に憑き棲む害なき妖、電鬼だ。
零のすぐ傍には、影猫エクと光虎タシも居る。
家を離れる間、不安で仕方ないと思うけれど、
彼等が傍にいれば、少しは安心できるはず、
そう思ったゆえの、シュラインの気配りだった。
「すぐ戻るからね」
そう言い零の頭を撫で、シュラインは武彦と共に学者の元へ向かう。




「吸妖…?」
初めて聞く言葉に、首を傾げるシュライン。
武彦はハンドルを切りながら、コクリと頷き説明した。
「空気中に潜む妖を吸い込んじまうことで発症する病気だ」
「空気中に?でも、私達は平気よ?」
「成人には無害なんだ。子供…特に十五前後の喉を好む」
「常時潜んでるの?その妖って」
「まぁな。でも、発症は時期的に。インフルエンザみたいなもんだ」
「へぇ…詳しいのね」
「昔、あいつに聞かされたことを、そのまんま言ってるだけさ」
武彦がシュラインの質問に答えたとおり、
零の喉を蝕んでいるのは、妖の仕業らしい。
真冬、十二月から二月の間、空気中に潜む”奴等”は突然牙を剥く。
冷たい空気が、奴等の悪の部分を刺激してしまうらしい。
学者いわく、とあるものを飲ませることで治癒するらしいが…。
首都高を走る車の中、シュラインは流れる景色に物思う。
(待っててね。すぐに、治してあげるから…)

(後編に続く)

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。続きは、後編で。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2007.12.25 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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