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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ロスト・ボイス(前編)

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OPENING

”喉が痛い”
零が、そう言い出したのは、五日ほど前のこと。
本格的に寒くなってきたし、
興信所を改装してから、毎日何かと忙しい為、
風邪を引いたのかもしれないと思っていた。
けれど、喉の痛みは激しくなる一方で。
医者に診てもらっても、薬を飲んでも一向に良くならない。
毎日具合の悪そうな零を武彦は心配し、
慣れない家事をやったり、食事を作ったりして、
極力、零に負担をかけまいと努力した。

一日の大半をベッドで過ごす。
それが何日も続き、気分最悪の零。
そんなある日、事態が深刻と化す。

ロスト・ボイス。
零の、声が出ない ――…

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「よっ…と」
軽々と零を抱き上げ、自室へと運ぶ隼人。
苦しそうな表情で見上げる零に、隼人は、優しい笑顔を向ける。
隼人の目をジッと見つめながら、何かを伝えようと必死な零。
声は聞こえずとも、口の動きで、何となく理解る。
”ごめんなさい”
零が伝えたいのは、それだ。
隼人はニッと笑って言った。
「気にすんなって」
退屈凌ぎにフラリと寄った草間興信所。
改装したとか何とか、都内で噂になっていたから、
ちょっと見に行ってみるかという軽々しい気持ちで隼人は興信所を訪れた。
ところが来てみれば、緊急事態。
何でも、数日前から零の調子が悪いという。
風邪でも引いたのか、最近冷え込むからなぁ…などと思っていた隼人だったが、
武彦に事の真相を聞いて、そうではないと知る。
「妖の吸引…ねぇ」
頭をガシガシと掻きながら言う隼人。
武彦は、車のキーを探しながら返した。
「多分だけどな。もう、そうとしか考えらんねー」
零が倒れてしまった今、興信所はもう…ぐちゃぐちゃだ。
如何に、普段、零が所内の清掃に気を配っているかが、
頻繁に来ない隼人にも理解る。
隼人は、ファイルの下に隠れていたキーを手に取り、
それを武彦に投げ渡して、不愉快そうに言った。
「遅ぇんだよ、お前さんは」
「あぁ。悪ぃ。散らかってて、どこに置いたかわかんなくてよ」
「違ぇよ。そうじゃなくて、対応がだ」
「…対応?」
「そうだ。お前さんに聞く。ここは、どこだ?」
「…は?草間…興信所だけど」
「そうだな。で、お前さんの異名は?」
「…怪奇…探偵、だな」
「だろ?真っ先に、妖の仕業だと疑っても良かったんじゃねぇのか」
「そうかもしれないが、症状がな」
「病院連れてって原因不明って言われたら、すぐ気付けよ。ド阿呆が」
次々と武彦に投げつけられる辛辣な言葉。
だが、決して武彦をけなし罵倒しているわけではない。
冷静になれば、もっと早く原因がわかったんじゃないのか、
零を苦しめずに済んだんじゃないのか。
隼人は、そう言いたいのだ。
それを理解している武彦は、頬を掻きながら苦笑して言った。
「お前は優しいよなぁ。見かけによらず」
「うるせぇよ。おら、とっとと行くぞ」

零が喉の不調を訴えだしたのは、五日前。
掃除をしながら咳き込む姿を見ていた武彦は、
風邪でもひいたか…?珍しいな、などと思っていた。
薬局で薬を買って飲ませてみたりしたが、不調の訴えは止まらず。
医者に診てもらった方が確実だなと思い、病院にも連れて行った。
けれど、零の不調は止まらず、寧ろ悪化していく。
そして遂に、昨晩から声を発することが出来なくなってしまった。
薬も効かない、医者もお手上げ、八方塞で打つ手なし。
仕事を一旦休め、看病に徹した武彦だったが、どうすればいいかわからない。
みるみる汚れていく所内に、零のありがたみを実感したりもした。
そんな中、判断力が著しく低下していたのだろう。
困惑・パニック状態といったほうが正しいかもしれない。
ただ右往左往するばかりの毎日。
そこへ、救世主が現れた。
それが、隼人だ。
まぁ、隼人は事情を知っていたわけではなく、
ただ暇潰しに興信所を訪れただけだったのだが、
隼人の来訪が、武彦に冷静さを取り戻させた。
顔見知りが不意に訪ねて来たことで、気分的にホッとしたのだろう。
冷静さを取り戻した武彦は、すぐに原因を悟った。
零の不調は、風邪でも疲労でもない。
隼人が諌めたとおり、妖の仕業だったのだ。
確信を持てるわけではないが、
過去に知人学者から貰った資料と症状が酷似している。
喉に違和感、失声、呼吸困難。
これらは、ハリウネという妖が喉に張り付くことで発症する奇病だ。
「聞いたことはあっけど…ほんとに発症つーか…あるんだなぁ、これ」
資料を見ながら感心する隼人。
ハリウネは、目に見えない妖とされており、
風貌も明るみになっていない為、
存在自体が空想であると言われることも多い。
母親が、悪さをした子供に、
「悪い子の喉には、ハリウネがくっくのよ」と言ったりすることもある。
叱り材料として使われる程度なのだ。
「まぁ、俺も初めてなんだけどな。発症者を目の当たりにしたのは」
車を運転しながら、煙草に火をつける武彦。
隼人はムッとした表情で言った。
「おい、お前…零ちゃんの前では、煙草吸ってねぇだろうな」
「あぁ、控えてたよ」
「絶てよ、馬鹿。喉が痛いっつってんのに煙草吸うなや」
呆れ、ヤレヤレと肩を竦める隼人。
武彦は、痛いトコを突かれるなぁ…と、わざとらしく運転に集中してみせた。

二人が向かっているのは、とある学者の家。
武彦が所内に保管していたハリウネの資料をくれた人物でもある その学者は、
武彦の古くからの知り合いであり、妖マニアとも言われている。
零が興信所に住まうようになって、少し経ったある日、
学者は、念のため…とハリウネの資料を置いていったそうだ。
まさか今更、零がハリウネに蝕まれるとは。
思ってもみなかった武彦だったが、明らかに症状が重なっている。
他に原因も対処法も思い当たらないし、もはや、すがるしかないのだ。
武彦の不甲斐なさにブツブツ文句を言う隼人を助手席に、武彦は車を飛ばす。
興信所で一人、苦しみ待つ零の為。
資料には載っていない、治癒方法を聞く為に。
学者の元へと。

(後編に続く)

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

7315 / 仁薙・隼人 (じんなぎ・はやと) / ♂ / 25歳 / 傭兵

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。はじめまして。
発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。続きは、後編で。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2007.12.25 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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