コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


武彦のお見合い
いきなりドアがバンっと開いた。

草間はとうとう恨みを買った相手からの襲撃か! と思って、
いざと言う時のためにかくしてある鉄パイプを持ち、臨戦態勢に入った。

「武彦元気そうじゃね〜」

その言葉で緊張の糸はぷっつりと切れ、和やかな雰囲気に変わった。

「おふくろじゃねーか」
「久しぶりじぇねぇ武彦」

 とりあえずイスに座ってもらって話を聞くことにした。

「コーヒー、持ってきました」

零は気を配って二人分用意したが、

「すまんのう。わたしゃコーヒーが苦手でのう」
「そんなこと言わず飲めよ。零の入れたコーヒーは絶品だぞ」
「零ちゃんというのかい。可愛いのぅ。ウチのお嫁さんにならないか?」
「おい! おふくろ」
「冗談じゃよ〜」
「零は俺の妹分であって、彼女にはなりません」

 この事については正しいことは言えない。
中ノ鳥島で保護されて以来、行方不明になり、
いつのまにかゴミ捨て場に捨てられて、それを武彦が連れて帰ったのだ。
武彦がその話を聞いたのは、IO2という組織の者であった。
(注:真咲翼の異界ではこういう成り立ちになってます)

「そう思ってな、お見合い写真を持ってきたんじゃ」

 そこに写ってる女性は、現代日本ではめずらしく黒髪がまっすぐ切れてて
日本人形のようである。そして桃色の着物が
彼女を優しそうな雰囲気にさせてくれる。

「そっちの方は乗り気らしいんで、お見合いすることにしといたぞ。
今度の日曜日、実家に帰ってくるんじゃよ」

強引すぎるよおふくろさん……。

* * *

 シュライン・エマは少し遅れて出勤した。

「あら、来客用のカップね。お客さんでも来てたの」

シュラインは2つのカップを流しに持って行って、洗い流す。
その時、零は食器を丁寧に拭いていった。

「零ちゃん。今日はどなたが来たの?」
「お兄さんのお母様がきたのです」
「ふーーん」

 嫌な予感。
 
洗い物が終わったら、書類を手に武彦に直接聞いてみることにした。

「お母様いらしたのね。零ちゃんから聞いたわ。どんなご用件だったの? 武彦さん」
「あぁ。見合いの話がきてさ。うざったいたらありゃしないよ」

シュラインの手から書類がはらはらと空中を飛んで地上に降り注ぎ、
シュラインはそのことに構わず、今までにないほど大きな目を開き、こう述べた。

「武彦さん、この話お断りするわよね?」

とむくれつつ武彦の頬をひっぱった。

「もうお見合いすることは決まってんだ。断りきれなくて」

武彦をつねる手を離し、シュラインは下におちた書類を拾っていた。

(ほんとは私の気持ち知ってるくせに)

そこを見抜けないのが男性ってもんだが。

 そこでシュラインははっと思いついた。

(お見合いする女性って安定した家庭築きたい人が殆どだと思うの。
それが危険もある仕事の人に乗り気になるものかしらと。
何か事情があり、解決に武彦さんの力借りる為の遠回しなお母様の計画って事は?
武彦さんの親なら彼同様、困ってる人放っておけない方なのかもと思って)

曰く付きの女性でないこと……いやいや、曰く付きであってほしい……。

武彦の机にはそのお見合い写真が置いてあった。
シュラインは写真を見ると、人形のように美しい日本美人であった。
(この人じゃお見合いもしたくなるわね)

 そこで決めた。シュラインはお見合いの席に同席しようと。
同席して、相手と上手くいきそうならいっそあきらめきれるし……
いやいやそうなりたくないから、強引に結婚までさせられると困るのだ。

「武彦さん」
「なんだ?」
「強引に結婚までおし進められても困るでしょう? 私もついて行っていい?」

 やや涙目できゅっと武彦の袖をつかんだ。
武彦はいつもサバサバしてるシュラインがそういう態度をされるのは慣れてなくて、

「お前ツンデレか? いいよ。ついてきな」
「嬉しい! ついて行くというか一緒にいきますから。武彦さん、
ご家族に何か持っていきたいけど、何がいいと思いますか?」
「和菓子かなぁ。特におふくろは紫堂のおかきが好きだったなぁ」
「ありがとう武彦さん」

 そしてお見合いの当日になった。
武彦とシュラインはまるで彼女を紹介するために行くような風に見えるだろう。

武彦の実家は田舎にあり、車なしでは行けないところであった。
武彦はチャイムも鳴らさずに、引き戸を開けた。鍵は閉まっていなかったらしい。

「あ、ここ田舎だから鍵をかけない時もあるんだ。特に昼」
「おじゃましまーす……」

自信なさそうにあいさつをしたら、奥から武彦さんの母親が出てきた。

「武彦〜乗り気になってくれたんじゃな。……お隣のお姉さんは誰だい?」

すると武彦が解説する前に、

「今回はわたくしのわがままで、お見合いの同行という
非礼なことをお願いするために来ました。シュライン・エマです
お詫びしたいと思い、気に行ってくださるかどうか、菓子折りでございます」

「あらまぁありがとう。ま! 紫堂のおかきじゃない」

しばらく嬉しそうにしてると武彦の母は、

「とりあえずお二人ともあがってください」

武彦はいつもは着ないスーツ姿でシュラインも少しドキドキしていた。
は、でもシュラインは客ではない。招かれざる客だ。

シュラインはお見合いが始まるちょっと前に準備だけ手伝うことにした。、
武彦の母親がお茶の用意をしていたので、手伝おうとしたら、

「ええよ、ええよ。でも見合いの席で持ってきてくれれば。
そのまま聞きやすいじゃろ?」

招かれざる客に親切にしてくれる武彦の母は、
そのまま武彦が持っている優しさに通じるものがあって嬉しかった。

「あの……武彦さんのお母様」
「どうしたんじゃい?」
「このお見合いの真意とは何だったんでしょうか?」
「真意も何もありゃせんよ。向こうのほうから必死に頼んできたのじゃから」

向こうからのお願い……興信所で働いているような人でもよかったんだろうか?
そして相手が到着している様で、お見合いはここでスタートした。

まずは、「失礼します」とシュラインが入り、4人にお茶を配り、
その後も何気なしに端っこで観察していた。

「草間・和彦です」

「岬・沙耶(みさき・さや)です」

まわし役になろうとした武彦の母親は、
「お互いの趣味なんか言ってみてはどうじゃ?」

「俺はタバコとコーヒーかな」
「これ!趣味というのはそういうのではなく……」

すると沙耶さんは、
「別にいいんじゃないですか? お仕事が大変だと気軽に遊べませんし、
そういうのが楽しみで生きている人、多いと思います」

シュラインは、(なんてできた子なんだ……私とは全然ちがう)

「私の趣味は編み物なんですよ。よく家族に手袋やミニバックつくったりしてます」

すると武彦は、
「それは素敵な趣味ですね」

(編み物くらいでこころ動かされないでよ)

「実は武彦さんのために手編みにマフラー持ってきたんです。よろしければ……」

(そこまでやるか!)

「うん、どんな洋服にも合いそうな色だし、良くできてるよ」
「そう言われると嬉しいです」

 外にはちらちらと雪が降っていた。

「すみません。よろしければお庭をお借りしてよろしいでしょうか?」
「いいよ。2人だけで話したいこともあるじゃろう」

シュラインは絶対この話を聴き逃してはいけないと、少し遠くの納戸を
少しだけ開け、お得意の聴音と音の記憶力をフルに使い、二人の会話を聞きだした。

先に口を開けたのは沙耶であった。

「ごめんなさい。私ウソをついてました」
「編み物が偽物とか?」
「いいえ。もっと重要なウソです。私……」

この先はなかなか言いにくかったようだが、打ち明けてくれた。

「人間の魂を入れられた日本人形なんです」
武彦は零に続いて2人目かと思ってしまった。

「別に1人、2人増えたって……」
「そうじゃないんです。私に愛をください。
それが無理ならアンティークショップ・レンにでも売りつけてください」

しばらく一部始終聞いていたシュラインは外へ出て行ってしまった。

武彦の元へ行き、
「はっきり決めなさいよ! この子がかわいそうでしょ?」
それと同じくらいかわいそうな気分だったシュラインなのだが
涙をこらえて、じっと武彦の目を見る。

確かに家事をしてくれるだけなら、人形の方が都合がいいわけで……。

「俺は……」





――シュラインを抱きしめた。

「いつも側にいたから知らなかったわけじゃなかった。
でも今更、怪奇探偵の俺と結ばれない方がいいと思ってたんだ」
「怪奇探偵が嫌なら、今でもお勤めしたりしませんよ。武彦さん」

そして武彦さんのお母様に当たり障りのない程度に説明した。

「なんじゃ。彼女がいたのか。じゃあ今度は結婚準備じゃな」
「おふくろ! 今日から付き合いだしたのに早いだろ」
「いやいや、スピード婚も流行ってるからのう」
「たのむからやめてくれ!」

武彦と母の間に割り込むように、シュラインはあいさつした。

「これからよろしくお願いします」

こうしてシュラインは晴れて武彦と結ばれた。

* * *

ここはアンティークショップ・レン。

「久々にお客さんかい?」
「客であり、労働希望者であり、商品でもある、沙耶です」
「こんな一気に引き受けてくれるのかい。ありがたい」

すぐに彼女を採用した。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【NPC / 草間武彦 / 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵】
【NPC / 草間零 / 女 / 不詳 / 草間興信所の探偵見習い】
【NPC / 碧摩・蓮 / 女性 / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主】
【NPC / 岬・沙耶 / 女性 / 不詳 / アンティークショップ・レンの見習い】
【NPC / 武彦の母 / 女性 / 58歳 / パートタイム労働者】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

いつもありがとうございます。ずっと片想いだったシュラインが晴れて両想いに
なれた日です。こういう危機がなければ、いつまでも何もなかったかなーと。
今後は2人を恋人同士として書くことにしますので、できるだけその設定を保ちつつ
ご依頼もできるようなサンプルを書いていけたらと思います。