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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ロスト・ボイス(前編)

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OPENING

”喉が痛い”
零が、そう言い出したのは、五日ほど前のこと。
本格的に寒くなってきたし、
興信所を改装してから、毎日何かと忙しい為、
風邪を引いたのかもしれないと思っていた。
けれど、喉の痛みは激しくなる一方で。
医者に診てもらっても、薬を飲んでも一向に良くならない。
毎日具合の悪そうな零を武彦は心配し、
慣れない家事をやったり、食事を作ったりして、
極力、零に負担をかけまいと努力した。

一日の大半をベッドで過ごす。
それが何日も続き、気分最悪の零。
そんなある日、事態が深刻と化す。

ロスト・ボイス。
零の、声が出ない ――…

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「どうせ呼ぶなら、下手な看病をする前に呼べ」
冥月に事情を説明し協力を仰いだ直後、言われた言葉。
武彦は書類を漁りながら、ふと思い出して苦笑した。
(まぁ…確かにな)
手の施しようがなく、困惑していたのだろう。
いつもならすぐに、冥月に助けを求めるのに、それをしなかったのだから。
武彦は自分を戒めながら、書類漁りを続ける。
探しているのは、とあるデータと、友人の連絡先が記されたメモ。

改装後の興信所、三階に用意された部屋。
それは冥月に与えられた、紛れもなき、冥月のための部屋。
呼ばれてからずっと、冥月は、この部屋を借り、泊り込みで看病にあたっている。
零の喉に起きた異変。
蜂蜜を舐めさせたり、喉を温めてみたり、あらゆる手は尽くした。
けれど、一向に良くなる気配はなく。
ついに先刻、零の声は途切れてしまった。
話せないだけならまだしも、喉に激痛が走るらしい。
痛みに顔を歪める間隔も、どんどん短くなっている。
心配と困惑で焦る武彦に、男なら、どっしりと構えてろと喝を入れた冥月だったが、
不安なのは、彼女とて同じ。
決して顔には出さないが、冥月も正直、不安でたまらない。
(どうしたものかな…)
零の喉を撫でながら思案する冥月。
すると零が、口をパクパクと動かしだす。
声は放てずとも、冥月は読唇術を会得している。
”過去”の産物が、こんな時に役に立つのだから、皮肉なものだ。
お・に・い・さ・ん・は・?
零の口の動きから、それを読み取った冥月は、肩を竦めて返す。
「調べものをしているらしい。何を調べているのかは、私もわからない」
不安そうな表情を浮かべる零。
冥月も武彦も、ここ数日、ろくに寝ていない。
自分の所為で、ごめんなさい。
零は、申し訳ない気持ちで一杯だ。
冥月は優しく微笑み、零の頭を撫でて言った。
「お前のためだ。ちっとも苦じゃないさ」
冥月の言葉に、零の瞳から涙が零れる。


「おい、冥月!」
リビングから聞こえる武彦の声。
冥月は一旦零の元を離れ、武彦の元へと向かう。
「どうした。何かわかったのか?」
「あぁ。おそらく、これだ。原因な」
テーブルに、パサリと書類を置く武彦。
書類を手に取り、確認する冥月。
記されていたのは、とある奇病のデータ。
吸妖という名の、その病は、名のとおり、
妖を吸引してしまうことで発症するものらしい。
「…零の能力で無効化できなかったのか?」
書類を見やりつつ、問う冥月。
武彦はジャケットを羽織りつつ苦笑して返す。
「最近バタついてたからな。そういう隙をつくのが巧いんだ、その妖は」
「ふん…低俗だな」
データからわかることは、妖は空気中に潜み、
目には見えないほど小さく、呼吸に紛れて喉に張り付き蝕む。
成人には抗体があるらしく無効。
十代の若者のみが感染・発症する病であるということ。
喉に張り付いた妖は、そこで増殖し、やがて喉を塞いでしまう。
それは呼吸不可を意味し、死をも意味する。
声を失うのは、段階でいうなれば第一段階。
喉に激痛が走り、呼吸が困難になるのが第二段階。
第三段階では、呼吸が完全に停止する。
零の症状は今、第二段階の始まりにあたるのだろう。
冥月は書類をテーブルの上に投げやり、武彦に問う。
「どこで仕入れたんだ、こんな情報」
「知り合いが妖マニアでね。今から、そいつんとこ行く。準備しろ」
「治るのか?」
「あぁ、多分な」

武彦の知人である学者の元へ向かうことが決まり、
冥月は準備を迅速に済ませる。
零も連れて行くわけだが、零だって女の子だ。
風邪だと思い湯浴みを控え続けていた体を人前に晒すなど嫌に決まってる。
冥月は零を着替えさせつつ、蒸しタオルで体を拭く。
「おい、急ぐぞ」
バタンと扉を開け、部屋に入ってくる武彦。
着替え途中だった零は、息を乱しながらも、
恥ずかしそうに体をシーツで覆った。
「すぐ行く」
冥月は近くにあったクッションを武彦に投げつけ、外へ出てろと促すと、
零の髪を軽く結わえながら耳打ちした。
「治ったら、デートだな。あいつも心配してたぞ」
心配ない、すぐに良くなる、治してやる。
冥月の言葉から、それを感じ取った零は、
フラつく体を支えられながら、小さく頷いた。

学者の家まで…およそ三十分。
時間が経てば経つほど、零は苦しむ。
武彦は、少々荒い運転。
隣、助手席の冥月は、神妙な面持ちで流れる景色を見やる。
冥月の影空間の中、座り心地の良いソファに横たわるのは、零。
冥月は、時折零の様子を伺いつつ、
武彦に、もっと飛ばせと命じた。
完全に声を失って、およそ二時間。
零の呼吸は、次第に弱まっていく。

(後編に続く)

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。続きは、後編で。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2007.12.25 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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