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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


茸聖夜

●序

 カレンダーを見つめつつ、木野・公平は傍らにいるキャサリンに話しかける。
「もうすぐクリスマスですね、キャサリン」
 赤い傘をぶん、と一回下げる。ぐに、と力強く曲げられた白い体は、クリスマスを楽しみにしている気持ちを代弁しているかのようだ。
「今年は折角ですから、色んな方を呼んでクリスマスパーティをする予定なんですよ。既に、皆さんに招待状を出しています」
 木野が言うと、再びキャサリンはぐにっと頷いた。
「雪でも降ったら、ホワイトクリスマスになるんですが」
 木野はそう言いながら、窓に近づく。
「大分寒くなりま」
 寒くなりましたしね、と言おうとした言葉は、呆気なく中止された。窓の外で、ひらひらと手を振る女性がいたのだ。
 今野・紀伊子だ。
 茸研究所とライバル関係にある、茸愛好連合会の会長である彼女は、木野が巨大茸であるキャサリンを作ったように、巨大松茸であるマッチを作った。
「何の用ですか?」
 何度も手を振るものだから、木野も諦めて窓を開ける。ぴゅう、と冷たい風が入り込んでくる。
「何って、もうすぐクリスマスでしょう」
 当然のことのように、今野は言う。傍らには、もじもじとしているマッチの姿もある。
「だから、何だって言うんですか」
「クリスマスパーティするんですよね? それで、マッチがキャサリンと聖なる夜を過ごしたいんですって」
 今野の言葉に、木野はじろりとマッチを見る。そういえば、ちらちらとこちらの様子を伺っているようにも見える。こちらと言うか、キャサリンの。
 あろう事か、このマッチはキャサリンに惚れている。巨大松茸でいい匂いをかもし出しているだけでも羨ましいのに、大事なキャサリンにまで目をつけるとは憎らしい。
 羨ましい、憎らしい。木野はぐっと拳を握り締める。
「あなた達はあなた達で、聖なる夜を過ごしたらいいじゃないですか」
「あら、たくさん人数がいるっていいことじゃないかしら。きっと、楽しいですよ」
 ぐっと木野は言葉に詰まる。何かいい口実がないか、必死で探す。
「じゃ、じゃあ。参加者にはプレゼント交換がありますから、それもちゃんと用意してもらいますよ!」
「いいですよ。じゃあ、またクリスマスに」
 待ってましたと言わんばかりに、今野はにやりと笑う。固まったままの木野に手をひらひらと振り、ご丁寧に窓まで閉めて去っていった。「楽しみね、マッチ」なんて言いながら。
「……キャサリン、今年のクリスマスは一波乱あるかもしれませんよ」
 ははは、と力なく笑う木野に、キャサリンは不思議そうに、ぐに、と身体を捻った。


●おいでませ!

 茸研究所に、招待状を受け取った人々が訪れた。
「お招き嬉しいわ。はい、差し入れ」
 シュライン・エマ(しゅらいん えま)はそう言って、鍋と紙袋をテーブルに置いた。木野は嬉しそうに、かぱ、と鍋の蓋を開ける。
「シチューですね」
「ええ。里芋とブロッコリーの、豆乳シチューよ。あと、こっちは重なるかなーと思ったのだけど……」
 紙袋から、取り出されたのは、シュトーレン。断面には、沢山のドライフルーツが見える。たっぷりとまぶしてある粉砂糖が、ホワイトクリスマスを思わせた。
「ありがとうございま」
「キャサリンちゃん!」
 木野が例を言う前に、シュラインはキャサリンを見つけて駆け寄る。鞄からいそいそと、何かを取り出す。
「キャサリンちゃんに、毛糸のカーディガン編んできたの。ほら、着てみて」
 シュラインはそう言いながら、キャサリンにカーディガンを着せる。カーディガンというより、腹巻のようにも見える。
「着ると腹巻風になるのは、目を瞑ってね」
 キャサリンは、ぐに、と頷く。嬉しそうにぐにぐにと何度も頷く。その様子に、シュラインも嬉しそうに微笑む。
「あ、あの……」
 戸惑う木野の背中に、ばし、と勢いよく手が飛んできた。思わず木野は軽く咳く。
「ありがとな、木野。家でクリスマスなんて、絶対ありえねーからさ。招待された時は嬉しかったねー!」
「そ、それはどうも」
 げほげほと咳く木野を気にすることなく、守崎・北斗(もりさき ほくと)はそう言いながらバシバシと木野の背中を叩く。
「きゃしー、元気だったか? 中々可愛い格好をしているじゃないか」
 守崎・啓斗(もりさき けいと)はそう言って、シュラインが抱いているキャサリンに話しかける。木野よりも先に、真っ先に。
「そうでしょう?」
「ああ。きゃしーの愛らしさが、増したようだ」
 啓斗はそう言い、小さく「それにしても」と言いながら、テーブルを見る。ケーキにチキン、オードルブル等が所狭しと並んでいる。加えて、シュラインが持ってきたシュトーレンやシチューの鍋も。
「クリスマスって別に無くても困らない。そう思わないか、キャシー」
 ぼんやりとテーブルの上を見つめつつ、啓斗は呟く。「生クリームが載ったケーキや肉を、食う必要がなくなる」
「ええ、それは困るぜ。クリスマスにはケーキとチキンが無きゃさ」
 北斗のブーイングに、啓斗はきっぱりと「いらない」と言い放つ。
「それに、出費が馬鹿にならない」
「そんな事を言っては駄目よ。とっても楽しそうなクリスマス会なんだから」
 ぐっと拳を握り締める啓斗の後ろから、藤井・せりな(ふじい せりな)が入りながらそう言って嗜める。手には巨大な紙袋がある。木野はそれを見て、荷物を受け取る為に駆け寄った。
「随分大きな紙袋ですね」
「七面鳥を丸ごと焼いた物と、シャンパンよ」
「おおー七面鳥!」
 せりなの持って来た丸ごとの鳥に、北斗が嬉しそうに笑った。困った顔をする啓斗に、せりなは「大丈夫」と言って微笑む。
「中に、ガーリックライスを詰めているの。だから、大丈夫よ」
 そう言って笑うせりなに、啓斗はこっくりと頷く。せりなはキャサリンに向かって「こんにちは」と言って挨拶し、シュラインから受け取ってぎゅっと抱き締める。
「もふもふしてて、柔らかいのね。喋る茸達って聞いていたから、シメジやエノキみたいなものもいるかしらって思ってたのだけど」
 いっぱい頭がうごめいていて、ちょっと気持ち悪そうだったと、せりなは告げる。
「あら、いたのよ。ヤマタノエノキってのがいて」
 シュラインはそこまで言って、言葉を噤んだ。肌色をしてもごもごとうごめくそれは、シュラインの苦手な茶色のアレでナニなものに酷似していたから。
「……すまない、きゃしーはこの日を楽しみにしていたんだよな」
 啓斗はそう言って、キャサリンに詫びる。せりなの腕からぴょんと下りてきたキャサリンは、気にしていないといわんばかりに、うごうごと身体を捻った。
「これ、きゃしーに。きゃしーって、ツリーの横に居たら赤と緑で良く映えると思うから」
 啓斗が差し出したのは、銀色のベルの形をしたオーナメントだ。それをそっとキャサリンにつけてやると、キャサリンは嬉しそうにぐにぐにと身体を揺らした。
「クリスマス会の会場って、ここでいいのかしら?」
 透き通るように白いドレスを着た、藤田・あやこ(ふじた あやこ)がひょこおりと顔を出した。こちらも大きな紙袋を持っている。
「たくさん持ってこられたんですね」
「ええ。白ワインにシャンパン、マシュマロとか綿菓子とか……大福のアイスもあるのよ」
 あやこはそう言って、紙袋を木野に差し出す。見事なまでに白い。紙袋も白い。木野は「ありがとうございます」と言ってそれを受け取る。
「白、お好きなんですか?」
「雪にちなんでみたのよ」
 あやこの言葉に、木野は「なるほど」と頷く。そういわれてみれば、確かに雪を連想させるものばかりだ。
「そういえば、今回は今野さんも来られるんじゃなかったかしら?」
 シュラインはそう言って、辺りを見回す。「マッチも」と付け加えながら。
「今野さん……ああ、そういえば来てませんね。来るのを止めたんですかね。本当にありがたいことで」
「メリークリスマス!」
 ばんっ!
 木野がほっとしたその瞬間、窓が開いた。窓からは、ぴゅうという冷気と共に今野とマッチが立っていた。もっとも、マッチはそのままだと窓に届かない為、今野の肩に乗っていたのだが。
「……ドアから入れないんですか?」
「意外性を求めてみたんです」
 静かに突っ込む木野にさらりと答えると、今野は窓を閉める。そうして暫く待っていると、改めてドアが開いた。
「メリークリスマス!」
「それはもういいですから」
「ウィズマッチ!」
「それもいいです!」
 皆が呆然とする中、今野は「皆さん、大人しいですね」と言いながら中に入ってきた。マッチも今野の横をもぞもぞと動き、キャサリンの所へと向かっていく。キャサリンはびくりと身体を震わせた後、うごうごと木野の後ろに隠れる。
「マッチ、元気だった?」
 軽くショックを受けているようなマッチに、シュラインが話しかける。なでなでと傘を撫でられ、もぞ、とマッチは頷く。
「松茸までいるのね。いい匂いがするわ」
 ふふ、とせりなは微笑む。うごうごと木野の後ろに隠れるキャサリンと、シュラインに撫でられつつもキャサリンを気にするマッチの姿は、ぱっと見メルヘンだ。
 そんな中、木野の後ろに隠れているキャサリンを、ふわり、と啓斗が抱き上げる。
「きゃしーは、アレの事、嫌いか?」
 啓斗は「アレ」と言いながら、マッチを指す。ぐに、とキャサリンが身体をねじる。嫌いではないが、別に好きじゃないという意思表示だ。
「もし嫌いだったら、別にいなくなっても構わないんじゃないか?」
「……私のマッチを、売り飛ばす相談は止めてくれませんか?」
 苦笑交じりに、今野が売る機満々の啓斗に突っ込む。啓斗は再びキャサリンに「嫌いじゃないのか?」と尋ねる。キャサリンは困ったように、ぐに、と身体をねじった。
「なぁ、木野。いっその事、愛娘を持っていかれる頑固親父みたいな事しねーでさ、キャサリンとマッチの交際をもう少し認めてやれば?」
「なっ……何を言い出すんですか、北斗さん」
 木野の顔が真っ青になる。北斗は「だってさ」と言って、ぐい、と今野を指差す。
「現状見てるとさー、向こうにはマッチ意外にもアイリーンとかも居るじゃん? 研究はあっちのが捗ってるような気がするんだよ」
「そ、そんな事はっ」
「そうすりゃ、新種の茸を人の手で作り上げる事ができるんじゃねーの?」
 北斗の言葉に、木野はぐっと言葉に詰まる。その時、あやこが「まだ乾杯しないの?」と尋ねてきた。
「揃ったんなら、乾杯しない? 早く始めちゃいましょう」
「そ、そうですねっ!」
 木野は渡りに舟といわんばかりに、テーブルへと向かう。北斗は思わず「やれやれ」と肩をすくめる。
「あら、白ワインまであるんですね」
「私が持ってきちゃいました」
 あやこの持ってきたワインを見ながら、今野は嬉しそうに言い、グラスにワインをついで行く。
「未成年もいらっしゃいますから、他のもあけましょう」
 木野はそう言って、グラスにシャンメリーやジュースを注いでいく。そうしてそれらを、各自の手元へと渡していった。
「それじゃあ、皆さん……」
 木野が音頭を取ろうとした瞬間、高々と今野のグラスが掲げられる。
「メリークリスマス!」
「えっえっ」
「メリークリスマス!」
 戸惑う木野を気にすることなく、皆のグラスも高く掲げられた。軽く寂しそうな木野の足に、ぽん、とキャサリンが慰めるように乗っかってくるのだった。


●パーティ

 せりなの持って来た七面鳥や、シュラインの持ってきたシチュー、それにあやこの持ってきたお菓子達は、あっという間に無くなっていく。それと同時に、机の上に並んでいたピザやチキンといった定番の食べ物も、徐々に無くなっていっていた。
「そろそろ、何か皆さんで遊びませんか? 何か、というのは決めてませんが」
 木野がそう言うと、せりなが「そうねぇ」と口を開く。
「王様ゲームくらいしか、思いつかないわ」
「後は、椅子取りゲームとか……サンタ人形を探すとか」
 シュラインが言うと、北斗が「サンタ人形?」と尋ねる。
「探すって、どっかにあんの?」
「まだ隠してないけど、これから木野さんか今野さんに隠してもらって、それを見つけたらいいと思うの」
「それ、面白そうね。何か賞品はあるのかしら?」
 あやこはそう言って、ちらりと木野を見る。木野は「そうですねぇ」といいながら、がさごそと研究所内をうろつく。
「では、一番に見つけた方には、僕の秘蔵キャサリン写真集を」
 木野はそう言って、一冊の本を高々と掲げる。大きなアルバムの表紙には、でかでかと「キャサリン写真集 その1」と書いてある。
「その1ってことは、その2もあるのかしら?」
 せりなが尋ねると、木野は「いいえ」と首を振る。
「その2は、これから作りますから」
「別にいらないんですけど」
 今野が言うと、マッチがぶんぶんと傘を振った。どうやら、マッチは欲しいらしい。今野は肩をすくめ「じゃあ、参加するわ」と告げる。
「きゃしーの写真集……さぞかし、いいショットがあるんだろうな?」
 啓斗が言うと、木野は「もちろんです」と頷く。
「シュラインさんを始めとする、キャサリンの身に纏うものを下さった方達のものを全て着、そしてまた茸らしく化粧箱に入ったものもあり!」
 ぴく、と啓斗は身体を震わせた。そして優しくキャサリンに「今は、そんな事を考えてないから。きゃしーには」と告げる。目線は、ちらちらとマッチに向けられている。
「私の今まであげたものまで撮ってるのね」
 シュラインは嬉しそうに笑う。
「きっと可愛いんでしょうね」
 せりなもそう言って笑う。マッチとキャサリンがもごもごと動く姿は、なんとも癒される。
「楽しそうねー」
 白ワインをぐいっと飲み干しながら、あやこが言う。ほんのりと頬が赤い。
「俺は別にいらな」
 北斗がそこまで言ったところで、じろり、と啓斗が睨む。北斗は思わずため息をつく。何故、兄は、そこまで茸を……。
「よし、さっさとサンタを隠せ、木野。さあ、さあ!」
 啓斗にせかされ、木野は慌ててサンタの人形を手に取る。
「それじゃあ、一旦ここから出てもらえますか? 僕、隠すんで」
「あ、ちょっと待って」
 シュラインはそう言い、キャサリンとマッチに霧吹きで噴霧する。どこと無く、乾燥している気がしたからだ。ふわりとした水分にキャサリンもマッチもぴょんぴょんとはねて喜んだ。
「キャサリンとマッチ、皆さんの相手をしていてくださいね」
 木野がそう言うと、キャサリンとマッチは皆を誘導するように会場から出た。皆がそれに続けて出て行き、3分ほど経ったら木野から「どうぞ」と声がかかった。
「しっかりと隠しましたから、皆さんが帰る前までに探し当ててくださいね」
「あら、今から皆で探すんじゃないの?」
 せりなが尋ねると、木野は「ええと」と言って笑う。
「そろそろプレゼント交換もしたいな、なんて」
 木野の言葉に、ぷっと吹き出す声が響く。
「なんだよ、木野。プレゼントが気になってるのかよ」
「だ、だって。皆さんどんなプレゼントを持ってきたかな、と思って」
 木野はそう言って、照れたように笑った。
「じゃあ、曲に合わせて回していって、止まった所にしましょうか」
 シュラインが提案すると、皆は頷いて輪を作る。
「音楽、これを使って」
 今野はそう言って、一枚のCDをコンポに入れる。
「何のCD?」
 あやこが尋ねると、今野はにっこりと笑いながら「自信作なの」と答える。
「マッチと私のコラボレーションなのよ」
「コラボレーションって……音楽を作ったのかしら?」
「聞いてからのお楽しみ」
 せりなの問いに今野は悪戯っぽく笑う。小首を傾げつつ、木野は再生ボタンを押す。すると、しゃんしゃんという鈴の音と共に、どしんどしんという音が加わり、続けて今野の声で「めりーめりー」と歌が入った。お世辞にも、上手いとは言い難い歌声だ。
「……これが、自信作なのか?」
 へぇ、と軽く引き気味に北斗が尋ねる。今野はにっこりと笑いながら「もちろんよ」と答える。
「まさか、このどしんどしんという音は」
 啓斗はそう言いながら、ちらりとマッチを見る。マッチはぐに、と照れたように体をねじる。どうやら、マッチの足ふみ(というか、石突ふみ)のようだ。
「と、ともかく始めましょうか。はい、リズムに合わせて回しましょう」
 シュラインの言葉に、皆は「せーの」と回し始める。しばらく回した後、ぷち、とキャサリンが停止ボタンを押した。
「じゃあ、皆さんで何が当たったか確認してみてください」
 木野はうきうきしたように、皆に言う。
「私から開けてみるわね。ええと……」
 せりなはそう言いながら、包みを開ける。中からでてきたのは、黒いパスケースだ。男女とも使えそうな、オーソドックスなタイプである。
「素敵ね。一体誰が」
 せりながそこまで言うと、木野が「あ、待って待って」と止める。
「誰からのプレゼントかは、内緒にしておきましょう。何となく、分かるかもしれませんけれど」
「それもプレゼント交換の醍醐味だものね」
 木野の言葉に、せりなは頷く。
 次に、がさごそと音をさせながら啓斗が包みを開ける。中から出てきたのは、赤い毛糸の帽子だ。
「……まるで、きゃしーとお揃いみたいだな」
 啓斗がそう言うと、キャサリンは照れたようにぐにっと身体を捻った。
「え、じゃあ俺のってなんだろ?」
 啓斗の帽子を見て、今度は北斗ががさがさと包みを開けた。中から出てきたのは、松茸の佃煮。
「お、うまそうじゃん。ご飯に合いそ……」
 ふとマッチの視線に気付き、北斗は口を噤む。じっとマッチと今野が見ていた。だが、今野もマッチも何も言わずにただ微笑んだ。
「松茸は、茸の王様みたいなものですからね」
 今野の言葉に、ぐにぐにとマッチも頷く。
「私のは何かしら?」
 シュラインはそう言って、包みを開ける。中から出てきたのは、小さな茸型の電池式キャンドルライトだ。色とりどりのLEDで、なんとも可愛らしい。
「あら、茸を被ったスノウマンもいるのね。可愛いわ」
 ふふ、とシュラインは微笑む。
 あやこが「私のは?」と言いながら、包みを開ける。中からは、綺麗な絵皿が出てきた。クリスマスに相応しい、綺麗な色使いである。
「綺麗な絵皿! 嬉しいわ」
 ふふ、とほんのりと赤い頬であやこは笑う。どことなく大声になっているのは、だんだんお酒が回ってきたせいなのかもしれない。
「僕はキャサリンの代わりなので、出てきたものはキャサリンにあげますから」
 木野はそう言いながら、プレゼントの包みを開ける。中から出てきたのは、丸っこいキャップが二つと、耳当てのようなアクセサリ、小さなケープといった小さなものたちだった。どれもキャサリンの形にぴったりとあう。
「これは、室内用と防水外出用の石突キャップですね。それに防寒用耳当て風アクセサリに、防寒用ケープ……全部キャサリン向きですね」
 キャサリンが使えないものならば木野が、と思っていたのだが、むしろキャサリンのものしか入っていなかった。それでも、キャサリンが可愛い姿になるのだから、木野の為といっても過言ではない。
「じゃあ、私の所に来たのはマッチにあげましょうか。ええと」
 今野はそう言いながら、包みを開ける。中から出てきたのは、ビーズで出来た華やかなネックレスだ。
「綺麗ですね、マッチ」
 今野はそう言うと、マッチにネックレスをかけてやる。傘の上の方に引っかかる形なので、ぱっと見ティアラに見えないことも無い。それでも、マッチの傘の上で光るビーズはなんとも綺麗だった。
「これで、全員に行き届きましたね。それじゃあ、後はサンタを探しながら各々楽しんでください」
 木野は皆のプレゼントを一通り見て、満足したように笑いながらそう言った。そんな木野に、思わず皆は再び笑うのだった。


●メリークリスマス

 それからは、パーティ会場内にあるらしいサンタ人形を探しつつ、残っている料理や飲み物に口をつけつつ思い思いに過ごしていた。
 あやこはツリーにかかっているスノウマンのオーナメントを見て雪合戦で遊ぼう、と言いだした。皆が見守る中、紙相撲をテーブルに乗せて呪文を唱えると、小さな雪が降ってきた。
「触っても冷たいだけなのね」
 シュラインが感心しながら言うと、あやこはにっこりと笑いながら「とけたりもしないのよ」と答える。そうして、紙人形達が雪合戦を始めた。えいえい、と可愛らしい動きで皆を楽しませた。
 せりなはサンタ人形を探しつつ、ふとキャサリンとマッチがもごもごと動いている姿を見て微笑む。
「茸達がラブラブなのは、見ていて可愛いわね」
「ややや、止めてください! ラブラブなんて」
「あら、いいじゃない。可愛いんですもの」
 慌てる木野に、せりなはくすくすと笑いを漏らす。今野が後ろから「そうよ、いいじゃないですか」と言ったが、木野は全身で「駄目です」と拒否をした。
 北斗はチキンやピザを皿に取り、サンタ人形を探しに行くせりなに変わって木野に近づいた。
「木野さ、もういいんじゃね?」
「ええ、なんという事をっ。それに、啓斗君だって」
「あーまぁ……兄貴の子とはおいおい修正できてると思うんで」
「ああ、マッチ! キャサリンから離れてください!」
 必死になる木野を横目に見、北斗は苦笑する。小さく「聞いてねーし」と突っ込む。それでも間に割って入らないだけマシか、と呟きながらチキンを口に放り込んだ。守崎家のクリスマスでは口に入らないであろうチキンは、想像以上においしい。
「木野さんは、墓穴を掘っちゃったのね」
 くすくすと笑いながら、シュラインは今野に言う。今野は「そうなんです」と言いながら、テレビの裏を見る。サンタ人形探しに、居合わせたのだ。
「あ、そろそろまた霧吹きしたほうがいいかしら?」
 室内の乾燥状態を考えつつ、シュラインが言う。今野はポケットから湿度計を取り出し「そうですね」と頷く。
 それを聞き、シュラインはキャサリンとマッチに噴霧する。茸達は程よい水分に、嬉しそうに身体をねじらせた。シュラインは思わずポケットからカメラを出し、ぱちり、と写真を撮った。
「サンタ人形か」
 キャサリンをそっと撫でつつ、ぽつりと啓斗は呟く。サンタ人形を探してはいるのだが、なかなか見つからない。そんな中、自分が上げた銀色ベルのオーナメントをつけたキャサリンを見つけ、思わず撫でたのだ。
「よく似合っている。綺麗だ、きゃしー」
 啓斗の言葉に、キャサリンは嬉しそうにぴょんと跳ねた。ちりん、と澄んだ音が小さく響く。
「それにしても……サンタだかポンタだか知らんが、俺の家の家計簿を黒くしてくれる粋な奴は居ないもんかな」
 ぐに、とキャサリンとマッチが身体をねじった。啓斗はちらりとマッチを見つつ「いるじゃないか」と呟いたが、マッチは何かを察してぴょんぴょんとはねながら退散する。マッチは飛び跳ねつつ、思わず木野にぶつかる。どすん、と。
「ぐふっ」
 背中を直撃され、思わず木野は前のめりになる。その時、ぽろん、と木野のポケットから何かが飛び出した。
「ん? 何か落ちたぞ」
 木野の隣でピザを口に放り込んでいた北斗は、木野が落としたものを拾い上げる。
 それは、サンタ人形だった。
「あ……見つけた! てか、木野が持ってたのかよ!」
「だ、だって……そこなら見つからないし」
「そりゃそうだけど」
 北斗の突っ込みに、思わず皆が笑った。木野一人が「わ、笑わないでくださいよ」と言いながら、顔を赤らめた。
「よし、北斗。商品は家で保管するぞ」
 一人、啓斗だけが真顔で北斗にぐっと親指をつきたてた。ぐっじょぶ、と言わんばかりに。
 サンタ人形が見つかった後は、さらにのんびりと時間が流れた。
 そろそろいいだろうと、せりながケーキを人数分に切る。それをシュラインが手助けし、皆に配った。生クリームが苦手な啓斗はそれを丁重に断った為、その分北斗が二切れ食べた。生クリームじゃないなら大丈夫でしょう、とせりなは傍に置いてあったフルーツを啓斗に手渡した。
 あやこは酔いがいよいよ回ってきたのか、歌を歌い始めた。中々の美声で、皆を和ませた。
 せりなはケーキを配り終え、のんびりとキャサリンとマッチの様子を見ていた。和むわ、とマイペースに呟きながら。
 北斗は啓斗の分のケーキまであっという間に平らげ、再びチキンに取り掛かる。木野の悲しそうな愚痴を聞きつつ、遠目にキャサリンとマッチを見ながら。
 啓斗はキャサリンを撫でたり、マッチをどうすれば売り飛ばせるかを考えていたりした。その企みが今野にばれたらしく、今野から「やめてくださいね?」と念押しが入った。
 シュラインはおおよその片づけを手伝ったり、室内の乾燥具合を確認しつつ霧吹きの準備をしていた。時折、ぎゅっとキャサリンとマッチを抱き締めつつ。
 わいわいと騒いでいる茸研究所の外では、ふわふわと雪が降り始めていた。それに気付いた皆は、今一度改めてグラスを掲げる。
 メリークリスマス、と。


<クリスマスの夜は更けてゆき・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0554 / 守崎・啓斗 / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗 / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 3332 / 藤井・せりな / 女 / 45 / 主婦 】
【 7061 / 藤田・あやこ / 女 / 24 / IO2オカルティックサイエンティスト 】

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■         ライター通信          ■
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 メリークリスマス!
 お待たせしました、こんにちは。霜月玲守です。この度は「茸聖夜」にご参加いただきまして、有難うございます。
 楽しく和やかなパーティということで、全員共通の文章になっております。
 藤田・あやこ様、初めまして。参加してくださいまして、有難うございます。雪に関連した差し入れが、どれも美味しそうでした。マシュマロは確かに雪っぽいです。
 プレゼント交換に関しては、あえて差出人を出していません。誰からもらったのかな、と想像してみてくださいね。因みに、プレゼントに関して誰が誰に、というのはあみだクジで作りました。楽しかったです。
 少しでも楽しんでくださいましたら、嬉しいです。改めまして、クリスマスパーティへのご参加、有難うございました。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時まで。