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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


誰より愛しき貴女へ捧ぐ

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OPENING

人伝に入手して、丸三日が経過したけれど。
理解できたのは、冒頭の一文のみ。
二日目に理解できた、その一文以降、
解読は、平行線を辿る。
「…何だってんだい、この文字は」
古代書物や文化を好むが故に、
それなりの知識を持ち合わせている蓮だが、
今回ばかりは、半ばお手上げ状態だ。

見たことのない文字が扱われている、その書物は、真っ赤な表紙。
タイトルの記載も、著者の記載もない。
さっぱり理解らず、一度は解読を放棄した蓮に、
また解読させようとさせる魅力は、ただ一つ。

”アリサ ヘレナ”

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「アリサ ヘレナ…。女性の名前みたいな響きね」
蓮に渡された古書をパラパラとめくりつつ呟くシュライン。
入手した古書の解読が上手くいかず、蓮はシュラインに助けを求めたのだ。
真紅の古書。蓮が入手した古書は、何ともミステリアスなもの。
パッと見ただけで、かなり苦戦しそうだとシュラインは悟った。
「…うーん。ねぇ、蓮さん」
「ん?」
「どうして、この冒頭の一文だけ解読できたの?」
「簡単なことさ。本を逆さにして…逆から読むんだよ」
「逆から…あ」
蓮に言われたとおり、古書を逆さまにし、逆から読んでみると、
なるほど、確かに。
アリサ ヘレナ と読むことができる。
パッと見は、見たことのない難解な文字だが、
何のことはない。逆から見れば、古代異国のベルタ文化特有の文字だ。
けれど…最初の一文は、そうして解読できるが、
残りは、同じ方法では解読できそうにもない。
「手が込んでるわねぇ…」
ふふ、と笑いながら、古書を様々な方向から見やってみるシュライン。
「まったくさ…解読する身になってほしいよ」
ハァと大きな溜息を落とす蓮。
シュラインは、古書をパラパラとめくりつつ尋ねた。
「ねぇ、蓮さん。この本…誰に貰ったの?」
「…貰ってないよ。買ったんだ」
「嘘ばっかり」
「…はは。あんたにゃ隠せそうにもないね」
「みくびってもらっちゃ困るわ」
クスクス笑うシュライン。
シュラインが、誰に貰ったのか?と尋ねたのには理由がある。
この本は、古書好きな者なら、一度は耳にしたことのある代物。
解読できた一文のとおり、古書の名前は、アリサ ヘレナ。
どこにもタイトルが表記されていないが、タイトルは、それだろうとされている。
古代異国、ベルタという少数民族が住まう小さな島で。
この本は”まじない”的な役割を果たした。
それも、恋に効くという、まじないだ。
ベルタ族の男性は、意中の女性に、この本を贈る。
中に綴られているのは、背中が痒くなるほどの愛の言葉。
この本は、やがて世界中に広まって、
今や、レプリカを作っている国もある。
ベルタ族は、愛に生きた民族。
大震災で島と共に滅亡されたとされているが…。
彼等の愛に生きた証は、今も尚 こうして残っているのだ。
そんな古書を、蓮が持っている。
本好きな蓮が、興味本位で入手したとも考えられるが、
人様の色恋沙汰に首を突っ込んで、ほじくるほど蓮は悪趣味じゃない。
過去を生きた少数民族の色恋沙汰なら、尚更だ。
ということで、誰かに貰った…それも、おそらく異性から。ということになるのだ。
「まぁ、誰に…って聞かなくてもわかってるんだけどね〜。ふふふ」
含み笑いを浮かべるシュライン。
蓮は気恥ずかしそうに顔を背け、
とっとと解読しとくれよ、と急かした。


「なるほど。わかったわ」
眼鏡を外し、フゥと息を吐くシュライン。
シュラインが辿りついた結論・解読方法は、こうだ。
”文字の上に小さく表示されている数字順に読む”
数字を辿って読むだけなら、簡単そうに思えるが…。
ページ数は約三十ページ。
数字も、ただ付いているわけではなく、
中には難しい計算をせねばならぬものまである。
気の遠くなりそうな作業が目に見える…。
シュラインは、蓮に尋ねた。
「どうする?」
「やるよ。やるしかないだろう」
「そう言うと思った」
そこから開始される解読作業。
数学が苦手な蓮は、途中難しい問題をいくつもシュラインに任せた。
いつしか、自然と作業は分担。
シュラインが計算し、数字を導き出し、
蓮が数字順に文字を並べていく…という流れになっていた。
カウンターの上は、もはや紙だらけ。
何が何だか わからなくなり、最初からやりなおし…という事態に何度も見舞われた。
弱音を吐き、もう止めよう…と言いたくなることも多々。
けれど、二人はあきらめずに解読を進めた。
シュラインが土産に持ってきた焼き菓子で糖分を補給しながら…。
真剣に作業にあたってくれるシュラインに、
蓮は何度も何度も”すまないね”と呟いた。
その度に、シュラインは”水臭いわよ”と言って微笑む。
自分がもし、蓮の立場なら。
愛しい人から、愛の本を渡されたら。
何としても、読み明かしたいと思う。
シュラインは相手を自分に置き換え、文句一つ言わずに作業を続けた。
仲の良い、しかも御世話になっている蓮の頼みなら尚更だ。
すっかり夜も更け、少し眠たくなってきた頃…。
解読は、完了した。
「できたぁ〜」
「ふ〜…」
宿題を一気に片付けて勉強から解放されたような感覚。
シュラインと蓮は互いを労い、解読した文に目を通す。
そこには、こう記されていた。

君のことを想うと、夜も眠れない。
美しい君の傍に、いたい。
出来ることなら、そう、いつまでも。
君は覚えているだろうか。
僕との出会いを。
僕は、決して忘れない。
いや、忘れることなんて出来ない。
君との出会いは、今も尚、眩く輝いている。
その声に憧れ、その肌に酔い、
君の全てに溺れてしまった。
あの日を、僕は忘れない。
もしも、あの日、君と出会っていなければ、
僕は今頃、灰と化していただろう。
何を残すことなく、何を思うことなく。
ただ、灰となり、土に還っていただろう。
君との出会いが、僕を変えた。
そう、僕にとって、君は女神。
行く先を眩い光で照らす、女神そのものだ。
あぁ、僕の女神よ。
僕の全てを君に捧げよう。
身体も声も、望むものがあれば何でも、全て。
君にとって、僕は、どのような存在なのだろう。
願わくば、君も。
僕と同じ想いでありますよう。
そう、心から。切に願う。
あぁ、僕の女神よ。
僕の全てを君に捧げよう。
心から、そう、心から。
偽りのない愛を、君に捧ごう。
アリサ ヘレナ。

「………」
「………」
解読しおわった文にポーッとする二人。
何とも情熱的な…男性の想いが綴られていた。
二人は同時に思う。
(こんなに愛されたら、幸せだろうな…)
ハッと二人は揃って我に返り、クスクスと笑う。
「いいなぁ、蓮さんってば」
「…何でだい」
「わかってるくせにっ」
「…ふふ」
「私も、欲しいなぁ…これ」
「あげないよ」
「い、いらないわよ。これは蓮さんへの贈り物でしょう」
「言ってみればいいさ」
「何て?」
「愛の言葉を頂戴…って」
「…い、言えないわよ。そんなこと」
「まぁ…頼まれて言うようじゃあ、まだまだだけどねぇ」
「むー…」
勝ち誇った表情の蓮。
自身が恋人に紛れのない愛の証を貰ったことで、嬉しくて仕方ないのだろう。
隠しているようだが、すぐにわかる。
シュラインは、ちょっと羨ましい気持ちもありつつ、
可愛らしい蓮を笑顔で見つめた。そして、ふと思いつく。
(私も、作っちゃおうかな…武彦さんに解読できそうな内容で…なぁんて)

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2006.01.02 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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