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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


吐煙至福

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OPENING

リビングソファにダラリと座り、
テーブルの上に置いてある灰皿をボーッと眺める武彦。
そんな武彦を見て、零がピタリと動きを止める。
零は、掃除機のスイッチを一旦切り、
ツカツカとテーブルに歩み寄ると、
ニッコリと可愛らしい笑顔を武彦に向け、
何も言わずに灰皿を手にとって、パタパタと去っていった。
「………」
ガックリと肩を落とす武彦。
次いで、大きな溜息。
禁煙開始から、ちょうど半日が経過した。

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「何を くだらん意地はってるんだか…」
事情を聞いて冥月はヤレヤレと溜息。
武彦には禁煙など、絶対に不可能だ。
冥月は、心から、そう思っている。
狂ったように煙草を口にし、一日二箱以上が当然。
そんな奴が、パッと止めれるとは…到底思えなかった。
よほどの意思がないと、まず無理なのだ。禁煙というものは。
呼吸するのと同じくらい、喫煙が普通の行為である以上、禁煙なんて絶対に無理。
冥月の顔を見て、武彦は悟る。
(絶対無理!とか思ってんだろうな…)
ご名答。まさに、そのとおりだった。
けれど、それが武彦の意地に、更に拍車をかけることになる。
「やってやるよ。見てろ、このやろー」
プイッと そっぽを剥いて言い放つ武彦。
意地になっている以外の何物でもないな…と思う冥月。
零も同じ心中だった。
昼食の準備をしている零に冥月は歩み寄り、小声で問う。
「何だって喧嘩したんだ?」
「…煙草代が、最近かさんで酷いです!って叱ったんです」
「何だ。それで、止めると言い出したのか?」
「はい」
「逆ギレだな…まるっきり」
苦笑する冥月。子供っぽいところがあるなぁ、と実感したりもしつつ…。
冥月は零に食事の準備を任せ、武彦の元へ。
「いいか。禁煙成功の目安は三週間。ニコチンが抜ける為の時間だ」
武彦の隣に座り、指を三本立てて言う冥月。
「三週間ね…ふーん」
大したことないぜ、という口調で言ってはいるものの、武彦の内心は、こうだ。
(マジかよ。長ぇよ。やべぇよ)
「副流煙の方が毒性が強いんだ。可愛い妹の為に、我慢しろ」
「………」
「禁煙すると食事や酒が美味しいと聞くぞ。歯磨き粉さえ美味く感じるそうだ」
「え…マジで?」
「あぁ。それを楽しみに頑張ってみるんだな」
「いや別に歯磨き粉を美味いと思いたいわけじゃねぇけど…」
「食事や酒の話だ。それは、ついでというか、補足だ」
「ふん…まぁ、やってやるよ」
(…生意気なクソガキか。お前は)
ツンとした態度の武彦に、冥月は呆れ笑い。
その日から、武彦の禁煙生活が始まった。


禁煙生活、一週間目。
この日、早くも武彦に限界が訪れる。
「…あぁ。もう駄目だ。発狂しそうだ」
ボソボソと独り言を言う武彦。
もう朝から何度聞いたことか。
冥月はソファでうな垂れている武彦に歩み寄り、
「舐めてろ」
そう言って、飴を小袋から取り出して差し出す。
「………」
ジーッと冥月の持つ飴を見つめる武彦。
「うるさくてかなわん。舐めてろ」
再度、飴を受け取れと促す冥月。
確かに、気を紛らわすには良いかもしれない。
武彦も、口寂しくて仕方ないようで、
あまり飴や菓子を好んでは食べないが、折角なので すがってみることにした。
パクッ―
「ん、なぁ!?」
冥月の指に かぶりつく武彦。
冥月は慌てて、武彦の口から自身の指を引き抜いた。
「ばっ、馬鹿か、お前は!」
頬を赤らめ、顔を背ける冥月。
武彦は飴をコロコロと口の中で転がしつつ言った。
「冥月が口を塞いでてくれれば、いいと思うんだよな…」
恐ろしいほどの真顔で発言。
冥月は耳まで赤く染め、ポケットに入っていた飴をポイポイと武彦に投げつけた。
禁煙一週間。
そもそも、一週間でも我慢できたことが奇跡的だった。
煙草・喫煙は…武彦にとって癖のようなもの。
パッと忘れられるほど、簡単じゃない。
この日、冥月と零は、目撃してしまう。
武彦が、自室で煙草に火をつけるところを。


やるって言ったことを途中で投げ出すなんて男らしくない、とか。
意思の弱さには呆れるばかりだ、とか…冥月と零から散々ダメ出しをくらったものの。
武彦は、開き直って言った。
「無理なもんは、無理」
その一言が諦めざるを得ない決定打となり。
武彦の禁煙生活は、あっさりと幕を閉じた。
禁煙を始めて三日目、辛そうな武彦に冥月がした約束。
”禁煙できたら、何でもいうこときいてやる”
冥月が自分から言い出したわけではなく、
零が提案したのだが、武彦はノリノリだった。
それなのに、あっさり挫折、というか逃亡。
「褒美に釣られるほど、ガキではないか…」
ポソリと呟く冥月。どことなく…寂しそうにも見える。
そんな冥月を見つつ、武彦は言った。
「して欲しいことは、強引にやらせりゃあ、いいんだよ」
(………)
冥月は、思う。そうだ、こいつは、そういう奴だった、と。
呆れ溜息を吐く冥月に、武彦は ついでとばかりに尋ねた。
「ところでさ、気になってたことが一つあるんだけど」
「…何だ」
目を伏せたまま返す冥月。
「時々、俺のこと優し〜い目で見てただろ。あれ、何?」
ピクリと動く冥月の眉。
言えるわけがない。
亡き彼も、何度言っても煙草をやめてくれなかったなぁ…と思い返していただなんて、
言えるわけがない。
そんなことを言おうものなら、
武彦はまた不機嫌になり、無愛想になる。
そうなっては面倒だ。
そう思った冥月は、しらんぷりを決め込む。
「お〜い。聞いてます?」
何度武彦に尋ねられても、知らんぷり。
逆に、言ったら…ムキになって煙草を止めるんじゃないだろうか、とも思ったが、
武彦の禁煙に、彼を利用するような真似は、絶対に出来ない。いや、したくない。
そう思いつつ、冥月は しらんぷりを貫き通す。
「お〜い。聞いてます?」
「………」
「お〜い。もしも〜し?」
「………」
「冥月ちゃ〜〜ん?」
「うるさいっ!」

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2008.01.02 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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