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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


誰より愛しき貴女へ捧ぐ

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OPENING

人伝に入手して、丸三日が経過したけれど。
理解できたのは、冒頭の一文のみ。
二日目に理解できた、その一文以降、
解読は、平行線を辿る。
「…何だってんだい、この文字は」
古代書物や文化を好むが故に、
それなりの知識を持ち合わせている蓮だが、
今回ばかりは、半ばお手上げ状態だ。

見たことのない文字が扱われている、その書物は、真っ赤な表紙。
タイトルの記載も、著者の記載もない。
さっぱり理解らず、一度は解読を放棄した蓮に、
また解読させようとさせる魅力は、ただ一つ。

”アリサ ヘレナ”

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いつものとおり。
急に呼び出しをくらい、来てみれば協力を頼まれる。
何だかんだで、いつも協力してあげる冥月は、人が良い。
だがしかし、今回は手こずりそうだ。
蓮が協力してくれと頼んできたのは、古書の解読。
過去の所属部隊で、ある程度の知識は持ちえているとはいえ、
暗号のようなものを解読するのは、まったくの専門外だ。
「あのなぁ…私は考古学者じゃないんだぞ」
カウンターに凭れ、溜息を落とす冥月。
蓮はクスクス笑いながら言った。
「知ってるよ。そんなことは。ただね、意外と博識だろう?あんたは」
「博識って…必要最低限の知識のみだ」
亡き彼の教えで、世界主要言語の読み書きは出来るが、
古代文字などは、まったく理解できない。
けれど、蓮は冥月に期待している。
過去に色々な経験した人物が持ちえている知識は、
時に、専門家より鋭い箇所を捉えるものだ、と。
また、上手いこと言って…と呆れる冥月だったが、
面倒だからパス、と言って、すんなり帰してくれるわけもない。
それを理解しているが故に、とりあえず古書に目を通してみることにした。
真紅の古書。タイトルも、著者の表示もない。
「奇妙なものだな」
神妙な面持ちで、パラパラとページをめくり、冥月は、すぐにパタンと本を閉じた。
「何だい。もうギブアップかい」
頬杖をついていう蓮に、冥月は言う。
「さっぱり理解らん。というか、見ていて気分が悪い。ひどく不気味だ」
冥月が言ったとおり、古書は、確かに不気味だった。
ズラリと並ぶ文字が、虫の大群のように見えてしまうのだ。
文字の数が、まず半端なく多い。
ページが三十ほどしかないのは良いが、
それでも、全てを解読するには、かなりの時間を要するだろう。
不愉快そうな顔をしつつも、パラパラとページをめくる冥月。
(あの人は…どうやってたっけ…)
思い出そうとする、亡き彼の姿。
亡き彼は、頻繁に上の者から命じられ、古書の解読をしていた。
手伝うと言っても聞かず。ただ、傍にいてくれればいいとしか言われなかった為、
冥月は、彼の隣で作業を見やっていただけ。
時折、疲れてフゥと息を吐く彼と目が合い、
頑張ってと微笑んだりもした。
傍にいただけとはいえ、覚えている。
覚えているものなのだ。
愛しい人の仕草なら、尚更。
彼が本をめくる、その仕草と指を思い出し、優しい表情になる冥月。
意識しているわけではない。自然と…笑んでしまうのだ。
そんな冥月に、蓮は すかさずツッこみを入れる。
「なぁに、ヤラしい顔してんだい…」
クックッと笑いながら言う蓮。
冥月はハッと我に返り、咄嗟に本をパタンと閉じた。
「ヤッ、ヤラしい顔なんてしてない!」


解読を進めるも、難航。
まったく、糸口が掴めない。
ただ、冥月は気付いていた。とあることに。
「…最初の一文は、何だったっけ」
冥月がポツリと呟くと、蓮は紅茶をカップに注ぎながら答えた。
「アリサ ヘレナ、だよ」
蓮が、一人で解読作業に明け暮れ、ようやく解いた一文。
それは、冒頭の一文。アリサ ヘレナ。
それを聞いて再度、冥月は古書を見やり、並ぶ文字を目で追っていった。
(やはり…二つの言語だな)
冥月が気付いていたこと。
それは、並ぶ文字が、難解に見える理由。
二つの言語を交互に使っているため、暗号のように見えるのだ。
冥月は蓮に問う。
「その一文は…どうやって導いた?」
「逆から読んでみたんだよ。簡単なことさ」
「他の文は…そうもいかないようだな」
「そうさ。だから参ってる」
「二つの言語が使われているのは気付いているか?」
「あぁ。気付いてるよ。古代異国…ミストナとハグラの言語だろう?」
ミストナとハグラ。
それらは、あまり知られていない島国。
二国特有の文字を交互に並べる…。
もしかすると、二国に関わりのある人物が書いたものかもしれない。
「…なぜ、これを入手した?」
冥月が問うと、蓮は目を伏せたまま淡く微笑み、呟くように返した。
「好奇心、さ」
「特に、深い理由はないということだな?」
「そうだね」
「………」
溜息を落とす冥月。まぁ、無理もない。
ただの好奇心で意味なく。何が書いてるのか知りたいだけ。
それに付き合わされているのだから。
解読作業は、それから暫く続いた。
いつ終わるとも知れず…ただ、延々と。


すっかり夜も更け、自然と何度も欠伸が出るようになってきた頃。
解読は、ようやく終わりを告げた。
まず、冥月は、二つの異なる文字を、それぞれ纏めた。
ミストナの文字とハグラの文字。
交互に並ぶそれらを、順番は そのままに纏めると、
当然、ミストナ文字で書かれた文と、ハグラ文字で書かれた文に分かれる。
だが、そのまま読んでも何のことだかサッパリわからない。
そこで、蓮が行った逆読みをしてみる。
すると、きちんと読める文になるのだ。結果…。
ミストナ文字で書かれた文は、
女性から男性へ、愛を綴ったものに。
ハグラ文字で書かれた文は、
男性から女性へ、愛を綴ったものになった。
何のことはない、ラブレターのような内容だ。
ただ、この二人は禁断の愛というものの中にいたらしい。
内容から察するに、二国間は敵対関係にあったのだろう。
どんな戦火の中でも、二人は愛を確かめ合っていたようだ。
「…くだらん」
本を閉じ、大きな溜息を落とす冥月。
半日以上かけて行った解読の末、判明したのが他人の色恋話。
冥月はドッと疲れ、肩を落とす。
「素敵な話じゃないか」
蓮は内容に満足のようで、ニコニコと微笑んでいる。
確かに、蓮が好みそうな内容だ。
困難や壁に阻まれつつも、愛を貫きとおす。
そういう映画やドラマに使われそうな王道恋愛が蓮は大好きだ。
「知るか…」
冥月は逆だ。他人の恋愛には無関心。
仲良くしようと喧嘩をしようと、知ったことではない。
勝手にやってくれ、という感じだ。
まぁ、何はともあれ古書の内容は愛の物語。しかもリアルな…。
「こういう恋愛、してみたくないかい?身を焦がす愛」
ご機嫌な蓮を他所に、冥月はフイッと顔を背けた。
身を焦がす恋愛。彼女はもう、経験済みだ。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2006.01.05 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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