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<WhiteChristmas・聖なる夜の物語>


Trouble×Travel Xmas




招待状

 日頃ご愛顧いただきまことにありがとうございます。
 クリスマスイブからクリスマスにかけて、船上クリスマスパーティツアーを計画させていただき、招待の運びとなりました。
 皆様のご参加をお待ちしております。

ツアー日 12月24日〜12月25日(1泊2日)





 パーティ会場の入り口で藤田あやこは足止めを喰らっていた。
 選んだツアーがツアーだけにその準備のみ万全で、豪華な食事が揃う船のメインであるパーティのことをすっかり失念していたのだ。
「銃弾もはじく特殊ストッキングを履いていまっす」
 と、「申し訳ありません」と頭を下げる入り口ボーイに言ったところで何ら現状は打破できず、後数歩行けばあの輪の中に入っていけるというところで、あやこは仕方なく船室へと戻るほかなかった。
 その横をロングタイプのチャイナドレスをまとった女性が行過ぎる。
 チェンファン・リーだ。
 金味が入った光沢のある黄色地の布に、大降りの牡丹が刺繍され、昨今布地はプリントが多い中、さりげない存在感を主張していた。
 颯爽と歩くたびにスリッドから覗く足はすらっとして大人の女性を感じさせる。
 招待を受けなければ、多分こんなチャイナドレスを着る機会もそうそう無い。
(お…おかしくないだろうか……)
 気丈な表情を見せているチェンファンだが、その内心は緊張で強張っていた。
 時同じくして、パーティ会場に向けて歩いてくる1組。
 内訳は、クールな女性とキュートな少女とくたびれた男。
 女性の胸元から腰へ続くシャーリングに沿って視線を移動させれば、女性の背中は大きく開き、シャーリングとスカート部分で色の分かれたバイカラー配色のドレスは、彼女の凛とした表情を引き立てている。
 対して、少女のバルーンドレスは、ドレス地で作られたリボンであしらったフラワーモチーフが主張しすぎず、かといって寂しい印象を与えるでもなくその可愛さを引き立てていた。
 しかし、そんな女性二人をエスコートすべき男は少々やる気が無い。
「ほら、武彦さんタイが曲がってるわ」
「だから俺はこういった場所は苦手なんだよ」
 去年…いや、もっと前だったかにパーティに呼ばれた時も、着慣れないスーツに肩身の狭い思いをした記憶がある草間武彦は、同行するシュライン・エマの言葉にも顔をゆがめるばかり。
「ただで飲み食いできる機会ですし、存分に食べ貯めておきましょう!」
 笑顔に加え、ガッツポーズまでして言ってのけた草間零に、
「零……」
「零ちゃん…」
 草間とシュラインの眼にホロリと何かが光ったのは気のせいじゃない。
 その後も続いて人はやってくる。
「他にもっと誘う人がいたんじゃないのか?」
 マーニ・ムンディルファリは辺りを見回し、自分とは不釣合いと思えるような服装に身を包んだパーティの参加者たちを見て、不安そうに山本建一を見た。
「なかなか会えませんので、今日くらいはマーニさんとご一緒したいと思ったんです」
 ご迷惑でしたか? と、軽く首をかしげた建一に、マーニは矢継ぎ早にそんなことはないと返す。
「その…ありがとう」
 自分から進んで華やかな場所へ出るようなことは無いせいか、服装にもかなりの努力が見て取れる。
「よくお似合いですよ」
 礼装としてのタキシードを着込んだ建一は、そんなマーニに優しく微笑みかけた。
 そしてパーティ会場では、礼服としても使えるのりを利かせたいつもの黒装に身を包んだアレスディア・ヴォルフリートが、全体を見渡せるような壁にもたれ、届いた招待状に眼を落としていた。
(……教会でミサというのも、季節柄、趣があって良い……の、だが……)
 ツアーの内容が書かれたその招待状を見つめ、華やかな場でありながらよりいっそう険しい顔になっていくアレスディア。
(……何故だろう、どうにも警戒を解けぬ)
 それもこれも、いつぞやに参加したパーティでの出来事がアレスディアの中で思い出されているせいであった。
(しかし、このような場で一人しかめっ面しているというのも、あまりにそぐわぬ……)
 周りを見渡せば、皆楽しそうに料理に舌鼓を打ち、笑い合っている。
「うむ、何かあれば、そのときはそのとき、だ」
 アレスディアは小さく呟くと、壁から離れ、手近な料理に手を伸ばした。
 その横を人好きのする笑顔で行過ぎる清水コータ。緋色のクロスタイを指先で整えて、セレブ気分を味わいながら心持堂々と会場内を散策する。
 こんな機会はそうめったに廻ってこない。
「お飲み物はいかがですか?」
 トレイにたくさんのグラスを乗せたボーイがコータに話しかける。
「じゃあ、これを」
 指差したのは、琥珀色のシャンパン。
 ボーイに手渡されたグラスを笑顔で受け取ったものの、実はコータはお酒が飲めない。
 ちょっと粋がって見栄張ってみたものの、見栄でお酒が飲めるなら苦労しない。
 そのまま飲まずに置いていくのも勿体無いが、飲むこともできずコータはどうしたものかと辺りを見回す。
(お!)
 視線の先には、黒いロングドレスに金髪の女性。
 よくよく見てみれば、ロングドレスは、中のミディドレスの上に羽織っているオーバードレスで、後ろに向かって長くなるデザインは足の長さを引き立てている。
「こんばんは」
 コータは笑顔で女性に話しかけた。
「シャンパンどうですか?」
「ああ、ありがとう。ちょうど何か飲みたいと思っていたところだったんだ」
 そう言って微笑んだ女性に、コータは心の中でガッツポーズを取る。
 シャンパンを受け取った女性ことキング=オセロットは、どこか静観するような面持ちでパーティ会場を見つめていた。
(あの時はなかなかに、大変だった)
 招待状を受け取った時真っ先に思い出したのは、あの南の島での出来事。
 オセロット自身は正直ほとんど被害にあっていないが、これ見よがしにため息なんぞ吐いてみたりした。
(今年はどうなるやら)
 やれやれと言った表情とは裏腹に、オセロットはどこか楽しそうだ。
「ありがとう少年。では、失礼」
 オセロットは流れるような動作で、飲み干したシャンパングラスをコータの手に戻し、笑顔でその場を去っていく。
(何か起こる前に一服しておくか)
 あまりにも颯爽と去っていく姿に、コータはつい見とれてしまって、はっと我を取り戻した時にはオセロットの姿はなくなっていた。
 そこから数歩離れた位置で、サクリファイスはうーむと頭をひねった。
 確か、正装で参加だったはず。
 洋装ばかりのサクリファイスも、今回はいつもと違った服装をしようと、チャイナドレスに身を包んでいる。
 しかし、一緒にいるソール・ムンディルファリの格好は、いつもの服装を少し厚めにして、ちょっと着込んだ程度だ。
「民族衣装も立派な正装ではあるが……」
 入り口で止められなかったということはOKなのだろうが、あまりにもラフではないかとサクリファイスは思う。加え、あれほど嫌っていた故郷の衣装をどうして今着るのか。
「忘れないようにと、思って」
 ソールの口からぼそりと呟かれた言葉。その言葉に、サクリファイスは一瞬瞳を大きくし、その後、ふっと微笑んだ。
「……そうか」
 ほんの少しでも、少しの間だけでも、愛されていたのだという思い出を忘れないように。
「…………」
 ソールはサクリファイスの格好を流すように見て、眉根を寄せる。
「戻る」
「どうしたんだ、いきなり?」
 カツカツと踵を返して歩き始めたソールに、サクリファイスは驚いて追いかける。

『皆さーん、本日はお越しいただき真にありがとうございまーす』

 会場から出る手前、軽快なアナウンスがパーティ会場内に響き、サクリファイスとソールは足を止めた。
『司会進行はお馴染み、アクラ=ジンク ホワイトが勤めま〜す。皆さん楽しんでいってねー!』
 マイク片手に会場中を縦横無尽に飛び回るアクラを見ていると、何か起こりそうな予感が沸き起こってくる。
 喫煙所からそれを眺めていたオセロットは、視線の先にどこか見知った男性が歩いてくるのを見て、口元に笑みを湛えた。
 先に声を掛けたのは草間武彦。
「あ、あんたは…」
「一昨年ぶりか? 彼女との仲は進展したのかね?」
「あんたに言われるようなことじゃ……」
 オセロットの鋭い突きに、草間は髪をかき上げ微かに照れるようにそっぽを向く。
 お互いヘビースモーカー同士。どこか合い通じるものがあるにせよ草間はとことんそっち方面に弱かった。
 彼女ことシュラインは、零と一緒に挨拶回りの真っ最中だ。本当ならばここで草間も一緒に回るべきなのだが、早速ニコチン切れを起こしダウン。
「やれやれ。情けない大黒柱だ。あいさつ回りが終わるほんの一時タバコを我慢できんとは」
 ふぅっと息を吐いて首を振るオセロットに、草間は口元を引きつらせて苦笑を浮かべる。
「ほっとけ。あんただって定期的にタバコを吸いたくなる性質だろう」
 タバコを吸わないと無性に、それこそがヘビースモーカたるゆえんとも言うべき、喫煙者の性。
「生憎だが私はちゃんと場を心得ている」
 その実、オセロットの身はサイボーグであるため、タバコ自体は人だった頃の思い出として口にしている部分がある。口寂しいが、止めようと思えばいつでも止められるのだ。…多分。
「あら?」
 あいさつ回りが終わったらしいシュラインたちが喫煙所に顔を出し、花が咲くほどではないが、ほどほどに会話していた二人を見て、軽く首をかしげる。
「どこかで…」
 会ったような気がする。話をした記憶はないが、記憶の隅に良く似たシルエットだけが思い浮かぶ。
 それに気がついたのか、オセロットは最後の紫煙を吐いて颯爽と立ち上がる。そして、軽く挨拶をすると、きょとんとしたシュラインの横を行過ぎていった。
 零も視線でオセロットをしばし追かけていたが、すぐさま草間に向き直ると、
「お兄さん。煙草は変わらずお金がかかりますが、今日は食事にお金がかかりません。いつまでも煙草を吸っていないで、料理を堪能しましょう」
 零の言葉に草間興信所の現状が見て取れる。彼女自身に悪気は全くないのだが、それ故に真実であることが切ない。
「ああ、行く行く。そろそろ腹も減ってきたし」
 スーツによって抑えられた腹にどれだけ詰め込めるか分からないが、確かに食べなければ損だ。
「上手いな。流石に……」
 船一隻貸切にしてしまうほどの豪華さは並じゃない。
「同じ食材は使えないけれど、同じような味が出せるようにがんばってみるわ」
 安い食材でも調理の仕方一つでフルコースにだってすることが出来る。
 シュラインはそう言って、スプーンデザートをそのまま口に運ぶ。
「ん〜〜。美味しい」
 2人っきりのロマンチックな夜ではないけれど、こうして楽しく3人で居られることがまた嬉しいシュラインだった。
 即効で振られてしまい、ショボンと肩を落としていたコータは、やけ食いとばかりに食べはじめたテーブルの向こうで、黄色にチャイナドレスに身を包んだ中華美人チェンファンを見つけ、ぱっぱと服装を整える。
「お一人ですか?」
「あ、ああ」
 どうぞと、手渡したグラスの中身がジュースなことだけが虚しいが、
 答えたチェンファンの表情はどこか強張っている。
「俺も一人なんで、一緒に楽しみません?」
 やはりクリスマスということもあってか、一人よりも誰かと一緒の参加者のほうが多い。
「ほら、一人よりも皆でってね」
 にこっと笑ったコータに、チェンファンは肩から力が抜けたように息を吐きながら苦笑する。
 あれ、やっぱり声を掛けたのは迷惑だったかな? と、笑顔の下で思い始めたコータだったが、
「ありがとう。どうも知り合いが誰も見当たらなくて、知らずに気が張っていたようだ」
 そう答えたチェンファンに、コータは満面の笑みを浮かべて、手を差し出す。
「ダンスは出来るのかな?」
「う、う〜ん…」
 その手をとってふふっと笑ったチェンファンに、コータは誤魔化すように曖昧な笑みを返すのだった。
 ポロン…と、ハープの音が響き、騒然としていたパーティ会場がしばしの静寂に包まれる。
 演奏に聞き入る者、音楽に合わせて踊る者、それぞれが思い思いの時間を過ごす。
 招待客としてこの場に参加した建一も、最初は料理や談笑に華を咲かせていたのだが、やはり吟遊詩人の性であろうか、一曲弾かずにはいられなかった。
「見事なものだな」
 ソーンで何度か建一の演奏を耳にしたことがあるアレスディアも、その音に聞き入っている一人だった。
 そしてこのまま何も起きなければいいと思う。
 今回は今に至るまで至極平和だったが、この先平和じゃなくなる可能性があるからだ。
 けれどその時はその時、どんな場面であろうともアレスディアの行動や信念は変わらない。
 楽しめるときに楽しんでおかなければ損だ。
「こんばんは」
 アレスディアは聞き知った声に振り返る。
 そこには微笑を浮かべたコールが立っていた。コールはアレスディアの顔を見てにっこり微笑むと、すっと腰を折って片手を差し出した。
「コ…コール殿!?」
 その動作に少々うろたえるアレスディア。
「一曲お相手いただけますか?」
 コールは伺うようにその瞳を見つめて、返事を待った。
 ハープの演奏が終わり、ジャズチックな軽快なメロディが始まる。
 建一の演奏が終わったのだ。
 パチパチパチ。と、拍手のユニゾンが辺りを包む。
「ありがとうございます」
「あなたはいつも奏でてばかりだ」
 招待客なのだから、こういう日くらいは聞く側、楽しむ側に回ってはどうかとマーニは言う。
「音楽が、私を現す術ですから」
 建一はそう答えると満足げな微笑を浮かべた。
 賑わいに包まれたパーティ会場の中心へ視線を向けて、サクリファイスはソールに尋ねる。
「戻るなら、一緒に戻ろうか」
 戻ると言うからには何かしら理由があるのだろうし、人それぞれ違う価値観という名の“楽しい”を強要しても仕方がない。
 ソールは一瞬瞳を大きくしたが、サクリファイスが振り返ったときにはもう何時もの仏頂面。
 だが、うんともすんとも言わないソールに、サクリファイスは「どうした?」と聞くしかない。
 ソールは軽く首を振り、
「いや。楽しもう」
 今日のための折角のオシャレを無駄にしてはいけない。
 ソールは、複雑な心境ではあったが、サクリファイスの手を引いてパーティの中心へと歩き出した。

 パーティは夜通し行われる。
 誰がいつ来てもいいように。
 そして、船は次々とツアー停泊地を巡っていった。





【The Land Unknown】






 流石南の島。時差というものの関係かはたまたご都合主義か、船は夜だった時間が、南の島に着いたときには真昼間になっていた。
 他のツアーと比べると、確かに場所が全然違う。
 船を下りたあやことコータは、南の島の暖かさにある種の感動を覚える。
 そんな二人の前に、白い顔した血色の悪い青年が、不機嫌そうに立っていた。
「この腕時計は、君たちが遭難しないようにする装置だ。失くさないように」
 Dr.ミューゼンは、ぶつぶつと文句を垂れ流しながらも、あやことコータにそれぞれ腕時計を渡す。
「あたしはそんなもの無くても大丈夫だけど」
 迷ったら羽を使って飛び上がって港まで戻ればいいと単純にあやこは言う。
「受け取らないならば、立ち入りは許さない」
 南の島での服装ばかりに気を取られ、船上パーティでの正装をすっかり忘れていたあやこは、実質食いっぱぐれている。
「折角だから貰っとくわ」
 オシャレというには程遠い腕時計をはめて、あやこは早速飛び上がり、港から去っていく。
「凄いなぁあの人」
 コータは文字通り飛んでいったあやこの軌跡を見つめ、Dr.ミューゼンに向き直った。
「この腕時計、ほかに機能とかあるの?」
「安心したまえ。ボタンを押したらビームなどという余分な機能はつけていない」
「……あ、そうですか」
「この島は見た目以上に広い。遭難した時、この腕時計を失くしていたら救助されないと思え」
「はい。心しておきます!」
 Dr.ミューゼンの言葉に、コータはノリでびしっと痙攣して、ついつい「行ってきます」などと挨拶して駆け出してしまった。
(そいやビームのほうが楽しそうで良かったけどなぁ)
 Dr.ミューゼンが余分だといって省いた機能に浪漫を感じつつ、コータは巨大フルーツおよび南の島を満喫するためのプランを練り始めた。
 あやこは高く手ごろそうな枝にトンと降り立った。
 器用にバランスを保ちつつ、麦藁帽子の角度や被り具合を確かめ、直す。
 ブン…と、虫が自分の目の前を飛んでいく。微かな音だけを数回ならして、完全に姿も音も消えうせる。
「刺したらコロスからね!」
 虫語もできるあやこは、音と虫の大きさから蚊のような虫が飛んでいたと当たりをつけて叫んだ。人の耳にはあやこが変に叫んだようにしか聞こえないが、虫には効果覿面なのだろう。
 正直虫語なんてものがこの世にあるのかどうか疑問に思うところだが、コンピュータの0と1のやり取りを言語と言うように、虫特有の羽音の重なりによって交わす意思疎通などを言語と呼んでいるのだろう。
 程なくして完全に羽音は消え去り、あやこの周りは木々の葉がこすれ合う音だけが耳に入ってきた。
 あやこは額に手を当てて巨大フルーツを探す。
「分かりやすいわね」
 幹や木の高さは多分一般的フルーツと変わらないように見えるが、その木がつけている実の大きさは半端なくでかい。
 普通のりんごでも1つ食べればそれなりにお腹が膨れるものだが。ならば、この視線の先に見えているあやこの頭ほどの大きさ……いや、それ以上の大きさのりんごはどれくらいお腹に溜まるのか。
 あやこは腹持ちしやすいりんごから視線を外し、別のフルーツを探す。どうせなら普段なら高くてあまり変えない部類のフルーツとか、手に入りにくいフルーツがいい。
「やっぱりメロンよメロン!」
 開けた広場に広がる緑の蔦。その隙間から顔を出すしわくちゃの球を見つけ、あやこは背中の羽を広げ、枝から飛び上がった。
 一方コータは行ってきますと出てきたものの、何処へ行こうか未だ思い悩んでいた。
 とりあえず目の前に広がっているのはジャングル……だと思う。
 やはり真夏の楽園と言えば、ジャングルの民だ。三段論法で攻めるには明らかに真夏の楽園とジャングルの民の間に何かしらキーワードがないとつなげにくいと思うのだが、コータの頭の中では完全に真夏の楽園=ジャングルの民の図式が出来上がっていた。
 ジャングルの民といえばやることは一つである。
 コータはジャングルの中へと足を踏み入れると、手ごろな蔦を探して当たりを見回した。
 多分、通常の状態であったなら、こんな行き先が良く分からないジャングルで適当に歩くなどできるはずも無いが、遭難の心配がないと思うと気も大きくなる。
「これがよさそうだな」
 ビンビンと引っ張ってみても簡単には切れず、枝か幹かにしっかりと巻きついた蔦を見つけ、コータはにっと笑う。
 蔦の端を手に持って、届く範囲ギリギリのところまで下がる。そして、地面を蹴った。
「あ〜〜ああ〜〜〜〜〜」
 別段何も気にしていないのに無意識にそんな叫びを発しながら、コータは蔦にしがみつき、ジャングルの民よろしく振り子のように木々の間を跳んでみる。
 満足な跳び具合を手に入れるために何度か試していると、運動神経のいいコータは正にジャングルの民とでも言うように木々と木々の間に垂れる蔦を飛び移りながら移動が出来るようになった。
「お♪ あれはなんだ?」
 うねうねと曲がった木の枝に登ったコータは、視線の先に何やらフルーツらしき実を見つけ瞳を輝かせる。
 世界全体で見れば日本で食べることが出来るフルーツ…というか木の実の量はそう多くない。
 コータの前にもそんな見たことも無い大きな木の実がぶら下がっていた。
「もちろん食べるしかないな」
 コータが、そんな未知の木の実との邂逅を果たした頃、あやこも巨大メロンの園に到着していた。
 確かに一般的メロンと比べれば大きいが、巨大と言うほどではない。
「ちょっと拍子抜けね」
 想像よりも小さなメロンでも、メロンであることに代わりは無い。あやこは手ごろな熟視具合のメロンを探して園を歩く。
「うわっと」
 きょろきょろと辺りを見回して歩いていたせいか、直進の注意が散漫になっていたらしい。
 見上げれば、山1つ。
 よくよく見れば、どこかで見たことがあるような模様を持った緑の山。
 あやこは考えた。この模様を何処で見たのかと、足元に転がるのは大きなメロン。
「これよこれ! 私が探してたのはこんなメロンよ!」
 腕を組んでとたんにキラキラを撒き散らすあやこ。
 かまいたちの魔法でメロンを一刀両断すれば、甘い芳醇な香りが辺りに広がっていった。
 まず匂いをひとしきり楽しむと、あやこはまた魔法でメロンを食べやすい大きさに切断する。
「これを器にすれば世界一のフルーツポンチが出来るかしら」
 正直的な話、メロンは器に適しているが、器として扱うのならばかまいたちの魔法では中をくりぬけない。
「挑戦することに意義があるのよ!」
 あやこはぐっと拳を作ると、世界一のフルーツポンチを作るための材料を集め始めた。
 さて、コータの未知の木の実がどうなったかと言えば、
「なかなか悪くない味だった」
 美味しく腹の中に納まっていた。
 巨大なだけになかなかに腹に溜まったが、そこはフルーツという範囲、デザートは別腹精神で次のフルーツ探しへと繰り出す。
 コータの考えは、どんなフルーツが狩れてもとりあえず食べる。
 普通に知っているフルーツは、大きくなったからといって味が変わるわけではない。それくらいなら不思議フルーツを食べたほうが面白さも倍増ってなものだ。
 新たなるフルーツを探して歩いていたコータの目の前に、洞を作るように幹をくねらせた木が眼に飛び込んできた。
 コータの口からはあくびが一つ。
 タンタンと軽い足取りで木に近づくと、寝心地がよさそうな洞にもたれかかった。
 いつだったかに流行った映画に、無人島にかつての恐竜を復活させたものがあった。この南の島は、舞台となった無人島に良く似ている。
「これで恐竜でもいたら完璧だよなぁ」
 コータはついそんな事を口走ってしまった。
『分かった。では用意してやろう』
「え?」
 救助用にと渡された腕時計からDr.ミューゼンの声が突然響く。
「腕時計型携帯電話…?」
 コータは突然のことに、あははと笑いながら腕時計を見つめる。
 だが、それっきりDr.ミューゼンの声は聞こえてこない。
 どうしたものかとコータはぽりぽりと頭をかいた。

ドドドドドドドドド――――……!!

「!!?」
 無数の足音と、吹き上がる砂煙。
 コータは音のする方へ振り返り、この場所にいては危ないと判断するや、近場の木に即効でよじ登る。
「これからって時になんなのよー!!」
 足音に混じって聞こえたのはあやこの叫び声。
 世界一のフルーツポンチを作るために森に戻ったあやこは、何の因果か偶然か恐竜たちの爆走コースに足を踏み入れ、そのまま追かけられてしまったのだ。
「うわぁやっぱり凄いなぁあの人」
 コータは木の上から全速力で走るあやこを見下ろす。
 追いかけているのはヴェロキラプトルだろうか。あの鉤爪で襲われたらひとたまりも無い。
 危うきは触るべからず。コータは額に扇を作ってあやこの走り先をただ見守る。
 これからどうなるのかなぁ。などと他人事のように考えていると、
『タイムリミットだ』
 今度は腕時計からではなく、島全体にDr.ミューゼンの声が響き渡った。
 その瞬間、あやこを追いかけていた恐竜は一瞬にして消え、あやこはへなへなとその場に座り込む。
 ブーンと小さなプロペラ音を伴って現れたナビマシンに連れられて港に戻る。
「いやぁ楽しかったな〜」
 知らないフルーツも堪能したし、ジャングルの民の真似事もした。嬉しいことに恐竜にも出会えたし。と、コータは大満足で船に戻った。
 あやことしては、ツアーに行くと決めたときから、あれをやろうこれをやろうと考えていたが、思っていた以上に時間は早く行過ぎてしまった。
「もっと時間があれば良かったのに」
 あやこは一度島に振り返り、また来れたらいいなと思いながら船に戻ったのだった。







【Dear Friends】





 寝ることはいつでもできる! と、コータは船に戻るや、興味がある船の仕事をこの機会に少しでも知ろうと、船員に声をかけた。
「船の仕事…ですか」
「うんうん」
 コータは期待いっぱいの眼差しでスタッフを見る。
「とりあえず、この船は豪華客船ですので、私のように表に出ている者はホテルのボーイとそう変わらないと思います」
「航海士みたいなことはしないの?」
 レーダーを監視したり、舵を取ったり…そんな仕事の話が聞ければなぁと仄かに思っていたコータは、ちょっとしょんぼり肩を落とす。
 確かに、この船、中だけ歩いていると船の中とは思いがたい。
 コータは捕まえたスタッフにお礼の言葉を述べると、船が東京に着く間、船を動かしているスタッフを探して船中歩き回った。



















★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


☆サイコマスターズ☆

【0803/チェンファン・リー/女性/22歳/ハーフサイバー】


☆東京怪談☆

【7061/藤田・あやこ(ふじた・−)/女性/24歳/IO2オカルティックサイエンティスト】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【4778/清水・コータ(しみず・−)/男性/20歳/便利屋】


☆聖獣界ソーン☆

【0929】
山本建一――ヤマモトケンイチ(19歳・男性)
アトランティス帰り(天界、芸能)

【2470】
サクリファイス(22歳・女性)
狂騎士

【2919】
アレスディア・ヴォルフリート(18歳・女性)
ルーンアームナイト

【2872】
キング=オセロット(23歳・女性)
コマンドー


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■         ライター通信          ■
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 Trouble×Travel Xmasにご参加ありがとうございました。ライターの紺藤 碧です。
 実質現地にたどり着くまでの時間というものは考慮していないわけですが、クリスマス1泊(徹夜)旅行楽しんでいただけたら幸いです。
 初めまして! ノミネートでのご参加ありがとうございました。コータ様の服装はお任せだったので、固くなりすぎない正装を…と探しまして、タイリボンを活用させていただきました。服装に女性のような華やかさはないのですが、さりげないオシャレを探すのが実は密かに楽しかったです。
 それではまた、コータ様に出会えることを祈って……