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<東京怪談・PCゲームノベル>


みどりの黒髪


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此処に男の影が二つ。


「さて…此処までにしようじゃないか」

黒い空気が渦巻いて、木の葉をかき混ぜながら消え入った。舞い上がった木の葉が、今一度、地面に乾いた音を立てて着地する。そんな木の葉は一枚だけではなく、何枚も何枚も、降り注ぐ。…後数歩行けば、立ち入り禁止と恐らく赤い文字で描かれている看板の向こうへ行けた。だが、其の先は樹海と同じように、草の波がうねり、木の幹は意思を持った化け物のように目の前に立ちふさがる深い森。
追い詰められた方の男は、月光の灯りの所為だろうか、青白い顔で対峙した黒いスーツの男…黒澤一輝を見つめている。脚はガタガタと震え、使い物にはなりはしない。

「よく動けたもんだ、褒美に…」

追い詰められた男は、許しを乞う様に口を緩ませた。
追い詰めた男、黒澤も同様に…、口元を緩める。

「一瞬で殺してやる」

月の光を鋭く反射する、黒い塊が森を背にした男に突きつけられる。男がひゅっと、冷えた空気を一気に肺へと含んだ時だった。

ガゥン!!!

と、大きな音。焦げた匂い、立ち上る煙は黒澤の手の内にある黒い塊の先から排出されている。森を背にした男は…、肺に含み暖かくなった空気を再び外の世界へと開放していた。目を目一杯に広げて、がたがたと大きく震える肩を抑えるように手を添えている。…男の直ぐ傍、木の幹からか細い煙が上がって消えた。
黒澤は、何故だか男から離れている。先ほどまで、二三歩歩けば黒澤の銃口は男の額に冷やりと、硬い感触を与えられる事が出来る程の距離に、居たはずなのに。

「……どういうつもりだ」

まずは煙を上げる銃口を、男の方にではなく、黒澤は森のほうへと向けた。見据える暗闇の中には、弓を構えた女が木々の葉から漏れた微かな月光の中に居る。影に入り込み、全貌は見えない。年齢も定かではないが…

「それは此方の台詞じゃ!殺しなど…何を考えておる!」

訛りの強い声で、歳若い女だという事が判った。黒澤はそれでも、変わらず銃口を女に向けたままだ。

「……邪魔をした、って事は…だ」

ぽつりと、黒澤が女への返答とは全く違う言葉を口にする。影の中でも判るほどに、女は不可解そうな雰囲気を出していた。それにもお構いなしに、黒澤は言葉を続ける。

「それなりの覚悟はあるんだろう?」

黒澤は懐へと銃をしまい、代わりに別の物を其の手に握っていた。月は真上に、降り注ぐ月光を浴びて、きらと光るのは鏡のような面を持つ、ナイフ。刃渡りは20cm程だろうか、大型の物だ。

「あんたも、覚悟はあるんじゃろうな」

それは、女と対峙するという事だろうか、人を殺すという事だろうか。
黒澤は少し考えがちに視線を伏せたが、すぐに暗闇の中の女へ、すっと煌く切っ先を差し向けた。…戦闘開始の合図。





シュンと、黒澤のすぐ脇を鋭く細長い矢が通り過ぎて行く。暗闇から放たれる矢は中々見えず、寸前で避けるしか手立てはない。さて…どうやって、あの女を光の元に晒そうか?

キィ…ン

危ない。つい、考えすぎてしまった。寸での所で、矢をナイフで弾き返した。弾き返した矢は直ぐに霧散する…、普通の矢ではないらしい。だが、相手は人間だろう。あの厄介な弓を、どうにかしなければ。中々の弓の腕前、暗闇から的確に黒澤が此方へと向かえず、尚且つ、脚を狙って撃って来る。寸分狂わぬ狙いだ。

「…」

黒澤は目を細めた、葉の隙間から漏れた月光の中で長い髪が揺れている。女がまた、撃って来る。此方をぐっと睨み据えているだろう。これは、絶好のチャンス。

ぐっと、爪先に力を入れて黒澤は立ち止まる。またも矢が放たれようと言う時に、足を留めるのは危険行為だ。判っているのか、いないのか、黒澤はナイフを持っていない方の手を懐に突っ込んだ。確りと掴み、握り、腕を回してアンダースローで暗闇の中へと何かを投げ入れる。矢は、まだ暗闇から出ていない。

「っ?!」

女が小さな悲鳴を上げた、それと同時に


シュン!と、花火でも上がるような細い音と共に激しい閃光が暗闇を照らす。辺りは一瞬、一面真白の世界となった。黒澤は、自ら投げた線光弾から目を逸らす様に、背後を向いていた。投げた場所から一歩も動いては居なかったが、矢は飛んできた気配は無い。主の動揺と閃光に驚いて、逃げてしまったのだろう…普通の矢でないなら。

さあ、闇の中から引きずり出そうか。

黒澤は猫のようにしなやかな足取りで、茂みを駆け途惑いうろたえる細い影の傍へと忍び寄る。女の手元が光る、微かに照らされた顔立ちは思った通りに若い。眉間に刻まれた皺は、微かな光でも深く見えるほどはっきり見えた。あからさまな敵意に、黒澤は少し口端を上げ、同時にナイフを持つ手は女の弓の弦へ。

ピン、と琴の弦を弾いたような音が森に響く。

「な」

女が一言発した後に、微かな光は霞と消えた。真暗な中、傾いてきたのだろう、葉を掠めるように入ってきた月光がきらりと反射するナイフの刃を捕らえた。刃は女の首元に。月光は女の手元も晒していた、女の手の甲にはキラと光る一筋の線。

「チェックメイト」

「…ゲーム感覚で、人を殺すんか」

どうやら、試合終了の言葉を女は気に入らなかったようだ。淡々とした声が返ってきたが、端々には隠し切れて居ない怒りが滲み出ている。そして、抗う気は無いのか、女は使い物とならなくなった弓を潔く茂みへ放った。

「少し、お喋りをしようじゃないか」

ひたりと、女の首筋に当てていた刃を遊ぶようにひっくり返すのを繰り返した。女は緊張しているのだろう、ごくりと唾を飲み込んだ。それ以上動きはしない。

「仮の話だが――…そう。…とある一家が居たとしよう」

「聞く気は」

「一家は幸せだった、5人家族でね、両親に兄、姉、妹って構成だ」

女が制するように上げた一言を黒澤は一蹴りする事もなく話を続ける。女は納得がいかないように、顔を黒澤から背けた。

「だが、一人の男が現れてから、それは変わる」

「…」

「まずは父親の友人を使い父親を騙す、多額の負債を負わせた。そして、今度は母親に……」

一つ一つの、エピソードを黒澤は糸を紡ぐように話していく。

「最後、どうなったと思う」

「…仮の話、じゃろう」

「どうなったかって聞いてるんだ」

黒澤の言葉に、女は黙り込んだ。静かな森に、時折風が地面すれすれを駆け抜けて行く。

「父親と母親は今度は騙す側に回るんだ、自分の子供をな」

「どう、言う事じゃ」

女は黒澤の言葉の意味が判らないようで、顔を背けたままに黒澤へと問いかけた。


「最後の最期、無理心中、子供を騙して。その時の気持ちは、どうだったんだろうな」

俺には判らないが…お前、わかるか?


首を傾ぎながら、黒澤は女へと問いかけなおした。女は思わず黒澤の方へと顔を勢いよく向けてしまったようだ、首元に当てられているナイフの刃が、彼女の薄皮を傷つけた。

「しかしな、両親は少し計画が甘かった。辛うじて、末の娘が生き残っちまったのさ」

まだまだ続く話に、女の眉間は深いものとなって行くのが微かな月光でわかる。

「その末の娘は、どこぞの伝から暗殺を依頼した。金を積んでな。両親が買った一軒家を売り払った、なけなしの金で」

「……」

「もしもの話だが、あそこで哀れにも…気絶しちまってる男、あいつが、其の家族をそんな目に追い込んだ奴だとしたら…」

顎をしゃくって、黒澤は女に示す。男は黒澤が発砲した時、既に気絶していたのだろう。ぐったりとしたまま、ぴくりともしていない。

「それでも、あの男を守りたいと…思うかい?」

「それ、は……」

怒りの声は今では困惑しか見受けられない、女は明らかに動揺し、次の言葉を生み出そうと口を動かすが、声にはなっては居らず。

「正義感を向ける相手は、よぉく、考えてからにしな」

…その言葉の直後に、鈍い音と、どさりと茂みに倒れこむ影が続く。数分後、がさりと、茂みを掻き分けて歩む足音は、ゆっくりと気絶している男のほうへと向かって行った。





翌日、とあるオフィスビルの食堂には鳩尾部分を痛そうに擦る一人のOLの姿があった。一つにまとめた黒い髪は、少々乱れ、小さな葉の欠片が紛れ込んでいた。女は苦しげに顔を顰め、背を丸めている。

「うぅ…思い切り、殴られた……」

OLにあるまじき独り言を良いながら、コンビニで買っただろう弁当に箸をつける。食堂近くの売店で買ったのだろう、思い出したように箸を咥えたまま新聞を広げた。

「……」

かつん、と硬い物がぶつかる音がする。女の口からは箸が消えていた。箸は、床に転がっているが、それを気にする暇も無いように、翠の双眸は新聞へと大きく開かれ注がれていた。

「なん、て…事」

記事の見出しは、新聞一面に躍っている。

【――大企業の代表取締役が殺害、金銭目当てか、怨恨か―】


隅に楕円で囲われた枠の中には、どこかで見た顔が、無表情で女を見ていた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 7307 / 黒澤・一輝 / 男性 / 23歳 / 請負人 】

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■         ライター通信          ■
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■黒澤・一輝 様
こんにちは、初めましてライターのひだりのです。此度は発注有難う御座います!
緊張感を感じる話運びにしてみましたが、如何でしょうか。
楽しんでいただければ幸いです。

これからも精進して行きますので、機会がありましたら
是非、宜しくお願い致します!

ひだりの