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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


さよならお母さん

「とりあえず、今の状態のユリに小太郎を会わせるわけにはいかん」
 小声で武彦が呟いた。もちろん、ユリに聞かれないための配慮だ。
 その意見には周りにいた冥月、魅月姫、シュライン、あやこも同意する。
 今、ユリと小太郎を会わせれば何か面倒臭い事になることは間違いない。
「今のユリに小太郎を会わせると、二人とも混乱しそうだからな」
「ですが、記憶を戻す為のきっかけになるかもしれません」
 思案顔の魅月姫がユリの記憶を戻す為の案として言葉を続ける。
「記憶と言うのは一つ一つ孤立している事は稀です。一つの事柄に関して、特定してそれだけを消すと言うのは無理がありますから」
「ユリちゃんが笑うようになったのも小太郎くんのおかげ……。今の彼女が明るい顔を見せている原因は小太郎くんにあるのよね」
「と言う事は、今のユリは自分の性格が変わった原因を把握していないってこと?」
 あやこの推測に魅月姫は頷いて答える。
 原因の無い事に結果は出ない。しかし今の所、ユリはその原因について考えている風にも見えない。
「そう言う術がかけられている、と言うよりは元々無かった事にされているのでしょうから、自分は気付かない性格が変わった、ぐらいに認識しているのでしょう」
「だが小太郎と会わせれば何か変わるかもしれん、か。ありえない話では無さそうだが、今の時点では何かと不都合があるな」
 影の中に匿われたままの小太郎は、今ユリの身に起きている事を知らない。
 記憶を失くされたユリは、小太郎の事すら知らない状態だ。
 だとすれば、今二人を会わせても面倒なことにしかならない。最初の認識と何ら変わらない。
「だから、今の所は小太郎をユリには会わせない。この件は二人に状況を説明してからだろ。まずは生首をどうにかする事を考えてくれ」
 武彦に言われ、全員が思考を切りかえる。
 この事件も大詰め。面倒事を増やして良い事はない。
「……みなさん、何を話してるんですか? 何か相談なら私にも……」
「いや、お前には関係無い事だ。それより生首の話だが……」
 怪訝そうな顔のユリが尋ねかけてくるが、冥月がなんとか誤魔化した。
 ユリもそれ以上追究せず、冥月の誘導で一行から離れた。
 安堵の溜め息をついた武彦は他の三人を見ながら確かめるように言う。
「とりあえず、早いところ生首をどうにかしてから、ユリの事を考えよう。あぁ、もぅ、面倒事ばっかり増やすガキだな! くそっ!」
 面倒事には職業柄慣れているはずだが、どうにも胃にダメージが来そうな武彦。
 それを気遣うシュラインも苦笑気味だった。

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「ええと、じゃあユリにも今回の件、手伝ってもらう事になるが、構わんな?」
「……はい。もう敵に捕まるような真似はしません」
 強い視線のユリを見て、武彦は一応頷く。
 ユリの能力は『魔力塊』である生首を相手に、最大の防御になる上に最強の攻撃にもなり得る。
 それを使わない手はない。
「だが、生首が佐田と同じ能力を持っているってのも気になる。もしかしたら別の能力でこっちに何かしてくるかもしれないしな」
「……私が確認した限りですと、北条さんの能力は持っていました。あ、と言っても誰かを操るモノではなく、妖魔を召喚使役する方でしたが」
「でも佐田を殺した時は誰かを操る能力を使ったんだろ?」
「……お母さんも誰かの能力をコピーする時、かなり劣化するみたいなんです。それは佐田よりのモノよりも激しく、人の精神を操る程度の能力まで高度化されるとコピーできなかったみたいで。佐田を殺害する時には北条さんの声を佐田の所まで運ぶ係を請け負っていたみたいです」
「う〜ん、なんだかわからんが、人を操る能力が使えないって言うなら好都合だな。一応、あらゆる能力の可能性を考慮して作戦を立てようか」
 魔法に対してあまり知識の無い武彦が一度話を切り上げる。
 とりあえず覚えておくべき事は、生首は色々な能力を持っていると言う事と、北条のように誰かを操る事は出来ないと言う事。
 そしてこれからやるべき事は生首を捕まえる事だ。
「……まずはお母さんを見つけるところから、ですね」
 ユリが言うのに、全員が頷く。
 とは言え、北条の持っていた符によって何処かへ飛ばされた生首。
 先程の戦闘において、突然の出現に魅月姫も冥月も気付けなかったとなると、影や魔力による索敵は出来ないと見ていいだろう。
「何かからくりがあるのかしら?」
「大した事では無いでしょう。魔力が薄くなりすぎて魔力で探知出来ず、実態も薄れて影が出来ないから影でも探れないと言う事です」
「そこまで弱ってるとなると、どうにか自分の体を保持する必要があるわよね」
 シュラインが地図を広げて唸る。
「この辺りに霊力や魔力の溜まり場があればそこにいるかもしれないわ」
「と言っても某オカルト雑誌なんかを見てると、心霊スポットやなんかでもわんさとあるわよ。ここから特定するのは無理じゃない?」
 月刊アトラスを開きながらあやこが言う。
 確かに、この辺りには大小問わず、心霊スポットやなんやがバカみたいに多い。
 その手の事件もひっきりなしに起きているし、その内の一つに生首がいたとしてもそれを探し当てるのは骨が折れるだろう。
「でもだからと言ってこのまま放っておいたら、生首はパワーアップして帰ってくるんじゃないかしら?」
「周囲から魔力を吸収できるとしたら、十分安定した状態でこちらに向かってくるのは考えられます」
 ユリを一時的にでも囲っていたなら、魔力吸収の能力も持っている可能性はある。
 それを使って広範囲から魔力を吸収していたなら生首が存在安定する魔力を溜めるのもそれほど遅くはないかもしれない。
「早くしないと状況が悪くなる、でも相手の居場所はわからない……って言うならおびき出してみるってのはどうかしら?」
 あやこが得意気に提案する。
「おびき出すってどうやって?」
「あの生首は北条に随分ご執心みたいじゃない? 愛するあの人が捕らえられてるってんなら躍起になって取り返しに来るはずよ。だから北条を餌にして一本釣りよ」
「でも北条はもうIO2に渡しちゃったわよ?」
「ちょっと借りるぐらいなら問題無いでしょう。私たちの捕り物ですしね」
 言いながら魅月姫は指をパチンと鳴らす。
 その瞬間、一つの魔法が繰られたのだが気付いたのはほとんどいないだろう。
「北条は一応、手札に加えておきました」
「……バレなきゃ良いけど」
 武彦に負けず劣らず、シュラインもちょっと胃痛を覚えるのだった。

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「北条を使っておびき出すのは良いが、どうやってそれを生首に教える? 魚だって餌に気付かなければ食いつきはせんぞ」
 冥月の尋ねにもあやこはニヤリと笑って返答する。
「それはほら、人海戦術よ。まずは撒き餌で近くまで誘うの」
「人海戦術ったって、今から人を集めるのは難しいだろ」
 武彦が首を捻る。
 黙って北条を手札に加えた以上、IO2のエージェントに頼るわけにもいかないし、今から人を集めろと言われても難しい。
「今回の撒き餌に人間様なんて上等な餌を使う必要はないわ。不恰好な練り餌でも良いのよ。つまり式神や使い魔に似た物を使えば良い」
 そう言ってあやこは近くに小妖怪を呼び寄せ、幾つか組み合わせた後に粘土のようにこね、出来あがったのは小太郎に良く似た何か。
「魔力の低い私でもこれぐらいの事は出来るわ。コイツを操って町に放って生首を近くまで引き寄せる。それからは北条の姿を見せればすぐに引っ掛かるだろうって事」
「小太郎の魂を欲しがっていた北条、それに与していた生首。小太郎のダミーに釣られる可能性はある、か」
「そうでなくとも、北条を殺すとでも嘯けば、慌てて出てくるかもしれませんね」
「でしょ!? コイツらをめぼしい所にばら撒いて、そして生首を誘い出すのよ!」
 悪い作戦ではない。むしろ成功率は高いように思える。
 とすれば使わないなんてありえない。
「そうと決まれば、この小太郎ダミーを大量生産しますか。手伝いますよ、あやこさん」
「魅月姫さんがいりゃ大量生産も楽ね。……あれ、これはなにか売り物に出来ないかしら」
「今は商売根性は隠しておけ。とりあえず生首をどうにかする事が最優先だ」
 武彦に言われて、あやこは小太郎ダミーの作成にそそくさと戻った。

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 影の中に匿われたままの小太郎の元に、冥月とシュラインがやってくる。
 それに気付いた小太郎は慌てて二人に駆け寄り、つかみかかる。
「おい、結局どうなったんだ! ユリは無事なんだろうな!?」
「小太郎くん、落ち着いてよく聞いて」
 シュラインが小太郎と視線を合わせて、ゆっくりと話す。
「ユリちゃんは、今の所貴方の事だけを忘れさせられてる」
「…………は?」
 怪訝そうな顔で、アホのような声で問い返す小太郎。
 すぐには理解できないようだ。
「俺の事だけを忘れてる……ってどういう事だよ?」
「言葉通りだ。今までユリと一緒に居た私たちの事は覚えているのに、お前の事だけ忘れてるんだよ」
「なんでそんな事に!?」
「知らん。北条にでも聞け」
 混乱して自分の思考を落ち着ける事もままならない小太郎。
 だがそれも仕方ないのかもしれない。唐突にこんな事を言われてすぐ理解しろと言う方が難しいだろう。
「ユリが……俺を忘れた?」
「魅月姫の言う事には、どうやら普通の記憶喪失とは違うようだがな」
「能力を使って記憶を失くされた、とか。普通の記憶喪失のように『イヤな事があって記憶に蓋をした』とか、『忘れるように暗示をかけられた』ワケじゃなく、完全に欠落したみたいだから治すのにも手間がかかるらしいわ」
「それでもまだ戻せる可能性はあるみたいだけどな」
 冥月とシュラインに言われた事を一つ一つ噛み潰し、よくよく味わって飲みこむ。
 しばらくした後、小太郎は二人を真っ直ぐ見て尋ねる。
「それでも、体に異常はないんだな? 俺の事を忘れてるだけで、無事なんだな?」
「……そりゃ、まぁ」
「怪我は見当たらなかったみたいだけど」
「だったら……今の所はそれで良い」
 小太郎は苦笑を零しながらそう言った。
 だが明らかに覇気がない。落ちこんでるのは目に見えている。
「……そう気落ちした顔をするな」
「気落ちするなって方が無理だろ。正直、俺はどうしたら良いやらわからねぇよ」
 正直な気持ちを吐き出した小太郎。
 そんな彼に向かってシュラインは肩を軽く叩く。
「ユリちゃんが小太郎くんの事を忘れていたとしても、消されてない事だってあるわ」
「……消されてない事?」
「彼女の記憶にはない事だけど、小太郎くんと一緒に居る事でユリちゃんは笑顔になれたし、アレだけ人と慣れる事が出来たんだと思う。最初に会った時は今のように友好的な態度とは言えなかったもの。今のユリちゃんも変わっていないと言う事は、小太郎くんがユリちゃんにしてあげたことが全く無くなってしまったわけじゃないわ」
「俺が、ユリにしてあげた事……」
「貴方の事を大切に思っていたユリちゃんは完全に消えたりしてない。だから、あまり無茶な行動は控えてね。ユリちゃんが元に戻った時、小太郎くんがいなかったらきっと彼女も悲しむわ」
 最近は自重しているようだが、小太郎の無茶は未だに目立つ。
 それに対して釘を刺すような言葉になってしまったが、小太郎は素直に頷いた。
 そんな小太郎の頭に冥月が手を置く。
「私もアイツの記憶を取り戻したいとは思う。今まで散々趣向を凝らしてお前らをからかってきたのに、小太郎関連の事を全て忘れられた、となると私のやった事も全て徒労になるからな」
「……師匠。ちょっとは空気読めよ」
「冗談だよ。……ぶっちゃけた話、小僧はユリの事をどう思ってるんだ?」
 そんな風に尋ねられ、小太郎は逡巡した後に、やけに晴れやかな顔で答える。
「多分、好きなんだと思う。今までユリが大事で、守ってやりたくて、妹みたいな存在だと思ってた。けど急に落っことして気付いた。……これが恋ってヤツなのかな」
 遅すぎる恋の自覚。
 それでも相手はそこにいて、自分もここにいる。
「だったら、これからまた仲良くなって、良い思い出を作っていけば良い。まだまだお前たちには長い時間があるんだしな。相手がいれば何度だってやりなおしは利くさ」
 そう言った冥月は、少し遠い目をしながらも小太郎の頭をガシガシ掻き回した。

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「……かかった!」
 目を瞑りながらダミーの操縦に専念していたあやこが声を上げる。
 言わずもがな、生首がダミーと言う名の餌にかかったと言ったのだ。
「真っ直ぐこっちに向かってるわ。劣化しすぎて考えも単純になってるのかしら」
「ですが、それはそれで好都合です。早速返り討ちにしてやりましょう」
 意気込む魅月姫を傍目に、ユリが胸の前で手を合わせる。
「……お母さん」
「心配か?」
 ユリに武彦が近付き、尋ねる。
「……アレはただの作り物だと言う事はわかってますし、元々お母さんとの思いでなんて全くないはずなんですけどね」
「それでも人はやっぱり母親が恋しいんだよ。こりゃきっと、本能ってヤツで自分一人の力じゃどうしようもないんだろうな」
 武彦はユリの頭を二度軽く叩き、彼女の傍から離れた。
 辛いなら見なくても良い、と背中が語っていたが、それでもユリはこの場を離れるわけには行かなかった。
 今、彼女はIO2エージェント。罪を犯したモノを捕まえなければならない立場に居るのだ。
 ここで逃げ出すわけには行かない。
 逃げ出せば、誰かに笑われる気がする。
「……逃げたりしませんよ、私は」
 強い視線で空を仰ぎ、ユリはそう呟いた。

 空から急降下してくる物体一つ。
 飛来してきたそれは見紛う事無く、生首。
 それを確認した瞬間、魅月姫が打って出る。
 まだ距離の遠い事から、魔法弾を放ち、打ち落とそうと試みるが、しかし失敗する。
 生首は周りに妖魔を展開させ、目隠し及び盾として用いる。
「妖魔召喚が即ち自身の命を削る事を理解しつつ、術を使いますか」
 魔力の行使はそれが全て生首の寿命を削る事に直結する。
 それは生首がただの魔力塊ゆえの定め。
 だがしかし、そんな事を気にする素振りもなく、生首は一直線に北条の元へと一直線に飛ぶ。
 魅月姫の魔法で呼び寄せた北条は今、気を失った状態で地べたに座らされている。
 わざと生首から見える場所に置き、敵を誘い出す魂胆だったのでこれは大成功だ。
 しかし北条を取り返されると意味はない。故に生首を北条に近づけさせるつもりもない。
 生首と北条の間に、ユリが素早く入りこみ、アンチスペルフィールドを展開する。
 それに気付いた生首は、あのフィールドに入りこめば必殺になると直感で理解し、すぐに真上に向かってまた急上昇する。
 そして一度ユリを睨み付けた後、妖魔を二体召喚する。
 今までとは比べ物になら無いほどの大きさ。恐らくそれだけ一個体の強さも高いのだろう。
「待ってました!」
 だが、それを見てあやこがニヤリと笑う。
 今まで待機させていた大勢のダミー。それらを妖魔の一体に飛びつかせ、そして妖魔と融合を開始する。
 元々小妖怪を変異させた物であるダミーは、今の所あやこの支配下に置かれている。
 それらが妖魔の中に大量に取り込まれた事によって、妖魔の支配権は半分以上あやこに移った。
「よしっ、完全にとは言えないけど、一匹ゲットしたわよ!」
 思い通りに動かせるとまではいかないが、敵の戦力を一匹分削る事は出来た。
 そんな乗っ取り劇の傍らで、魅月姫が妖魔に向かって魔力弾を撃ち、妖魔の上半身を弾けさせた。
 恐らく生首の最強戦力であった二つの妖魔をいとも簡単に制圧してしまった魅月姫とあやこ。
 その姿に、だがしかし生首は臆する事無く、またも北条に向かって突進する。
 だが、今北条はユリの張っているアンチスペルフィールドの内側。彼に触れる事すら叶わない。
 それがわかっていてなお、生首は北条に近付かずにはいられない。
 目に見える距離にいるのに触れられない。話す事も叶わない。
 大切な人が捕らえられているというのに、助ける事もままならない。
 それがもどかしくて、辛くて、悲しくて、生首はどこまでも真っ直ぐに北条へと向かう。
 しかし、それを魅月姫が阻む。
 魔法による障壁で生首を取り囲み、完全に行動不能にする。
「これでお終いです」
 魅月姫はすぐに自分の右手に、自分の背丈よりも少し短いぐらいの大剣を作り出す。
 魅月姫の奥の手にして必殺の武器。闇の御劍。
 それに切り裂かれた物は存在を闇に食われ、絶命と言うよりは消滅させる剣。
 その巨剣を、魅月姫は軽々振り回し、生首に向かって上段に構える。
「北条さん……北条さん!!」
 迫る魅月姫に目もくれず、生首は北条に向かって呼びかけるばかり。
 そして、それに気付いた北条も目を覚ます。
 今の状況を一瞬で理解したか、それともただ単に静の姿が目に入ったからか。
「静さん!!」
 北条も生首に向かって手を伸ばす……が、次の瞬間には漆黒の剣が振り下ろされていた。
 肉を割く音も無く、ただ虚空を斬ったかのような剣閃。
 だがそれにより、確かに一つの存在が闇へと消えた。
「静さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 北条の叫びもまた、虚しく響くだけだった。

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「よぅ、どうした」
「あ、武彦さん」
 戦場の後に一人佇むシュラインに、武彦が近寄る。
「さっきの戦いの事、魅月姫さんやあやこさんに聞いたんだけど……」
「ああ、そうか」
 まるで恋愛モノの今生の別れのシーンのような最後。
 それを聞いて、シュラインは少し胸に痛みを覚えた。
「あの生首……もし静さんになれたとしても、北条は静さんだけを見て、生首自身を見る事は無かったんでしょうね」
「それだから、あのシーンも寒々しかったんだよ。エゴイストの男に尽くす女の死に際って感じか」
「それでも生首だってこの世界に生まれて、ちゃんとした意識を持って存在していた。……彼女は何を思って短い生を終えたんでしょうね」
 そんなシュラインのセリフを聞いて、武彦は黙って煙草に火をつけた。
 そして一度ふかし、煙を噴き出すとほぼ同時に呟く。
「何を思っていたか、なんて今更知る術も無い。それに生首は敵だった。敵を不必要に慮れば命取りになる。……今は生首の事を考える必要は無いさ」
「……それでもそうせずにはいられないのよ。あの生首にも確かに『想い』があった事、忘れたくはないわ」
「だったらそうするが良いさ。お前一人でもあの生首を想ってやれば、それだけ救われるだろ、アイツも」
 武彦の煙草の煙が、送り火のように空に昇っていった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【4682 / 黒榊・魅月姫 (くろさかき・みづき) / 女性 / 999歳 / 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】
【0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【7061 / 藤田・あやこ (ふじた・あやこ) / 女性 / 24歳 / IO2オカルティックサイエンティスト】

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■         ライター通信          ■
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 シュライン・エマ様、シナリオに参加してくださり本当にありがとうございます! ピコかめです。
 ちゃんと終わらせられて良かった……。全話通して参加してくださり、本当に、本当にありがとうございました!

 ちょっとは意識して作ってみた事でしたが……まさか生首の事を考えてくださるとは!
 なんだかちょっと嬉しいぞっと。
 やっぱり悲恋はいいなぁ……。
 ではでは、ホント、ありがとうございました! 気が向きましたら次回もよろしくどうぞ〜。