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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Merry Christmas in TOKYO

「今年もこの季節が来たなぁ……」
「そうですね。でも、クリスマスって何だかウキウキしませんか?」
 蒼月亭のカウンターの中で、チラシを見ながら話しているのは、マスターのナイトホークと従業員の立花 香里亜(たちばな・かりあ)だった。
 チラシは、篁コーポレーションの会社の敷地内でやる「クリスマスマーケット」の案内だ。去年から始まったイベントなのだが、日本で言うところの神社のお祭りのように出店が出たりしていて、蒼月亭でもそれに参加している。
 だが、今回はそれがメインではない。
「クリスマスパーティーって、何するんでしょうね?」
 今年のクリスマスマーケットの最終日、25日にはクリスマスマーケットの会場を使ってパーティーが行われるらしい。香里亜はナイトホークからチラシを受け取ると、書いてある言葉を読み上げる。
「クリスマスマーケットを会場にした、クリスマスパーティー……参加費用は500円の募金と、ちょっとしたプレゼントを用意すること……何だか面白そうですね」
「ランダムにクリスマスのプレゼント交換とかするのかね。それはそれで面白そうだけどな」
 きっと蒼月亭にくる客は、こういう催し物が好きだろう。参加するかどうかは別として、案内だけは壁に貼っておいてもいいかも知れない。そう思っていると、香里亜がニコニコ笑ってナイトホークの顔を覗き込む。
「ナイトホークさんは、どんなプレゼント用意するつもりですか?」
「……秘密」

◆【諸人こぞりて】

「さて、何を作りましょうか」
 蒼月亭でクリスマスパーティーの案内を知ったデュナス・ベルファーは、家に戻って考え込んでいた。
 パーティーには香里亜を誘ったのだが、香里亜はクリスマスマーケットに出店している蒼月亭にいるらしい。
「休憩時間とかありますから、その時は一緒に回りましょう」
 香里亜へのクリスマスプレゼントは別に用意したので、それはその時にでも渡せばいいだろう。何だかやっぱり緊張しそうであるが。
「問題は、交換用のプレゼントですよね……」
 誰に渡るか分からないプレゼントなので、色々考えた方がいいだろう。フランスにいた頃は、ドイツ国境付近に住んでいたこともあって、クリスマスマーケットは毎年の楽しみだった。自分達でリースを作ったり、ツリーの飾り付けなどもやっていたのが懐かしい。
「久しぶりに、オーナメントを作ってみましょうか」
 子供の頃は自分で藁を編んで星や天使などのオーナメントを作っていた。太蘭の家なら藁があるので、それを分けてもらえばいいだろう。
 猫に邪魔をされつつ何度かやっていると、きちんと手が覚えていたのか、藁で作ったとは思えないような細工のオーナメントが出来はじめてきた。小さなブーツも、ちゃんと作れている。
「クリスマスって、どうしてこんなに楽しいんでしょうね」
 平和だからこそ楽しめる行事。宗教的なものでなくても、自分が大事な人にプレゼントをあげたりするだけでもいいものだ。そんな事を思いながら、デュナスはオーナメントのセットを作っていた。

☆【ジングルベル】

「デュナスさん、お手伝いありがとうございます」
 クリスマスマーケットに出店している蒼月亭で、デュナスは何故か店の手伝いをしていた。一緒に仕事をしているのは楽しいし、香里亜には友達が多いので一緒に見たいという人もいるだろう。個人的なプレゼントは後で渡せばいい。
「子供の頃から、クリスマスマーケットのお店の人になりたかったんですよ。去年はドクターと飴を売っていたんですけど」
「あ、何故か片言で喋ってましたよね、デュナスさん」
「そう言えばそうでしたね」
 片言の日本語の方が本場っぽいとか言われて、やらされた覚えがある。出来ればなかったことにして欲しいのだが、多分印象強いのだろう。何となくそれを誤魔化すように、デュナスは電飾がついていない所に光の粒をつけ、疑似イルミネーションを作ってみせた。光を操る能力だが、これぐらいならそんなに疲れないし、蒼月亭の看板にもなるだろう。
「悪いな、デュナス。やっぱこの時期はバイト増やすかな……」
 ナイトホークはコーヒーを落としたり、ホットワインを作ったりするのに忙しい。その時だった。
「あ、香里亜っちー。お店の調子どう? いいなー、カップル」
「いらっしゃいませ、桜さん……か、カップルだなんて」
 そーっとやってきたのは、桜だった。ローストチキンを頼む桜に、デュナスがそっとココアを差し出す。
「桜さんは今回もドクターの護衛ですか?」
「ううん、別の仕事。ドクターはドクターでエンジョイしまくってるわ」
 そう言って振り返った視線の先には、サンタの格好をした雅隆達が子供達に囲まれていた。確かに一番楽しんでると言えなくもない。
「そうですか、お仕事頑張って下さいね。ココアはサービスです」
「ありがとー。寒いし、カップル多いけど頑張るわ」
 そういうと、桜はチキンの入った箱とココアを持って小走りに戻っていった。何だか大変そうだが、それでもやはりどことなく楽しそうでもある。
「私も桜さんに負けないように、頑張ってお仕事しますよー」

「いやー、それにしても賑やかねぇ」
 参加料がかかったり、プレゼントの用意があったりするので人出は少ないかと思っていたのだが、クリスマスマーケットだけでも楽しみたいという人も多いようで、結構辺りは賑やかだ。これは注意して見張らねばと思っていると、隣にいた葵がチラリと桜を見る。
「その抱えてる箱は何ですの」
 ふう、と呆れたような溜息に、桜はしっかりと箱を抱え、一口肉をかじった。
「いいじゃんチキンぐらい! 私も楽しみたいもん……あ、食べる?」
「食べませんわよ。そんな事して、慌てても知りませんわよ」
 葵の視線の先を見ると、雅輝が歩いているのが見えた。普段は秘書の冬夜を連れているのだが、今日は一人でいるらしい。桜は慌てて、チキンの箱を後ろの立食テーブルに置いた。
「やあ。二人ともご苦労様」
「お疲れ様です。今のところ異常ありませんわ」
「お疲れ様でーす……って、雅輝さんそんな薄着で」
 遠くにいると気がつかなかったが、雅輝はスーツのままだ。
「コートとかどうしたんですか?」
「オフィスから様子を見に来ただけだからね。すぐ戻るから大丈夫だよ」
 確かにビルはすぐ側だが、白い息が何だか寒そうだ。桜はふぅと息を吐くと、自分のしていたマフラーを雅輝の首に巻いた。
「もう、昔からそゆトコ無頓着ですね。これ使って下さい」
「ありがとう」
 その笑顔に、桜は突然我に返る。つい自然に自分のマフラーを巻いてしまったが、これって結構大胆なのではないだろうか。思わず辺りを確認し、店にいたデュナスと目が合い何故か焦る。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
「そ、それじゃ失礼しまふ」
 ほんの少しの時間なのに、何だか緊張してしまった。それに気付いたように、葵が肩を叩く。
「良かったですわね」
「ななな、なんのこと?」
 何かして話を逸らさねば。そう思った瞬間、少し遠くから声が上がる。
「ひったくりー!」
 どうやら人出の多さに便乗しようとする者が出たようだ。声の上がった方向に桜は葵と走る。
「葵ちゃん、武器持ってるかも知れないから気をつけて」
「了解ですわ」
 犯人の顔はちらっとだけど見た。大急ぎで駆けつけると、何故かデュナスが犯人の手を後ろに捻り、葵が髪の毛で武器を絡め取っている。
「デュナスっち、どうしたの?」
「いえ、食器を取りに来たら、何かに足を取られたみたいになっていたんで」
 もしかしたら、影で助けてくれたのだろうか。そんな事を思いながら、桜はレシーバーで本部に連絡をした。

◇【サンタが街にやってくる】

 大きな花火と共に、わあっと歓声が上がった。
「皆さんこんばんはー。サンタでーす」
 そう言ってステージ上で手を振るのは、サンタ姿の雅隆だった。隣には天使の仮装をしたコマドリとトナカイの仮装をした仁己が一緒だ。
「兄、俺ここまでするって聞いてない」
「うん、だって言ってないもん。トナカイは、サンタの言うことを聞くものです」
「ちょ! 労働条件に入ってない」
 雅隆は仁己の抗議を聞き流し、プレゼント交換の説明をし始めた。
 この会場にいる人たち全員でやるのは大変なので、あらかじめある程度グループに分けてあり、それをステージ側でくじにしているらしい。
「ランダムなので、もしかしたら自分のが戻って来ちゃうかも知れないけど、その時は近くの人と交渉してねー。んじゃ、行くよー」
 そのアナウンスに、蒼月亭にいた香里亜やアリス、魅月姫、デュナスなどもステージの近くに出てきた。すると近くにシュラインと武彦がいるのが見える。
「こんばんは。なんだかみんな揃っちゃったわね」
「皆さん会場にいるみたいですよ。ほら」
 デュナスとアリスが、会場にいる人たちを探した。悠宇と日和は暖かい物を飲みながらステージを見ていて、冥月は少し離れた場所でパーティーを眺めている。翠は太蘭と一緒にナイトホークに何かを頼んでいる。桜と葵は巡回がてら裏手で手伝いをして、店の物がほとんど売れてしまった隆一はフォークギターを持ってステージの側にいた。
「プレゼントもらった人は、ステージから少し離れてね」
 雅隆はどんどんくじを引いていく。すると、翠が持って来た「季節外れの花の詰め合わせ」が出てきた。
「えーっと赤ナンバーの五番ー」
 しばらく会場がざわつくと、ステージの上で仁己が雅隆の肩を叩く。
「兄、それ俺だ」
 普段無機質なパソコンばかりの部屋にいるので、花というのは何だか珍しい。ステージ上にいたトナカイが花を持つ姿に、翠がホットワインを飲みながらクスクス笑う。
「私のが最初に行くとは思ってなかったな」
「あの花、どうやって咲かせた?」
 ナイトホークの質問に、翠は「秘密です」と答える。その間にもプレゼントは着々と交換されていた。どうやら全く知らない間柄での交換ではなく、顔見知り同士が交換できるように雅隆が調整していたらしい。
 桜の「お菓子フィギュアフルセット」は、ナイトホークの所に行った。
「うっ、マスターの所に行くと思ってなかったわ」
 雅隆の所に行ったら喜ぶかと思っていたのだが、もらったナイトホークは苦笑しつつもそれを大事そうに受け取った。
「俺が買わないのに、フィギュアが部屋に増えるのはどうしてだろう」
 シュラインの「クリスマス風ミニ熊手」は桜に渡り、シュラインの手元には葵が持って来た「エコバックと入浴剤のセット」が行った。Nightingaleの二人とプレゼントなのがなんだか不思議な感じで、シュラインは裏で手伝いをしている桜と葵の所に行く。
「桜ちゃん、良かったらお部屋にでも飾ってね。葵ちゃんからの入浴剤も、この季節には嬉しいわ。ありがとう」
「飾るスペース作って、お正月まで飾ります。開けるの楽しみー。葵ちゃんは入浴剤だったのね」
「ええ。暖まりそうなものを選びましたの」
 ステージではまだ交換が続いていた。
 アリスの番号が呼ばれステージの方に行くと、それはクリスマス柄の透明袋に入った「手作りのスコーンとアーモンドトフィーのセット」と「来年のアドベントカレンダー」だった。
「これをくださった方に、お礼をしたいです」
 するとステージの側にいた隆一が、そっと手を上げた。アリスは嬉しそうに近づき、ぺこりとお辞儀をする。
「ありがとうございます。大事にしますね」
「ああ。カレンダーはギャラリー常連の絵本作家が作ったものだから、来年楽しんでくれると嬉しい」
 悠宇と一緒にステージを見ていた日和には、雅隆が選んだ「お菓子入りの靴下」が行った。靴下は雪の結晶が編み込まれていて、壁に掛けて飾っておけそうだ。
「はーい。サンタさんからのプレゼントでーす。美味しいお菓子ばかりだから食べてねー」
「ありがとうございます」
 悠宇の元に行ったのは、太蘭が作った「ネズミの土鈴」だった。きっと来年の干支にかけてあるのだろう。悠宇は日和と一緒に、蒼月亭の前にいる太蘭の方に礼を言いに行く。
「これ、大事にします。良いクリスマスを」
「喜んでくれればそれが一番だ。実は、クリスマスに何を作ったらいいか分からなかったんだ」
 日本の風習には詳しいのだが、太蘭にとってクリスマスはやりなれない行事らしい。それでもやっぱり、同じ場所にいて何かを交換できるのはそれだけで楽しいし、嬉しい。
 そうしていると今度は日和が作った「掌サイズのテディベア」が、太蘭の所に行った。
「あ、その包装……」
 テディベアは、クリスマスなので背中に白い羽と頭に輪がついている。それを見た太蘭は、感心したように目を細めた。
「初瀬殿は裁縫が上手だな。大事に飾らせてもらおう」
「そうしてくれると、嬉しいです」
「良かったな、日和」
 きっと太蘭なら大事にしてくれるだろう。そう思うと、心の何処かが暖かくなるような気がする。
 ステージの下にいた武彦は、もらった可愛らしい封筒を開けて不思議そうな顔をした。
「『情報何でも一つだけタダ券』? これは誰のだ?」
 実はステージ上にいる仁己が持って来たプレゼントだ。情報屋が、大事な情報を一つタダで渡すのは実は結構大きい。カードには、一回きりの使い捨て連絡用アドレスが書いてあった。
「探偵の武彦さんには役立ちそうなプレゼントね」
 シュラインにそう言われ、武彦は笑って頭を掻く。
 実は封筒を受け取ったのは、この会場の中にもう二人いた。隆一がもらったまっさらな封筒の中には、冥月の「整体療法券」が入っていた。これは体の構造・骨格を知り尽くした冥月が一ヶ月かけて全身の歪みを完璧に治すという、ある意味豪華なプレゼントだ。
「疲れた時にでも使おうか」
 連絡先を見て隆一が小さく笑う。冥月もその様子を影で確認しているので、顔などはしっかり覚えた。ギターを弾いているのなら、その辺りの疲れをほぐせばいい。
「ねえ仁己、『草間興信所相談券』って、何に使えばいいの?」
「……俺と同じようなこと考えるのって、他にもいるんだな」
 武彦の相談券は、コマドリに行ってしまったようだ。それを見た武彦が頭を抱える。
「うわー、何かやっちまったって気分だ」
 出来ればあまり難しくない相談がいいのだが、コマドリは「鳥の名を持つものたち」の一人なので覚悟はしておこう。ある意味さっきの情報券が使えそうではある。
「私の所に来たのは、香里亜のプレゼントみたいね」
 魅月姫が受け取ったのは、香里亜の「毛糸の帽子とクッキー」だった。帽子は手編みで、雪のように白いモヘアで出来ている。
「魅月姫さんに行くなら、黒っぽい色でも良かったかな」
「白も素敵だわ。早速被ってみようかしら」
 サイズも丁度良く、暖かい。魅月姫は少しだけ微笑み、入っていた袋を大事そうに畳む。
 アリスの「陶器製の猫の置物」は冥月の所に行き、魅月姫の「ガラスのペーパーウェイト」はデュナスの所に行った。自分のプレゼントがちゃんともらわれたことを確認するために、アリスは冥月の所に近づいていく。
「これはアリスのプレゼントか?」
「はい。自分で初めて買った物なんです」
 そんなアリスに冥月はふっと微笑み、大丈夫というように小さく頷いた。
「大事にさせてもらおう。ありがとう」
 デュナスがもらったペーパーウエイトは、魅月姫の細工で暗いところで淡く光るように細工がしてあった。
「それはドイツの物なのよ。クリスマスマーケットだから、そうしてみたの」
「素敵ですね。机の上に置いて使います」
 ドイツ国境近くの出身であるデュナスにとっては、何だか懐かしい物だ。机の上に置いて、手紙を書く時とかに使うのはいいかも知れない。
 プレゼントはかなり少なくなってきた。翠の番号が呼ばれステージの方に行くと、ステージの上にいたコマドリが包装された「天使の人形」を手渡した。見た目は普通の少女だが、エネルギーの流れなどが普通の人間ではない。生体部分と機械の部分がある。
「クリスマスプレゼントをあげるのは初めてなの。大事にしてね」
「ええ、大事にしますよ。貴女の名前を教えて頂けますか?」
 少女はコマドリと名乗った。翠は何かを考えつつも、表情には出さずに元いた場所に戻っていく。
「まあ、聖夜に聞くのは野暮ですね」
 それはまた別の機会に聞いたりしよう。時間はまだたくさんある。
 デュナスが作った「藁で編んだオーナメントのセット」は葵の所に行った。小さいが、しっかりと出来ているオーナメントに葵は嬉しそうに笑う。
「クリスマスが終わっても、飾っておきたいですわ」
 もらった人が喜んでくれると、あげた方も嬉しい。デュナスはホットワインを飲みながら、嬉しそうに白い息を吐く。
 こっそり参加していた雅輝が選んだ「フランスのチョコレートとピンブローチ」は香里亜がもらい、ナイトホークの「自家焙煎コーヒー豆のセット」は雅輝の所に行った。
「あんまり面白味がないところに行ったなぁ。社長の所か」
「私は嬉しいですよ。チョコレート楽しみー」
 これで終わりだろうか。
 だがステージを見ていた悠宇は、不思議そうに首をかしげる。
「俺が持ってきたのは、誰に行ったんだろう」
 すると雅隆がステージから大きく手を振った。そこには悠宇が作った「シルバーの携帯ストラップ」の包みが握られている。雪の結晶と星のモチーフに、クリスマスカラーの赤、白、緑の石を組み合わせたもので、結構力作だ。
「サンタもプレゼントもらったよー。大事にするねー」
 それに悠宇も大きく手を振り返した。

◆【さやかに星はきらめき】

 プレゼント交換やパーティーが終わった後、デュナスは香里亜を送り届けるために蒼月亭への道を歩いていた。
「今日は楽しかったですね」
「はい。色んな人とプレゼント交換ってのもいいですね。もらったチョコレートに、どんな飲み物合わせようかな」
 手にはもらったプレゼントや、クリスマスマーケットで買った物が提げられている。デュナスは自分のコートのポケットに入っている、リボンつきの箱を探っていた。
 香里亜に似合いそうだと思った、磨りガラスのフロストピンクとパールのモチーフがぶら下がるタイプのイヤリング。好きなブランドは知っているので、色々悩んで買ったものだ。
「香里亜さん、私からもクリスマスプレゼントです」
 小路を曲がり、蒼月亭の看板が見えたところでデュナスは立ち止まり、そっと箱を差し出す。箱の柄で、香里亜はどこで買ったのか分かったらしい。一瞬驚いた表情をした後、ぱあっと笑顔になる。
「わあ、すごく嬉しいです。開けてみてもいいですか?」
「ええ。同じデザインの物を持っていたら申し訳ないんですが……」
 何だか緊張する。箱の中を見た香里亜は、イヤリングを一つ手で持つと、自分の耳に合わせてみせた。
「似合います? この色も好きなんですよ。ありがとうございます、大事にしますね」
 どうやら、持っているものとは被っていなかったようだ。渡せたことにほっとしていると、香里亜はイヤリングを箱にしまって少しだけデュナスの先を歩いた。
「私もデュナスさんにプレゼントがあるんですけど、家に置いてあるんですよ。良かったら、お茶でも飲んでいきませんか?」
「えっ?」
 実はデュナスは香里亜の部屋に入ったことがない。
 別に入ったからと言って何があるとか言うわけではないが、突然の言葉に思わず慌ててしまう。とは言え、ここで帰ってしまうのは失礼だ。
「ただいま帰りましたー」
「お邪魔します」
 今には炬燵があって、部屋は整頓されている。キョロキョロするのも何なので、所在なげに炬燵に足を入れると、香里亜が自室の方に入った後、紙袋を持ってデュナスの向かいに座った。
「はい、デュナスさんにクリスマスプレゼントです」
 中に入っていたのはVネックのセーターだった。色はグレーで、ワイシャツの上からも着られるぐらいの厚さになっている。
「手編みなんですけどデュナスさんを驚かせたくて、サイズはナイトホークさんを参考にしたんです。着てみてくれませんか?」
「あ、はい……」
 サイズは丁度良かった。ふわっと暖かくて、何だか少し笑ってしまう。
「どうですか? きつかったりしません?」
「丁度いいですよ、ありがとうございます。大事に着ますね」
 そう言うと、香里亜は安心したように炬燵から立ち上がった。
「良かったー。あ、実は昨日のうちにケーキを焼いてあるので一緒に食べましょう。コーヒーで良いですか?」
「は、はい。何でもいいです」
 あんまり幸せすぎて、揺り返しが来るのではないだろうか。
 目が覚めたら夢だったりはしないだろうか。
 セーターを脱いで丁寧に畳んだ後、デュナスは炬燵の中で自分の足をつねってみたが、痛みも暖かさも、確かに現実のものだった。

fin

◆登場人物(この物語に登場した人物の一覧・発注順)◆
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
6392/デュナス・ベルファー/男性/24歳/探偵兼研究所事務
3524/初瀬・日和(はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
7173/島津・仁己(しまづ・ひとみ)/男性/27歳/情報屋

2778/黒・冥月(へい・みんゆぇ)/女性/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒
7088/龍宮寺・桜乃(りゅうぐうじ・さくの)/女性/18歳/Nightingale特殊諜報部/受付嬢
4682/黒榊・魅月姫(くろさかき・みづき)/女性/999歳/吸血鬼(真祖)/深淵の魔女
6047/アリス・ルシファール/女性/13歳/時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者
6118/陸玖・翠(りく・みどり)/女性/23歳/面倒くさがり屋の陰陽師
7030/高山・隆一 (たかやま・りゅういち)/男性/21歳/ギタリスト・雑居ビルのオーナー

◆【個別】
☆【グループ・個別】
◇【集合】