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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


月刊アトラス・冬の心霊特集
●オープニング【0】
 どのような業界でも、やたらと仕事のための時間がタイトになる時期が大きく3つある。まずはゴールデンウィーク、次にお盆。そして――年末。
「ああもう……毎年のことだけど、忙しいったらありゃしないわね」
 思わずそう愚痴るのは月刊アトラス編集長の碇麗香だ。出版業界はこの時期年末進行に入っており、何かと前倒しのスケジュールを強いられてしまうのである。
 仮に、普段なら28日が締切の仕事があるとしよう。けれどもこの時期だと26日か27日に、いや下手するとさらに前倒しになることも何ら珍しくはないのだ。普段でさえ締切に追われているのに、それが早まるということはどれだけ肉体的・精神的に負担がかかることか……。ゆえに、麗香が愚痴ってしまうのも仕方のないことといえよう。
 そんな月刊アトラスでは今、新年1月発売の号での特集記事の作製が行われていた。傾向としては理論系の心霊特集だ。というのも、冬というこの時期だからこそそういうことが出来るのではないかと、編集部員から提案が出されたからである。
 夏場はやっぱり実地系な心霊写真とか心霊体験などを前面に出した方が目を引くけれども、冬場にそれをやってもどうだろうという疑問がその編集部員にはあったそうだ。そこで麗香は、様々な心霊研究家にインタビューを試みてそれを一度に掲載してみようかと考えたのである。
「猫の手も借りたいくらいだし……何人か、任せちゃいましょか」
 ここで先述の話題へと戻る。忙しい時期、仕事も各人集中しているため、麗香はインタビューの一部を誰かに任せることを決めた。振り分けられたのは、力場系心霊研究家と、心理系心霊研究家、そして逸話系心霊研究家という3人だ。
 手伝いの人数が集まれば分散して、少なければ全部を回ってもらうことになるだろう。ともあれ、手伝いに来る各人はどの心霊研究家にインタビューをしたいか優先順位を必ず決めてほしい。
 ちなみに……こういう心霊研究家を知っているというのがあれば、そこへ回ってもらってインタビューしてきてくれてもよい。特集記事が充実するのであれば、麗香も文句は言わないはずだ――。

●師走ですが来てみました【1】
「で、結局来てくれたのはこの3人、と」
 碇麗香は目の前に居る3人――シュライン・エマ、守崎啓斗、守崎北斗――の姿を改めて見直しながら言った。
「まあ師走だものね。皆忙しい中、よく来てくれたものだわ、ほんと」
 そう言ってくすりと笑う麗香。すると北斗がニヤッと笑った。
「やー、ほんとほんと。雑誌社も忙しいんだろうけど、一般市民も師走って結構忙しいんだよな〜」
 その北斗の言い方が微妙にわざとらしかったので、隣に居た兄の啓斗がちょいちょいと肘で突いてきた。
「あー、はいはい。謝礼の他に、ご飯上乗せするから」
 麗香も分かっていたのだろう、苦笑してそう付け加えた。
「お、やったぁ!」
「北斗!」
 喜ぶ北斗を思わず啓斗が窘めた。
「あなたもそれでいいわよね?」
「ええ。こちらの実益も兼ねさせてもらうんですもの」
 確認してきた麗香に対し、シュラインはこくんと頷いた。
「ん、何かそういう事件でも今受けてるの、草間?」
「いえ、別に今という訳じゃないんですけど……」
 言葉を濁すシュライン。ここ最近気になっていることが多いから、それらへの疑問に対する解消となるだろうかと思って『実益』という言葉を使ったまでのことだ。
「別に草間に取材に行ってもいいわよ?」
「でもそれやると、誰かさん不貞寝しそうですから」
 麗香とシュラインが互いに笑いながら冗談ぽく言い合った。
「ところで、取材に行くならテーマも決めていった方がいいのか?」
 そんな疑問を啓斗が口にする。と、麗香はすぐにこう返してきた。
「今回は、相手の言いたいことを第一に考えて取材してくれる? 雑多な意見を一挙に掲載……という名目の特集だから。でも、その場で気になったことがあったらすぐに突っ込んで聞いてみていいわ。それは取材する人の判断にお任せ。結果的にもし笑いの絶えない取材になっても、それはそれで構わないから」
 なるほど、何かしらテーマを決めてゆく必要がないのなら、比較的楽な取材かもしれない。
「まぁ、こっちがこれを聞きたいって思っても、研究家さんが他の話を持ってくる可能性だってあんだからな〜」
 納得といった表情を浮かべる北斗。麗香も大きく頷いた。
「よくあるわ、そういうこと。こっちが早く本題に入りたいのに、あそこのうな丼はどうだ、やれこっちのしゃぶしゃぶはどうだって話を延々と続けるのが居るのよ……」
 物凄く実感のこもっている麗香の言葉。これはそう遠くない時にあった出来事やもしれず。
「……と、愚痴はこのくらいにして、ちょうど3人だから1人ずつ回ってくれる? どこを回りたいとか、希望はある?」
「私は力場系……かしら?」
「あ、俺もそれだった」
「……逸話系だろうか」
 麗香の質問に、シュライン、北斗、啓斗が口々に答える。どうやらシュラインと北斗の希望が被ってしまったようだ。
「んじゃ、ここはシュラ姐に譲って、俺は残りの……何だっけ? それに回るかなー」
「心理系ね」
「そうそれ!」
 麗香のフォローに、びしっと指差して北斗が返した。
「力場系、逸話系、そして心理系と。それじゃあ各々の取材先と簡単な資料を渡しておくから、行く前に目を通しておいてね。あと、出る前はレコーダーも忘れずに」
 誰がどこへ行くかを改めて確認し、麗香は3人各々に資料を手渡していった。

●逸話とは馬鹿に出来ない【2C】
 啓斗が取材に向かった逸話系心霊研究家というのは、アパートに住む30代半ばの眼鏡をかけた男性であった。見た感じ、優しそうな雰囲気を醸し出している。
「狭くて散らかってますけどね」
 男性はそう言いながら苦笑する。
「いや、話さえ聞ければ、こちらは気にしませんので」
 啓斗はそう返して、ちらりと部屋を見た。足の踏み場もない、というのはまさにこの部屋のことを言うのかもしれない。そのくらい、部屋の至る所に資料やら何やらが雑多に積まれているのだ。
 ともあれ挨拶を終え、いよいよ取材開始。
「何でも心霊現象に対して、逸話を調べることでアプローチされているそうですが……?」
「ええ、元々僕はいわゆる民話とか昔話、そういったものが好きだったんですよ。そこに心霊現象への興味が合わさって、今みたいな仕事をやっている訳ですが」
 啓斗の質問に対し、そう答えて苦笑する男性。
「いきなり本題に入る前に、少し話をしましょうか。民話や昔話というものは、100%創作という訳でもなく、中には事実を交えて作られているものが存在しているのは分かりますよね。度合に応じて、伝説だとか由来譚などとも言いますが。これと同じことは、心霊現象にも当てはまると思うんです」
「というと?」
「例えばですね……ある場所で、女性の幽霊が頻繁に目撃されているとします。その時、その場所においてかつて非業の死を遂げた女性が居たという逸話があったとします。となれば、幽霊の女性というのは、かつて非業の死を遂げた女性ではないか……と関連性が浮かび上がりますよね」
「しかし、関連性が浮かび上がったからといって、それが真実とは限らないのでは?」
「もちろん。ですが、考察する入口にはなります。両者を詳しく調べて比較することにより、更なる類似性が見付かるか、反対にまるで類似性が見られないか分かることになるでしょう」
「なるほど……」
「ところがです。これはここ最近になって急激に増えてきたように感じるのですが、逸話が先行するタイプの心霊現象があります。ああ……心霊現象の少し手前というのも含まれますが」
「ひょっとしてそれは、都市伝説の類じゃ?」
 ピンときた啓斗が男性に言った。
「よく分かりましたね。そうです、都市伝説です。これは何も最近の話じゃありません。昔から存在しているんです。ただ今はIT社会、情報が一瞬にして日本中……いえ世界中に広がる世の中です。その情報伝達スピードは一昔前と比べ物になりません。だからこそ、急激に増えていると感じてしまうのでしょう。この都市伝説の場合、心霊現象というのは場所に依存することがぐっと少なくなります。場所が限定されるとしても、それはA県のB市……といった具合でなく、部屋の中だとか学校の教室であるだとか、『どこにでもある特定の場所』ということになります。もちろん都市伝説と呼ばれるもののほとんどは、真偽の疑わしいものなのですが……」
 男性はそこまで語ると、一旦口を閉ざした。
「そうではないものも、ある……と?」
 啓斗が静かに尋ねると、男性はゆっくりと頷いた。
「どうも語られることによって、心霊現象が起こることもあるようなんですよねえ。こうなってくると言霊の域に入るのかもしれませんが。この辺りは僕も、まだあれこれ調べている最中です。……あ、そうそう」
 何かを思い出したのか、男性はこんな話を始めた。
「逸話ですけど、場所や現象に対してだけではなく、物に対しても調べますよ。分かりやすい例だと、呪いのダイヤモンドなんてのがありましたね。あれも逸話を調べてみると、伝えられていることが実は本当は起こっていなかったりして、なかなか面白い部分もあるんです。他にも、ある物を持っていったためにその心霊現象が起こるようになってしまったなんて話もありますよね。まあそういうのは、何かを封じていたなどという逸話がその品物にあったりする訳なんですが。なので、どこかに出かけて古くからあるような物を見付けたとしても、無闇に動かしたり持っていったりはしない方がいいですよ。何が起こるか分かりませんからね」
「ふむふむ、無闇に動かしたり持っていったりはしない方がいい……と」
 男性の話を聞きながら、メモを取る啓斗であった。

●さあ、まとめましょう【3】
 3人は無事に取材を終え、編集部へ戻ってきた。
「お疲れさま。あとはインタビュー内容から記事を起こしてもらわなくちゃね」
 労いの言葉もそこそこに、そんなことを言い放つ麗香。驚いたのは北斗である。
「え、インタビューするだけじゃねぇの?」
「当たり前でしょ。ちゃんと話を聞いてきたのは1人だけなんだから、記事にまとめてもらわなくちゃ。ご飯も奢るんだしねえ」
 麗香がしれっと返す。
「……セットだと考えてなかったのか、お前は」
 呆れたようにつぶやく啓斗に対し、北斗は唇を尖らせた。
「インタビューして来てほしいって言われたら、誰だってインタビューだけと思うじゃん」
「何もインタビューを全部書き起こす訳じゃないから、頑張れば早く終わるわよ」
 シュラインがそう言って北斗を慰める。
「全部書き起こすとなるとね、凄く大変なのよ。何度も何度も同じ部分を繰り返し聞いて、前後の文脈からその箇所の意味を再確認してみたりとか。で、ようやく出来上がったものをインタビュー相手にチェックしてもらったら、あれはダメ、これは削れとかあったりもう……うふふふふ」
 ……ああ、何か過去にそういうことあったんですね、シュラインさん。軽く目が怒ってますよ。
 かくして編集部の机を借りて、記事を起こし始める3人。自分が聞いてきたことを他の2人にも話しながら、作業を進めてゆくのであった――。

●あくまで余談【4】
「……けど、俺の行った所、研究家なんて言う割にはやけに若かったなあ」
 作業中に北斗が何気なくつぶやいたのを、麗香が耳にして反応した。
「若かったでしょう?」
「資料に年齢なかったけど、20代半ばだろ、あれ?」
「あら、そう見えたの? まあ……無理もないわねえ」
「……若く見えるってことか?」
「一説には40代って話もあるわよ、あの先生。それは冗談としても、30代半ばか後半じゃないかしら」
「はあっ!?」
 さらりと言い放った麗香に対し、北斗は口をあんぐりと開けて唖然としたのだった……。

【月刊アトラス・冬の心霊特集 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全6場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ここに3つの心霊研究家のお話をお届けいたします。三者三様といった感じですが……結構色々と含めていたり。2008年の高原のお話の展開において、キーポイントになる事柄がいくつか入っています。今後の参考にしていただければ幸いです。
・この場を借りて2007年の高原のお話について少し。2007年は2006年に撒いた種を少しずつ育てていった期間だったと思います。あちこちのお話で、あれこれと伏線をばら撒いてます。その大部分を回収するのは恐らく2008年内になるでしょう。さて、どうなりますことやら……。
・守崎啓斗さん、37度目のご参加ありがとうございます。都市伝説は色々とありますよねえ。高原個人的には、こじつけが多いなあとは思っている訳ですが、中にはそうとばかりも言えないものがありますからあれなんですが。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。