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<WhiteChristmas・恋人達の物語>


聖夜


 家を飛び出し、携帯で呼び出されて向かった先で諭され、ようやく探しに出てから少し経った頃。
「……人、多いな」
 正確に言えば男女の組み合わせが……。
 室内にいた時はどうしてだかすっかり忘れていたが、周囲は矢張りクリスマス一色で恋人だらけなのだ。
 この中を一人で歩いているだけでなんだか挫けそうになってくる。
 それにまだ何を言えばいいかも考えていない。
 コートを羽織り直し、速度を落としかけていた歩みを元の早さに戻す。出てきた時は大丈夫だと思っていたのに、一人になった途端にこのざまだ。
 今の内に考えておいた方が良い。
 突然会ったりしたら、まともに話せなくなってしまいそうだったから。
「そうだ!」
 手に持っていた携帯電話の存在を思い出す。
 もっと早く思い出せば良かった。直接会って話をしたかったから出ないままにしていたが、どこで何時会うか程度なら連絡を取り合える。
 メールで送ってしまえばいいのだ。
 その間に覚悟を決めて、話すことを考えればいい。
 メッセージを打ち込むべく、道の端に寄って操作をし始めたその矢先。
「………!?」
 ここからそう遠く離れていない場所に、北斗が歩いているのを見つけてしまったのだ。



 一瞬頭が真っ白になる。
 予想外にも程があるだろう、急すぎて覚悟なんてまったく出来ていない。
 その結果、逃げるという選択肢を取ってしまった訳である。
 咄嗟に近くにあったコンビニに飛び込んみ、通りに面した本棚が陳列されている棚の前で頭を低くして、念の為に側にあった雑誌を手に取って立ち読みしている振りもしてみた。
 本越しに外の様子を伺うとちょうど北斗が前を通り過ぎるところで、ほっと胸をなで下ろす。
 いや、本当なら隠れずに待っているか、ここから出てて北斗の前へ行くべきだったのだ。
 慌てて本を閉じ、コンビニから飛び出すものの、人混みが多すぎるお陰で影も形も見えなくなってしまっている。
 今なら間に合うだろうか?
 幸い歩いて行った方向ははっきりと覚えている。マフラーを巻き直し、後を追いかけるとそう大した時間をかけずに見つけることが出来た。一人で歩いていたし、背も高い方だから簡単に見つかる。
 付かず離れずの距離を維持しながら様子を見ていると、辺りを見渡したり、時折ショーウインドウに目を奪われたりもしている。
 後を追うついでに北斗が見ていたショーウインドウを見てみると、当然と言えば当然のことだがクリスマスの一色の飾り付けが施されてあった。
 これで食べ物でも見ていたのなら、今すぐにすっ飛んでいって殴っていたかもしれないが……実際にそんなことはなく、ツリーとプレゼントの箱と服飾品が展示されているだけだに過ぎない。
 一体何を思ってこれを見ていたのだろうか?
 このまま追いかけるのをやめてしまっても、北斗なら何時も通り過ごしているのかもしれない。
 適度に遊んで、誰かに誘って貰ったりして楽しく過ごせるはずなのだ。
 そんなことを考えている内に、気分の下降すると共に足が重たくなり始め……―――




 視線を感じ振り返る。
 が、誰もいない。
 誰かに見られていると感じたのは、今日はこれで二回目だ。それもごく短時間の内に二度もあれば間違いでは無いだろうと確信出来てしまう。
 外へと啓斗を探しに出てきては見たもののどこにも居なくて、携帯でメールを送るも全くの無反応。あてもなく町中を探し回って短くない時間が経過し、ようやく気配を感じたと思えば姿は見えない。
 そんな時の出来事なのだから、近くに啓斗が居ると考えるのが妥当な線だ。
 おそらく近くにいて、こちらの様子を見ているに違いない。
「……ったく」
 後頭部を掻きながら、このままでは厄介な展開になりそうだと言うことだけは理解しておく。このまま無意味に時間を浪費したくはなかった。かといって啓斗が本気で逃げる気なら捕まえるのはとても難しい。
 もしも後ろにいたとすれば、二度目に振り返ったことで難易度が上がってしまったのは確定されたも同然だろう。
 すでにやってしまったことだが、もっと慎重に動けばよかった。
 物は試しと気づかない振りをしつつ歩き出すと、幸いなことにそう大して時間が掛からないうちに視線が背中の辺りへと戻ってくる。
「どーすっかなぁ……」
 何か策を練らないと上手く行きそうにないのは確実だ。
 向こうから来て貰うのが最も簡単だが、ここには啓斗の文通相手も居ないし、ましてや捕まえられそうな相手を呼ぶなんて論外にも程がある。
 つまるところ、自力で解決しなければならない問題だと言うことを理解する為だけに、無駄に頭を使ってしまったと言うことになってしまう。
 もう少し考えてみよう、何か手はある筈だ。
 例えばここで恥も外聞もなく啓斗の名前を叫んで様子を見てみる。
 怒って飛び出してくるかもしれないが……その後、ちゃんとした会話にはならない気がした。
 解りやすく買い食いをしてみる。
 これも確実に怒られるだろう。
 三番目以降も考えてみたが……何か違う。話をしたいだけであって、怒られたりしたい訳じゃないのだ。
 側にいるのに気づかないふりをしながら歩き続け、人混みから抜けた辺りでようやく考えが纏まり……上手く行くかは解らないが、その案を実行に移すことにする。
 ダメなら、また次の手を考えれば良い。
 願わくば、逃げる意思より探す意思を優先して欲しいのだが。




 人混みを抜けた辺りで突然北斗が走り出した。
「……!?」
 前だけを見て走り出す姿は、まるで誰かを見つけたようにしか見えない。
 見失う前に話すことを思い出し後を追いかける。咄嗟の判断であり、悩んでいた思考にはそれしか選択肢が浮かばなかったのだ。
 居なくなった辺りまで追いかけ、辺りを見回すが目に見える場所には影も形もない。
 気づいて巻かれた?
 導き出した答えはぞっとするような類の物だった。
 やっぱり追いかけない方が良かったのだろうか?
 俯きながらこのまま家に帰りたい気持ちで一杯になり、元来た道を引き返そうとすると慌てたような声が聞こえてくる。
「ちょっ、帰るなって!」
「・……」
 すぐ真横から、どうやら近くの塀の裏に隠れていたらしい。
 こんなに近くにいたのだ。
「―――っ!」
「待て! 逃げるな、逃げるなよ! もう追いかけっこは十分だ!」
 確かにそれに関しては同意しよう。
 色々考えていたからろくな時間を送れなかったし、居なくなった途端に感じたような不安はもう二度と味わいたくない。
「・……ん」
「ああ、よかった……」
 ほっと胸をなで下ろし、なにやら複雑そうな表情で視線を頭のてっぺんからつま先まで上下させたがすぐに元に戻る。
「……北斗?」
「や、なんでもない。それよか……何で隠れたりしたんだよ、携帯も出ないし」
 来るだろうと思っていた質問だが、答えを用意していなかった。
 理由は朧気にあるのだが、それを形にするまでは至っていない。それに気づかれていたとなると酷く居心地が悪く感じ、何も言えなくなってしまう。
 事はそれだけでは終わらなかった。
「あー……それにだ。兄貴が隠してたことか、怒った理由とかもう解ったし」
 気まずそうに後頭部を掻く北斗にカッと頬が熱くなる。
 怒りをぶつけてしまったのに、こうして追いかけてきた理由としては考えてみれば納得できてしまう。同時にすぐにここから逃げてしまいたくなったが、これ以上逃げても意味がない。
 どうにかその場に踏み止まることには成功したものの、それきり口は堅く閉じたままになってしまう。
「兄貴、聞こえてるか? なあって」
「………」
 更に黙り続けていると北斗も困ったように悩み始めたのに、何一つ言葉は出てこないままだった。
 こんな事ではダメだ。
 しばらくの間気まずい沈黙が続き、なんだか泣きそうになってきた。
 ぐっと拳を握る手に力を込めると北斗は何かを決めたように向き直り、ぽんっと頭に手を乗せてくる。
「……え?」
 こう返されるとは思っていなかった行動を取られ、呆気にとられながら顔を上げると、耳元でゆっくりとした口調で語りかけられる。
「…………ん」
 その言葉ですっかり落ち着いた。
 同じように言葉を返し、反応を待つとにかっと何時も通りに笑ってくれたことにほっと胸をなで下ろす。
 これじゃどっちが兄か解らないが……まあ今日はそれでも良いかとそう思う。
「じゃあ早く帰ろうぜ兄貴、俺すっげー腹減ってさ」
「ああ、帰ったらな。そのあと行くところがあるんだ」
「そ、そっか」
「約束したからな」
 並んで家路に付いたその数時間後、北斗が懸念していた通りのゴタゴタが起きるのだが。
 今はめでたしめでたしとしておこう。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554 / 守崎・啓斗 / 男性 / 17歳 / 高校生(忍)】
【0568 / 守崎・北斗 / 男性 / 17歳 / 高校生(忍)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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久しぶりの窓開けでしたが発注ありがとうございました。
一日遅くなってしまいましたが楽しんでいただけたら幸いです。