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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜自由なシンロ〜


 古くて使い込まれた教科書の、表紙を開いた一ページ目。
 そこに書かれた文字は暗唱できるくらいに何度も読み返しました。
  一、しょくぎょうは自由です。
  二、小学校をそつぎょうしてからえらべます。
  三、じょうけんが必要なしごともあります。
  四、選んだしょくぎょうからほかの物にはなれません。
 以下つらつらと書かれて居るのは、この世界の仕事に関して初めて習う基礎中の基礎となることです。
 沢山の人達は捨ててしまっただろう教科書を今でも大事に取ってあるのは、始めにこの本を開いたときに感じた事を忘れたくなかったからと、お守りのように感じていましたから、手放すなんて思いもつきませんでした。
 親しい友達数人と将来何になるかを話していると、決まってこの話をしてしまっては呆れさせたりしてしまったのも……今となっては良い思い出です。
 その友達の内一人は大統領になると言い、沢山の人に認められるようにがんばっています。
 もう一人は医者になると言って技術を学ぶために進学の道を選びました。
 それから肝心な事を忘れていました。私の夢は飛行機です。
 パイロットやスチュワーデスではなく、飛行機そのものになるがずっと昔からの夢でした。機械になんてと思う人もいるかもしれませんが、言いましたよね。
 この世界ではなんにだってなれるんです。
 それが、この世界の理なのですから。



 この世界では普通の職業とはまた違った条件が必要になりますが、あたしが選んだ飛行機と言う選択肢も立派な職業として選択肢の中に入っています。
 選んだ職業は友達にも話していたように飛行機ですけれど、実はもう一つ、どうしても悩んでいた職業がありました。
 空の青に近づきたかったのと同じぐらい、海の青から離れる事を選べません。
 飛行機になってしまえば空とコンクリートの上を行き来するだけになってしまいますから。そこで思いついたのは、空と海、どちらも選べばいいという事。
 初めて水上機を見たときは全身に鳥肌が立って、これしかないと確信しました。
 そして晴れて卒業し、これから一年ほどかけて肉体の適正を調べ、基礎知識を学んでいきます。
 専門的な知識を知るのは、難しくもありましたが楽しい方が遙かに勝っていました。これから私が就く職業だと思えば尚更です。
 カウンセリングの先生と何度もお話しして、どの機体を選ぶかも決めました。
 フロート水上機を目標としましたが、同じ科には大型の飛行艇を選ぶ人もいます。どちらも同じ水に浮く機体ですが、飛行艇を選んだ人はもっと何年もの時間が掛かるようです。
 私が選んだ機体は小型でしたし、適正具合も良い数値が出たようで早くから職に就けると言われました。
 ですが先生曰く、もっと時間をかければ、成長すれば水上機でも他の選択肢があると言います。この時も悩みましたが、あたしは映画の題材にもなったこの機体に心を奪われて居たので迷いはありません。
 無事研修期間を終え、次の段階に進む事が出来ました。
 生まれ持った体から、水上機に作り替えていくための準備期間へと。



 ここからは今までの比ではない程に大変な日々でした。
 あらかじめ体に会う機械を選んでは居ましたが、実際に体に合わせるには更に細かい調節が必要です。事前に教科書や講習ビデオで見て学んでいた事も自分の身に起こる事としては初体験でしたから。
 体が作り替えられるという知識は理解していましたが、知っては居ませんでした。
 手足が無い時期がその最たる時だと言えるでしょう。
 内蔵を作り替えるまでの世話は専門のスタッフの人が行ってくれましたけれど、ふとした拍子に手足を動かそうとしてしまうのです。
 精神科の先生が言うにはなれない内は頻繁に起こる事だそうで、医者の先生からはもっと進んでしまえばなれるとか。メカニックの人に至っては機体は手足を動かさないのがコツだとも聞かされました。
 先輩になる水上機の人の曰く、全員正しいと言われてしまい結局は時間が経って落ち着くのを期待するより他はないようです。
 暫く落ち着かない不安定さから換装が上手く行かない事もありましたが、そんな時にお守りにしていた教科書の事を思い出してようやく目が覚めました。
 水上機になる事はあたしの昔からの夢です。
 たとえて足を失い、血液の変わりに燃料が心臓……エンジンを動かしたところで何を迷う事があったのでしょうか?
 こうして地上で悩んで居る間に見る空と海は、初めて教科書を読んだ時以上に輝いて見えます。
 早く、あの青い空を飛びたい。
 早く、あの蒼い海に戻りたい。
 覚悟を決めてからは、本当にめまぐるしく、幸せな日々でした。
 思考する為の生態パーツを残し、内臓も飛ぶ為の機械へ取り替えられます。人間という枠組みではなくなるのですから、これで食べ物を摂取する必要もなくなります。
 目の変わりにレーダーがありますから視界にも困りません。
 全身が作り替えられるまでに、何十、何百回とシミュレーションで飛ぶ事も経験しました。
 現実とはまた違うのだろうとは思いますが、嵐の中や燃料がほとんど無いような状況での対処法、他にも過去に起きた事故などを学んだので前よりは遙かに度胸が付いただろうとは思います。
 専用に作られたプールで、フロートの取り付けの調整をしたときはこれでまた夢に近づけたのかと思いぞくぞくしました。
 それからここからも重要でしょう。
 あたしを運転してくれるパイロットともお話しすることが出来ました。
 初フライトは何十年と経験してきたベテランがしてくれるそうなので安心です。
 ゴーグルがとてもよく似合う人で、機体のそこの部分やフロート部分を撫でる手つきはそれだけで不安など無縁の存在と思えるぐらいでした。
 ベテランパイロットのお済み付けを得て、ようやく完成です。
 出来れば……という程度の希望で言った快晴の日を初フライトに選んでもくれました。
 日にち調整が大変だったようで、わがままを言ってしまったと思いましたけれど、パイロットの人はみなもの晴れの日だからと、今日の空以上に晴れやかな表情で笑ってくれたのであたしも本当に嬉しかったです。
 あたしを運転してくれるのがこの人で良かった。
 丁重に岸辺まで運ばれ、クレーンで湖の上へと下ろされます。
 プールとは違う水の質を懐かしく感じると同時に、支えていなければ僅かな揺れにも機体が揺れてしまい驚かされました。
 柔軟性がない為と、着水してすぐだからでしょう。
 幸い今日はそれほど風もありませんでしたから、すぐに落ち着くことが出来ました。パイロットの方に乗り込んで頂いていよいよ発進です。
「よーし、いいこだ。全て問題なし。いつでも飛べるぞ」
 取り付けられた器具を順番にチェックし、お褒めの言葉を頂きました。今日この時のために沢山の人達が安全に飛べるように手を貸してくれたのですから当たり前と言ってしまえばそれまでですが、改めて褒められるととても誇らしく感じます。 
「じゃあそろそろ行こうか。操縦は任せて、気持ちよく飛ぶことだけ考えればいいからな」
 安心させるためにかけてくれた言葉の効果は抜群でした。この人となら間違いなく気持ちよく飛べるに違いありませんから。
 ゆっくりと操縦桿を後ろへ引き、自然に動く体から余分な力を抜いて操るままに任せます。緊張していたのは物の数秒にも満たなかったでしょう。
 水を切り、前へと進むにつれて体が軽くなっていきます。
 鉄の翼で羽ばたく事は出来ないけれど、風を切り飛ぶことは出来るのですから。
 鼓動の変わりに響くエンジン音がとても心地よく、聞き惚れてしまっていましたから、水から離れた瞬間に聞こえた音はとても静かものでした。
 水滴を湖へと帰しながら飛び立つ事に成功し、更に高度を上げていきます。
「どうだ、みなも?」
 咄嗟には何も言えそうにはありません。
 初めて触れる本物の空は、シミュレーションとは比べようのない物でした。
 心臓があった頃ならどきどきしっぱなしだと答えたことでしょう。手足があればきつく握りしめていたかもしれません。
 ですが……口があったとしても、話せたかどうかは解りませんでした。ただもう少し落ち着いたのなら、この感動を何百分の一程度は伝えられるかもしれません。
 湖の青と空の蒼。
 この色は生涯忘れることはないと断言できます。
「さあ、もっと高く飛ぼうか」
 合図と共に雲一つ無い空を目指し、更に高度を上げていきました。
 空には一機。白い機体に青いラインが一本だけ入った水上機が飛んでいきます。
 青の中をまっすぐに。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1252/海原・みなも/女性/13/中学生】

→もしも、職業選択が自由で、その選択範囲が"すべて"だったら?

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

IF依頼、ありがとうございます。
もしもの世界、楽しんでいただけたでしょうか?