コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


【SMN】Mission MO-4「Hidden One」

依頼者:New Order
依頼内容:味方能力者の護衛
タイプ:オープン

依頼詳細:
「Void」が我が組織の「The Tag Team」を狙っているようだな。
 彼は我々にとっても貴重な戦力、ここで失うわけにはいかない。

 ついては、彼の護衛役を頼みたい。
 繰り返すが、彼は貴重な戦力であり、前線から遠ざけるという選択肢は実質存在しない。
 厳しい任務になるかもしれないが、よろしく頼む。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 エリィ・ルーは、「New Order」の「レヴ」から聞いた特徴を参考に、「TTT」の姿を探していた。
 年の頃は二十代の半ばくらいで、やや背は低いが引き締まった体躯。
 短く刈り上げた銀髪に白い肌、そして茶色い左目。
 右目の色は「誰が出てきているか」によって変わるが、テッドとティムの雰囲気は正反対なので、どちらが出てきているかはわざわざ目を見るまでもなくわかるらしい。

 そしてエリィが歩き回っていると、やがて一人のコートを羽織った銀髪の青年が目に止まった。
 身長は恐らくエリィとほぼ同じかわずかに高い程度だから、若い男性としては「やや背は低い」と呼ばれる部類に入るだろう。
「『TTT』というのはあなた?」
 エリィが声をかけると、その青年はきょとんとした表情で彼女の方を振り向き、にこりと優しげな微笑みを浮かべた。
「僕の護衛にきて下さった方ですね。僕は『TTT』のテッド、よろしくお願いします」
「あたしはエリィ、こちらこそよろしくね」
 そう言ってエリィがそっと右手を差し出すと、急に彼の青く澄んだ右の瞳が燃えるような赤へと変わった。
 ――「入れ替わった」のだ。
「エリィちゃんか。俺は『TTT』のティムだ、よろしく頼むぜ?」
 握手に応じた彼は、先ほどまでの礼儀正しく大人しかった様子とは全く異なる、陽気で豪快な「別の誰か」へと変わっていた。
「普段は退屈なんで俺は奥に引っ込んでるんだけどな。
 エリィちゃんみたいな美人が来てくれた日は特別だ」
「ありがとう。護衛と言っても、実際にはサポートするような形になると思うけど」
「ああ、それで十分だ。
 連中は俺を狙ってるようだが、この妖刀『紅朧』でまとめて返り討ちにしてやるぜ」
 サポートを煩わしく思うようなタイプでなければいいが、と思っていたが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
「頼もしいな。それじゃ、期待してるね?」
 エリィの言葉に、ティムは力強く頷いた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 最初に敵を見つけたのは、敵拠点に向けて密かに進軍中の宗周介(そう・しゅうすけ)たちの別働隊だった。

 大柄な人物が一人と、子供のような小さな人影がいくつか。
 遠くから見る限りでは、確かにそのように見えた。

 だが、敵が近づくに連れ、周介は自分たちが大きな勘違いをしていたことに気がついた。

 大きな人影と小さな人影が見えた時、彼らはその身長差から「大きな人影」の方を大柄な大人と考え、そこから逆算する形で「小さな人影」は子供程度であろう、と判断した。
 しかし、実際には「小さな人影」の方こそ普通の大人並みの大きさであり――「大きな人影」の方は、身の丈三メートル以上はあろうかという大巨人だったのである。
 当然、生身の人間でここまでの巨人がいるはずがない。
 周介が見た通りのことを報告すると、通信を受けた「レヴ」は一つ舌打ちをしてこう言った。
『十中八九それはナグルファル……恐らくドヴェルグ級だろうが、厄介なことにかわりはない。
 ドヴェルグまで突っ込んでくるとなると、周りの連中も霊鬼兵クラスかそれ以上の難物だろう。
 これは思った以上に面倒なことになった』
 なるほど、ナグルファルならあの身長も決して大きくはない――むしろナグルファルとしては小柄な方である。
「……持ちこたえられますか?」
 周介の問いに、「レヴ」は一つため息をついた。
『ナグルファルまで持ち出してきたとなるとなかなか厳しいな。
 だが、逆に言えばそれだけ拠点の守りは手薄になっているはずだ。しっかり頼むぞ』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 周介らのもたらした情報は、すぐに前線のエリィたちにも伝えられた。

「ちっ、ドヴェルグまで突っ込んできやがったか……予想外だな」
 つい先ほどまで自信満々といった様子だったティムの顔にも、さすがに焦りの色が浮かぶ。
「『中身』が誰かにもよるが、こいつはさすがの俺たちでも厳しいかもしれねぇな」

 旧IO2由来の組織が持つシルバールークやブラスナイトと異なり、ナグルファルはあくまで「搭乗者の能力を最大限に増幅する」ための「装備」である。
 故に、基本性能に関してはある程度見た目やサイズから類推できるものの、その詳細な能力、特に攻撃手段に関しては、搭乗者の詳細が判明するか、実際対峙するまで知る術はない。
 それが、この兵器の最も厄介な点の一つだった。

 とはいえ、今回のように精神的な要素が大きい戦いにおいて、戦う前から相手に呑まれていては、この状況を切り抜けることは難しい。
「大丈夫。あたしたちも精一杯頑張るから」
 エリィのその言葉に、ティムは少し驚いたような顔をした後、やがて元のように笑った。
「そうだな。デカブツを持ちだしゃどうにかなると思ってるなら、一つ痛い目を見せてやらねぇとな」
 そこへ、エリィの知り合いで、今回の防衛作戦の立案にも関わっているデリク・オーロフが通りかかる。
 当然、敵の詳細については彼の耳にも入っているはずなので、恐らくそれによる影響がないかどうか見に来たのだろう。
 彼は二人の姿に気づくと、ティムに軽く自己紹介をした後、一言こうつけ加えた。
「エリィのこと、頼みますヨ」
「ああ、任せときな……っても、実際戦う時のメインは俺じゃねぇけどな」
 ティムは相変わらずの様子で笑いながらそう答え、すぐにテッドに「入れ替わる」。
「ご心配なく。この『紅朧』ある限り、そう簡単にやらせはしませんし、やられもしませんよ」
 そんな「二人」の返事を聞くと、デリクは満足そうに奥へと引き上げていった。





「TTT」にあまり大きな動揺が見られなかったのは幸いだったが、かといってとても楽観できる状況ではない。
 奥へ戻ると、デリクは「レヴ」やこの基地の幹部たちとともに作戦の最終確認に入った。

「……で、ドヴェルグの搭乗者の見当はつきまセンか」
 デリクの問いに、幹部の一人が首を横に振る。
「残念ながらな。ある程度かさばる物ならともかく、人の出入りまではさすがにわからんよ」
 言われてみればその通りだが、そうなると、敵の手札がわからないままことに臨むより他ない、ということになる。
「やむを得まセンね。いざとなれば、私も前に出まショウ」
「ああ、頼む。
 こちらにはナグルファルまではないが、霊鬼兵なら数体いるのでね。
 その辺りの出し惜しみはなしで行くとしよう」

 結局、精鋭部隊を別働隊に出してしまっていたこともあって、こちらの戦力は「TTT」やデリク、エリィを含めた十名弱と、量産型の霊鬼兵数体のみ。
 残った一般構成員では戦力としてはかなり厳しいため、彼らの投入は最後の手段、ということに落ち着いたが、いずれにしても戦力的にはかなり不利なことは否めない。

(……あとは、周介たちに期待するしかありまセンね)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 戦いが始まったのは、それからすぐのことだった。

 互いの霊鬼兵たちが怨霊をぶつけ合い、敵のドヴェルグがその身の丈に見合った巨大な太刀を振るう。

「デカブツは狙わず、先に霊鬼兵の数を減らせ!」
 辺りには無数の怨霊が充満し、今はそれらのコントロールを得ようと互いの霊鬼兵が「綱引き」を行っている状態である。
 こちらの方が数は少ないながらもよく持ちこたえているが、このバランスがさらに相手側に傾くようなことがあれば、一気に戦線が崩壊しかねない。
 とはいえ、敵はどうやらあのドヴェルグが総大将であるらしく、その指揮で一糸乱れぬ連係攻撃を仕掛けてきているため、今は反撃どころかやり過ごすのが精一杯、といった状況である。
 エリィも実体のない怨霊相手では有効な攻撃手段が少ないため、少し離れた場所で敵の攻撃をどうにかやり過ごしつつ、「TTT」のサポートに徹していた。
「テッド! 後ろっ!」
 エリィの声に、テッドが振り向きざまに「紅朧」を振るい、迫っていた怨霊を一刀両断にすると、次の瞬間には呪文の詠唱が終わったティムがすかさず表に現れ、切っ先から黒い稲妻を放って他の味方に迫りつつあった敵を一掃する。

 やはり押し返すどころの話ではないが、この分ならそれなりの時間は持ちこたえることができるだろう。
 ……と、そう思い始めた矢先のことだった。

 突然、敵のドヴェルグが魂も凍るような叫び声を上げた。
 やや醜悪ではあるが「人型」と呼べるフォルムを保っていたその機体が不気味に蠢き、翼や角、爪、その他「あるはずのないもの」があちこちに発生する。

『まさか……ポゼッショナーか!』
 幹部が驚きの声を発する中、巨体が宙を舞った。
 四本の腕が、その鉤爪が、容赦なく「New Order」側の霊鬼兵達を引き裂く。
 それをきっかけに、均衡は一気に崩壊した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 量産型霊鬼兵たちが怨霊機によって呼び起こした怨霊たちを、ドヴェルグが――いや、かつてドヴェルグだったモノが次々に吸収していく。
 その度に、その姿はさらに歪み、新たな器官が発生し――もはや、もとが何だったのかわからないような化け物へと姿を変えていた。

『じょ、冗談じゃねぇ!』
 辺りの木々をなぎ倒し、咆哮を上げつつ迫るその怪物に、味方の士気はすでに崩壊寸前になっていた。
 その様子に、ついにデリクは自ら前線へ出る決断をした。
 そして、それと同時に、幹部たちもそれとはまた別の決断を下していた。

「やむを得んな……この拠点は放棄する!」
 その合図で、基地内に残っていた構成員たちはすぐに脱出の準備を始めた。
「最低限の物だけは持って、残りは確実に廃棄しろ!」
 幹部はそう指示すると、前線へ向かうデリクにこう言った。
「前線組はどうにかして最低限の時間を稼いでくれ。撤退準備が出来次第連絡する」

(簡単に言ってくれマスね)
 内心そう思いながらも、デリクはそんな様子はおくびにも出さず、代わりに一言こう答える。
「やってみマスよ」

 周介から「敵拠点の機能を停止させた」という連絡が来たのは、ちょうどその時だった。
「それで、撤退の指示はどうしまシタ?」
『施設破壊前に出しましたが』
 これで敵が退いてくれればいいが。
 そう思いながら、デリクは前線のエリィに尋ねる。
「エリィ! 前線の様子はどうデス?」
 しかし、返ってきた答えは予想外のものだった。





 最初に動きがおかしくなったのは、敵の霊鬼兵たちだった。
 これまではドヴェルグのサポートをするような形での戦闘行動を続けていたのが、急に戦線を維持したまま後退に転じたのである。

 戦況は、圧倒的に敵軍有利。
 詳細について聞いていない者にはおそらくこの状態で突然後退する理由がわからなかっただろうが、事前に作戦について聞いていたエリィには全てわかっていた。
(周介たちがやってくれたんだ!)
 ドヴェルグから逃げ回りながら怨霊をやり過ごすのは容易ではなく、いくつもの傷を負い、また疲労もかなりの域に達していたが――これで勝っただろう。

 エリィはそう確信したが、それでもドヴェルグは攻撃を止めようとしなかった。
 ……それどころか、後退しようとした味方の霊鬼兵までも手にかけ始めたのである。
「…………!?」
 無数の顔やら腕やら足やら翼やらが至る所に生え、巨大で醜悪な肉塊と化したそれは、何本もの腕で捕らえた霊鬼兵をバラバラに引き裂くと、あちこちの口へと運んでそれをむさぼり食い始めた。

 想像を絶する光景に、気分が悪くなってその場に膝をつく。
 ……と、霊鬼兵たちが後退し、もしくは破壊されて怨霊の攻撃が止んだ隙に後退してきたテッドが隣に立ち、ぽつりとこう言った。
「狂っていますね……恐らく、怨霊に呑まれたんでしょう」
 ドヴェルグの力により、ポゼッショナーとしての自身の能力をさらに増大させ、それによって増えたキャパシティいっぱいに怨霊を詰め込む。
 それを続けた結果、機体によって増幅されていた魔力の限界よりも先に、搭乗者自身の自我の限界が来てしまったのだろう。
「あとは、もう近づくヤツを無差別に襲うだけだろうな。
 正直あんなのと戦う気も、そうする価値もねぇと思うが――」
『エリィ! 前線の様子はどうデス?』
 入れ替わりに出てきたティムの声を遮って、デリクから通信が入る。
「敵のドヴェルグが暴走してる! どうするの!?」
 エリィの答えに、デリクはしばし絶句し――やがて、こう返ってきた。
「上は『最低限の時間を稼げ』とのことデス。私もすぐそちらに向かいますから、どうにかしまショウ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 解決策は、意外なところから生まれた。
『ねぇねぇ、その巨大な化け物、近くの街に下ろしちゃったら面白いことにならない?』

 周介ら、敵拠点を奇襲していた部隊に事情を話して早期帰還を要請した時。
 不意に少女のような声が、通信に割り込んできたのだ。
「それもなかなか面白そうデスが、あなたは?」
 周介はもちろん、部隊の他の三人もいずれも男性で、こんな声の持ち主はいなかったはずだ。
『ああ、今のはうちの娘ですよ』
 代わって聞こえてきたのは若い男の声。確か邪妖精召喚師だと言っていたはずだ。
「邪妖精……デスか?」
『ええ』
 邪妖精を娘と呼ぶとは変な男だが、ともあれこれで声の主が味方であるという確認はとれた。
「後始末はIO2由来の組織に押しつける、ということデスね。やってみまショウ」
 あとは、どうやって敵の注意を拠点から別の方向に向けるか、である。
 敵の狙いは「とにかく近くにいる存在」か、それとも「TTT」なのか。
 いずれにしても……あとは、アメとムチで釣るしかない。





 デリクの作り出した異空間へのゲートを通じ、まずは敵と拠点を結ぶ直線上を離れて側面へ回り込む。
 そこでデリクが再度ゲートを開き、「TTT」――あの化け物と接近戦をやらせるわけにはいかないので、今はテッドではなくティムが表に出ている――が詠唱しておいた呪文を発動させ、「紅朧」からひときわ強力な稲妻を放つ。
 それは狙い過たず敵を捉え――さしたるダメージを与えたようには見えなかったが、敵の注意を惹くという目的だけは達成した。
「ちっ、全力で叩き込んだってのに効果なしかよ。傷つくぜ」
 軽口を叩きつつティムが再び異空間へ戻り、入れ替わりに残りの面々が一斉に仕掛け、敵が追いつく前にゲートを閉めてかわす。
 それから敵を誘導したい方向にやや移動して、再びゲートを開け、ティムが仕掛け、向かってくる敵を残りの面々が怒らせてからゲートを閉める、を繰り返す。

 こうして「New Order」側が拠点を放棄して撤収するまでの時間を稼ぐと、最後はそのまま異空間を通って無事に撤退したのだった。





 後日確認したところ、その近くの村で「大規模な土砂崩れ」があり、一部の住民が犠牲になったとのニュースが小さく出ていたが――もちろん、これが旧IO2勢による隠蔽の結果であろうことは想像に難くない。
 シルバールークが出動したという噂もあるが、その真偽は今のところ定かではない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ーーーーー

From: 「レヴ」
Subject: 感謝する

 今回は痛み分けに終わった感もあるが、君たちのおかげで最悪の事態だけは免れた。
 IO2にダメージを与えるという予想外の収穫もあったことだし、
 敵がこちらの想像以上に厄介だったことを考えれば、最善に近い結果と言えるだろう。

 また何かあればその時はよろしく頼む。

ーーーーー

結果:対象の護衛に成功(目標達成)

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 7312 /   宗・周介   / 男性 / 25 / バーテンダー
 5588 /  エリィ・ルー  / 女性 / 17 / 情報屋
 3432 / デリク・オーロフ / 男性 / 31 / 魔術師

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 西東慶三です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 また、ノベルの方、大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で八つのパートで構成されております。
 そのうち、一、二、五番目のパートにつきましては複数のパターンが存在しますので、もしよろしければ他の方に納品されているノベルにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(エリィ・ルー様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 エリィさんは主にサポートということでこんな感じになりましたが、よろしかったでしょうか?
 敵に一人か二人呪物使いクラスを追加すればもう少し積極的に戦える場面もあったかとも思ったのですが、戦力バランス的なこともあり、今回はちょうどいいアイディアが出ませんでした。
 ともあれ、もし何かございましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。