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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜お出かけしましょう〜】


(場所変えるって言っても、喫茶店とかじゃまずいしなぁ…)
 不可解な現象と、それによって見せられた過去。
 それが風槻の身体に及ぼす影響を教えて欲しいと朔月に請われ、「場所を変えよう」と言ったものの、話し合う場として最も手軽な喫茶店などでは風槻的にまずい。
 ならばどうしようかと少し考えて。
(ま、いいか)
「ウチにしよう。着いてきて」
「……風槻さんの家?」
「そう。何か問題ある?」
 どこか戸惑うような視線を向けられて、風槻は少し首を傾げた。
「――いや、風槻さんがよいのなら俺は構わない。案内を頼む」
「わかった」
 そんなこんなで場所は風槻の家に決まった。
 『テナント募集』と張り出してある、3階建ての古ぼけた――そう見せかけているだけではあるけれど――オフィスビル。
 その隠し扉をくぐれば、地下に広がるのは風槻の住処。
 バス・トイレと簡易キッチンがあるほかはただっ広いフローリングの部屋だけ。その一角にはノートパソコンやらデスクトップパソコンやらデジカメやらの電子機械が所狭しとひしめき、それ以外はパイプベッドとクローゼットのみがある。
 床にはあちこち風槻の仕事の書類が散らばっていて、生活感が薄い。
「……風槻さんらしい部屋だな」
 案内してすぐの朔月の第一声に一体どういう意味が含まれていたのかは、風槻には分からない。
 とりあえず他に座る場所もないのでパイプベッドに並んで腰掛け、朔月は茶を、風槻は水を手にして話を切り出す。
「――それで、あれは風槻さんにどういう影響を与える? 俺に何か、出来ることはあるか」
 真摯に見つめられ、悩む風槻。
 出来ればトラウマのことは隠しておきたい。症状のことを言ったら朔月はかなり気に病みそうだし。
「別に、そう深刻になるようなものじゃ…」
 悩んだ挙句軽く流してみようとした風槻だったが、言い終える前に沈鬱な表情の朔月が遮った。
「嘘は吐かないでくれ。………俺はそんなに、頼りないのか」
 そんな風に言われて、これ以上の誤魔化しを重ねることが出来るほど、風槻には余裕も気力もなかった。
 仕方なく隠す事は諦めて、水で唇を湿してから話し始める。
「……『あれ』は、あたしが12歳のときに体験したことで、あのモニタに映ってたのは情報屋やってた養父。――当然だけど、『あれ』はトラウマになって、肉類が一切食べられなくなった。治療受けて、今は鶏肉とかくらいなら食べられるようになったけど。でもまた『あれ』を見たから、しばらくは何も食べられないと思う」
 淡々と風槻が語る間、朔月は微動だにせずただ静かに話を聞いていた。
 その、無表情なはずの顔が泣きそうに見えて、風槻は居た堪れなくなる。
「…………すまない」
 少しの沈黙の後ぽつりと零された謝罪。
「故意にやったんじゃないんでしょ。だったら朔月だけが責任を負うのはおかしいし、あたしとしては別に謝られる必要性を感じないんだけど。―――それより、そっちの事情も聞かせてよ。あの『呪具』とか、……あの空間で聞こえた、『声』のこととか」
 一瞬、苦しさを堪えるような表情をした朔月だったが、次の瞬間には何の感情も読み取れない無表情になる。そして、口を開いた。
「あの『呪具』は、『魂を喰らう』と言われていたものだ。…陽月が言っただろう。俺たちには探しているものがある。『魂』――『心』、と言い換えてもいい――を、消すことが出来るもの、もしくは消すまで行かなくとも取り出せるもの、だ。今回は呪具だったが、別にそれに限ってるわけじゃない。そういう能力を持った能力者でも、あやかしの類でも何でもいい」
「……どうして、それを探してるの」
 ほぼ無意識に問えば、朔月は静かに目を伏せて答えた。
「…………『必要』だからだ」
 答えになっていない答え。けれど、それが今の朔月に話せる限界なのだろうと、風槻は思った。
「じゃあ、あの『声』は何?」
 自分があの情景を見た後、現れた朔月に視界を塞がれながら聞いた声。その声が紡ぐ言葉の中に朔月の名もあった。そして何より、あの声には聞き覚えがあったのだ。
 問いかけた風槻に、躊躇うような素振りを一瞬見せた朔月はしかし、何かを諦めるように溜息を吐いて言った。
「―――あれは、俺と陽月の『過去』。俺と陽月が最も悔やみ、最も戻りたいと、やり直したいと願う過去。その、一部だ」
「じゃあやっぱり、あの『声』は陽月と朔月の……」
「そうだ」
 そこで、朔月は笑った。哀しげな、自嘲するような微笑だった。
 あの、涙の混じる――絶望の滲んだ声は、陽月のもの。
 それに答えた、苦しげな、焦るような声は、朔月のもの。
 二人の『過去』に、一体何があったのか――何故、『やり直したい』などと思うのか。それは、風槻には分からない。彼らが話すのを待つしか、ない。
「お茶、冷めたみたいだね。淹れ直して――」
 朔月の手の中の器から湯気がたたなくなったのを見て、風槻が立ち上がろうとした、その刹那。
「……っ…!」
 赤が、見えた。
 全て焼き尽くす、炎の色。
 燃える。燃えていく。
 その様が、瞳に灼きついている。
「―――――――っっ!!」
 声にならない悲鳴が喉から漏れる。誰かが焦ったように自分に手を伸ばすのが、見えた気がした。
 瞬間、ほとんど縋りつくように、風槻はその人に抱きついていた。
「風槻さん…っ」
 耳元で、名を呼ぶ声がする。けれどそれに応えることもできず、ただ必死に目を瞑って瞳に映る赤が消えるのを願った。
 そろそろと、自身の背に手が回されるのを感じる。ぎこちなく背を撫でるその温もりが少しだけ風槻を安心させた。

  ◆

 自分に縋りつくように抱きついた人物が穏やかな眠りに落ちるのを見届けて、朔月はほっと息を吐いた。
 半ば恐慌状態だった彼女がそこまで深刻な状態にならずに済んだことに、心から安堵する。
「………すまない」
 ぽつりと落ちた謝罪は、彼女には届かない。それでも、言わずにはいられなかった。
 巻き込むつもりだったわけではない、それでも、彼女のトラウマを喚起させたのは自分で。
 ただ、謝罪を口にすることで己の中の罪悪感を軽くしたいだけだ。
(―――最低だな、俺は)
 心中で呟いて、とにかくこのままではまずいだろうと彼女の手を己の身体から外そうとする。
 しかし。
(外れない……)
 存外に強い力で回された腕は、眠っているというのに簡単に外れそうにない。あまり乱暴にすれば彼女が目を覚ましてしまうかもしれない。
 精神に多大な負担がかかっただろうから、ゆっくりと休養をとってもらいたい。だから目を覚まさせてしまうのは憚られる。しかしこのままでいるというのも色々困る。
 どうにも身動きの取れない状況に、朔月は小さく溜息を吐いた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6235/法条・風槻(のりなが・ふづき)/女性/25歳/情報請負人】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、法条さま。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜お出かけしましょう〜」にご参加下さり有難うございました。

 法条さまのお宅にお邪魔、ということでしたが、その辺にはあんまり触れずじまいで。…双方にそんな余裕もなかったですし。
 今話せるところ……秘密編で明かす部分を除いたところまでを朔月が話しました。とどのつまり今までのノベルで張ってた分かりやすい伏線の部分だけですが。
 最後に少しだけ朔月に焦点を当てた部分がありますが、それ入れたほうがキリが良かったので…。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。