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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜】


(うう、眠れねぇ……)
 はあ、と大きく溜息を吐きつつ、鈴城亮吾は夜の街を歩く。
 いつもならとっくに寝てるような時間だ。こんな時間に外に出るのは真っ当な中学生としては色々まずいのだが、他に気を晴らす方法も思いつかなかったのだ。
 眠れない理由は分かっている。
(…気になるんだよなぁ)
 昼間、2度目の邂逅を果たした金髪碧眼の青年、ケイ。
 彼と会ってすぐに起こった不可思議な現象。そして自分が犯してしまった失態…。
(だああッ!! 次どんな顔して会えばいいんだ?!)
 混乱して――それだけじゃなく何か他にも理由があるような気はするが――泣いて縋って、弁解しようとして舌を噛んで転んで。
(やっべ、思い出すだけで恥ずかしい…)
 ケイは気にしなくていいよ、と言っていたが、気にしないでいられるわけがない。何やら呪具がどうこうと言っていたが、詳しくは聞かせてもらえなかった。
 他にも気になることはある。
 自分に気づく前にケイが浮かべていた表情や、ケイが手に持っていた『何か』から放たれていた妙な気配。
 むむ、と無意識に難しい顔をして考える亮吾だったが――。
「鈴城君?」
 あまり耳に馴染みのない声が自分の名を呼ぶのが聞こえて、亮吾は思考を中断して声のしたほうを見た。
「えっと……、シンさん?」
 呼び慣れたとはいえない名をなんとか頭の中から引っ張り出して声に出せば、その人は静かに頷いて、そして亮吾のほうへと歩み寄ってきた。
「こんな夜更けに1人で外に出るのは、少し軽率だと思うが。何かあったら家族が心配するだろう」
「う、いや、眠れなくて、何となく…」
 淡々と正論を言われて、つい目を泳がせる。別に後ろ暗いことをするために出てきたわけではないのだが。
 亮吾は改めて自身の目の前に立つ人物を眺める。
 黒髪黒目。ケイよりもややしっかりとした体格で、身長も高い。
 詳しくは分からないものの、ケイと深いかかわりのある人物――シン。
(シンさんなら何か、知ってるのかな…)
 考える亮吾に気づいているのかいないのか、ケイは尚も感情の読めない声音で続ける。
「――まあ、そういう日もあるだろうがな。しかし昨今は物騒だ。既知でありながら一人歩きを黙認する、と言うのも憚られる。……そうだな、目的がないのなら、共に茶でもどうだ」
「へ?」
 予想外の言葉に目を丸くする亮吾。
「近くに知り合いのやっている喫茶店がある。心配せずとも営業時間外だから金は取られない」
 別にそういう心配はしていないのだが。
 しかし、その申し出はとてもよいものに思えた。
 そして数瞬悩んだ挙句。
「……ええと、じゃ、よろしくお願いします…?」
 何かちょっとずれたような了承の返事を返した亮吾だった。

  ◆

 小ぢんまりとしていて、どこかほっとする店――それが、ケイの案内で辿り着いた喫茶店の印象だった。
「ご注文は? …って、ちゃんと接客する必要ないんだったな。で、何がいい」
「私は任せる。――鈴城君はどうする」
「あ、……ホットココアお願いします」
「了解」
 どうやらシンとここのマスターはかなり親しい仲らしく、気安い雰囲気が二人の間には漂っていた。
 とりあえず注文を終えて、改めてシンと向かい合う。
「……随分親しいみたいでしたけど、よく来るんすか?」
「ああ。ケイも時折顔を出しているようだ。ここの茶は美味い」
「へー…」
 ケイさんととシンさん両方が認めるならよっぽど美味いんだろうなぁ、などと思う亮吾。
(あ、ケイさんと言えば)
 連鎖的に昼の出来事を思い出して、恐る恐る切り出す。
「……あ、あの、シンさん、ケイさんから何か聞いてます? 昼のこととか」
「昼のこと? ……ああ、あれか」
 一瞬怪訝そうな光が瞳に宿ったが、すぐに得心がいったように小さく頷くシン。
「あれに関してはこちらに非があるからな。ケイも気にせずともよいと言っていただろう」
「いやでも俺すっげー醜態晒したし。マジで恥ずかしい…」
「あれが醜態かどうかは置いておくが、――まあ、鈴城君がああなったのは仕方がない。呪具が作用したからな」
「え?」
 『仕方がない』――その言葉に首を傾げる。
 ちょうどそのタイミングでマスターが来て、注文した飲み物を置いていく。
 「ごゆっくり」と告げられた声を聞きながら一口飲めば、心地よい甘さが口内に広がった。
「うまい」
 思わずぽつりと呟けば、「それはよかった」とシンが微かに口元を緩ませた。そしてまた感情の読めない無表情に戻って、口を開く。
「――結果的に巻き込んでしまったからな、説明しておこう。ケイが持っていたものがあっただろう。布に包まれた手のひらほどの…」
「あ、分かります」
「あれは呪具だ。『ヒトの心を喰らう』と言われれていたもので、鏡だったんだが――どうしてか封印が解けてな。鈴城君がその標的になってしまった。間一髪で助けられはしたが、『喰われ』かけたんだ。取り乱してもおかしいことではない」
 シンの説明に、自分がどうしてあんなにも取り乱し不安定になったのか納得する。けれど、新たな疑問が生まれた。
(そんなものを、どうしてケイさんは持ってたんだ? それに、あの雰囲気――)
 混沌とした――底のない沼を覗くような、そんな気分になる雰囲気を、どうしてケイは纏っていたのか。
 それが顔に出ていたのか、シンが意味深げに笑って、言った。
「気になるのなら、本人に問うてみるといい。きちんと答えるかはぐらかすかは分からないが。……どちらにしろ、鈴城君がケイに関わることで、少しはあいつも変わるかもしれない。それは歓迎すべきことだからな」
「……はぁ」
 真意が読めなくて気の抜けた返事になってしまったが、つまりシンは自分がケイに関わることを奨励していると言うことだろう。
 その事実に後押しされて、亮吾はケイについて少し話を聞いてみた。
 結果分かったのは、ケイの家族構成は父・母・ケイの3人だとか、ケイとシンはまるで兄弟のように育ったとか、その関係でシンの弟を実の兄以上に可愛がっていたとか――他愛のない、知っていて意味があるかないかよくわからない内容だったが。
 話が一段楽した後、亮吾の質問に答える間のシンの眼差しが、どうにも交友関係に悩む子供に向けるような生暖かい感じに思えたことについて文句のひとつでも言おうと心中で意気込んだ亮吾だったのだが。
(……あれ。そういやケイさんとシンさんって記憶を共有してるとかなんとか……)
 瞬間、亮吾は自分の顔に熱が集まるのを自覚した。
(ってことは今までの話とか、全部ケイさん聞いてたってことか?! んで今も? ……だぁー!! 恥ずい! メチャメチャ恥ずかしい!)
 胸中で叫ぶ亮吾。
「どうした、鈴城君」
 どこか楽しげなシンの声。そして瞳。
 それに気づいた亮吾は、さらに顔が熱くなるのを感じる。
(ぜってーこの人俺がそのこと忘れてんのわかって喋ってたな!? ………うわー今なら羞恥で死ねるかも…)
「……や、なんでもないっす……」
 全く説得力のない声でそう告げながら、亮吾はテーブルに突っ伏して撃沈したのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7266/鈴城・亮吾(すずしろ・りょうご)/男性/14歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、鈴城様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜」にご参加くださりありがとうございました。

 ケイとのお茶の時間、いかがだったでしょうか。
 結構饒舌に色々話してます。前回入らなかった『呪具』に関する説明とか、伏線もちょろちょろと。
 かなり食えないやつな感じのケイですが、色々思惑がある模様です。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。