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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

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 突然の剣閃。どうやら敵であるらしい人影の持っている二振りの短刀が襲い掛かってきたのだ。
 鈴城 亮吾(すずしろ・りょうご)は、あまり戦いなれしていないながらも、確実な殺意を持って振られた短刀を紙一重で避けた。
 ゴロリ、と地面を転がり、すぐに立ち上がる。
 いつまでも不利な体勢でいれば死ぬ。殺される。
 それだけ、今の攻撃には寒気を覚えた。ただ殺す事だけを求めた、純粋な斬撃。
「っち、なんだってんだよ、くそっ!」
 展開が唐突過ぎて一瞬理解に遅れる。
 いきなり人に斬りかかられるほど悪さをした覚えは全くない。
 これが夢だという事は先程理解したが、それでもこんな夢も馬鹿げている。
「夢鑑定を願いたいところだな……」
 どういう精神状態になれば他人に殺されかけるような夢を見られるのか。
 それも相手は、見る限り少年……それも小学生ぐらいの男の子に見える。
 そんな少年が両手に紫色に光る短刀を持ち、オレンジ色に光る瞳を真っ直ぐにこちらに向けている。
 肩からずり落ちそうな首輪をかけ、少し口を尖らせて……どうやら怒っているようだ。
「なんだよぅ、動かないでよ。殺せないじゃん」
 サラリと恐ろしい事を抜かしてくれる。
「バカをいうな。俺はお前に殺されるつもりなんかサラサラない」
「それじゃあ困るんだよ。ボクはオマエを殺さなきゃならないんだもん」
「お前の都合なんか知るか! っていうか何でお前は俺を……」
 亮吾が少年に動機を尋ねようとした時、突然戦場に異常が起きる。
 グラグラと地震の様に全体が揺れ、その内、亮吾の足元がせり上がる。
「うぉ!?」「わぁ!?」
 地震もあいまって、二人ともその場に尻餅をつく。
 そのまま動けないでいると、亮吾の足元から顔を出したのはどうやら建物だった。
 白っぽい壁の色、壁についた時計と多くの窓。
 三階建てぐらいのその建物のてっぺんに、亮吾は立たされていた。
「なんなんだよ、これ」
 恐る恐る下を覗いてみると、かなり遠い所に地面と、そこに立つ少年の姿が。
「こらぁー、勝手に逃げるなー!」
「俺が意図してやったと思ってんのか、このガキ!」
 少年も困惑している所を見ると、彼のしでかした事ではないらしい。
 という事はこれも、先程景色が変わったのと同じ、戦場の変化だろうか?
「この建物って……もしかして学校か?」
 屋上から見るとどうにも判断しがたいが、何となく雰囲気が校舎に似ている気がする。
「くそー、そこで待ってろよ!」
 眼下で少年が一つ叫び、律儀にも正面玄関に入っていった。
 どうやら彼はここまでやってくるらしい。目的は当然、亮吾を殺すことだろう。
「誰が待つかよ。……と言ってもこの夢から覚めるにはアイツを倒すしかないか」
 夢が始まってすぐ理解した事。理屈とかではなくいつの間にかそれが当然と思っていた。
 相手を倒さなければ夢は覚めない。それがこの夢の基本ルール。
「だったらあのガキをどうにか倒さない事にはどうしようもないか」
 一つ舌打ちをし、屋上の鉄ドアを開けて、校舎に入った。

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 中に入ると、ドタドタと足音が聞こえる。
 これは恐らく、敵である少年の足音だろう。
「隠密行動なんて言葉は……知らないんだろうな」
 これなら相手の位置も大体わかる。
 恐らく、今は一階の階段を探している所だろう。
 相手との距離がまだ空いている事を確認した後、亮吾は廊下を見渡す。
 端から端までかなり長い。廊下の両端には階段が付いており、最上階であるこの階では下り階段しかない。
 この階にある教室は通常教室が五つとトイレが一つくらいか。
「単純な構造だな。こりゃアイツがこっちに来るのも時間の問題か」
 だが階段が二つあるという事は逃げる事はできるだろう。敵とは別の階段を下れば鉢合わせって事にはならないはずだ。
「まずはこっちも歩き回って校舎の様子を確かめないとな。有利に事を進めないとすぐにやられる」
 最初の攻撃で、敵の少年の戦闘能力は亮吾よりも上だという事はわかった。
 呆けていた亮吾を一撃で殺せなかったところを見ると、それほどの力量ではないだろうが、とりあえず近付かれると死亡確率は上がってしまうだろう。
 それにどうやらあの少年は自分の力に自信を持っているらしい。
 亮吾に対するあの口振りや、今も足音を高らかに鳴らしていることでも窺える。
 少年は亮吾を自分より下に見て、慢心している。
 それだけ自分の力に自信があるという事。そして亮吾の回避の仕方を見てこちらの力量を下に見たという事。
「ガキになめられるってのは気分悪いな」
 ……あと余談ではあるが、亮吾の方が少し背が低いというのもあるかもしれない。
 まぁ、そういう事は横に置いておいてだ。やはり少年と亮吾の接近戦闘の能力には隔たりがある。
 となればどうにか距離を保ち、相手の間合いの外で戦いたい所だ。
 それにはこの廊下が一番だろう。部屋の中に入るとそれだけ逃げ回りにくくなるし、相手との距離も詰まる。
 距離を取るならば外に出るのも良いが、障害物が無い分、距離も詰められやすくなる。
 遮蔽物がない分見通しも利くが、一長一短だ。
 屋上から見た限り、この校舎はほぼ直方体。この階下も同じような造りだと見て良いだろう。
 とすれば、この建物の中で有利な戦場は三つ。各階の廊下だ。
 狭く長い廊下なら相手の動きも読みやすいし、的に当てやすいはず。
 というのも、亮吾の武器はレールガンなのだ。と言っても本当に銃を持っているわけではない。
 とある特異体質故に電気やら磁場やらをある程度扱える亮吾は自分の身体をレールガンにすることが出来る。
 弾は十円玉が好ましい。だが、これは夢だ。この際他の小銭も使えるだけ使ってしまおう……と財布を漁るが、
「ぬぁ!? 十円玉しかない!?」
 財布の中には銅色の小銭が十枚しか入っていなかった。
「チクショウ、今日び百円じゃ大した物買えないぞ!」
 ぼやきながらも、亮吾は小銭を取り出しやすいように手に持つ。十枚くらいなら片手に収まるぐらいだ。
 その内一枚を右手にもてあそびながら、敵の少年の足音に耳を澄ます。
「……向こうの階段から上ってくるな。じゃあこっちだ」
 亮吾は少年が上ってくるであろう階段とは逆側に足を向けた。

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 出来るだけ静かに階段を下る。
 二階に辿り着いた後、壁の影から廊下の様子を窺うが、読み通り造りは三階と大して変わらなかった。
 教室のドアの上に表示されているカードには教員室の文字やらがあるので教室だけの階ではないらしい。
 そんな風に二階の様子を眺めていると、向こうの壁の影から少年の顔がヒョッコリ現れた。
「あっ! いた!!」
「やべ……」
 見つかってしまった。あまり姿は見せていなかったはずだが、少年の視力恐るべし。
 見つかったのはもうしょうがないので、ここは予定通り距離を取る為に逃げるべき……だと思ったのだが、亮吾はあえて姿を晒す。
 少年は廊下を真っ直ぐこちらに向かってくる。
 それに対し、亮吾は右手を構え、親指と人差し指の間に十円玉を挟んで、少年に狙いをつける。
「まずは一発!」
 そして指に電気を走らせる。
 その瞬間、亮吾の右手はレールガンになり、十円玉は指というレールを走り、ものすごい勢いで射出される。
 肩が外れそうになるほどの衝撃と指が千切れそうな摩擦を耐え切り、亮吾は十円玉の発射を成功する。
 少年は弾き出された物が何かを判別する前に、それが何か危険なものだと感知し、手に持っている短刀で十円玉を弾く。
 しかし防御が拙く、命中は避けたものの、短刀も弾き飛ばされていた。
 驚いた少年だが、すぐに気を取り直して突進を再開する。
 次に、亮吾はまたも十円玉を構え、今度は少年の足元に向かって撃ち込む。
 それが床に着弾すると同時、少年はビクリと足を止めた。
「……よし」
 亮吾は口元を持ち上げて笑い、踵を返して階段を下った。
 足音を聞くに、少年は弾かれた短刀を取り戻してから追いかけてきた。

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 一階廊下中ほどで、亮吾は足を止める。
 そして後ろを振り返り、十円玉を構える。
 追いかけてきた少年は階段を下りきり、廊下に出たところで亮吾が構えてるのを見て、すぐに壁に姿を隠した。
 思い通りだ。
 少年はさっきの二発で亮吾のレールガンの威力を思い知ったはず。
 そして今の反応を見るに、その威力に多少の脅威を感じている。
 姿は幼いくせに、戦いには少し慣れているらしい少年。これで不用意に亮吾の目の前には姿を現さなくなったはず。
 牽制は取れた。後は作戦がモノを言うようになる。
「こっからは化かしあいって事だな」
 乾いた唇に舌を這わせ、亮吾が呟く。
 ここから狙うのは少年の戦闘不能状態。
 殺してしまっては寝覚めが悪いことこの上ないので、どうにか相手に参ったといわせたい所だ。
「距離を取っていれば俺にも勝機はある。弾数も限界があるし……コリャ慎重に行かないとな」
 自分に言い聞かせるように零しながら、亮吾は少年とは逆側の階段に向かった

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 足音を忍ばせて二階に到達。
 少年の方に動いているような気配は無い。……と言っても足音がしないだけだが。
 今までの様子から考えれば、少年はバタバタとうるさいほどに音を立てて移動するはず。
 だが、こちらの脅威を見せた今、彼はその状態を保つだろうか?
 今まではこちらの手の内を明かしていなかったために、亮吾が少年になめられていた。
 しかし現在の状況は少年も亮吾の力量の断片を見たはず。
 とすればそれなりに場慣れしているらしい少年も、立ち回りを少しは考えるはず。
「こりゃ、脅したのは少しマズったかもな」
 自嘲気味にため息を零して、亮吾は壁の影から廊下を窺う。
 ……廊下には少年がいた。
 足音を消してここまで移動していたらしい。
 そこは睨み通りではあるが、それよりも驚くべき点がある。
 少年は黒っぽい『何か』を背負っていた。
「な、なんだ、ありゃ」
 思わず零してしまう。
 黒い粒子状のモノが幾つも集まって手を形作って宙に浮き、少年の背中からこちらに掌を向けて少年の代わりに睨みを利かせているようだ。
 あれが何なのか、正直見当も付かないが、とりあえず彼の戦闘方法の一種なのだろう、と警戒しておく。
 先程まで無かった物が現れたのだ。やはり向こうも亮吾を警戒しているのだろう。
「あの手が何なのか……突いてみるか。蛇が出なけりゃ良いが……!」
 亮吾は三枚目の十円玉を構える。
 狙いは黒い手。アレに向かって飛ばせば何かアクションをしてくるだろう。
 壁の影から狙撃をするように狙いをつける。
 その様子に、少年も気付いたのか、防御体勢を取りつつこちらに近付いてきた。
 左右に揺れて前進し、亮吾の狙いをぶれさせようとしている。
 的が定まらなければ撃っても十円損だ。だがしかしあまりグズグズしていては距離を縮められるだけ。
 適当な所で十円玉を放つ。
 放たれた十円玉の弾道を、少年は性格に見切って少ない動作で避けつつ、亮吾に近付いてくる。
 完全に避けられた上にあの黒い手の正体もわからなかった。完全に十円損だ。
 だがこれは少年の恐るべき動体視力と運動神経を褒めるべきだ。
 まぁ、今はそんな事を考えるよりは逃げるのが先決だ。
 少年に近付かれれば亮吾は間違いなく不利になる。距離を取って悪い事は無い。
 そう思って亮吾は再び階段を下り始めるが、踊り場でついに追いつかれる。
「そこで止まれぇ!!」
「うわ、もう追いついてきた!?」
 階段を一跳びで飛び降りて来る少年。その手に持つ剣は上段に構えられている。
 危険を感じた亮吾は驚いて、床を転がるように斬撃を回避する。
 大きく振られた少年の剣は空を切ったが、しかし亮吾には確かな恐怖を与えた。
 この少年、最初の一撃もそうだが、人を斬る事に何の躊躇も無い。
 少年ゆえの考えなさか、それとも人を斬りなれているのか。
 そんな少年は見事に着地すると、回転をしつつ亮吾に斬りかかってくる。
 遠心力も加わって、少年自身の筋力以上の威力を持った攻撃。
 亮吾はその横薙ぎの剣閃を退いて避け、十円玉を右手に持ちかえる。
 そしてすぐさま構えて前方に狙いをつける。
 亮吾の構えるのを確かに見た少年は、しかし恐れもせずに追撃の構えを取る。
 出鼻を挫くように、亮吾は少年の足元に向かって十円玉を放つ。
 しかし少年はそれに怖気づく事無く、回避が終わってから淡々と亮吾に襲い掛かってくる。
 亮吾の頭部を狙った正確な突き。亮吾はそれを何とか避けるが、階段を転がり落ちてしまった。
「なんなんだよ、オマエは! なんでそんなにボクを殺す気が無いんだ!?」
 踊り場から亮吾を見下すようにして、少年はそう叫ぶ。
 体中が痛む中、亮吾は何とか立ち上がり、手から零れ落ちた十円玉を三枚拾う。
「お前みたいなガキを殺せるかよ。夢でもまっぴらだぜ」
「……ワケわかんないこと言うな! オマエがそう言っても、ボクはオマエを殺すぞ! ボクはまだ死にたくない!」
 少年は階段を駆け下り、亮吾に向かって剣を振り上げる。
 振り下ろされる凶刃を、亮吾は痛む身体で床を転がり、何とか避ける。
 そしてまた十円玉を構えて少年に向かって放つが、短刀によって弾かれてしまった。
「知らないぞ、ボクは。勝ちは勝ちだ。誰がなんて言ってもね」
「誰かに何か言われる予定があるのかよ?」
「オマエには関係ない!」
 少年が叫んだ瞬間、グワっと背中の手が開く。
 それにあわせて衝撃波が発され、亮吾の身体は軽く吹き飛ばされ、壁に背中を打ちつけた。
「これで終わりだ!」
 向かってくる刃先に、亮吾はどうする事もできず、黙って目を瞑る。
 満身創痍の身体に、紫の刀身が深く突き刺さった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7266 / 鈴城・亮吾 (すずしろ・りょうご) / 男性 / 14歳 / 半分人間半分精霊の中学生】

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■         ライター通信          ■
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 鈴城 亮吾様、ご依頼ありがとうございます! 『低身長の男の子は、うん、好感が持てる』ピコかめです。
 いや、ショタコンってことじゃなくてね!?

 学校で見知らぬ少年との戦闘って事で、ガリガリ書かせてもらいましたが、どんなモンでしょう?
 レールガンのレールについてあまりめぼしい物がなかったっぽいので指で代用しました。
 これは流石に指が摩擦熱でやばい事になるだろ……とも思いましたが、そこは夢だから! ってことで一つ……。
 ともあれ、気が向きましたらまたよろしくどうぞ〜。