コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


THE BLUE 〜蜘蛛達の連鎖〜

■別視線(OP)

「ぶはっ、何いきなりききはりますのん? セレちゃん」
 BAR『BLUE』店長暁・遊里(あかつき・ゆうり)の反応はまずそれだった。

 素っ頓狂な声は後回しにするとして、映像のように記憶を元に戻そう。
 刻一刻と刻まれる時の中で取り残されるのは永遠に近い命の者の他何がいると言うのだろう。ふと、そう考えた時、土地を思い出す。かつて何かがあった場所となっていくその土地達。けれどセレスティ・カーニンガムの気持ちを揺さぶる箇所の一つであるBAR『BLUE』周辺。つまりは、蜘蛛路地内部は。
「はい、調べました所どれがセレスティ様のおっしゃる事件か、まずそこに視点を合わせる必要があったようです」
「でしょうね。 あれでは流石にどれが被害者でどれが普通の事件だったか、区別が付きませんから」
 これはセレスティのリムジンであった会話だ。
 小さな車内で運転手とその主の会話。リンスター財閥のことセレスティの付近にはあらかた全てをこなせる部下を配置してある。手元には運転席に繋がるコンピュータが目まぐるしく地図と新聞紙を交互に出していく。
「まず解決された事件とその事件に使われた凶器での事件は除外します」
 運転席からの声と同時にコンピュータに映し出された蜘蛛路地の光る部分、セレスティの追う『事件』の候補がその半分以上という数を消した。
「意外と…少ないのですね」
 第一感想はそれだった。ここ数ヶ月、仕事の合間に調べさせている現在の話は蜘蛛路地と名称の付くBAR『BLUE』一帯に起きている猟奇殺人、ないし通り魔殺人と呼ばれている現象である。
「はい。 元々の治安から考えて場所自体が危ない場所、そう認識されてそうなったと見て取れるかと。 実際は…」
 セレスティの目の前にあるコンピュータがまた目まぐるしく動き出す。数箇所になった事件の在り処をピックアップしゴシップ誌の記事と共に画面上に映った。
「新聞での記事は無いのですか?」
「そのようです。 犯人が捕まらない以上警察からすればあまり表沙汰にしたくない材料である事は明白ですから」
 一通り部下の話を聞き、セレスティは頷く。
 ゴシップ誌という媒体自体はさして信頼の出来る物ではなかったが、実際ここで何があった。という明快な真実に繋がってゆくのもまた確か。
(奇妙ですね、通り魔を解決した事件として、猟奇…。 ですが、そう簡単に火達磨や氷漬けになったりするものでしょうか…)
 誌面の記事全てを信じる方向で見ても明らかに人の犯行とは思えず、更に御伽噺に出てくるような所謂魔法のような出来事が書かれているのだから。
「調べるしかない、そういう事ですか」
 分からないのなら調べ、分岐した道を決断して行けばいい。

『危ない事には首は突っ込まない方がいいと思いますよ』
 以前切夜(せつや)にそう、言われた。
(すみません、切夜さん。 私はどうにも負けず嫌いの性分があるようでして…ね)
 気になったものは調べずには居られない。それがセレスティだ。車窓から見えてくるBAR『BLUE』の扉を眺めながらまだ自分を止めた男の居る時間ではないだろうと、含み笑いを残しながらリムジンから降りた。

 ゴシップ誌曰く、奇妙な死因は火達磨や凍死が主でありまれに目撃者が居る目前で肢体が離れるという惨い事態もあったそうだ。が、これもまだ信じるには値しない一つの情報でしかない――。

■報道と証言(エピソード)

「店を出したきっかけ…かぁ…。 でもそんなん聞いてどないすんの?」
 時間はまだ夕刻よりも少し日のある時刻。BAR『BLUE』の店内には遊里とセレスティしか居ない。気まぐれでよく外出するこの店長は音量を最大近くにまでして一昔前のアニメを小型テレビで鑑賞中だったらしい。
 店長である遊里は以前のセレスティを覚えていたのか、もう一度名乗り直すとすぐに『セレちゃん』と呼んでくる。
「聞かれて困る事でもないでしょう? いえ、失礼な事でしたら…」
 話さなくてもいい。今無理に聞き出しても切夜に何か伝わってしまうかもしれない。それはセレスティの意図しない所だ。
 問われる事柄は遊里が何故このような蜘蛛路地に店を構えたのか。切欠など普通の常連客が聞いてもおかしくないものばかりだ。
「ああ、んーっと」
 というのに、遊里はその問いを掛けられると暫く眉間に皺を寄せ、テレビを気にするふりをしながら考え込んだ後。
「ええで、ええで。 あんまおもろい話やないけど…ええのん?」
「構いませんよ」
 答えないのも不振に思われる。そう遊里側は判断したのだろうか。それとも単に大した事が無さ過ぎて退屈という意味で話さないのか。
(計りかねますね。 暁さんの性格はまだしっかりと掴めているわけではありませんから)
 セレスティは遊里の言葉に耳を傾けながら唇に指を当て、考えているという表情を隠してしまう。
「ん、そやね…。 切欠言うのはちとなんやけど家、出たかったから…やなぁ…」
「お家…? ですか」
 意外な場所の言葉を口にされ、セレスティの目は小さく光を宿す。

「俺んち、実家はかなり田舎でな。 大阪じゃないのは分かると思うんやけど」
「ええ」
 正直、遊里の関西弁は漫画やアニメ譲りとしか思えない。上辺だけの方言だ。
「これでも結構金もってんどーな家なん。 セレちゃんなら分かるかもしれへんけど、そういう家の親父ってなぁ…」
 ああ、そういう事か。容易に想像できるセレスティの中での日本財閥系列にある屋敷と格式ばった束縛。それらは日本に限った事ではないが、とりあえず遊里の性格に合わなかった事実は目に見えている。
「お父様の期待…でしょうか」
「んん。 そうやったらええんやけど…」
「他に何か?」
 セレスティの言葉に当たりとも外れともつかない遊里の表情が少々気にかかる。
「いや、この土地はな親父が手配してくれたもんやし…ある種期待されとるっちゆーか。 俺がしたい言うた事は色々聞いてくれとるしな」
「立地状態は多少悪い気がしますが…」
 父親が用意してくれたという土地がこのBAR『BLUE』ならば、期待よりもその実家に呼び戻さんとする親の気持ちの方が強いのではないだろうか。
「あははははは、はっきり言うなぁ。 セレちゃんは! んー、俺からはその辺ようわからん。 なんちゅうか、親っちゅう生きモンは俺にとってでっかくなってくと余計気持ちが読めんように見えるんなぁ」
「そう、ですか」
 父親について語られても永遠に近い時の中、ここまで育ち数百年を生きてきたセレスティには理解もしがたければ、逆に思い出すのも困難に近い話だ。
 ただ、遊里からは彼の親族関係が悪くも無ければ良くも無い、それでも普通の感覚からはまた外れた物であるという事だけが聞いて取れた。今はとりあえずこれで良しとせねば。

「ああ、ところで暁さんこのお店をやっていらっしゃると矢張り近くの事件等は気になりませんか?」
 切り出し方は上場だと思う。店を経営する以上不振人物は絶対に客足を遠のかせるであろうし、実際この店の店員が犠牲になった事実は調査済みであるのだから。
「そやなぁ。 気になるよーな、ならんよーな…。 色々とな、忘れたい事っちゅーのもあるからなぁ」
「…すみません。 少々不躾だったかもしれませんね」
 言葉は確実に以前犠牲になった店員の事を指している。忘れたい事件。身内の者にとっては確かに忘れたい事なのだろう。
「んーん、気にせんでええよ。 ちうか、そやってうちの店気にしてくれとるの、嬉しいやん?」
 遊里の言葉に嘘は無いであろうが、セレスティは少し考え込む。この事件に関わる事を決めた以上『BLUE』の店員にも自分は強い印象を与えかねない。それは良くも悪くもだ。こうして彼のように大雑把に笑って許してくれる者があと何人居るだろう。
「事件なぁ…。 美佐さんについてならちと話は出来るかもしれへんけど…どうしよ?」
 静かになった店内にアニメのエンディングテーマだけが大きく流れている。無理に聞き過ぎれば遊里とて傷つきかねないが。
「今日は美佐さんという方についてだけ、お願いできますか?」
「はは、んじゃああれやね。 機会があればまだ聞くっちゅー事やね」
 はい。と頷けば参ったな、とばかりに遊里が肩を竦めて苦笑いを漏らす。酷く打ちのめされたわけではないから、これはまだ良しとするべきか。

「んと、朱居・美佐(あけい・みさ)さん。 妃ちゃんの前にここの副店長さんやっとった人で親父からの紹介でうち来はったんやっけなぁ…。 東京でのお仕事ないーっちゅう理由で娘さんの優菜ちゃんももうそれなりにおっきくなっとったけど…」
 美佐という人物の事柄を片っ端から思い出そうとしているのだろうか。遊里は頭を掻きながらどこか遠い目をするように天井を眺めている。
「親父も美佐さん、なんで知っとったんかは俺もようわからんけど…。 事件自体については当時の新聞のが分かりやすいかもなぁ、ちと変な話ばっかやけど」
「ええ、確かに」
 美佐死亡時の新聞はまだこの事件を取り扱う気があったらしく多少小さくではあるがこの事件の記事が載っている。関係者から言葉が聞けたという事は死因にあった凍死、という記事は事実だという証明だ。
「美佐さんの事件の前からあんまここら辺はえー噂なかったし、店構えた俺が悪かったのかもしれへん…。 変死事件にしたかてこの辺に引っ越してきてからやし」
「です…か」
 このまま、遊里に事件の事を聞いていいのだろうか。会話がどんどん負の方向に向かっているのを察知して、セレスティは思わず上手い相槌を忘れてしまう。
「有難う御座います、暁さん。 今日はこれから用事がありますし、この辺でお暇致しますよ。 なんだか申し訳ありません」
「おっと、そかぁ。 ほな、これ渡しとかなね」
 このまま行けば遊里が落ち込んでしまう。そう危惧して去ろうとしたセレスティだが相手も多少は打たれ強いらしい。或いはこの事件に関してこれ以上何か自覚が無いからなのか。
 打って変わって手渡された物は青いカードに白文字という実に今時色の強い遊里の名刺だった。
「自分で言うのもなんやけど、俺って店空けるんも結構あるしなぁ。 なんか遊びでもあったら声かけてぇな」
「それは…いえ、有難う御座います」
 純粋にセレスティと『遊ぶ』またはそういった話があると思って渡されたものか。聞き返そうとしてそうする意味も無いと名刺をそのまま覗く。
 名前と電話番号に携帯番号、メールアドレスに『BLUE』の住所と多分東京で住んでいるだろう遊里の住所が記してある、彼の性格のわりにはしっかりとした名刺だ。
「では、失礼しますね」
 店のドアを開ければ遊里が明るい声でセレスティを見送る。
 外はもうすぐ夕焼けの色を見せ始め、切夜もそろそろこの店に来るだろう。思いながらセレスティは受け取った名刺を仕舞うとすぐに小型リムジンに乗り込むのだった。



 事件を調べる成果についてはなかなかだったと思う。まず切夜のスタートラインとも言うべき、どこまで知っているか。がセレスティには分からなかったが、調べ始めとしては上手く行った。
 特に初期付近の犠牲者の友人である遊里が意外に情報を出し渋らなかったのは大きい。あの調子で聞く事も出来ただろうが。
(そこまでしてしまうには時期が早いかもしれませんし…。 何より朱居さんのお母様が暁さんのお父様とお知り合いだというのは…)
 偶然だろうか。考えすぎといえば確かに、東京で働き所が無ければ友人として宛がえるのならばそうしてやりたいと思うのも当然である。
(しかし、逆に彼が実家について出し渋ったのはおかしい。 感情的に考えて事件の事を渋るのは分かるのですけれども)
 これは切夜だけでなく遊里も何か抱えている事になるのだろうか。とはいえ、もしかするとそれは家庭内のそれだけの可能性も否定できない分安易に手出しは出来ない。
(後回しでも良さそうですね)
 今は。先に切夜のスタートライン、もしくはそれ以上の情報を手に入れる事が先決だ。
 セレスティを乗せたリムジンはとうに『BLUE』を離れ、来る前に調べ上げた事件に関連する遺体が最初に見つかった場所へと案内し始めていた。

(季節が良いせいでしょうか、身体が軽いのは幸いでした…。 こう廃墟の多い所ですと隙間風が意外と多く感じられますし、ああ、でも――)

 元々事件に関連性のある場所は絞られていた為回る時間もそこまで遅くなるとは思っていなかったが実際巡り、丁度四箇所目でセレスティの足は一旦止まる事になる。
「ここは…事件現場の殆どはある程度建物が近くにあるのですね」
「はい、理由があるのか分かりませんが各箇所に最低壁のしっかりした…言うなれば家具さえ揃えば人の住める廃墟が一軒はあります」
 主一人を危険な時間一人歩きさせるのは忍びないと運転手兼コンピュータだけでは示しきれないデータを持って部下はセレスティにその資料を差し出す。
「ビルに廃屋…。 建物自体に規則性はありませんから場所も考えて偶然? 犯人は人か、それにしても…」
 独り言のように呟いて一歩を踏み出す。ともすれば自分自身が襲われるかもしれない、それでも何もわからないよりマシと思っていたがそう簡単に襲ってくれないかとまた数時間後に思い直す事になる。

 収穫はあった。一旦微々たる物に見えてそれらはこれから検討する余地が大いにある品々ばかりだ。
(まず本来の目的…遺体の致命傷や諸々を聞き出す事に専念するべきでしょうかね。 メディアは当てにならない、かと言って不躾に聞くにもある程度他の方の対応に追われる可能性が)
 車内で何度も繰り返す。決めるべき情報。
(遺体発見の場所から導き出された事はあまり当てにはなりませんが、思うに何かしら意思や意図があって動いている…そうでなければ私が襲われていても、考えてみれば情報を集めている切夜さんが既に襲われていてもいい筈)
 東京ならあるのは当然と言っても過言ではない廃屋や廃れきった『潜伏出来そうな先』はセレスティの心に奇妙な違和感を残した。
「そうです、お店の方々の住まいはどうですか?」
 リンスター財閥邸に戻るリムジン。暫く考え込んでいた海の底のような、深い青は突如に真昼の空のように輝きを放って運転手へと情報を仰ぐ。
「はい、それは調べてあります。 画面をご覧下さい」
 相変わらず調べろ、と命令した事についての仕事は早い。以前の情報の悪さはきっと明確に指揮しなかった故なのかとセレスティは緩んだ口元を押さえる。
「暁さん、萩月さん…いえ、皆さん同じ蜘蛛路地内に住んでおられるのですか」
「はい、そのようです。 ですがセレスティ様調べました所お一人だけ…」
 画面の青く点滅する『BLUE』の面々が住むアパート、ないし家はそれぞれ離れてはいるものの蜘蛛路地と呼ばれる区画内で光っている。が、一箇所。
「切夜さんのもう一つの住まいが、都内の隅になっておりますね」
 これはどちらの切夜だろうか。つまり、鈴木切夜か、榎本切夜か。ただセレスティには例え苗字がどうであれ『切夜』という人物が何かしら秘密を持って動いていると確信できた気がした。
(以前頂いた名刺でも名前しかありませんでしたし、考えれば苗字は元々教える気が無いのが彼と考えた方が現実味があるでしょうかね)
 思い起こしてみれば『BLUE』の面々は切夜、せっちゃん、切夜さん。誰も苗字を呼んでいない事実もある。
「お客様だから苗字も知らない、これも当たり前の事ではありますよね?」
「とはいえ職業柄土地の方に正式な名刺をお渡しになっている可能性も大いにあるかと…」
「ああ」
 確かに。思わず疑問符を言葉の端につけてしまったが、意見を求めるのは蜘蛛路地の名前も知らぬ住民でも部下でも良かったのだ。何しろ今までその情報網を使ってきたのだから。
(頼りすぎるとお話する方の顔までは分かりませんから適度に利用していくと良いかもしれません)
 そう思うのは部下とて命ある存在、下手に酷使すれば蜘蛛路地の被害者として出る可能性も十分にある。
「有難う御座います。 では引き続き外部から取れるだけの情報を宜しくお願いします」
「了解いたしました」
 あくまで蜘蛛路地に出向くのは今現在セレスティ一人で良い。それにお供が付いているというのは自分という存在である為必要な事なのだ。
 だから、それ以外では部下をあまり危険な目に合わせたくない。

(被害者の職業は警官からこの土地の方、実際関連性は皆無、普通の人間である以外は無いようですね)

 リンスター財閥の屋敷に広がる門が見えてくる。これから調べるべき、決断すべき事をまた練るのも悪くない。どれだけ着手に時間がかかろうと。
「こんなに負けず嫌いでしたっけ」
 私は。セレスティは後部座席に柔らかな髪を委ねると大きく首を柔らかな生地に凭れさせた。

 ――夜が、迫ってくる。


fin...?

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】

【NPC / 暁・遊里 / 男性 / 27歳 / カクテルバー『Blue』店長】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

セレスティ・カーニンガム様

いつも有難う御座います。ライターの唄です。
今回どんどん事件側の調査へ向かっていただき、説明じみた描写ばかりになっていないか少々不安ですがセレスティ様らしい所を書けていれば幸いです。
以下は前回の簡単な詳細で、
*切夜の疑惑、*通り魔事件の簡単な報告、*『BLUE』全員との面識、*切夜からの好感(小)
今回は、
*暁からの好感度(+-0)*通り魔事件の現場報告・被害者報告 *被害者の死因についての噂
となっております。
(これは大雑把な結果であり、関係のある情報で得られた物は良くも悪くも文中に織り交ぜてあります)
誤字脱字等気をつけておりますが、何かあればレターにてご一報頂けると幸いです。
それでは、また遊びでも事件側でもセレスティ様にお会い出来る事を願って。

唄 拝