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佐吉の友達〜スウェーツがお好き?〜
「新発売のチョコレート買っちゃった。やっぱりお散歩コースにお店があると嬉しいわねぇ」
某有名コンビニから足取り軽く飛び出してきたのはソフィア=ウェルシー。彼女は大のお菓子好きで、ミシュランに載るような有名店のスウィーツからコンビニのプリンまで好んで食べる。1日に1回は甘味がないと1日は終われない。そして、毎日のように店を周り、新作を見つければ即座に買い求めるというほどだ。
そのためか、彼女の日課は散歩なのだが、そのコースにはコンビニが各社1軒ずつ、洋菓子店が2軒ある。いくらお菓子好きとはいえ、結構な数の店を周るのだ。彼女が家主を務める長屋の店子達はお菓子をぶら下げて帰ってくる彼女を見るたびに苦笑するとか。
だが彼女は足のある西洋幽霊なので、いくら食べても体重や体型が変動することは無い。世の中の甘い物好きの女性にとってはなんとも羨ましい話である。
「長屋の皆、今日の午後は暇かしら?今日は良いお天気だし、ぽかぽか陽気の中で皆とお茶会ってとっても素敵よねぇ。この先にあるケーキ屋さんで確か昨日、新作が出たはずだし、ホールで買っていってしまおうかしら・・・・あら?」
舞い上がって、スキップをしてしまいそうなソフィアであったが、目の端に、何か街の風景とは似合わないモノが映った気がしたので、正気に戻り、はたと立ち止まる。
「あらあら?可愛いお人形さん」
「!!」
彼女が『お人形さん』と呼んだソレは、声をかけられると驚いたのか、さっと電柱の陰に隠れてしまった。
それに対し攻撃されるとか、怯えられるとかの考えは浮かばなかったのだろうか。
ソフィアは見たことのないものを見たい好奇心を押さえきれずに『お人形さん』が身を隠した電柱へと近寄っていく。人間に対しては少々人見知りをするくせに、それ以外が対象となると大丈夫なようだ。警戒心があるのか無いのか、微妙な気がする。
「やっぱり可愛い〜、茶色い筒のお人形さんね」
「筒・・・埴輪、なんだけどよ・・・・」
『お人形さん』は人形、とは一般的に言えないだろう赤土作りの円筒形埴輪であるようだ。しかし、日本の教育を受けていない上に、少しお惚けなところもあるソフィアにとって『埴輪』は未知なる物。そのため、ちょっと変わった人形くらいにしか見えないのかもしれない。
「は、に、わ?よくわからないけど、お菊ちゃんとかテディさん家のクマさんとは違うのね?お菊ちゃんたちは人間と同じ形だし、クマさんたちもふわもこだものね」
「おきくちゃん?もしかして日本人形のことかー?俺はブレス曰く『焼物』だからそいつらとは違うぞ?」
「そうなの?」
「おうよ・・・つーか、お前。俺が普通にしゃべってんのに全然驚かないんだな。ブレスは俺みたいなのがフツーに話してたら人間はすっごく驚くみたいなこと言ってた」
なるほど。それで先ほどソフィアに気付いた時、電柱に隠れたのだろう。『ブレス』が何者かはわからないが、彼の友人なり、家族なり、親しい間柄であることは確かだろう。そして、彼に人間の前では喋るとどう言う事になるのかを教えた、と。
確かに正しい判断だ。埴輪が話すなど、何処かの怪談のようなもので、この埴輪自身が友好的であっても人々は怯え、逃げ惑うかもしれない。
けれど、そんなことはこのソフィアには通用しない。
「大丈夫よ。私、幽霊だから」
そう、先にも述べたがこのソフィア、足はあっても実は幽霊。自分だって怪談物の類なので、そこは『お仲間』ということだ。だから、彼の存在に驚くことはない。
「私はソフィア=ウェルシー。貴方は?」
「佐吉」
「佐吉さん、甘いものは好き?」
「好き!大好き!!」
手をバタつかせ、瞳を輝かせるその様はまるで子供で。可愛くてたまらない、とソフィアは満面の笑みで佐吉の頭を撫でた。
「じゃあ、さっき私がそこのコンビニで買ったチーズケーキがあるから、それを食べながらお話しましょ」
「おー!チーズケーキ!!」
ますますはしゃぐ佐吉をソフィアは抱き上げ、話す場所には最適、と考えた散歩コース上の公園に足を向けた。
公園には平日の昼間であるせいか、鳩がくるっぽーと群れを成して土をつついているだけであった。幽霊と埴輪が会話するにはもってこいのガラガラ感だ。
ソフィアはベンチを見つけるとすぐそこに座り、佐吉を自分の横に下ろすと、コンビニで買ったスティック状のチーズケーキを半分に割って佐吉に渡してやる。
「はい、召し上がれ」
「いただきまーーーす!」
「じゃあ、私も。いただきまーす」
2人並んで幸せそうにケーキを頬張る。
15センチくらいのスティックケーキを更に半分にした物だったので、体の大きいソフィアの方が早く食べきってしまい、少し佐吉について考える時間が出来た。
考えることとは、この土焼き人形が一体何処から来たのか、ということだ。
人形には大概持ち主が居るものだ。けれど、こんな所を1人で歩いていたのだからもしかしてこの子は捨てられてしまったのではないだろうか。
(もしそうだとしたら可哀相・・・私が見つけたんだし、責任持ってお持ち帰りしなきゃ)
尊敬すべき正義感ではあるが、如何せんまだ佐吉自身に何も事情を聞いていない。とりあえず、やんわりと聞くのが吉だろう。
「佐吉さん、お散歩好きかしら?」
「散歩?外の空気は好きだぞー?だけど自分で歩いたのは今日が初めてだ。いつもはカバンの中とかに入れて貰って移動してるな」
「カバン!?やっぱり虐待なのかしら!?」
「は・・・・?ぎゃくたい?ニュースで聞いたことある言葉だけど・・・俺、ブレスと一緒に暴れて割れることはあるけど、ぶたれたり蹴られたりはないぞ?」
「だってカバンの中に入れられるって虐待じゃない!」
どうやらソフィアはよく小説にあるような「こんな子、外に出せるか」といった虐待を受けていると勘違いしているらしい。こんな愛らしい子なのに許せない、やっぱり私が持って帰る、などと少し暴走気味のソフィアに佐吉も丸い目を余計に丸くさせて、呆然としている。
「はっ!それともいっそ凍らせに・・・・!!」
「こ・・・凍る!?有人とブレスを凍らせちゃ駄目だぞ!アイツ等『家族』なんだからな!」
『凍らせる』の一言に佐吉も慌てて応戦。暴走しているソフィアに何とか踏みとどまって貰えるよう頑張って反論する。
「『家族』がカバンに入れるわけないじゃない!」
「入れてもらってるんだ!何勘違いしてるんだ、お前!俺は進むスピードが遅くてあいつらには付いていけないから、カバンに入れて貰って楽々移動してるんだ!!」
「ら・・・楽々?おいつけないから?あ・・・あら?」
やっと自分の間違いに気付いたらしい。
恐らく佐吉の『家族』は少なくとも佐吉より大きい生物で、小さな佐吉と外出する際は佐吉を想って、カバンの中に入れてあげているのだろう。
そのような考えにやっと辿り着いたソフィアは勝手に佐吉が虐待されていると思い込み、挙句の果てには佐吉の家族が何処だか分からないのに、乗り込んでいって彼の家族を氷付けにしようとしたのだから、恥ずかしさの余りに耳まで真っ赤になってしまうのも無理はない。
「今日はちょっと俺が他の奴らと喋りたいって言ったら、駄目って言われて、ムカついたから飛び出してきた。だから1人で歩いてきたんだからな」
エッヘン、と羞恥でうずくまってしまったソフィアの前に立って、自慢げに胸を張る佐吉。
飛び出してきては拙かろう。
ソフィアもそう思ったのか、顔を上げて佐吉の顔を見ながら諭すかのようにこう言った。
「それって勝手に出てきたってこと?それはちょっと駄目なんじゃないかしら?佐吉さん、最初に言ってたわよね、何とかって言う人が人間の前で話したらすっごく驚くって。だから反対されたんじゃないの?」
「う・・・・っ」
「佐吉さんが大事だと想っているご家族なら、ご家族の方もそう想ってるんじゃないのかしら?」
「うー・・・そうかな」
「そうよ、絶対」
「んー、でもそうだったら・・・帰ったら確実に怒られるよな」
ソフィアに諭され、家に帰るのが不安になった佐吉は先程とはうって変わり、泣きそうな顔でベンチの上を右往左往している。
そんな佐吉にソフィアはにっこりと笑顔を見せて、
「大丈夫よ。『怒る』のと『叱る』のは違うんですって。きっと佐吉さんは『叱られる』と思うから大丈夫」
「どっちにしたって怖いような・・・」
「まぁまぁ大丈夫。ケーキを買っていきましょう。佐吉さんのご家族は何人?」
「ケーキ!?俺含めて3人!俺、今度はチョコのがいい!!」
好物の名を聞いてまた180度態度を変える佐吉。コロコロとよく変わる表情だ。
(チョコケーキの美味しい店は・・・少し道を戻った所だった筈ね。そこに行って、あとは誰でも食べられそうなおススメのケーキを買って、佐吉さんのお家に行けば大丈夫ね)
人見知りの件は「佐吉さんの家族だから大丈夫」とソフィア流の理論で吹き飛ばし、佐吉に行きましょう、と立ち上がって両手を差し出した。
お目当ての店でケーキを自分と佐吉と佐吉の家族の計4人分買い、佐吉の家に辿り着いた。
「え・・・と、かすみたに?」
「かすみ『や』だぞ、ソフィア」
「漢字って色んな読みがあって難しい・・・」
「ブレスも何年か前、そう言ってた。それよりソフィアー、表札と睨めっこしてないで早くケーキくおー」
「あら?ごめんなさい、佐吉さん」
佐吉に促され、慌ててインターフォンを押すと、家の中からソフィアと似た外見年齢の少年がキョトンとした顔で出てきた。
「あれ?佐吉。キレイなお姉さん引っ掛けてきたの?」
「ひっかけるってなんだ?」
「知らないなら知らないでいいよ、佐吉はまだガキだし。お姉さん、うちの焼物がご迷惑かけました。僕はブレッシング=サーチャー、ここの大黒柱の弟分です。ブレスって呼んでね」
「あ・・・ソフィア=ウェルシーです。佐吉さんとお友達になったので記念にと思っておススメのケーキを買ってきました!」
知らない人にドキドキしながらも、ソフィアが勇気を出してケーキ箱を差し出すと、『佐吉の友達』になったと聞いて顔をほころばせたブレッシングはそれを受け取り、
「どうぞ、ソフィアさん。美味しい紅茶でも飲んでいってください」
と、玄関を開けてくれた。
ソフィアが通されたのはリビングで、そこに居た銀糸の青年―この家の主で霞谷有人と言うらしい―が紅茶を淹れてくれた。
「おいしい・・・・」
「ブレスが紅茶葉にはうるさいので」
「だって美味しい紅茶、飲みたい」
「わかってる、俺もその方がいい。佐吉もそうか?」
「おうよー、もっちろーん」
血は繋がっていないが仲の睦まじい兄弟だ。
あんな勘違いをしてしまって、ソフィアは本当に申し訳なく思う。
「佐吉さん」
「ん?」
「また美味しいケーキが手に入ったら遊びに来てもいい?」
「いいけど・・・別にソフィアとはもう友達なんだからケーキなしでも来いよー?」
「うふふ、そうね。是非そうさせて頂くわ」
店子達とのお茶会を開くことは出来なかったけれど、素敵な一家との出会いがあったので、今日は外の陽気にあった素敵な日になった、とソフィアは感じたのであった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7320 / ソフィア・ウェルシー / 女 / 217歳 / 不動産屋】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして、ソフィア・ウェルシー様。
ご依頼、ありがとうございます。
設定やプレイングに「おつむが弱い」と書いてあったので、天然なのかな、暴走してしまうのだろうかと考えながら書かせていただいた結果、あのように暴走させてしまったのですがいかがだったでしょう?
佐吉も同じケーキ好きで話が合いそうですし、もしよろしければまた霞谷家に足をお運びください。
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