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<HappyNewYear・PC謹賀新年ノベル>


職務怠慢〜恵比寿の氷像〜

 もうすぐ正月。三箇日の内に初詣に行く人も多いだろう。
 その時期に忙しい七福神はもうそろそろ準備をしなくては、と集まって相談をしていた。しかし、その内話し合いは愚痴りあいに転じていってしまった。
「毎年人酔いが激しくてのう」
「この時期だけ来るなんていいようにしか扱われてないわよねぇ」
「皆の願いを叶えるのにも東奔西走だしな」
 皆のそんな愚痴を纏めたのが布袋尊。
「よし、こうしよう。今年は三箇日の間にそれぞれ儂等を捕まえたものに利益を授けると」


 かくして七福神は散り散りに別れ、三箇日の3日間、大掛かりなかくれんぼを決行するのであった


 そして、年を越した三箇日のある日。



「え?神様がかくれんぼ?」
「そうそう。だからソフィアさん、一緒に何かの神様探しに行かない?兄貴は編集の人に新年会に連れて行かれちゃったから、僕とサキチは暇なんだよね」
 長屋の皆と餅つき大会を開いたその日、ソフィアを訪ねてきたブレッシングと佐吉。餅つき大会に参加しにきたのかと思えば、そんな珍妙な話を持ってきたらしい。まぁ、ちゃっかり参加して、現在ソフィアの目の前で餅に食らいついているので参加ついでに話しに来たのかもしれないが。
「物がよく売れるようになる神様もいるのかしら?」
「商売繁盛ってこと?恵比寿っていう人がそんなご利益あったような・・・・」
「恵比寿さま・・・」
「その神様探す?」
「ええ、そうしましょう!」
「OK!じゃあ情報集めておくから明日に行こうよ。サキチ、というわけで僕はもう帰るけどお前どうする?」
 餅を食べ終えたブレッシングが佐吉に声をかけるが、彼はまだソフィアの店子に作って貰った自分用の小さな餅にかぶり付いたままだった。更にまだ皿の上に積み上げてあったりするし、いくつ食べるつもりだ。
「・・・まだ、居るつもりだね」
「まだ俺は食えるぞー」
「はいはい、わかったよ。ソフィアさん、悪いけど、あの焼物おいてっていい?」
「いいわよー。明日また会うんだし」
 ブレッシングは『情報を集めるまで』というニュアンスで言ったのだが、ソフィアには『今日1日』と伝わってしまったようだ。確かに、彼女の言う通り、恵比寿確保のため明日会うのであるし、預けておこう。
「お願いします。サキチ、ソフィアさんと長屋の人達に迷惑かけんなよー」
「かけねーよー」
 佐吉の拗ねた声に笑い、明日の詳細は情報が集まってから連絡すると残し、ブレッシングはソフィアの長屋から去った。



 翌日、ソフィアは佐吉と共に関東地方のある海岸上空にいた。
 昨晩、ブレッシングが手に入れた情報によると、恵比寿はこの辺で釣りをしているとのこと。地上からでは気配を察して逃げられるかもしれないし、他にライバルが居たらソフィアの身が危ないと、ある程度武力行使に慣れているブレッシングが地上を担当し、ソフィアは幽霊であること利用して佐吉を連れて空中から探すことになった。
「ソフィアー、何でケーキを買ったんだぁ?」
 何故かケーキを持って。
「え?だって恵比寿さまを捕まえたら記念に皆で食べようと思ったのだけれど」
「後で買えばよかったんじゃないのかー?」
 落としてもしらねーぞー、なんて肩の上で佐吉が呆れて呟いているが、ソフィアは大丈夫、と笑顔。
「恵比寿さまを見つけたら念動力で捕まえるから手は使わないわ。だからケーキを落とすことはないのよ」
「ならだいじょーぶだな」
 佐吉は手を使わないと聞いてほっ、としたようだが、果たして本当に大丈夫なのだろうか。確かに『手』は使わないだろうが。
「ところでえびすってどんなヤツなんだろ」
「んーと、ブレスさんが言うにはちょっとぽっちゃりで、赤くて小さな帽子を頭に乗っけて、釣竿を担いでいるんですって。それでビクっていうお魚を入れるバケツみたいなものに鯛を入れてるそうよ」
「釣竿って、ルアー釣り用の真っ黒のヤツじゃなくて竹かなんかで簡単に作ってあるヤツかー?」
「多分そうじゃないかしら。なんたって昔からいる神様なんですもの」
「じゃあアレじゃないかー?」
「え!?」
 佐吉の指した方を慌てて見ると、桟橋の辺りで釣りをしている者がいた。
 竹の釣竿に、竹編みの魚篭。頭には赤い布の帽子で、現代人が着ないような布の服。
 まさしく、ブレッシングが教えてくれた恵比寿様に違いない。
「佐吉さん、あの人だわ。んー、集中!!!」
「ふれーふれー、ソフィア。念動力だー、ソフィア」
 こちらが見つかって逃げられない内に、と、その場で意識を集中し始める。
 だが、恵比寿もやはり神様。一幽霊の僅かな念動力には容易く捕まってくれないらしく、桟橋の上でもがいている。その都度、ソフィアは意識を恵比寿に集中させるのだが、佐吉の、
「あっ」
と、いう声で意識を拡散させた。
「一体どうしたのかしら、佐吉さん」
 折角意識をあそこまで集中させたというのに。
「ソフィアー、ケーキやっぱ落ちたぞー」
「なんですって!」
 そう、やはり危惧していた通りにケーキは地上へ真っ逆さま。意識を恵比寿に集中させすぎて、手の方はいつの間にか握りこぶしを作っていたのだ。
 それは落ちるに決まっている。
「せっかく朝一で買って来たのに!もう許せない!!飛ばすわよ、佐吉さん!!」
「ソフィア、それは八つ当た・・・・・りーーー!!」
 恵比寿目掛けて急降下を始めたソフィアに捕まることしかできない佐吉は彼女を止めることは出来ない。ブレッシングと何故別行動をしたんだろう、と心の底で少し後悔だ。
「な・・・何だ?」
「恵比寿さまぁぁぁぁぁぁぁぁ!おかくごぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「儂が何をしたぁぁぁぁぁぁ!!!」
 まったくである。





「ただいまー、ブレスさん、先についてたのね。アルトさんも連日の新年会お疲れ様です」
 にこやか笑顔で長屋に帰ってきたソフィアとは裏腹に、何故か待っていた人々の表情は引き攣っていた。
「僕もここまで無茶はしないなぁ」
「これは流石に、まぁ、いいかで済ますわけにはいかないな」
 なんと、ソフィアと一緒に浮かんでいたのは―ソフィアが念動力で持って帰ってきたから浮いているのだが―、氷付けになってしまっている恵比寿神。必死の表情のまま凍っているところを見ると、さぞかしこうなる直前に驚いただろうことが伺える。
「ソフィアさん、恵比寿神も気になりますがうちの佐吉はどうしたんです?ブレスの話では貴女と一緒に行動している筈ですが」
「佐吉さん・・・えーと・・・アルトさん、ブレスさん、ごめんなさい」
「「?」」
 首を傾げる有人とブレッシングが自分達からやや目をそらしがちなソフィアから手渡された佐吉は、すっかり目を回していた。おまけに何かぶつぶつとうわ言のようなものを言っている。
「サキチ!?おい、大丈夫か!?」
「・・・一体、ブレスと分かれて行動している間に何をしていたんです?」
 呆れため息を1つつく有人に、ソフィアは罪悪感を感じつつ、恵比寿を見つけて念動力で捕まえようとしたこと、集中し過ぎて予め買っておいたケーキを落としたこと、そして八つ当たりのように激怒して、恵比寿を凍らせたことを、しどろもどろと説明した。
「で、サキチはこんなんに・・・」
「そふぃあこーすたー・・・・・」
「そして恵比寿神はこうなった、と。ブレス、恵比寿神の解凍頼めるか?」
「OK!」
「じゃあ私は?」
 役割がもらえていないと有人の傍に寄って行くソフィア。キラキラしたその目が何でも言って、と言っているのに気付いた有人ではあるが、どうにも頼むことが無い。
「では、ソフィアさんはケーキを買いなおしに行ってきてください」
 これくらいしか。
「わかりました、いってきまーす!」
「あぁ、恵比寿神の分もお忘れなきよう」
「えぇ、わかってるわ。氷付けにしたお詫びをしなきゃいけないものね」
「はい。どうぞお気をつけて」
 ソフィアの姿が見えなくなると、有人はブレッシングの元によって行って、恵比寿の解凍を手伝うことにした。



「ただいまー」
「お帰りなさい、ソフィアさん。丁度佐吉が目を覚ましましたし、恵比寿神の解凍も終わりましたよ」
「あら、いいタイミングじゃないかしら」
 ソフィアが長屋の広場に入っていくと、すっかり復活した恵比寿がブレスから温かいお茶を貰っているところであった。
「恵比寿さま」
「ああ!アンタはさっき儂を凍らせてくれた女子だな。事情はここに居る者達から聞いた。店子の幸せを願うのは家主の鏡だが、乱暴なやり方は感心せんな」
「ごめんなさい」
 しゅん、としてしまったソフィア。
 もしかして怒らせてしまったのだろうかと心配しているが、それは不要な心配だ。恵比寿は、自分の欲より他人の幸せを願うソフィアの願いを叶えるとソフィアの事情を聞いたときに決めていたからだ。
「恵比寿さま・・・」
「久しくアンタみたいな他人の幸せを願うのを見ていなかったからな。氷付けにされたことは差し引いておくよ」
「ありがとうございます!」
「よかったなー、ソフィア」
「ええ!佐吉さんもブレスさんもありがとう!これで今年も楽しい1年になりそうだわ!」



 他人の幸福を願う者は自らも幸福になる。
 情けは人のためならずとはよく言ったものです。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7320 / ソフィア・ウェルシー / 女 / 217歳 / 不動産屋】

NPC
【NPC4822 / 霞谷・有人 / 812歳 / 絵本作家】
【NPC4823 / ブレッシング・サーチャー / 25歳 / アシスタント】
【NPC4825 / 佐吉 / 4歳 / 無職】

そして・・・恵比寿神


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ソフィア・ウェルシー様、ご依頼ありがとうございます。
前回の依頼を反映という事で佐吉を少し多めに出させていただきましたがいかがだったでしょうか?
店子の幸せを願うソフィアさんの気持ちに恵比寿さんも感心なさったようです。
こう言う方、なかなか今の世の中いらっしゃいませんもんね(苦笑)
また、ご縁がありましたらよろしくお願いします。