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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


幼馴染

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OPENING

「お兄さん。お電話です」
受話器の通話口を手で押さえながら言う零。
内容が仕事の場合は、仕事です、と伝える為、
そうではなく、私用の電話だと気付く。
「誰?」
煙草を消しながら武彦が言うと、零はニコリと微笑んで言った。
「藤二さんです」
ピタリと止まる武彦の動き。
三秒ほど硬直した後、武彦は零に受話器を寄こせと促しながら溜息を吐いた。
「何だ急に」
『何だはないだろ』
「いつ帰ってきた?」
『つい、さっき』
「あーそう。おかえりおかえり」
『何その言い方。冷たいにもほどがあるんじゃない?』
「うっせーよ」
『っていうかさ、今日、興信所行くから。お土産アリだよ』
「別にいいけど。何時くらいだよ」
『うん?もうすぐ着くよ』
「はぁ〜〜〜???」

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食材の買出しから戻ったシュラインは、
何やら乱暴な口調で電話をしている武彦を見てキョトン。
誰と電話してるのかしら、と疑問に思っていると、
零がシュラインに説明した。
「赤坂さんが帰ってきたみたいです」
「あら。そうなの?」
シュラインはニコリと微笑み、
受話器をポイッと投げやる武彦に問う。
「もうすぐ来るのね?」
「おぅ。あぁ、いいよ。別に何も用意しなくて」
「そういうわけにもいかないじゃない」
シュラインは藤二のことを、よく理解している。
まだ数えるほどしか会ったことはないけれど、
彼の性格は、わかりやすい。ちょっと変、なのだ。
興信所に電話が来たら、それは、もうすぐ来る合図。
シュラインは嬉しそうに、来客用カップなどの準備を始めた。
「だから、いいって…あいつに、茶なんて出すなよ。勿体ねぇから」
「酷い言いようねぇ」
クスクス笑うシュライン。
武彦は、藤二が来ることになると、いつも、こうだ。
酷く無愛想で、性格の悪い男になる。
まぁ、心から、うっとおしいと思っているわけではない。
シュラインも、それは理解している。
藤二は、武彦の幼馴染で、ライターをしながら各国を放浪している。
まさに、自由人だ。
さっきも言ったとおり、藤二は少し変わった男で、
まともに話に付き合うと、非常に疲れる。
突飛な話や、神話、逸話が好きで、話し出すと止まらない。
例え話も好きで、もしも百万円を拾ったら…という、
もしもシリーズは、彼のお気に入りだ。
変わった奴で、掴みどころがないわりに、頭は良く、
非常に扱いにくい。とっつきにくくもある。
そんな藤二を、シュラインは気に入っている。
彼の話は、シュラインにとって、とても楽しく興味深いのだ。
ピンポーン―
準備を終えたと同時、ナイスタイミングでチャイムが鳴る。
零は、パタパタと玄関に向かった。
「タイミング良いわよねぇ、いつも」
「…見てんじゃねぇか、どっかで」



「やぁやぁ。どうも。おじゃましますよ」
ヒラヒラと手を振ってリビングにやって来た藤二。
シュラインはチラリと武彦を見やる。
武彦は藤二を見ずに言った。
「おぅ、いらっしゃい。迷惑だけど、いらっしゃい」
「うわぁ。冷たいね。おかえりとかは?」
「あぁ、おかえり。迷惑だけど、おかえり」
「…酷いね〜」
クックッと笑う藤二。
シュラインは、無愛想極まりない武彦に笑いつつ、藤二に言った。
「おかえりなさい。と、いらっしゃい。久しぶりね」
「お〜。シュラインちゃん。相変わらず、綺麗だね」
ニコッと笑って言う藤二。シュラインはクスクスと笑った。

荷物を預かり、それを邪魔にならない所へ置くシュライン。
藤二のコートは、きちんとハンガーにかけ、クローゼットの中へ。
てきぱきと動くシュラインを見つつ、藤二は言った。
「いい嫁さんだなぁ。武彦」
「羨ましいか?」
「うん。頂戴?」
「嫌だ」
向かい合って座り言葉を交わす武彦と藤二。
シュラインは相変わらずな二人の遣り取りに笑いつつ、武彦の隣に腰を下ろした。
そこへ、零がパタパタと御茶とクッキーを持って来る。
「あれ。零ちゃん…何か可愛くなったね。彼氏でも出来た?」
藤二の問いに、零はポッと頬を染め、お盆で顔を隠す。
「うそ。マジで?どんな奴?」
「ひ、秘密です…」
零はタタタッと、その場から逃げて自室へ向かっていった。
どうやら、この後 デートらしい。準備しなくては、ならないのだろう。
「マジかよ。ちょっとショックだ…」
苦笑して言う藤二に、武彦は煙草の空き箱を投げつけて言う。
「節操ねぇな。相変わらず」
「元気な証拠だよ」
藤二は投げつけられた煙草の空き箱をパシッと取り、
それをゴミ箱にポイッと投げ入れて言った。
藤二は、相変わらず。何も変わっていない。
自由なところも、少し変なところも、優しい笑顔も、何もかも。
変わらない藤二に、シュラインはホッと安心感を覚える。
一年に一度、会えるか会えないかという状況だけれど、
やっぱり、会って、顔を見るとホッとする。
自分にとって、この人も大切な人なんだと実感する瞬間でもあった。
また、藤二と話している時の武彦が見ていて楽しい、というのもある。
遠慮なくズバズバと思ったことを言う。
藤二に心を許しているからだろうが、
シュラインにとって、そういう武彦を見るのは新鮮なことなのだ。
「お前さ、何で、いっつも急なの」
煙草に火を点けて言う武彦。
藤二はゴソゴソと鞄を漁り、小さな箱を取り出して返した。
「はい。お土産」
「スルーかよ。おい」
苦笑する武彦。シュラインはテーブルの上に置かれた箱を手に取り、
中を見てもいい?と首を傾げた。藤二は微笑んで頷く。
嬉しそうに箱を開けてみるシュライン。
中には…物凄くビックリした顔の、こけしが入っていた。
「あっはははは!」
期待通りの内容に、大笑いするシュライン。
武彦も箱の中を覗き、プッと笑う。
「笑っちゃいけません。それは、神の化身なのですよ」
藤二は微笑みつつも真剣に、ビックリした顔の、こけしを説いた。


藤二の話は、とても楽しく珍妙だ。
時間は、あっという間に過ぎていく。
紅茶を飲み干し、フーと息を吐く藤二に、武彦は尋ねた。
「今回は、いつまで、日本にいるんだ?」
「ん〜。しばらく旅は止めようかと思ってるよ」
「は?何でだよ」
「金がね〜。底を尽いたから。当分 仕事して金、貯めないとね」
「あぁ、なるほどね」
「手伝うよ。仕事」
「いらね」
「いやぁ、冷たい。ビックリするわ。…あ、そういえば」
「ん?」
「千華は元気かい?」
「会ってねぇな。暫く。あいつも忙しいからな」
「まぁ、そっか。人気モデルだもんね〜」
ハッハッハッと笑いあう武彦と藤二。
彼等が言う、千華、とは共通の友人。
中学・高校は、ほとんど三人で居たそうだ。
彼女は今や、モデルとなり、主に海外で仕事をしている。
さすがに、ここはシュラインも入っていけない空気だ。
少し気まずそうにしているシュラインに気付き、藤二はパッと話題を変えた。
「シュラインちゃんは、どう?翻訳の仕事…順調かい?」
「えぇ。お蔭様で」
ニコリと微笑むシュライン。藤二は気の利く男だなぁ…と実感しつつ。

三時間ほど経過し、喋り尽くして。
藤二は、満足したのか、そそくさと帰る準備を始めた。
「泊っていったら?疲れてるでしょう?」
シュラインの提案に、藤二は感謝しつつも、それを拒んだ。
何でも、自分のベッドが恋しいんだとか。
つい一分前まで、ペラペラペラペラと喋っていたくせに(しかも一方的に)、
突然帰ると言い出し聞かなくなる。
まぁ、これも、いつものこと。単に、気分屋なのだ。
「じゃあ、また来るから」
「来なくていいよ」
「お待ちしてます」
武彦とシュラインに見送られ、藤二は何年ぶりかの自宅へ戻って行った。
藤二が帰ると、興信所にはいつもの静かな落ち着いた雰囲気が戻る。
武彦はソファに凭れ、ヤレヤレと溜息を吐いた。
そんな武彦の隣に ちょこんと座り、シュラインは尋ねてみる。
「ね。二人とも、昔から…あんな感じ?」
「ん?そうだよ。何で?」
「うーん?何か、羨ましくて」
「はは。何がだよ」
「気のおけない感じ、かな」
「何言ってんだ」
武彦はクスクス笑いつつ、シュラインの頬にキスをし、頭を撫でた。
それを、デートから戻った零が目撃し赤面していたり。
そんなこんなで、騒々しい日曜日は、これにて終了。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い

NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / 作家兼旅人・武彦の幼馴染


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。続きは、後編で。また、どうぞ宜しく御願いします。

異界での藤二ですが、現実と同一人物ですので、面識ありと捉えて下さい^^

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2008.01.05 / 椎葉 あずま(Azma Siiba)
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