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<東京怪談・PCゲームノベル>


VamBeat −Sequentia−







 ダニエルを執拗に追いかける様や言動行動からかなり直情名神父だと思い、ちょっとしたネットワークを使って、教皇庁から日本に派遣され、この辺りを管轄としている教会に連絡を取って見たが、そんな性格の神父はいないと言われてしまい、セレスティ・カーニンガムはほとほと首を傾げた。
「少し気分転換でもしましょう」
 セレスティは散歩がてら執務室から車に乗り込み、大きな公園へとやってきた。
 傍らには、いらないといったのに、身辺警護用のSPが控えている。
 ふと視線を向けた先、どこか見知った顔と視線がかち合う。
 雰囲気や気配は良く似ている。
 だが、濁った瞳に映る少年の姿は、黒い髪に青い瞳。
 自分の記憶の中の少年は、銀の髪に赤い瞳。
 他人の空似かと思ったが、黒髪に青眼の少年は、自分の姿を見るなりなぜか急いで逃げていった。
「彼を、捕まえてください」
 セレスティの一声で、SPが捕まえてきた黒髪の少年を、ニコニコ笑顔で迎え入れる。
 屈強なブラックスーツの男性に両手をがっちりと捕らえられ、少年はおろおろと瞳を泳がせた。
「あ…あの、何?」
 あくまでもシラを切るつもりなのだろう。少年は何故自分が捕まえられているのか全く分かりませんといった表情で、自分を見るセレスティを見返す。
「無事で安心しました。ダニエル君」
 お名前はダニエルで合ってますよね? と、加えて問いかければ、うろたえた表情をしていた少年の瞳が、切なげに伏せられた。
「……逃げないから、手…放してくれないか?」
 ダニエルは観念したのか、静かに問いかける。
 セレスティはすっと手を上げると、ダニエルを拘束していた手がぱっと離れた。
「ごめん。俺、金ないからガラス弁償できない」
 バツが悪そうにそう口にしたダニエルに、セレスティは一瞬何のことを言っているのか分からずに瞳をきょとんとさせる。
 もしや、この少年。自分が捕まったのはガラス代を弁償させるためだと思っているのか。
 セレスティはあまりに頓珍漢な答えに、くすっと笑いをこぼす。
「そんなことは気にしないでください」
「じゃあ……なんで?」
 本気だったのか。
 ますますセレスティは面白くて、表面上は穏やかな微笑だが、内心楽しくて仕方がない。
 あからさまに自分を見て逃げ出したのをみて、追いかけるのは大変だと思ったのだが、こんな時だけSPがついていてくれて助かった。
 逃げた理由は、以前襲ってきた神父を警戒してのことだと予想しても、あんな経験をしてまで自分を気にかけるということは、あの騒動の責任を負わされると考えても確かに仕方がない。
「以前と雰囲気が違うようですが、どうしてですか?」
 黒い髪に青い瞳は、アジア系の血を引けば幾らでも居そうな容姿だ。
「……これが、ホントの俺だから」
 銀の髪に赤い瞳は、吸血鬼としての力を使う時の姿。
 この今の姿は殆ど人と同じ。
「それより、なんで俺の名前……」
「先日、あの神父が君の名を言っていましたので」
 あの時の話を口にすれば、ダニエルは一層申し訳なさそうに眉根を寄せて、すっとセレスティから視線を外す。
「まだ、私の名前を言っていませんでしたね」
 偶然とはいえ、自分が彼の名前を知っているのに、彼が自分の名前を知らないのはフェアではない。
「いいよ。別に名乗らなくても。あんたとこれ以上関わる気ないし」
 ダニエルは今すぐにでもこの場を去りたかった。一度ならず二度までも同じ人を危険にさらすわけにはいかない。
 それに、あまりにも一所に止まるのは危険すぎる。
 セレスティはそんなダニエルの焦りと心配を感じ取って、言い方を変えてみることにした。
「先日、君と神父が壊した屋敷の主の名はセレスティ・カーニンガムです」
 ぐっとダニエルの言葉が詰まる。ぽりぽりと頭をかいて、降参とばかりに肩から力が抜ける。
「参ったな…」
 そんな風に言われては名前を覚えるしかないではないか。
「それではご一緒していただきましょうか。ダニエル君」
 セレスティにそんな気は全くなくても、ダニエルにはある種の脅迫のように聞こえて、促されるままについていく。
 連れてこられた先は、超高層ビルの最上階。周りに同じ高さのビルはなく、言うなれば陸の孤島。どうやら何かしら災害があった際は、屋上のヘリから脱出という何とも一般人離れした場所らしい。
「あんた、何か偉い人だったのか…?」
 よもや今時リンスター財閥を知らない人間に出会うとは思わなかった。
「偉くはありません。ただ少し会社を持っている程度です」
 そんな人物くらいさして珍しくもないといえば、ダニエルは素直に納得したようで、今までどんなところで暮らしてきたのかと少し心配になった。
「お食事は? 血以外のものも食べられるのですか?」
 セレスティの何気ない問いかけに、ダニエルはばっと口元を押さえた。
「俺…もしかして……そうか。そうだよな」
 何かの血を受け入れてしまったのだとは気がついたが、あの時受けた傷を癒した血がセレスティのものだったと今気がついた。
 ぐっと唇を噛み締めたダニエルの瞳が苦痛に揺れる。
「血を飲むことに抵抗があるのですね」
 その言葉に、ダニエルはすっと視線を逸らした。
「よろしければ、お食事をしながらお話しませんか?」
 セレスティがすっと手を上げれば、てきぱきと食事のテーブルが整えられ、二人はフルコースをはさんだ机の端と端で、向かい合うように座った。
「また、負傷して倒れてはいないかと心配していたんです」
 ダニエルは、次々と運ばれてくる料理に圧倒されながら、助けられた時のことを思い出す。
「あぁ、この前の傷は……ちょっと、特別だから」
 何かあるたびに怪我をして動けなくなっていては、ダニエルにとっては死活問題だ。むしろ、今まで逃げ延びれたことが奇跡とまでなってしまう。
 自分が弱っている瞬間を、逃がすような人じゃないから――
 少し寂しげに微笑んだダニエルに向けて、今はまだ触れるべきではないのかもしれないと、セレスティは別の問いを投げかける。
「今はどのように生活しておられるのですか?」
 ガラスを弁償するお金が無いとまで言ってのけた以上、普段もどこかホテルを取って生活しているとは思いがたい。
「適当に、人がいない廃屋選んでって……何であんたそんなに俺に構うんだ? この前一度会っただけなのに。あんなに、迷惑…かけたのに……」
 普通の神経ならば、怪我人を助けたのは人情として、あれほどの迷惑を被ったのなら、これ以上関わりたくないと思うものだとダニエルは考える。
 が、そんなダニエルの考えに反して、セレスティはダニエルを気にかけた。
 その理由が分からない。
「どうしてでしょうね」
 はぐらかすようにセレスティは笑う。
 ただ気になった。それだけは確かだ。けれど、明確な理由と言うのは浮かばない。
「人を助けるのに理由は必要なのでしょうか」
 逆に問いかけられ、ダニエルは困ったような顔でくしゃりと前髪をつかむ。
「……あんた、ずるいよ」
 セレスティを気にかけ、周りに迷惑が行かないよう気にかけ、あの神父と比べたら、ダニエルは至極真面目な少年だと分かる。だからこそ、この問いかけは自分ならどうするのかと言われ、それと同じ事をしたまでだという答えにまで行き着く質問。
 セレスティは話題を変えるよう、話を切り出す。
「ダニエル君を襲った神父のことを調べてみようと思ったのですが、なかなか上手く行きませんね」
 少しでも力になれればと思い、問い合わせてみたが全くの空振りに終わってしまった。
「どう聞いた?」
 セレスティは教会に問いかけた特徴を話せば、ダニエルは違うと首を振った。
「あいつを…ヴァ……いや、イシュトヴァーンのこと知りたいなら、“常に微笑んでいる神父の鏡のような男”で尋ねないとヒットしない」
 そうか、名前はイシュトヴァーンと言うのかと内心思いつつ、名前さえ分かればもう特徴など聞かずとも調べられる。
「なぜ、そのイシュトヴァーン神父に追いかけられて―――…」
「ごめん」
 セレスティの言葉を遮るようにダニエルは口を挟む。
「あんた大会社の社長さんだろ。いなくなったら…困るだろ。ほんと、優しいし、ありがたいけどさ。これ以上関わらないほうがいいよ」
 これ以上関わったら、もし、あの時と同じことが起きたら、それこそもう―――……
「ダニエル君……」
「ありがとう、セレスティ。さよなら」
 ダニエルは逃げるようにエレベータホールへとかけ、手を振って去っていく。
 二人の確執。それは、どちらにも大きな傷を負わせているように思えた―――



















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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】


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■         ライター通信          ■
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 VamBeat −Sequentia−にご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
 いろいろと詰め込みすぎた感が否めませんが、思いっきり情報は出しまくってます。上手く読み取っていただければ幸いです。
 それではまた、セレスティ様に出会えることを祈って……