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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ハムスターだらけ

 草間武彦は困っていた。
 箱が……箱が来ていたのだ。
「何かごそごそ……ガラガラ聞こえてきますね。」
 草間零も怪訝な顔をしている。
「だ、な……。」
 クリスマス会も終わって、年末の大掃除も終わって年越しそばを食べ除夜の金を聞いていた。
 そこにタイミングを見計らったように、危険な物が来ているのだ。
 ただ、門松やら正月用品なら良かっただろう。食べ物ならなおOKだ。
 しかし、この箱の性質上、便利な物は出してこないだろう。
 恐る恐る箱を開ける。
 
 そこには……

 かごの中にカラカラと車輪が回っている。それを回すのはハムスターの群れ。12匹ほどが動いていた。

「可愛いですね。」
「今年が子年でもいかんだろ……どうしろというのだ?」
 膝を突く草間。
 里親募集しろとでも?
  
 このハムスターが幸運を呼ぶとかそう言う御利益があるのかも分からない。
 いや、嫌がらせにも程があるだろう。
 しかし、この草間興信所には……猫が居るのだ。
 赤い猫、焔。
「飼えない……。」
 そう。飼えない。猫が食ってしまいそうだ。

 12匹、おそらく雄雌の比率は同じ。
 ハムスターたちは、草間の苦悩を知らずに、車輪を必死に回し、足を滑らせ遠心力で車輪から飛んでいった。
 無心に遊ぶハムスターをどうしようか。


〈それでも回るよ〉
 籠に入っているため、ハムスターは外に逃げ出すことはなさそうで、必死に車輪を回しては飛んでいく。また、疲れて大鋸屑や移動パイプの中に潜り込み、眠ってしまう。
「雄雌分けないといけないわね。」
 シュライン・エマが箱の中をのぞき込んでいった。
 久々の箱の登場に、何かを感じつつも今ある問題を対処しないといけない。
 興味津々に、中を見る赤い生物が居る。
 猫。
「焔ちゃん。めー、よ。」
 彼女は猫にそう言うと、猫は「にゃあ」一鳴きして、その場から離れていく。
 賢い猫で良かった。
 12匹もいると、ここではまず飼えない。猫もいる。これは困ったことだ。
 シュラインは里親募集の準備を零と一緒にするのだった。
 草間武彦は、何もする気もなくデスクでいびきを掻いていた。
「風邪引くわよ〜。もう。」
 苦笑するシュライン。
 別に逃げ出すこともない様なので、心配ないはずなのだが、仕分けでトラブルが起こるかもしれない。
 しばらくは、ハムスターの世話で忙しくなりそうである。
 そんな人間達の苦労も知らず、ハムスターの1匹は、車輪の遠心力で14回転してまた吹っ飛んでいった。

 ネズミというのは、気が付くと増えている。そんな生き物だ。一度の出産で平均6匹増える。違法商法の名前にも使われるほどの増加量なのである。故に雄雌を見分けてゲージ分けするのが普通である。この場合は。
 ブリーダーではないのだから。
 ひよこの雌雄分けより、簡単かもしれないが、素人では難しい。
 6匹を分けて、ハムスターに餌をやって、掃除もして、可愛い姿に和んでは、遊んで上げる。シュラインと零はハムスターの世話に走り回っていた。草間は拗ねたような顔で、必死に車輪を回す干支を見ていた。
「くそ、年末年始、こいつらに……。」
「武彦さん。ごめんね。あとで、一緒に飲みましょ。」
 シュラインは苦笑する。

 しかし、里親募集はうまくいかなかった。コミュニティにも掲載、SHIZUKUにも連絡した。
「三下くん、ハムスター育てない?」
 シュラインはアトラスで、魂が抜けている三下に話しかけている。
「え? は、ハムスターですか?」
「ええ。」
 写真を見せる。
「帰宅したとき、出迎えてくれる子がいるとやりがい出るでしょ?」
 と、言う。
 愛らしいハムスターの写真に、三下は心動かされるが、
「ええっと、も、申し訳な、ないんですけどぉ。僕は動物を、か、飼えるほど……。」
 しかし、ハムスターの写真を見ているうちに……、
「はい、1匹だけ良いですか?」
 可愛さに負けたらしい。
「ありがとう、三下くん。」
 やはり、独りは寂しいからだった。丁度干支なので、運気を上げたい彼も何か思うことがあるのだろう。
 SHIZUKUのサイトでは、特別にというか『箱』ハムスター里親募集とかのスレッドも出来た。奇妙な箱に興味を持つのは当たり前である。
「ぜったいなにか、あるはず! ね? シュラインさん!」
「どうでしょう……。普通の品物とか多かったし」
 SHIZUKUは、ハムスターもそうだが、まだ残っている、『箱』を弄っていた。
「どうして『箱』……。何か仕掛けというか神秘的なものはなにかなー?」
“そんなに弄られると、はずかしいですたい”
 と、『箱』は言っているようだった。


〈意外な救世主〉
|Д゚)←ハムスター里親募集のポスターを持ったアレ。
|Д゚)←飛行機を作る
|Д゚)照準OK
|Д゚)ノ ぽい!
 彼が投げた先は、サーカステント。
 紙飛行機は、入り口を綺麗にすり抜けて、ステージも優雅に跳び続け……、楽屋で暇そうにしているある少女の頭に軽く当たった。
「? なに? 誰かの悪戯?」
 しかし、見渡すと誰もいない。
 紙飛行機を見る。なにか書かれていることは一目瞭然だった。
「ふむ。」
 彼女は広げてみると、
「興信所でハムスター里親募集?」
 良く読んでから、興信所に電話をする。
「すみません。柴樹紗枝です。ポスターを見たのですけど……。」

 数十分後。
 可愛いコートにブーツ姿の柴樹が興信所にやってきた。
「こんにちは〜。」
「あ、早かったわね。いらっしゃい。」
「あー紗枝ちゃんだ〜。やっほー。」
「あ、こ、こんにちは!」
 すでに、SHIZUKU、三下もいる。
「流石に数が多くて。困っているの。ここは猫居るでしょ?」
「確かに、相性は悪いですね。」
 柴樹は状況を聞いて、納得する。
 たしかに、どこかのニュースでは猫とハムスターが仲良く過ごしているという事を聞いたが、アレは例外的な事象だ。そんな賭はできない。
「では、私が委託する形で残りを預かります!」
 その彼女の言葉に、草間は、彼女の手を握って激しく振る。
「ずっと、こいつらの面倒ばかりで疲れていたんだ! 本当に助かる!」
「あはは……。皆さんに、構ってもらえないからしょげていたんですか?」
 その言葉で、草間はどんよりと跪いた。
 概ねあたりらしい。
 柴樹の能力は、皆が有る程度わかっている。それに彼女が注ぐ動物の愛情は強い。しっかり育ててくれるだろう。

|Д゚)←これだけは、『動物』じゃないので例外と思う方が無難
|Д゚)えぇ! そんな!

「でも、頼みがあります。一寸遊んでも良いですか? ハムスター達と。」
 彼女の言葉で、その場にいる全員が見る。
「どういう、遊び?」
「手品です。」
 鞄から取り出したのは、1/6ドール2体、しかも自分と似たように改造しているものとピエロ。さらに、小動物用の手品セットの数々。
「では、一寸した手品をいたします。」
 彼女はドールとピエロをテーブルに置いて、ハムスターの籠を開ける。ハムスターはそれに気が付いても何も動じない。ただ、そこが通れるようになったので、鼻をひくひくさせて確認している
 鞭だと場所的にムリなので、手を叩くことで、ハムスター12匹を綺麗に整列させる。
「おお、これは……。」
 全員が見入る。
 ドールを介して、柴樹はハムスターの雄と雌1匹ずつ、ドールの近くに近寄らせた。手品の箱を用意して、小さなタグ(色違い)の付いた首輪を付けてから、箱の中にはいるようにと促す。それに従うハムスターたち。
「珍しい物を見ているわ。」
 シュラインは驚く。
 そう、ネズミに芸というのは、難しいはずだ。否、出来ないと思う。頭がそこまであるというと、伝聞では無いのだから。
 シュラインに一個箱を渡し、草間にもう一個の方を渡す。シュラインの方には赤いタグのハムスターだ。
 そして、蓋をしてから、「いきますよ〜」とオーバーアクションの動きをしてから、ドールが持っている杖で、両方を3回叩いた。
「はい! 開けてください。」
 と、言う。
 なかは、変わっていた。
 シュラインの中にいたのは、別のハムスター。草間の箱に入ったハムスターだった。
「おお!」
 全員が驚く。
 草間の持っていた箱の中には、赤いタグの付いたハムスターが居た。
「すごい!」
 皆感激した。
 そのあと、柴樹の芸で楽しく過ごした後、三下に1つのつがい、残りは柴樹が持って帰ることになった。
「本当助かったわ。」
 シュラインが礼を言う。
 柴樹は首を振って、
「困ったときはお互い様ですよ。それに私は動物が大好きですから。」
 と、柴樹はにこやかに笑うのであった。

 柴樹達が帰った後、興信所が一寸広く感じられた。
「忙しい、年始だったわね。」
「ああ、寝正月した気分にならねぇ。」
「もう、もったいない。」
「そうです。お兄さん。もったいないです。」
「世話ばかりで、疲れた。」
 と、家族の他愛のない会話。
 猫が帰ってきた。
「焔ちゃん、今までごめんね〜。」
「にゃあ」
 シュラインは猫を抱っこして、喉をなでる。猫はゴロゴロと喉を鳴らした。
「さて、遅いけどな……。」
 草間が言葉を続ける。
「初詣行くか。」
「ええ、行きましょ。」
「はい♪」
 その提案には、誰も反論しない。
 一寸遅い初詣だが、幸せな気分で、神社に迎える。何か幸先が良い気がするのであった。


END

■登場人物■
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【6788 柴樹・紗枝 17 女 猛獣使い&奇術師【?】】

■ライター通信
 明けましておめでとうございます。
 滝照直樹です。
 このたび、ハムスターだらけに参加して頂き、ありがとうございます。
 このネタは、去年あたりかそこらで、久々に某有名ハムスター動画を見て、思いついたところです。
 なんとか、興信所にはハムスターが居なくなりましたが、柴樹さんが頑張って里親を探して頂けることを祈ります。
 柴樹さんには、アイテムとして「『箱』ハムスター」を進呈です。

 では、今年もよろしくお願いします。

|Д゚) よしなに。