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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


地図から消された村
地図から消された會和田村。
その伝説は数知れず。
たくさんの子供を産んでは、使い物にならない子供を
つるして焼いて、喰うことで生き抜いているという。
一種の都市伝説である。


「碇編集長、この都市伝説を渋谷あたりの人に聞きまわって
噂を集めればいいんじゃないですか?」

編集員の三下・忠雄が碇・麗香にそう言ってみた。

「馬鹿じゃないの?こういうのは現地取材!そうでないと売り上げ上がんないわよ
ふふふ、現地取材すれば何部くらい売れるかしら……」

いい獲物をみつけたかのように喜び勇む麗香。
顔が真っ青になり、麗香の方に顔を向け、フリーズした可哀相な青年、三下。

「で、僕が行くんですかぁ」
「そうよ。当たり前じゃない」

その不敵な笑みを崩す手段はないものか。
結局、三下は取材メンバー1として登録された。

「でも三下くんだけじゃ心細いわね。ちょっと人脈使って探してみようかしら」

ぜひ探してください、編集長。このままでは殺されます。
信仰のない三下だが、この日は神様とやらに助けてもらいたいと思った。

――数日後

三下は徹夜明けで睡魔と格闘するがごとくコーヒーをがぶ飲みし、
視力不完全なところに、麗香は出勤してきた。

「三下くん、素敵な相棒に巡り合えたわよ。さぁ入って」

入ってきた男はスーツは着ているものの、ガタイの良さは見ていてもわかる。
だが少し気難しそうな男だな、とは思った。麗香はその男と出会えたのを
歓迎するがごとく、

「お互い自己紹介でもしましょう」

「黒澤・一輝。報酬次第ではなんでもやるぜ」
「三下・忠雄と申します。これ名刺です」
「名刺?別にいらないから捨てていいか?」

……空気の読めない男だということは確実に伝わった。

「そして私は編集長の碇・麗香よ」

決行するのは明日の17時。今日は自己紹介のみらしい。
一輝はどうも麗香と気が合うらしく、
あのクールビューティの麗香が笑みをこぼしている。
いっそ2人で行ってくれと思う三下であった。

とりあえず三下は、會和田村の記事のベースになるデザインを
DTPソフトを使って作成していた。無事帰ってこのデザインが使えますように。


――取材の日

「じゃあせいぜい守ってもらうのよ〜さんしたくん」
「はひ……。死んだら後はよろしくお願いします……」
「一輝くん、ボディガードお願いね」
「ああ」

そして一輝が運転席に乗り込み、三下がナビをするという形になった。

走行中、無口なのは悪いなぁと思いつつ、三下は何か話しかけようと、
頭をひねった。

「僕たちきっと帰れますよね」
「あぁ、俺だけならな」

三下は思った。ここは笑うところなのか、称賛するところなのか。

だんだん山奥に入っていき、アスファルトがなくなり、砂利道が続いた。
やがて行き止まりになり、仕方なくそこで車から降りた。小雨が降っていて風が冷たい。

「えっと、この辺に會和田村があるそうです。細い道があるので登って行きましょう」

三下はそう言ったものの、「この辺にある」としかわからない。
遭難も覚悟の上。食糧は3日分、寝袋常備。しかし會和田村に着いても地獄だ。

しばらく歩くと、明るい光がぼんやりと森の中に浮かんでいる。
會和田村の可能性が濃厚だ。ここからすぐ臨戦態勢である。
音をなるべく出さずにゆっくり、ゆっくり近づいていく。

ぴちゃっ

『今お忍び中だぜ。音だすんじゃねーよ』

『ひぃ、すみません』

 しかし近づいてみたものの、あったのは静かな農村であった。意気消沈。

「一応、撮っておけば? ガセでも必要だろ?」

その言葉で三下は取材しにきたことを思い出して、パチリと写真を撮った。

 そこで泊まるところが問題だ。一応寝袋はあるが、テントはない。
その中で「宿」を示すマークのある家があったので、そこに入ってみた。

「いらっしゃい」

 40代ほどの女性は静かに微笑んでいる。とりあえず宿帳に自分の名前を記し、
案内された通り部屋に入っていった。

「……ほこりっぽいよな」
「何年も掃除してないかのようですねー。黒澤さん」

でもこの農村以外に休める場所がないから、休むことにした。



――三下は夢心地の中、はっと気がついた。

 ナイフが今、目の前に切迫していた。
三下は条件反射でナイフを避け、すぐ起き上がった。

「えへへ。失敗しちゃった」

そこには一見無垢に見える子悪魔な女の子が立っていた。

「子供がそんな危ないことしちゃだめだよ」

と言いつつ、そんなのおかまいなしなのはよくわかった。
やはりここが會和田村だったのだ。

「く、黒澤さーーん」

 三下はその部屋から逃げ出した。
隣の一輝の部屋を見ると、既に大きい大人が何人も倒れていた。

「黒澤さん、僕、何も、できないですけど、た、助けてください」
「ここは取材するのに絶好のチャンスだ。俺が奴らを倒す
おまえは写真でも撮っていろ」

こんな状況で写真撮れって無茶です黒澤さん……
やっぱり碇編集長と気が合うわけだ。
そう心に思いながらも、シャッターを押す準備をしてしまう三下なわけだが。

「おい。娘っ子も敵か」

 その子と同じ刃渡りのナイフを取り出し、それと同時に彼女は突っ込んできた。
三下は壁に押し付けられ、その子がすり抜ける。
体制を整えるその隙を狙って、一輝はためらいもなく彼女をナイフで刺した。

 とにかく宿から脱出しなければ。外からどんどん人が入ってくる。
一輝は手榴弾に火をつけて宿の入口にそれを投げつけた。
入口は大破し、何人かの大人が死亡、もしくは負傷。
下りて逃げるなら今である。

 チャンスを逃さぬごとく一輝と三下は外に脱出した。
しかし外で見えた光景に唖然とした。

 うわさ通りの風景である。
 
 ブタを吊るすように一本の棒が横に立てられていた。
そして小雨もなんのその。吊るされた者の下には、
破竹の勢いで炎が舞い上がっている。
なんだかんだで写真に収める三下であった。

「火あぶりよりは、1回死んでからの方がいいと思ったんじゃがのう」

 そこにいたのはおそらく村長……鬼であった。
で、やっぱり写真を撮ってしまう三下。

「三下、ここは俺にまかせて邪魔にならないところに行け」

そんなことを言われても……というわけで、一輝と少し距離を置いたところ立った。

 鬼は鉞を手にする。その地点で一輝は、「ちょっとヤバイな」と漏らした。
それもそうだ。鉞は中距離武器である。一輝は近距離戦以外は得意ではない。

 鬼は素早く近づいてきて鉞を空に上げ、一輝のいた場所へ振りおろした。
その光景はまさに畑を耕す農民のようだ。一輝はその隙をついてかなりの力で
蹴り飛ばした。しかし相手は鬼。何ともない様子だ。

「あれは強いな。『見立て』が必要だ」

 見立てというのは、霊を生物に見立てれば打撃が可能になり、
砂地を沼に見立て足場を崩す等、見立てたモノへ性質を完全に変化させる能力である。

今、鬼をただの老婆に見立てた。

次に鬼が攻撃しようとしている。しかし一輝にとってはただの老婆なので、再び攻撃してきたが、
さらりと攻撃を回避し、たかがナイフ一本刺すだけで、鬼は朽ち果てていった。

 一輝は三下に告げた。

「もう見るとこ見たから帰ろう」

急いで山をかけ下りたが、なかなか車のところにたどり着けない。

「黒澤さん、これもなんらかの村の呪いでしょうか?」
「わからん。しかし走るしかないだろう」

そこで三下は大事な取材用カメラを落としてしまった。

「あぁ、僕の大事なカメラが……」

と振り返り、取りに行こうとすると、一輝は肩を叩き、後ろの方に指をさした。

「車じゃないですかぁ。じゃあカメラ取ってかえ」

三下が言葉にしているのを遮って、一輝が答えた。

「あのカメラを取りに行くと、また一生出られなくなるぞ。試してみるか?」

三下がカメラを手にすると、一輝も消えどこまでも続く道になっていた。
とはいえ、このカメラがないと困るので、三下は画像を全て消去した。
しばらく歩くと、また一輝のいる車に辿り着けた。

 山をゆっくり下り、なんとか2人とも無事に帰られるかと思った。
しかし下山間もなく、反対車線を通るはずの大型トラックが突っ込んできた。
このままだと正面衝突。命はない。
一輝は素晴らしい運転テクニックで反対車線に車をまわし、
トラックが通り過ぎるとまた元の車線に戻った。

「俺たちしばらくお守りでもつけておいた方がいいかもな」

ぽつんと一輝がそう漏らした。

 次の日編集部に行ったら麗香様がお冠である。

「どーして写真が一枚もないわけぇ?」

言い訳するのは面倒なので、三下はひたすら謝った。

さて用意したDTPファイルを開き、記事を書くことにする。
あれだけの体験ができたので、写真はなくともいい記事が書けそうだ。
開いたDTPファイルのトップページには身に覚えのない写真が載っている。

その写真は……

吊るされて丸焼きになっている三下の姿であった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7307 / 黒澤・一輝 / 男性 / 23歳 / 請負人】

【NPC / 碇・麗香 / 女性 / 28歳 / 月刊アトラス編集部編集長】
【NPC / 三下・忠雄 / 男性 / 23歳 / 月刊アトラス編集部編集員】


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■         ライター通信          ■
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初めまして。ライターの真咲翼と申します。ご依頼ありがとうございます。
一日で完成しましたが、推敲の関係もあり、これをお届けできるのは2008年かもしれません。
そして狂った人間や鬼といった分野に強い(もちろん霊魂にも)
キャラだったのでとても書きやすかったです。
プレイングも村の実態などは私におまかせだったこともあります。

それでは、またお会いできる日があるといいですね。では。