コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 Beyond The Collect
 探偵、草間 武彦(くさま たけひこ)は、報酬代わりに手に入れた不思議な針の力で義妹、草間 零(くさま・れい)の力を暴走させてしまう。手に負えなくなった武彦は、蛇の道は蛇とある少女に電話をかける。

 ○


 夜の美術館。物音一つしない館内の静けさが心地いい。視界が次第に闇に慣れていくと、美術館経営者の母を持つ、石神 アリスの頬はうっすらと紅く染まった。アリスが眺めるは、少女の石像。母ですら知りえない美術館の隠しスペースに保管しているそれを、アリスは絹を触るかの様に撫でた。
「今日も美しいわ。貴方たち最高よ」
 どれもこれも、驚きと悲しみの表情に満ちている。どの子も可愛い、どの子も綺麗。私が貴方たちの美を永遠にしてあげた。
「そして貴方たちの芸術的な表情は、大きな富となって私の懐を温かくしてくれるの」
 アリスの表情がほんの僅かに緩む。
 突如、携帯電話の着信音が館内の静寂を破り捨てる。浸っていた世界を壊された事が不服なのだろう、少し乱暴に携帯電話を取り出した。知らない番号が、ディスプレイに浮き出ている。
「もしもし」
「石像を売っても人身売買にはならない。考えたものだ」
 挨拶や名乗りも無しに、全てを見透かしているぞと言わんばかりの男性の口調に苛立ちを覚える。
「何の事でしょう? 我が美術館が扱っている品は美術品のみですが」
「ああ、いいんだ。細かい話は無し。その事をばらさないと約束するから、手伝って欲しい事がある」
「どなたでしょうか?」
 舌打ちが聞こえる、かなり焦っているのだろう。しかし、ペースを握られたまま話を進むめるのはまっぴらだ。
「探偵の草間 武彦だ」
 それから草間は、自分の妹が針の影響で暴れた事、一時間後には東京が消滅する事を口早に説明した。
「もちろん、お宅の石像も無事じゃすまない」
 言われなくても分かっている。いちいち勘に触る男だ。
「貴方を抱えている状況は理解できました。美術館が被害にあうのは私も放っておけません、お手伝いしましょう。その代わり―」
「ああ、分かってる。こんな時に騙し合いなんかしねぇ」
「いえ、警告です。私を貶める情報を流した場合。貴方の想像通り、誰かに石像へ変えられて、暗い海の底へと沈められると覚悟してください」
 アリスの冷え切った言葉に、草間の喉が大きく鳴った。

 ○

 アリスは草間の指示した廃工場へとやってきていた。美的センスのかけらも感じない場所には一秒もいたくないがしょうがない、自らの将来の為だ。そう言い聞かせて、華奢な左手首に光る時計を眺めた。
「よぅ、待たせたな」
 草間が紫煙を吹かしてアリスの前に姿を現した。
「その煙なんとかなりません?」
「わりぃな、これが無いと落ちつかなくて」
 瞬時にアリスの瞳が光ると、煙草がごとりと鈍い音を立てて地面に落ちる。
「わたくしの言う言葉は絶対です。返事を」
「分かった」
 草間はばつが悪そうに、針をアリスに差し出す。
「これが元凶だ。こいつのせいで零は変貌しちまった」
 昔、闇競売で骨董屋が自慢げに見せびらかしていたもののはずだが……。そいつは気に食わなかったから石にして捨てた。その針が回り回って草間の手に渡ったと言うのだろうか。希少品の針を手にとってみるも、何の感慨も湧かない。やはり、私にはコレクションしかないのだと感じる。
 ほら、こんなに胸が高鳴るじゃない。
「美しいコレクションを持って帰れると思うだけで」
 満月を背に、アリスを見下ろす零。そんな零に愉悦に似た表情を浮かべると、アリスは黒髪をなびかせて一歩前へ。
「兄さん―」
「お兄さんの命は、わたくしが預かりました」
「っな!」
 急なアリスの言葉に驚く草間。アリスはすかさず草間を魔眼で封じ込める。失語に陥った草間は喉をかきむしる。
「あなたが私の言いなりになるのでしたら、お兄様を解放してもよろしくてよ?」
 遠い向こうから、零が拳を握り締める音が聞こえた気がした。
 最初から全力で来る。アリスは、自分の心臓が少しすくんだ気がした。それでも、表情は一ミリも動かさない。そんな事で動揺を見せるには、アリスは修羅場をくぐりすぎた。
 戦いはどちらかがきっかけを作る訳でもなく始まった。
 無言のまま、霊気をアリスに叩きつける零。クレーンの鉄球サイズの霊気の玉が数十個。常人なら口をあんぐりあけて戦意喪失だが、アリスはそれらを全て視界に捉え。
 石化した。
 岩が無数に降り注ぐも、アリスを避けるように岩は砕け、地面へと激突。アリスはため息をつくと。
「残念かもしれませんが、貴方はとても弱い」
 零の右目が痙攣している。弱いなどと言われた事が無い、アリスに言われるのが初めてではないか。
「でも、安心して下さい。貴方の価値は私が生み出す。そして、お兄さんにお別れを告げてください」
「ああああああああああああああ!」
 零は怒りの叫びをあげて瞬時にアリスに肉薄するも、催眠を既にかけていたアリスは余裕の表情。鼻と鼻があたりそうな程顔を近づけて微笑んだ。
「っぐ!」
 対照的に零の表情はそれこそ鬼の形相だった。零が動けない事をいいことに、アリスは零の体の至る所を眺めている。まるで品定めをしているかの様に。
「うん、やはり貴方は競売に出すには惜しい。私のものになりなさい零」
 零の体が小刻みに揺れている。
―急がないと
 アリスは再度零を睨みつけ、みるみるうちに零の足もとから石化が始まるが残像を残して零がアリスの背後を取る。
「っ!」
 毛スジの差で、零のフックが空を切る。催眠で応戦するも、徐々に効果が薄らいでいく。アリスは魔眼で零に何が起こっているのかを捉える。零は、湯葉の様に薄い霊気の膜で自らを覆い、奇跡的なタイミングで催眠から離脱して霊気の膜を身代りにしている。そうアリスは考えた。
「そう、私の魔眼に打ち勝ったわけじゃない」
 アリスは自答すると、魔眼の視界をに零の進路を予測して捉えていく。石化、催眠を使い分け、零の進路を妨害。零は何度もアリスに距離をつめようとするものの、アリスの天才的な戦闘センスによって逆に距離を離される事もあった。
 いつの間にか、攻める零、守るアリスの構図が出来上がっていた。
「零、わたくしは貴方がわたくしの手元に来るまで攻撃をゆるめません。おとなしくなさい」
 アリスの呼びかけに零は舌打つ。優勢なのはアリスだった。コレクションへの探求が何よりの原動力となってアリスを奮い立たせる。
―数時間後
 とうとう、零がへたりこむ。
 アリスの高笑いが工場中に響く。
「観念なさい!」
 アリスの瞳が、瞳孔が、今までにないほど開く。零の体が蝕まれていく。
 その時!
「あんれぇ、これなんだべ?」
 騒ぎを聞きつけた工場の作業員が入り込んできた。一人や二人ではない、複数個所から何十人もわらわらと。アリスの思考が働く。
―このまま石化すれば、念願の零の石像が。でも、このままだと私の社会的立場が……。
 拳を震わせて、アリスは零の石化を解除。目的を果たせず、燃え尽きたアリスもその場にへたりこんでしまった。
 アリスの催眠が切れた草間がアリスの肩を叩く。
「でもよ、ほら! 零は力を失って東京崩壊どころじゃなくなったし。お前も良かったじゃねえか!」
 何を言うか……。力が少しでも残っているのなら、草間を抹殺するのに。はらわたが煮えくりかえる。
「ほら、見てみろよ!」
 うなだれた首をおこすのも無理だったので、視線だけぎろりと前に向けてみる。
 至る所に零の石像があるではないか。戦闘で壊れているのもあるが、何より零の様々な表情を生み出している。
「霊気の膜が代わりに石化して、零をかたどったのね」
 零だけを見ていなければ、さっさと一体持ち帰ったのに。
「まぁ、良かったじゃねぇか! 好きなだけ持って帰ってくれよ!」
 体力が少し回復、何より苛立ちが湧いて出てくる。
 アリスは草間を思い切り睨みつけた。

―三日後
 美術館に響くは草間の悲痛な泣き声。零の石像が美術館の至る所に設置されているのだ。それを運んできたのは無論。
「勘弁してくれ! 俺が何したって言うんだよぉ!」
 催眠で否がおうにも運ぶ羽目となった草間。

 石神 アリスは今日も美術館の隠しスペースで少女の石像を愛でている。
 もしかしたら、次は貴方がアリスのターゲットになるかもしれない。


 【了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【七三四八 / 石神 アリス / 女性 / 十五 / 学生】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 初めまして! 今回は、アリスのイメージを大幅に黒くしてみましたがどうでしょうか。吉崎にとっては、これがアリスの自然ではないかなと思います。愛情を注ぎ、その為には命すらかける。そんな情熱をふつふつとアリスは持っているのではないでしょうか。
 では、またどこかで会えますように!
 ではでは!