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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ロスト・ボイス(後編)

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OPENING

零の喉に潜む妖を除去し、
一刻も早く、苦痛を取り除いてあげるべく。
武彦達は、学者を訪ねた。
学者の家は、古びた一軒家。
こんなところに、人が住んでいるのかと疑うほど、不気味な家だ。
武彦は、ソワソワしながら何度も呼び鈴を鳴らす。

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なかなか出てこない学者。
武彦はイライラしつつ、何度も何度も呼び鈴を鳴らした。
シュラインは、落ち着かせようと、隣で彼の背中を優しく撫でている。
気持ちは理解る。シュラインも、同じ気持ちなのだから。
出来ることなら、早く。一刻も早く、薬を手に入れたい。
けれど、慌てたところで、どうにもならない。
薬を貰うだけなら、自分は留守番して、
零の傍にいてあげたほうが良かったんじゃないかと武彦に尋ねたが、
武彦は”本当に、そう思うか?”と苦笑した。
一人で、この状況だったら…彼は、扉を蹴破っていたかもしれない。
精神的に、心の為に。武彦はシュラインを同行させたのだ。
呼び鈴を鳴らして数分後、ようやく学者が扉を開けた。
「うるさいねー。そんなに鳴らさなくても聞こえてるわよ」
姿を見せた学者は、思い描いていた人物と異なり、
とても美しい女性だった。齢もまだ、三十前後だろう。
勝手妄想とはいえ、白髪の老人を想像していたシュラインは、
学者の風貌に少しキョトンとしたが、ハッと我に返り挨拶を述べた。
「あ、はじめまして。えと…お世話になります」
頭を下げて言うシュラインを見て、学者は腕を組み微笑む。
「あらま。随分と綺麗なコを連れてるじゃない。どこでナンパしたの?」
学者の言葉に、武彦はゴツッと扉を叩いて真剣な眼差しで告げる。
「生憎、今日はお前に構ってる暇ねぇんだよ。さっさと寄こせ」
少し怒りの滲む口調。学者はヤレヤレと肩を竦めると、
胸元から小さな小瓶を取り出し、それを武彦に渡して言う。
「残さず飲ませるのよ。キツイかもしれないけど」
「あぁ。どうもな。よし、戻るぞ」
グイッとシュラインの腕を掴み、とんぼ返りを急く武彦。
武彦に引っ張られ、フラつきながらシュラインは学者に感謝を叫んだ。
「ありがとうございます!お礼は、後日…!」


乗車し、シートベルトを締めて、すぐさま発車。
”持ってて”と武彦に渡された小瓶を両手で持ちつつ、
シュラインは流れる景色を見やって言った。
「ちょっとビックリしたわ。あんなに若い人だったなんて」
「じいさんばあさんだと思ってたんだろ」
「うん」
「中身は老けてるけどな。理屈っぽいし」
「古くからの付き合いなの?」
「まぁな。藤二のモトカノ」
「えぇっ!?そうなの?」
「三日で別れたけどな」
「あらら…」
意外な事実に淡く笑うシュライン。
信号が赤から青に変わり、武彦はアクセルを踏む。
「結構バランスは良かったと思うんだが…っと!!!」
その時、車が軽くスリップ。
今日は一段と冷え込みが激しい為、路面がうっすらと凍っていたのだろう。
「っ」
咄嗟にうずくまるシュライン。
一瞬、肝を冷やしたものの、大事には至らず。
車は、何事もなかったかのように車線変更。
「ビックリした…」
フゥと息を吐いて小瓶の無事を確認するシュライン。
武彦は少し眉を上げながら笑って「悪ぃ」と謝罪した。
焦ってしまうのは、仕方のないこと。
早く早く、一刻も早く。そう思うのは、自然なこと。
けれど、事故に遭ってしまっては何も報われない。
シュラインはバックミラーに貼られた、
武彦・零・シュラインの三人で撮ったプリクラを見つつ優しく言った。
「安全運転で帰りましょう」



興信所に着くなり、武彦とシュラインは靴を脱ぎ捨て、バタバタと零の部屋へ。
ベッドで苦しそうに息をする零に駆け寄り、武彦は彼女をゆっくりと抱き起こす。
留守番と零の様子を看ていてくれた三匹に、
シュラインは”ありがとうね”と感謝を述べる。
傍にいてあげて、と頼まれたものの、
もし容態が急変したら、どうすれば良いだろうかと不安で仕方なかったのだろう。
二人が戻ってきて、タシもエクも電鬼も、ホッとしているようだ。
「零。ちょっと口開けれるか」
「………」
うっすらと口を開く零。
武彦は、零の口に、そっと小瓶を宛がう。
ゆっくりと零の頭を傾けて、喉に落とす特効薬。
学者に言われたとおり、残さず飲ませる。
どうやら、相当苦いものらしく、零は何度も眉間にシワを寄せた。
「げほっ…ごほっ、ごほっ!ごほっごほっ…!」
特効薬を飲み干した零が、激しく咳き込む。
シュラインは零の背中をさすり、大丈夫?と不安そうに尋ねた。
シュラインの問いに、言葉を返そうとする零。
けれど、少し躊躇ってしまう。
声が出ないという事態に、怯えてしまっているのだ。
「ゆっくり。ゆっくりでいいから、深呼吸して」
微笑みつつ言うシュライン。
優しく励ましてはいるものの、内心彼女も不安で一杯だ。
シュラインの促しに応え、零はスーッと息を吸い込み…そして、吐き出す。
難なくこなせる深呼吸。それで安心感が一気に増した。
「あ…ごほっ…あー…」
探るように声を放つ零。喉に走る僅かな振動。
それを実感し、零は次第に満面の笑顔を浮かべていく。
「はぁぁ〜〜〜〜〜〜…」
安堵から、ガクーッと肩を落とす武彦。
シュラインはギュッと零を抱きしめると、目にうっすら涙を浮かべて言った。
「良かった…良かったぁ…うん、良かったぁ…」
ガックリと肩を落とす武彦と、自分のことのように喜ぶシュライン。
零はシュラインの腕の中で、何度も呟く。
「ありがとうです…」


零の喉は、その後あっという間に完治。
後遺症や不調を引きずることなく、完全に治癒された。
失声完治から三日後。
シュライン・武彦・零は揃って学者の元へ向かう。
感謝を述べる為に。
道中、車内で零は言った。
「帰りに…新しいの撮りに行きたいです」
バックミラーに貼られたプリクラを指差しながら。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い

NPC / ソワカ・L・マージャリー (そわか・える・まーじゃりー) / ♀ / 28歳 / 学者


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします。

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2008.02.02 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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