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<東京怪談・PCゲームノベル>


佐吉の友達〜見失いがちなモノ〜

 それは、ある日曜日のことだった。



「あれ?あれって・・・」
 ケーキ屋の一人娘・式野未織はその日、街に何か面白いものはないかと散策していると、見知った茶色の生物(?)がキョロキョロと辺りを見回しているのを発見した。
「佐吉さん」
「お、ミオじゃねーか。どーしたよ、買い物かー?」
 未織が見つけた茶色の生物―佐吉は未織に声をかけられると嬉しそうに片手をあげた。
 彼は大抵歳の近い方―と言っても10は離れていると思うが―の保護者と一緒に行動している筈なのだが、一人でこんな道端に居るとはどうしたことなのだろうか。
 それにしても『どーしたよ』は未織の台詞である。
「ミオは暇なのでお散歩です。佐吉さんこそどうしたんですか?お一人って珍しいですね、ブレスさんは今日はご一緒じゃないんですか?」
 なるべく佐吉の目線に合わせられるよう未織は屈んで訊ねた。はぐれたのか、とは最初に思ったが、こんなに佐吉が元気ということはそれはないだろう。彼は素直なのですぐに表情に出る筈なのだから、逸れているのならもう少し落ち込でいるだろう。
「今日は一人だぞ?」
「お一人、ですか?」
「おう、飛び出してきた」
「とびだしっ・・・本当ですか!?」
 余りの驚きに、未織は思わずに乱暴に佐吉を抱き上げてしまった。
「何でですか!?佐吉さんお一人じゃ危ないです!」
「み、みおー、落ち着けー。今日は何か慌ててるなー」
 それは佐吉自身のせいなのだが、この焼物は精神的にまだまだ幼稚園児レベル。自分の行動と他人の言動が結びつくと咄嗟に理解できるには早い。こちらが大人の対応をしなくては話が前に進まなくなってしまう、と未織は一度深呼吸して、自身を落ち着かせる。
「佐吉さん、ミオと少しお話しませんか?ミオ、今日は暇ですし、もしよろしかったらお菓子も持っているんで、食べながらお話しましょう」
「おう!いいぞー。何処行くんだ?」
「そうですね・・・」
 平日ならともかく今日は日曜日。
 公園は親子連れや恋人達で賑わっているだろうし、未織の家は両親がいるのでアウト。霞谷家に戻る、と言うのも飛び出してきたと豪語するくらいなので佐吉が嫌がるだろう。
 と、すると、残っているのは・・・・・
「冬の海岸って誰もいなさそうですね・・・佐吉さん、海を見に行きましょう」
「海かー、寒そうだけど鳥とかいるか?」
「カモメさんなら居るかもしれませんよ?」
「カモメ!行こうぜ!カモメみたい!!」
「はい、行きましょう」
 未織はにっこりと微笑んで、改めて佐吉をしっかりと抱きかかえ、一番近い海岸へと歩みを向けた。




 やはり未織の読みは当たっており、冬の海岸は寒いという印象が強いせいか、誰一人として人間はいなかった。いるのは高い冬空を飛び回っているカモメくらいである。
「ミオ!カモメだ!」
「ほんとですね、かわいいです」
 丁度、座れそうな石造りの階段を見つけ、佐吉を抱いたままそこへ腰を下ろす。
「ポッキーでいいですか?」
「お菓子ならなんでも大歓迎だぞ」
「それはよかったです」
 バッグの中からポッキーを取り出し、一本だけ佐吉に渡す。
 自分の身長程のポッキーに、必死にかぶりついている佐吉はとても可愛くて和むが、今は和んでいる場合ではない。佐吉が何故飛び出してきたのかと言うことを聞かなくてはならないからだ。
 そのために、動く埴輪である佐吉とゆっくり話せるここを選んだのだから。
「佐吉さん、さっき飛び出してきたって言ってましたけど、どうしたんです?ブレスさんとケンカでもしたんですか?」
「んー、ケンカって言うかよ」
「はい」
「飽きた」
「はい?」
 飽きた、とは何に?
「有人やブレスとばっか話してるの、飽きたんだよ。アイツらは自由に外に出て、他のヤツらとしゃべりたい放題だけどよ、俺はほとんど家から出れなくて、あの二人位しかこの四年間滅多にしゃべったことないんだぜ?そりゃ飽きるだろ」

 『飽きた』

 確かに四歳だという彼が、生まれて此の方、彼らとしか話したことがないのは、同じ毎日を過ごすことになるかもしれない。何か新しい刺激が欲しくなるかもしれない。
 色々な人と繋がりを持つということは、自分を成長させることが出来るし、知り合った人数分の楽しみも増えるので、未織もより多くの人と仲良くなりたいと思う。
 けれど、大切な『家族』に飽きたというのはどうなのだろう。
 この佐吉を含めた霞谷家の人々は、血の繋がりは無くとも、種族や国境の違いはあれど、初対面の未織が感じてしまうほど、まぎれもなく仲睦まじい『兄弟』であった。
 それを飽きただの何だのの一言で片付けて、飛び出してきてしまうのはとてもいけないことだと感じる。
「『飽きた』は駄目だと思います」
「ミオ?」
「霞谷さんも、ブレスさんも、ミオには佐吉さんの大事な大事なお兄さんだと思いました。そんな大切な人達に飽きたは駄目です。確かに、色んな人とお話ししたいのはわかります。でも。大切な家族は自分が戻ってくる場所だから無いといけないものなんです。ずっと近くに居すぎる程の時間を過ごしたので大切さがわからなくなる時もあるかもしれませんけど、もっと大切にされてるって考えて、感謝するのもいいかもしれませんよ?それとも、佐吉さんは霞谷さんやブレスさんのこと、すぐに居なくなっても良い程どうでも良い存在ですか?」
「そんなことはないぞ!」
 未織の言葉に佐吉はポッキーを食べていた手を止め、彼女に向き直って握りこぶしを作り、力強く反論する。
「アイツら居ないと俺、何も出来ないし、ご飯を食べさせてくれるヤツも居なくなっちまうし・・・・何よりアイツらは俺を起こしてくれて、ちゃんと連れて帰ってくれたんだ!大事に思ってないわけないだろ!!」
 言い終え、息を切らしている佐吉を見て、未織は思う。
 やはり霞谷の三人は羨ましいなぁ、と。
 これだけ恥かし気も、惜しみもなく語れる家族の大切さ。思っていても、感じていても、口に出すのはとても難しいと思う。
 それをこのようにはっきり言えるのだ。
 どんなに強く思っているのか、強く未織にも伝わった。
「なら、大丈夫ですね。お家に戻りましょう?ミオがきちんと送っていきます。あ、あとミオで良かったらいつでも連絡ください。佐吉さんのお家に着いたら携帯の番号をお渡ししますから」
「ミオ・・・・」
「はい?」
「ありがとな」
「はい!」
「大好きだぞ!」
「ミオも佐吉さんが大好きです!勿論、霞谷さんやブレスさんも!」
「俺だってアイツらのことだーーーーい好きだ!!」
 あははは、と顔を見合わせながら笑いあっていると、突如、未織のペンデュラムが光を帯び、ある方向をさした。
「おー、きれーだな。何であっちさしたんだ?」
「さぁ・・・・あ!佐吉さん、見てください!ブレスさんです!」
 ペンデュラムの指した方向を良く見てみると、遠くではあるがブレッシングらしき少年がこちらに手を振っている。
 恐らく、未織が無意識のうちに、飛び出してきてしまった佐吉を探している彼を思い浮かべていたのだろう。
「行きましょう、ブレスさんのところに」
「おう、謝んなきゃな」
「はい!」
 ブレスに向かい、未織は大きく手を振り返し、佐吉を抱えて走り出した。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7321 / 式野・未織 / 女 / 15歳 / 高校生】


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■         ライター通信          ■
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式野未織様、お待たせしました!
佐吉と遊んでくださってありがとうございます!

式野様の言葉に佐吉も反省して素直に帰るよう思ったみたいです。
これからは一層仲良くするでしょう。
またよかったら佐吉と遊んでやってください!!