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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


□ 子狐の迷い心 〜にくきゅう大行進4〜 □



【 opening 】

「にゃにゃにゃ〜ん。にゃにゃにゃにゃ〜ん!」
 冷たい風が吹く中、ご近所猫又一族のマーブル王子は、人間世界ではお馴染みのベートーベンの第九を歌いながら、ご近所のおばあさんに貰った石焼き芋を時々口にし、散歩していた。
 勿論、マーブル王子は猫又な猫舌なので、焼き芋はすっかり冷えている。
 いつも通っている猫道、猫たちがよく利用している細道に入ると、小さな身体を震わせている黄色い毛並みを持つ生き物を発見する。
 興味津々で近づくと、余り見かけないその姿にどうしたのだろうと、声をかけた。
「どうしたのにゃ?」
 怪我もなく綺麗な毛並みを震わせている生き物。
 それはびくっ、と身体をびくつかせ、マーブル王子を見上げる。
「……」
「お狐さんにゃ?」
 子狐はしゃべる二足歩行の猫又に驚く事もなく、無言。
 数瞬の沈黙の後、ぽつりと言った。
「お腹空いた……」
 マーブル王子が手にしている石焼き芋だけを見つめ続け、涎が地面に落ちる。
 根負けしたマーブル王子は、食べかけの石焼き芋を差し出した。
「あげるにゃ」
 黙々と石焼き芋を食べ、少しお腹が満ちたのか、名前も聞いていない事に気づく。
「僕は、狐一族の光太郎。初めて人間の住んでいる街にひとりで来たら、迷子になって、お腹空いて……」
「猫又一族のマーブルにゃ。人間の住む所で何か捜し物でもあるにゃ? だったら……」
「にゃー! マーブル王子っ! 見つけたですにゃ!」
 広い道を歩き、猫道をすっかり素通りしていった二匹の猫又が、大慌てで戻って来た。
 マーブル王子の世話係、ノアとブランの白黒コンビだ。
「もう、そろそろ猫又神社へ行く準備始めないと、僕たちが怒られますにゃ」
 早く早くと急かすノア。
「お友達ですにゃ?」
「そうにゃ」
 え!? とばかりに見る光太郎。
「困っているようなのにゃ」
「んんん〜、困った時には草間さんにお願いすると直ぐ解決なのですにゃ」
 困った事はイコール草間さんにお任せ、という公式ができあがっているらしかった。
「光太郎は何を探しに人間の所に来たにゃ?」
 大事な事を聞いてないとばかりに、マーブル王子は首を傾げて言った。
「結婚する姉様に贈り物をと思って来たけど、姉様の欲しいといった物が見つからなくて……」
「どんなのを欲しいと言ったのにゃ?」
「光太郎なら分かっていると思うから、言わないわ……って」
「何だろうにゃぁ?」
 光太郎の言葉に、マーブル王子達は更に首を傾げた。

「また、おまえ達か」
 頬杖をつき、煙草を銜えた草間がいう。
「宜しく頼むにゃ!」
 えへん、と胸を反らしていうのはマーブル王子。
 後ろできらきらと目を輝かせて居るノアとブラン。 草間なら早く解決して、王子を連れ帰る事が出来ると期待しているのか。
 更に後ろでは、子狐が怪訝そうな顔で後ろに隠れている。
「ご近所のよしみでお願いしますにゃ」



【 1 にゃんこと子狐と調査員 】

「あけましておめでとう。初顔さんの狐さんも、宜しくね」
 シュライン・エマは、柴樹紗枝と草間には温かな緑茶を。そして、自身の緑茶が入った湯飲みを置き、各自に用意した飲み物を置いていく。白虎轟牙にはオリーブを入れてカルキ臭さを抜いた水を。猫又一族のマーブル王子、ノアとブラン、狐一族の光太郎にはミルクを。
「人間がいっぱい……」
 光太郎は尻尾をきゅっとを縮ませ、マーブル王子の後ろに隠れている。そして、集まってくれた調査員を眺めていた。
「大丈夫にゃ」
 マーブル王子が光太郎の方へと振り返り、安心させるべく声をかける。
「そう怖がる事はないぞ」
 草間が煙草をぷかりとふかしている。
「よろしくお願いしますね!」
 紗枝は光太郎と同じ目線にする為にしゃがんで挨拶をする。
「ガウ……(宜しく頼む)」
「おお〜、以前お会いした虎の轟牙さんですにゃー」
「お仲間お仲間」
 ノアとブランが、轟牙と肉球挨拶を交わす。
「とてもいいひとなのですにゃ」
 光太郎へと、にゃぁと語りかける。
「う、うん」
 こくりと頷くと、マーブル王子の後ろからそっと出てくる。
「こちらへおいで?」
 紗枝が隣の席へと誘う。前には、シュラインが先程用意したミルクが置かれている。普段、動物を扱う猛獣使いであるせいか、扱いは手慣れた物だ。
 喋るのも、いつも一緒にいる轟牙と意思疎通が出来ているので、別段不思議とも思わない。
「光太郎君はミルクで大丈夫だった?」
 ノアとブランがミルクが好きだったので、同じ物にしておいたのだが。
「ミルク、僕好きです。……いただきます」
 コップだと飲みにくいだろうと、小さめのスープ皿に入れてあるのを、ぺろぺろと舐める。
 ちなみに小さなスープ皿が草間興信所にあるのは、インスタントスープ用の為だ。
「おかわり欲しいにゃ!」
 マーブル王子がミルクをぺろりと平らげ、シュラインを見る。肉球な前足でスープ皿を持って見上げている様は、かなり可愛い。
「可愛い……」
「さっき、鯛焼き食べていたですにゃ! 食べ過ぎは良くないですにゃ!」
 はっ、とノアがマーブル王子に食べ過ぎ警報を出す。
「あー、猫だから魚の形ってわけか」
 妙に納得した風に言う草間。
「あれ……、僕貰ったのは石焼き芋だけど」
 光太郎がポツリと言う。
「にゃ! マーブル王子、更に何処かでおやつを貰ったですにゃ!?」
「ばれたにゃ!?」
 ブランが据わった目つきで、マーブル王子を見つめる。
「うっ、良くおやつをくれるおばーちゃんに貰ったにゃ……」
 正直に言わないと少し怖くなるブランに、マーブル王子は尻尾をぺたりと項垂れさせている。
「えっと……、あげたいのは山々なんだけど……、ミルクはそれで終わりなの。ごめんなさいね」
 くっ、と悲しみをこらえる表情を浮かべ、シュラインは泣く泣く説明をする。
 普段はカフェ・オ・レにする位しか使わないから、余分に買い置きはしていないのだ。というより、余分な物を置いておける財政状況ではないのだけれど。
 切ない理由である。
「残念なのにゃ」
 マーブル王子が滴一つ残っていない皿を前足で抱え、残念そうに呟いた。
「にゃにゃにゃ、十分なのですにゃ!」
「そうですにゃ!」
 ノアとブランが、シュラインに寄り添う。
「ううん、いいのよ」
 ちょっぴり貧乏コント? を繰り広げた後、本題に入ったのだった。



【 2 にゃんこと子狐と調査員、そして謎解き 】

「で、光太郎君のお悩みの事だけれど……」
「そうなのにゃ!」
 えへんと、どことなく威張った様子で、マーブル王子が説明をする。
 一通り聞き終えると、シュラインが口を開く。
「……ははぁ、なるほどねぇ。光太郎君はお姉さんと、とても仲が良いのね」
(お姉さんは、光太郎君からのおめでとうとか、幸せにとか……、弟から心の籠もった送り出しの言葉が欲しいのではと思うのだけど、光太郎君自身が見つけないと、意味がないわよね。どうやって気づいて貰おうかしら……)
「どうして、わかったのですか?」
 不思議そうに首を傾げる光太郎に、シュラインは微笑む。
「どうしてかしら? それを今から考えましょうね」
「物では無い物……? 幸せ……、なのかな……?」
 紗枝がうーんと唸っていると、轟牙が紗枝の肩に前足を乗せる。
「ガルル……(同じ狐の一族から、話を聞いてみるのもいいかもな…)」
「そうね。光太郎君の狐一族って、お姉さん以外にも沢山いるの? 聞いてみたらどうかな」
「僕の一族、伏見稲荷様の所と比べて凄く小さな社だから、一族の数も少なくて、僕だけなのです。子どもなのって」
 後は両親だけという。
「じゃぁ、遊び相手って、お姉さんだったの?」
「はい」
「お姉さんだけど、遊び友達っていう関係でもあったのね」
「ガウ……(伝えたいことがあるのなら、書いてみるというのもあるぞ)」
「お姉さんに、何か伝えておきたいこととかない? お友達だったら、おめでとうって祝福するし。姉弟でもそうだもの」
「んー……、姉の嫁ぎ先や、お婿さんはどんな方か知ってる?」
「ちょっと遠い所に住んでいる狐一族のお兄さんで、時々遊びに来るんだ。おばさんとはいとこって言ってたんだけど、あんまり聞かなかったや……。だって、お姉ちゃんを遠くに連れて行っちゃうんだもん」
 最後は小さな声になる光太郎。
「泣いてるにゃ?」
 マーブル王子が光太郎の顔を覗き込む。
「な、泣いてなんかっ……」
 光太郎はマーブル王子に突っ込まれ、目尻に光っていた涙を拭う。
「泣いてたにゃっ!」
「マーブル王子、友達って言ってたですにゃ」
 思わず、ぼそりとブラン。
「ガウ……(なかなか骨がある)」
「でも、お姉さんが嫁いでいくのには反対してる? もし……、初めての場所や事やりに行かなきゃならない場合、それが嬉しく誇らしい祝い事でもある時、大切な身近な人に伝えたら、どんな反応するか思い浮かべてみて。たぶん、光太郎君の心に溢れ過ぎてて、うっかり伝え忘れてるんだと思うの。探し物、きっと光太郎君の中にある筈よ」
「う、ううん! めでたいって思うよ。お姉ちゃん、お兄さんのこと好きだって知ってるもん」
「じゃ、決まってるじゃない」
 シュラインが力づける。
「直接、口にするのが照れくさいのなら、手紙で伝えればいいわ」
「手紙……?」
「何なら代筆するから」
 紗枝が、草間の机の上にある山から、筆記用具を掘り出す。
「うん」
 とはいえ、直ぐに口にするのが恥ずかしいのか、きょろきょろと周りを見渡す。
 轟牙が、光太郎の心の動きに気づいて、髭を楽しそうに揺らす。
「ガウ……(紗枝、角の方で聞きながら書いてやると良いと思うぞ)」
「あ、そうね! 光太郎君、壁際でこっそり書こうか?」
「うんっ!」
 紗枝は光太郎と手を繋ぎ、壁際に移動する。
「じゃ、手紙が書き終わる間、お出かけ準備しましょうか」
 シュラインが残りのメンバーに言う。
「そうにゃ、そうにゃ」
 ノアとブランが、猫又神社へお参りするのを思い出し、マーブル王子も急かす。
「上手く書けるといいわね」
 紗枝に手紙を代筆して貰う光太郎を見て、シュラインは轟牙と目を合わせ微笑んだ。



【 3 にゃんこと子狐と調査員、そして猫又神社にお参り 】

「猫又神社ですにゃ!」
 ノアとブランが、肉球な前足で手を繋いで、猫又姿になったご一行を案内をする。
 辺りを見回せば、周囲にはノア達と同じように、二足歩行する猫又達が鳥居を潜っていく。
「今年は、大吉にゃ、今年は大吉……」
「何を呟いているの?」
 光太郎が、ぶつぶつ呟くマーブル王子を見る。
 すっきりした表情なのは、思いを手紙に綴って貰ったからだろう。
 その手紙はしっかりと、光太郎のポケットに収められている。
「もー、マーブル王子、まだこだわってるですにゃ?」
 ふう、と両前足を広げるのはノアだ。
「こ、こだわってなんかないにゃ!」
「こだわってると思うですにゃ」
「何かあったの?」
 にやーんとしているノアに、光太郎が聞く。
「それはですね、去年の猫又神社お参りで、マーブル王子、おみくじで凶を引いたですにゃ!」
 ぶすっとふて腐れているマーブル王子。
「まぁ、今年は違うかも知れないし、気にしない方が良いわよ」
 シュラインは、物珍しげに辺りを見回し、前を歩くノアとブラン、そして狐一族の光太郎を見る。
(初めてで新鮮だわ……)
 とはいえ、皆、猫又姿なので、違和感無し。
「しっかりと、商売繁盛、今年も宜しくお願い致しますっ、てお願いしなくちゃ! ね、武彦にゃん」
「そうだにゃぁ。多少は増えてくれないと、煙草の数が減るにゃ」
「もう、武彦にゃんったら」
 カランカラン。
 めいっぱい鈴を鳴らす。
 猫又達の鈴振りの姿はかなり可愛い。
 その後に、轟牙も立ち上がり、ぶんっ、勢いよく振った。他の猫又よりちょっと大きめの轟牙だ。
「にゃにゃ……にゃ……(今年は紗枝と……)」
 真剣に祈る轟牙に、紗枝が轟牙の顔を覗き込む。
「轟牙は何をお祈りしたにゃ?」
「にゃ(……な、何でも無い……)」
 照れくさそうに唸る轟牙に、紗枝は不思議そうに見るのだった。同じ視線の紗枝にドキドキする轟牙。
「にゃー! 大吉出たにゃっ!」
 マーブル王子がおみくじ所の前で引いた大吉の札を持って踊っている。
「あら、良かったにゃね」
 シュラインはそういいながら、どうしようかしら、と悩む。
「折角だから、引きましょうにゃ?」
 紗枝がえいっと、引き抜く。
 どうやら、ここのおみくじは引き抜いてその先にある飴の味で決まるようだった。
 そんなわけで。
 結果である。
 シュライン、中吉。リンゴ味。
 紗枝、大吉。メロン味。
 轟牙、末吉。オレンジ味。
 草間、凶。ドリアン味。
 ノア、末吉。オレンジ味。
 ブラン、吉。パイン味。
「不味ぅにゃー!」
 ドリアンの微妙な味が草間の口から漂ったのだった。



 数日後。
 草間興信所に一通の手紙がポストに入っていた。
『ありがとうございました。おねえちゃんにほめてもらえました』
 狐一族の光太郎からの手紙だった。



End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【受注順】
【0086/シュライン・エマ/26歳/女性/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
[にゃんこ玉×4]

【6788/柴樹・紗枝/17歳/女性/猛獣使い&奇術師?】
[にゃんこ玉×2]

【6811/白虎・轟牙/7歳/男性/猛獣使いのパートナー】
[にゃんこ玉×2]

【公式NPC】
【草間・武彦】

【NPC】
【マーブル王子/男の子/猫又一族の王子・白黒斑猫・冒険心旺盛】
【ブラン/男の子/猫又一族の白猫・苦労猫】
【ノア/男の子/猫又一族の黒猫・苦労猫】
【光太郎/男の子/狐一族】
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■         ライター通信          ■
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初めましてのPC様、再び再会できたPC様、こんばんは。
竜城英理と申します。
最初に頂いた方の分が少し遅れてしまいました。
申し訳ないです。

文章は皆様共通になっています。
では、今回のノベルが何処かの場面ひとつでもお気に召す所があれば幸いです。

>シュライン・エマさま
参加ありがとう御座います。
しばらくの間、興信所はドリアン臭かったかもしれません。
にゃんこ玉はあと1個で大きくなります。

>柴樹・紗枝さま
参加ありがとう御座います。
さっくりと当てられていました。

>白虎・轟牙さま
参加ありがとう御座います。
願い事叶うといいですね!