コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<HappyNewYear・PC謹賀新年ノベル>


職務怠慢〜強き神・毘沙門天〜

 もうすぐ正月。三箇日の内に初詣に行く人も多いだろう。
 その時期に忙しい七福神はもうそろそろ準備をしなくては、と集まって相談をしていた。しかし、その内話し合いは愚痴りあいに転じていってしまった。
「毎年人酔いが激しくてのう」
「この時期だけ来るなんていいようにしか扱われてないわよねぇ」
「皆の願いを叶えるのにも東奔西走だしな」
 皆のそんな愚痴を纏めたのが布袋尊。
「よし、こうしよう。今年は三箇日の間にそれぞれ儂等を捕まえたものに利益を授けると」


 かくして七福神は散り散りに別れ、三箇日の3日間、大掛かりなかくれんぼを決行するのであった。





『ねぇ、聞いた?七福の方々が今年は人間に対し、面白いことをなさるそうよ』
『えぇ、聞きましたわ。七福の方々も人間相手にかくれんぼなんて・・・年始早々にやってくださるわね』
 年末年始の買出しをしている百合子の耳に入ってきたのはそんな小さな神々の噂話。
 日本は八百の神々がおわす国なので、到るところに大なり小なり神々がいらっしゃる。そして、体質上神々の近くに立つことのできる百合子には、時々、このような神々の昔話が耳に入ることもある。
(七福の方々って・・・七福神、だよね)
 『年始』『七福』といえば、しめ縄などにもよく使われる福の神の集団化された七福神に違いないだろう。
 その七福神が『年始早々、人間相手にかくれんぼ』とは一体どういうことなのだろう、と、百合子はもう少し小さな神々の噂話に耳を傾けることにした。


 話の詳細はこうだ。
 毎年毎年、年始くらいしか参拝しに来ない上、一気に大人数で訪れる人間に飽き飽きした七福神は、今年はバラバラに各地に散り、自分を見つけたモノだけにご利益を与える、と言うことにしたらしい。
(・・・ってことは、今年は世間の人達は初詣に行ってもご利益もらえないってことだよね。でも、神様達も毎年大勢の人達に囲まれるの大変だもんね。仕方ないのかもしれない)
 神だってたまの休みくらい欲しいであろう。それくらいは人間だって我慢しなくてはいけない。
 けれど――――
(でも、もし私が見つけられたら何かお話をしてくれるのかな)
  願いを叶えてもらおうだなんておこがましい事は言わないけれど、今年1年見守っていて貰いたいと思う。
(探して、みようかな)
 別に暇だからとかそう言う訳ではないけれど、強き意志を持つ神に会うことで、少しでも自分の心を強くすることが出来たら、大切な人に心配をかけることも無くなるのかも知れない。
「うん、頑張ってみよう」

 目指すは豪胆の神・毘沙門天。





 神々の噂は人間のそれと同じで絶える事はない。
 百合子はそんな神々の噂話を注意して聞きながら、毘沙門天が修行のため篭っていると言う山にやってきた。背の高い木が並んではいるものの、人間も通る事があるのか、歩きやすい道が出来ているので、体力ない百合子でも休み休み行けば、何とか毘沙門天の元に辿り着くことが出来るだろう。彼女は神の声が聞こえるのだ。ここまで辿り着けたように、神々の噂を耳に挟んでいけば、毘沙門天が移動しても辿り着けるのである。
 その点も安心だ。
 しかし問題もある。
「ここ・・・良い神様ばかりじゃないのかな」
 微かに感じる悪意と言う気配。
 百合子に害を為す神々が存在し、攻撃の機会を狙っているかのようにも思える。
「誰かについてきて貰えばよかったかな」
 誰にも迷惑かけまいと、1人で来たものの、これでは何か余計に心配をかけるハメになってしまいそうだ。
「でも、ここまで来たんだし、きっとだいじょ――」
「うぶ、じゃないと思うよ?お嬢さん」
「え・・・?」
 自分しか居なかった筈なのに、突然言葉をさえぎられ、驚いて振り返ると、自分よりいくつか年上であろう少年がきょとん、として立っていた。腰には日本刀、服装は深紅のローブ、と、和風なのか、洋風なのかわからない井出達だが、一般人では無さそうだ。
「あ、ごめんね。そんなに警戒しないで。僕はブレッシング=サーチャー、ビシャモンさんに手合わせを頼みに来たんだ。お嬢さんは?何も用がないのなら危ないよ?」
 あからさまに怪しいのだけれども、その笑顔は何処か疑う気を無くさせる。
 それに纏っているその空気は一体・・・・?
「貴方、綺麗な気を纏ってるんだね」
「へ?・・・ああ、そか。きっと兄貴のだ。僕は少し戦えるだけのフツーの人間だからそんな綺麗な気を持ってないしね」
「お兄さん?」
「うん。まぁ、そうやって僕が慕ってるだけで本当の兄弟じゃないけどね」
「でも、こんなに綺麗な気を纏ってる人が傍にいるってことはブレッシング君も悪い人じゃないってことだよ。私は芳賀百合子、毘沙門様を探しに来たんだよ」
「じゃあ一緒だね」
「だね」
「一緒に行っていい?」
 本来ならば初めて会った異性に対し、このようなことを言ってくる男性は避けるべきなのであろうが、清浄な気を持つモノの側にいると言う彼を、百合子は別に警戒しなくてもいいと思っていた。
 それに、先程からずっとこちらを狙っている禍々しき者の存在を感じているので、ブレッシングの腕っ節は分からないが一緒に居てもらうのもいいかもしれない。
「うん。行こう、ブレッシング君」
「ブレスでいーよ、ユリちゃん。僕の名前、長くて呼びにくいでしょ?」
「ブレス君」
「うん、それでよろしく」
 毘沙門天のところまで後どのくらいかまだ分からないが、百合子とブレッシングの共同戦線がここに結ばれたのであった。



「ユリちゃん、走って!!」
 山の中腹くらいに差し掛かる頃、百合子がずっと感じていた禍々しき者達が襲い掛かってきた。恐らく、百合子とブレッシングの体が疲れてくる頃を狙っていたに違いない。何せ、休憩しようかと話し合っていた時に襲ってきたので間違いないだろう。
 ブレッシングは百合子に安全な場所まで走ることを指示し、自分は腰に佩いていた刀を素早く抜く。
「ブレス君、その人達に多分物理攻撃は効かないと思うよ!」
「マジですか!?・・・ったく、なるべくビシャモンさんに会うまでは温存しておきたかったのにな!」
 ブレッシングは悔しそうにそう言うと、口の中で何か呟いて刀を振るう。振るわれた刀には薄っすらと、彼のローブと同じ色の気がまとわり付いている。
「腐っても魔術師ってね!ユリちゃん!ビシャモンさんが今、何処にいるかわかる?」
 禍々しき黒い影を切り伏せながら百合子に問う。
 百合子は戸惑いながらも1つ頷いて目を閉じ、神々の話し声に耳を傾ける。


『恵比寿様は港で人間にお会いしたそうよ』
『あら、私は布袋様がチュウカガイと言うところで見つけられたと聞きましたわ』
『毘沙門天様はこの先の滝でまだ修行されてるみたいですわ。この山は荒御霊も多いですし、修行には格好でしょうね』


「この先の・・・・滝!」
「滝ぃ!?まったくシュゲンシャじゃないんだからこの寒い時期に勘弁してよね・・・紅き蛇、黒天に舞え!」
 刀にまとわり付いていた赤い気を振り払うように黒い影にむかって振ると、赤い気は蛇に姿を代え、影達を飲み込んでいく。
「蛇・・・」
「行くよ、ユリちゃん」
 刀を腰に戻し、隠れていた百合子の手を引いてブレッシングが歩き始め、百合子もそれについていく。未だ、黒い影を襲っている紅き蛇を気にしながら。
「ねぇ、ブレス君」
「んー?」
「あの蛇はブレス君を守ってる?」
「守ってるって言うか・・・契約ってヤツ?僕は一応黒魔術が得意分野だからねー、日本で言うアラミタマなんてのと契約して使うのもあるんだ」
「じゃあ使役、っていうのかな?」
「うん、そっちのが近いかな」
「そっか・・・」
「ユリちゃん?」
「なんでもないよ。毘沙門様、近くにいらっしゃるみたいだから急ごう」
「おっけー」
 確かに『蛇』という存在は気になった。人間の言う通りに、使役されているモノなど始めてみたから。
(ブレス君ってもしかしてかなり強いのかな?)
 毘沙門天に手合わせしてもらうと最初に聞いたときは、七福神がバラバラになったという噂を何処かから聞きつけ、興味本位でここまで来たのかと思ったが、そうでもないようだ。そもそもよく考えたら、よっぽどの情報網がないとここまで来れない気がする。
「ブレス君」
「ん?」
「毘沙門様に手合わせしてもらえるといいね」
「ん、そだね」
 ブレッシングが再びこちらを向いたので、顔を見合わせて笑った。





 禍々しき者達に襲われた現場から歩くこと20分程度の場所に滝があった。
「滝って、ここかな?」
「かな?影が多いのが気になるけど・・・」
 軽く言いつつもブレッシングは百合子を庇うように立ち位置を変えたが、あまり意味はなさないようだ。何せ、影達が低い掛け声と共にどんどんと消えていっているのだから。
「あそこで戦ってるのがビシャモンさん?」
「うん、気配がね、他の噂をしている神様達とは違うからそうだと思うよ」
「なる」
「ふぬぅ!!!」
 最後の影をなぎ払い、甲冑姿の男がこちらを見た。
 なるほど、確かに絵画でよく描かれている毘沙門天である。
「おっ、そなたら、儂を探しに来たのか?」
「はい、ブレッシング=サーチャーと申します。出来れば2人共貴方にお目どおりしたいと思いまして」
「・・・はじめまして、芳賀百合子と申します。修行中、お邪魔してごめんなさい」
 百合子がまず挨拶と謝罪をすると、毘沙門天はそんなことを気にしないと言った素振りで豪快に笑いながら近寄ってきて百合子の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「良い。ここを隠れ場所に選んだのは修行のこともあるが、そこまで根性のある人間を待っておったからだ。女子(おなご)、よくぞ儂のもとに辿り着いた。お主の望みを言うが良い」
「え・・・と」
 ここまで一緒に着たのに、守ってもらったのに、自分が先に聞いてもらっては申し訳ないと、百合子は隣りのブレッシングを見上げるが、別に彼は笑顔のままで百合子に言うように促した。
 自分の願いは時間がかかるから、と。
「ありがとう、ブレス君。毘沙門様、私の望みと言うかお願い事は・・・私が今年一年大切な人達に心配かけないよう心を強くするために見守ってください。それが、私からのお願いです」
「よかろう。儂が司るは真の強さ。心強き者を見守り、育てるのもまた役目。お主の願い、叶えよう」
「ありがとうございます」
「良い良い。久々に気持ちのいい望みだ。して男(おのこ)よ、お主の望みは何だ」
「僕ですか、僕は・・・」
 ブレッシングは少し苦笑を浮かべると、腰の刀を鞘に入れたまま毘沙門天の前に差し出す。
「どうしても兄貴・・・剣の師匠に勝ちたいんで、ご指導願えないかな、と」
「ふむ・・・骨のありそうな男よ、面白い」
 百合子に向けていた人のいい小父さんの様な笑みを消し、心底面白そうな笑みでブレッシングを見、そして矛を構える。
「よかろう、お主の望み叶えよう。来るがいい!」
「では、遠慮なく・・・・あ、ユリちゃん、少し待ってて!帰りも危ないから麓まで一緒に行くから!」
「うん、わかった。待ってるよ」
「Thanks!!ビシャモン様、行きます!」
 刀を抜き、鞘を百合子に預けたブレッシングは嬉しそうな顔で毘沙門天にむかっていく。
 そんな楽しそうなブレッシングを見て、ここまで一緒に来たせいか、自分も一緒に嬉しくなっている自分に気付いて、百合子は少し微笑んだ。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【5976 / 芳賀・百合子 / 女 / 15歳 / 中学生兼神事の巫女】

NPC
【ブレッシング・サーチャー / 男 / 25歳 / アシスタント】

そして・・・毘沙門天


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
芳賀百合子様、ご依頼ありがとうございます!!
そして、遅くなって申し訳ありません・・・。

お一人だと危ないということで、自分のNPCの中でも戦闘が得意なブレスを同行させていただきました。自分の願いまで一緒に叶えてすみません(苦笑)
少しでも芳賀さんの手助けになっていたら幸いです。

それでは、また縁がありましたらよろしくお願いいたします。