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<東京怪談・PCゲームノベル>


みどりの黒髪




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一人、月明かりの下、何階建てなのか、知る由も出来なさそうな高層マンションを見上げる女が一人。鼻っ柱までずり下がった、眼鏡をかけなおした。女の名前は、寺田聡呼。

「……こ、こんな所に呼ばれてしまった…」

と言うか、行って良いのだろうか…。
などと、頑丈そうなオートロックの前で自問自答しながらも何とか、教わった部屋番号をゆっくりと押し、透明な硝子に阻まれた相手を呼ぶ。

『はい、静修院です』

「も、もしもし?刀夜さんですか」

『聡呼か、大丈夫だったか?』

「…はい……あ、いや、あの、ど、どう入れば…」

呼びかけに、心配した声が入った事に不謹慎にも聡呼の口元が緩む。それに気付いて、すぐに聡呼は頬を擦りながら、鉄の箱へと語りかけた。相手、静修院刀夜はすぐに対応したのだろう。あっという間に自動ドアが機械音を立てて静かに開いた。

『開けたぞ』

「あ、有難う御座います…じゃ、直ぐに行きますので!!」

『あ、おい、エレベー―――…』

刀夜が何かを伝えようとする前に、聡呼は既に自動ドアの中へと駆けて行った。



*****十数分後



「で、階段を、上って来たわけだ。この階まで。」

「は、はい…す、すみません、みみみ、水、もらえますか…」

広めの玄関先で、肩で息を切らせたままに小さくなっている聡呼に、ラフな雰囲気の着流しを着こなしている刀夜は少し笑いを含んだ言葉を掛ければ、聡呼は少し掠れた声で見た目同様小さく答えた。そんな様子に、刀夜は少し噴出して手で中に入るように促す。

「とりあえず中に入って休めよ、すぐに持って行ってやるから」

「は、はい…」

よたよたとした足取りで、聡呼は何とか靴を脱ぎ、疲れの所為か、控えめに室内を見回しながら刀夜の部屋へと上がった。その前を刀夜が歩き、上品なオークのドアを開け、聡呼を先に入らせてからドアをゆっくりと閉める。

「そこの椅子に座りな。……余程疲れてるなら、ソファでも良いけど」

刀夜が指し示したのは、二人用のダイニングテーブルの椅子だった。が、疲労困憊の聡呼を見かねてか、少し奥のソファを促すが…促された本人はドアの傍で鞄を抱えたまま固まってしまっている。少し首を傾いで、聡呼の目の前で刀夜の手がひらひらと振られた。

「おーい、聞いてるのか」

「…っ!ひ、広すぎて、思わず…あ、椅子で、大丈夫ですっ」

庶民派の中の庶民派なのか、家具は多くは無いものの広さと質の良さに圧倒されてしまったらしい。らしいな、と軽く笑って刀夜はダイニングキッチンへと向かった。グラスを準備し、ミネラルウォーターを注ぎながら聡呼の方へと視線を向ければ、緊張したままだがきょろきょろと部屋を見回している姿がある。水を入れたグラスを聡呼の前まで運んでやってもその緊張は解けていない。

「何でそんなに緊張してるんだ?」

「いや、あの、ショールームみたいだなと思うと…」

ふむ。…少し刀夜は考え、苦笑いにも近い笑みを浮かべて答える聡呼の頭をぽんぽんと、二回、軽く叩くようになでてやれば、聡呼の苦笑いは直ぐに何時もの笑みに変わった。それに満足そうに刀夜も微笑んで、またキッチンの方へと足を向ける。

そして、やっと落ち着いた聡呼の前に拡げられたのは、空腹を助長するような香りを纏った料理だ。思わず顔を寄せて、その香りを嗅いでしまう。

「鶏肉ですか?」

「ああ、若鶏のトマトソース煮込み。…腹、減ってるだろ?」

未だに顔が近いままの聡呼に、刀夜は口端を上げて問いかけた。…聡呼はただ黙って、顔を上げて再び苦笑いをしながらお腹を擦っている。それを合図にしたように、サラダやパンなど簡単だがこだわった味付けだろう料理が刀夜の手によって運ばれ、楽しい食事が始まった。食事が終われば、刀夜は準備よくワイングラスを二つ持って来、聡呼へと注いだ。そして、他愛も無い話をし、今日の仕事はどうだったかと聞いたり答えたり、…元々、来た時間が遅かった事もあるが、あっという間に時計の針は深夜の一時半を指していた。

「あ、もうこんな時間ですか…」

名残惜しい、声に出さずとも判るような口調で、ワイングラスを傾けながら聡呼がふと呟く。刀夜は頬杖を着いて軽く笑い、目を細めて聡呼を見つめた。

「これ、遅くなったが…クリスマスプレゼントだ」

小さな黒い箱に、銀と金の細いリボンが綺麗にラッピングされている。見るからに高級感のある箱を受け取り、聡呼は緊張しているのか嬉しいのか、頬を軽く染めたまま目を泳がせうろたえた。

「えっ、いや、あの、そんな…い、良いんですか?」

「聡呼の為に選んだのに、断わる気か?」

「うわっ、いや、そんな事は…あ、ありがとうございます」

やっと、素直に礼を告げた聡呼に対し、刀夜はそうそう、と笑って答えた。そして、直ぐに聡呼が開けても良いですか?と小さな声で問いかけてきた事には、刀夜は小さく頷いて了承する。

「…綺麗」

「似合うと思うぜ」

黒い箱から取り出されたのは、シルバーリングネックレス。照明の灯りに照らされ、ちらちらと星屑のような光が聡呼の目の前で踊る。少々見とれた後に、思い切り聡呼は有り難う御座いますッと、言う言葉と共に頭を下げた。頬杖を着いたままの刀夜は満足そうに笑ったが、次いで出た言葉は呆れも混じった声色で。

「しかしなあ、聡呼。あんた、本当に無防備だな」

「はい?」

無防備、なんて、仕事の事だろうか。いやでも、こんな時に仕事の事などと…と、聡呼は刀夜の言葉に混乱したのか焦点がフラフラと彷徨いがちの目を刀夜にぐっと向けたが、刀夜は確りと聡呼を見つめ返す。

「男の一人住まいに女一人で乗り込むなんて、危ないって教わらなかったか?」

「そ、それは、あの、そうなんですけど…」

俯きもごもごと語尾を濁しながら、口ごもる聡呼の頬をいつの間にか伸ばされた刀夜の長い指がつつつと、ラインを辿る。

「何か、理由が?」

「とっ、刀夜さん、ですから」

「…俺、だから、大丈夫だって?」

小さく刀夜が笑った事に、俯いていた聡呼はゆっくりと顔を上げて、今度は確りと、刀夜と同じように強い眼差しで当夜を見つめた。

「刀夜さんだから、良いんです」

聡呼は真剣な表情で言い、すぐに照れたように破顔した。

「う、わっ!ちょ、刀夜さん!」

直ぐ次の瞬間に、聡呼の視界は真暗に。何が起こったのかともがいたが、すぐに判断出来た。刀夜に抱きしめられている。

「可愛い事言うね」

「かっ!!!あ、当たり前の事です!」

と言うか、そう言う、仕事で使うような身のこなしは止めて下さいっ。

和服だというのに何時の間にやら、聡呼の隣に移動していた刀夜に、刀夜の腕の中で小さく反論をする。顔もきっと赤いのだろう、それを隠すためか、自ら刀夜の胸に顔を押し付けているが、耳が真赤で隠せていない事に刀夜は笑みを零す。

「意味、判る?」

「な、何となくは…」

「…俺は、聡呼をもっと知りたい。触れるだけじゃ、物足りない」

「……」

黙り込んでしまった聡呼の頭を撫でて、ゆっくりと呟いた。思いを伝えるようにして、腕に力を込める。

「す、少し、もう少し、待って頂けませんか…」

「ああ、聡呼が望むなら」

飽くまで紳士的な態度を保って、刀夜は聡呼の返事に応対した。聡呼が腕の中で、少し顔を上げて当夜を見上げる。少々申し訳無さそうに顰めた眉に、また刀夜は笑ってしまった。それを合図に、身体を離して刀夜は席へと戻る。

「じゃあ、今度の依頼の話し合いでもしようか」

「えっ、また仕事来てるんですか!」

「聡呼は中々腕が良いからなあ、俺一人じゃ勤まらない仕事もあるから」

「そ、そうなんですか?」

茶化すように言われたものの、明らかに退魔師としては腕が格上の刀夜に頼られるのは悪い気がしないのか、赤い顔のままの聡呼は照れたように紙を整えて話を聞く体勢に移る。

「どんな仕事なんです?」

「ああ、それがな…」

仕事の話やら、世間話やら、また他愛も無い話へと移行した。まどろむ様な心地よい空間が部屋を包む。そのまま空は白け、夜明けは直ぐ其処へと迫っていた。白い空にそれより更に白い月がビルの狭間に隠れて行く。カーテンを明るく照らす太陽も、ビルに覆われた地平から暖かな後光を放ってその内姿を現すことだろう。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6465 / 静修院・刀夜 / 男性 / 25歳 / 元退魔師。現在何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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■静修院・刀夜 様
毎度、発注有難う御座います!ライターのひだりのです。
少しギャグもいり交えつつ、進展して行っている雰囲気を出してみました。
進展して言っている雰囲気を楽しんでいただければ幸いです!

此れからもまだまだ精進して行きますので
是非、また機会がありましたら何卒宜しくお願いいたします!

ひだりの