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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


おもち・オモチ・お餅
●オープニング【0】
「これは困ったのう……」
 あやかし荘の主と言ってもよい嬉璃は、決して小さくない段ボール箱数箱の前で何やら難しい顔をしていた。年の瀬、大晦日の朝のことである。
「……ちと量を間違えてしまったようぢゃ」
 自分の非を素直に認める嬉璃。なかなか見ることは出来ない光景ではなかろうか。しかし、いったい何の量を間違えたというのか?
「正月には餅がつきものではあるが……さて、どうしたものぢゃろうか」
 腕を組み、嬉璃は思案する。なるほど、お餅を注文し過ぎたんですね?
「0を1個減らしておけばよかったのぢゃろうか」
 ぜ、0を1個……?
 ちょっと待て、あんたいったいどれだけ発注したんだ?
「まあ少なくとも3000個はあるぢゃろうなあ」
 店でも開く気か!!!!!
「……こういう時には、誰か呼ぶに限るぢゃろうなあ」
 さんまの時と同じじゃないですか、その対処法。
 という訳で、正月にあやかし荘へ来るよう、嬉璃から連絡が来るのであった――。

●まだ大晦日【1】
「……何これ……?」
 嬉璃が思案している所にちょうど通りがかったのは、あやかし荘の住人であるミリーシャ・ゾルレグスキー。当然ながら、大量の段ボール箱を前に何やら考えている様子の嬉璃へと疑問の声を発した。
「見て分からぬか?」
 すみません嬉璃さん、どれも無地の段ボール箱なんで見ただけじゃ分かりません。
「……危険物……?」
 ミリーシャはしばし考えてから、ぽつりとそう答えた。
「確かにある意味危険物ぢゃろうなあ。喉に詰まらせると危ない食べ物なのぢゃし」
「食べ物……?」
 嬉璃の言葉にぴくっと反応するミリーシャ。さすがは無尽蔵の胃袋を持つだけのことはある。
「うむ、大量の餅ぢゃ。明日になったら、嫌というほど食べさせてやるのぢゃ。何なら誰か知り合いを呼んできても構わぬ」
 と返す嬉璃。それを聞いたミリーシャの脳裏に、親友の顔がほわんと浮かんだ。呼んでいいのなら連絡してみよう――そう考えるミリーシャであった。
「でも……どうやって……処分するの……? 鍋の中に入れて食べるとか……?」
 ふとそんな疑問が浮かび、ミリーシャは嬉璃に尋ねてみた。
「それもそうなんぢゃが……。まあそれも含めて全ては明日ぢゃ、明日考えるのぢゃ」
 それって嬉璃さん、問題の先延ばしって言うんじゃあ……?
 ともかく、明日になれば人も来ることだしどうにかなるのかもしれない。……たぶん。

●目論見【2】
 さて、大晦日もつつがなく過ぎて、年も改まった元日。嬉璃から連絡を受けた者の中で一番最初に姿を見せたのはというと……。
「ははあ、これはまた」
 手近な段ボール箱を開け、中身を取り出しながら九尾桐伯は呆れたようにつぶやいた。
「いわゆる味や品質は確かながら、売り物にはならない物……切れ端餅という奴ですか」
 桐伯が手にしているのは、お餅がたっぷり入っている袋。しかしよく見るとお餅の大きさは不揃いで、少し薄めのやら厚めのやらが混在し、中には少し欠けている物もある。その内容量は1キロだ。
「味や質が同じならば、安い方がいいぢゃろう? 見栄えにこだわらぬのならそれが一番ぢゃ」
「それはそうですが。だからといって、こんなに買うのもどうかと思いますがね」
 また別の袋を取り出しながら、苦笑いを浮かべる桐伯。見た所、1袋にだいたいお餅が25個前後は入っているようだ。
「とすると、段ボール1箱に入っているのが……」
 桐伯が段ボールの中に入っている袋の数を数え出す。それに段ボールの数を掛け、1袋当たりのお餅の数である25をさらに掛ければお餅のおおよその総数は出てくるはずだ。
「……おや?」
 暗算をしていた指がふと止まり、桐伯は眉をひそめた。
「嬉璃さん、確か3000個はあるとか……」
「そのくらいはあるぢゃろう?」
 桐伯の言葉に、嬉璃は不思議そうな顔をして答えた。
「3000どころか、4000はありますが」
 桐伯の口からそんな数字が出た瞬間、その場の空気が凍ったような気がした。
「……さ、さて年賀状を取りにゆかねば……」
「嬉璃さん」
 その場を立ち去ろうとした嬉璃を桐伯が静かに呼び止めた。
「……わしが悪かったと思っておるのぢゃぞ。いや本当に」
 嬉璃がばつの悪そうな表情を浮かべて言った。そんな嬉璃に対し、桐伯は笑みを深めてこう言った。
「ここは一つ、餅を捌くと同時に損失を埋める試みをいたしましょう」
「試みぢゃと……?」
「ええ。あとで有志を募るつもりですが……あ、嬉璃さんは強制参加ですので。自らの発注ミスなのですし、よもや嫌とは言いますまいね?」
 そう言われちゃ嬉璃としては反論なぞ出来やしない。何しろ直前に、自分が悪いと認めてしまっているのだから。
「むぅ……しかし何をするつもりなのぢゃ?」
「いえ、以前の応用ですよ」
 嬉璃の問いかけにそう答えた桐伯の目からは、嬉璃曰く怪しげな渦巻状光線が出ていたとか出ていなかったとか――。

●お年始【3】
「あけましておめでとうございます」
 続いてあやかし荘を訪れたのは榊船亜真知であった。が、亜真知を出迎えたのは嬉璃ではなくあやかし荘管理人の因幡恵美だった。
「あっ、あけましておめでとうございます」
 新年の挨拶を返す恵美。亜真知があやかし荘を訪れるのが久々なこともあり、互いに丁寧な挨拶となる。
「ええと……」
 挨拶を終え、ゆっくりと辺りを見回す亜真知。自分に連絡をくれた嬉璃の姿を探しているのだが、近くにその姿はない。代わりに、件の段ボール箱が亜真知の視界に飛び込んできた。
「あの、あれはいったい……?」
 当然ながら亜真知は恵美に質問を投げかける。
「お餅です」
「お餅の他には何が入っているのですか?」
「お餅だけです」
「お餅……だけ?」
「お餅しか入ってません」
「…………」
 恵美から返ってきた言葉に、亜真知は二の句も継げず惚けてしまった。そういえば、連絡を受けた時にお餅がどうとか嬉璃が言っていたような気もする。
「……嬉璃様はどちらです?」
 もう1度辺りを見回しながら亜真知は静かに尋ねた。やはり嬉璃の姿は見えない。まさか大量のお餅を放り出したまま、逃げ出してしまったのだろうか?
「えーと、空き部屋でちょっと色々準備を……」
 そう答える恵美の顔はちょっと笑っていたようにも見えた。
「お教えくださいませんか?」
 そして嬉璃の居場所を尋ねると、亜真知は一目散にそこへ向かったのであった。

●呼んでみました【4】
「あけましておめでとーっ!」
 亜真知が嬉璃の居場所へ向かった直後、入れ替わるようにあやかし荘にやってきたのはとても元気のよいちっちゃな茶髪の女の子だった。見た感じ小学生くらいなのだが……。
「おめでとう……」
 そこへミリーシャがやってきた。女の子の元気よい声が響き渡って顔を出したのであろうか?
「おめでとうミリーシャ! 約束通りやって来たよっ」
 ちっちゃな女の子――猿渡出雲はにぱっと笑ってミリーシャの方に向き直った。
「お友だちなの?」
 恵美が尋ねると、ミリーシャはこくんと頷いた。
「そうそう、大食い友だちなの!」
 出雲は笑顔で恵美に言った。ということは……だ。
「お餅?」
 再び恵美が尋ねると、ミリーシャはこくこくと頷いた。
「お餅がいっぱいあるって聞いたんだけどー……」
 きょろきょろと辺りを見回す出雲。その視線が件の段ボール箱に止まった。
「あ、ひょっとしてあれ?」
「それ……」
 段ボール箱を指差す出雲に対し、ミリーシャはこっくり頷いて答えた。
「うわあ、食べごたえありそう! あんなにあるんじゃ、色んな食べ方して食べた方が楽しそう〜」
「……どんな?」
 目を輝かせている出雲にミリーシャが尋ねた。
「んっと、まずはカレーお餅。ご飯の代わりにお餅にカレーをかけてね。それからお餅の天ぷら。海苔をくるっと巻いて揚げたのに、大根おろしを添えるといい感じでしょー。あとピザソースとチーズを振りかけて焼いてピザ風味にするとか、いっそちゃんこ鍋もいいかも……」
 次から次に食べ方が出雲の口から飛び出してくる。ミリーシャは表情こそ変えていなかったが、それを感心したように聞いていた。
「あの。立ち話もあれだし、お部屋で話した方が……?」
 と恵美に促され、出雲はとりあえずミリーシャの部屋に向かったのだった。

●準備完了【5】
 出雲がミリーシャの部屋へ消え少ししてから、一気に人が訪れた。シュライン・エマ、守崎啓斗、守崎北斗、草間零の4人が連れ立って、そしてタイミングを同じくして露樹八重もやってきたからである。
「あけましておめでとうございます」
 そんな5人を出迎えたのはもちろん恵美である。
「はい、あけましておめでとうございま……あら、嬉璃ちゃんは?」
 シュラインは恵美に挨拶をしながら、目で嬉璃の姿を探した。しかしながら嬉璃はこの場に居ない。ちょっと前に嬉璃の居場所に向かった亜真知もそれきり戻ってこないし……。
「それがちょっと準備中で」
 シュラインに答えた恵美の顔はやっぱり笑っていた。
「餅料理の準備中?」
 案の定、反応の早い北斗。けれどもそれに対しては、何故か恵美は苦笑いを浮かべる。
「ええまあ、お料理もなんですけど……」
「……配りやすいように分けてんのかなあ」
 と首を捻る北斗。
「いえ、お餅はそこにありますし」
 恵美が段ボール箱を指差して言った。それを聞いた八重がさっそくそちらへ向かい、開いている段ボール箱によじ登って中を覗き込んだ。
「うわぁ、お餅がいっぱいなのでぇすよ!」
 驚きの言葉を発する八重。他の皆も一斉に移動して中を覗き込む。
「最近多いな……こういう事件……」
 しばし呆然としてから、啓斗が大きく息を吐き出してつぶやいた。そういえば先のさんまの時もこんな感じでしたっけ、ええ。
「……何故こんなにも注文しちゃったの?」
 もっともな疑問がシュラインの口から飛び出す。が、それに答えるべき者はここには居ない訳で。
「あ、でも、全部お餅は袋に入ってるんですね。個別包装じゃありませんけど」
「でもまあ、残ったら1個ずつラップで包んで冷凍保存すれば大丈夫よ」
 袋を手に取って重さを確かめている零に対し、シュラインはそのように言った。ちなみに零はお餅を運ぶのを手伝ってもらうために、シュラインがついてきてもらったのである。なお草間武彦は徹夜仕事明けということもあり、今は事務所で仮眠している真っ最中だ。
「……今回もまた何袋か分けてもらうか」
 袋をしげしげと見つめながら言う啓斗。恐らくは対北斗用の食材となるのであろう。が、それはそれとして見るべき現実は見なければならない。
「しかし、これだけ大量の餅を俺たちだけで処分出来ないだろ。圧倒的に口の数が少な過ぎる」
 啓斗が恵美に向かって言った。これと同じ構図は先日のさんまの時もあった。なので、処理し切れないのはすでに明白である。
「うんうん、それに餅って結構後から響くよな〜」
 大きく頷きながら北斗が言った。
「喉に詰まらせるとやばいし、大食い大会みてーな無茶な真似は出来ねーよな……一度に3個くらいが限度なんじゃね? 一度に3個として、3度の飯に全部雑煮がついてもよくて9個。とてもじゃねーけど、こんなけ食うにゃ遠いし」
 段ボール箱をバンバン叩く北斗。
「大丈夫なのでぇすよ! おたんぢょーびも近いことですし、あたしも食べるのをお手伝いするのでぇす♪」
 八重はそう言うが、これだけの数のお餅を相手にしてはどうなることか分かったものではない。北斗が再び口を開く。
「けど、俺だってあまり無茶な食い方もできねーしさ。これでも俺、胃腸には気を使ってるし」
 ……気を使ってたんですか、北斗さん。
「結局、お餅は何個あるんですか?」
 零が恵美に尋ねた。
「……少なくとも4000個は」
「よっ……!」
 絶句するシュライン。
「あやかし荘の前で雑煮の炊き出しをするか……」
 啓斗がやれやれといった様子で頭を振った。すると恵美がこんなことを言ったのである。
「それに近いことはもうすでに……」
「え?」
 恵美の方に向き直る啓斗。それはどういうことなのか?
「準備出来たよ〜!」
 その時、パタパタと廊下を駆けてくる足音が聞こえた。この声は柚葉である。一同、柚葉の声がした方に振り向いたのだが――。
「……あ?」
 北斗が間の抜けた声を発した。何故ならば、柚葉の格好が袴姿のいわゆる大正時代の女学生スタイルだったからである。しかもエプロンつきで。
「お正月だからですか?」
 いや零さん、その考えはちょっとずれてる気がします……。
「ええと、あれこれ言うより見てもらった方がよいかも……」
 恵美が笑いながら言った。そして部屋に居たミリーシャと出雲も呼び、皆を嬉璃の居場所へ連れてゆく。それは現在は空き部屋の所である。
「あら、ここ……?」
 その部屋にシュラインは覚えがあった。確かそこは、以前に突然メイドさん喫茶があやかし荘に開かれた時に使われていた部屋で――。
「いらっしゃいませ」
 部屋の中から優しげな声が聞こえてきた。見るとそこには、柚葉と同じ格好をした亜真知が銀盆を手ににこやかな笑顔で立っていたのである。
「……メイド喫茶?」
 北斗が訝しげな表情を浮かべつぶやいた。すると部屋の奥の方から別の声が聞こえてきた。
「いえいえ、この場合はミルクホールと呼称するのがらしいでしょう」
 と言って桐伯は姿を現し、皆に会釈をした。
「ミルクホール? で、この格好だから……」
 何やらシュラインはピンときたようだ。
「テーマは何なのでぇすか?」
 八重が尋ねると、桐伯はよくぞ聞いてくれたとばかりにきっぱりこう答えたのだった。
「大正浪漫です」
 ……それは以前、メイドさん喫茶を行った際に桐伯が嬉璃に吹き込んでいたことである。しかし、よもや本当に実行してしまうとは……恐るべし!!
「なるほど……これで餅を振る舞う訳か。で、大量の餅を発注した張本人は?」
 啓斗が嬉璃の姿を問うた。
「ええ、嬉璃さんでしたらこちらに」
 と桐伯が指し示した方向を見ると――そこには同じく袴姿の嬉璃が居たのであった。悪くはない、桐伯の見立てがよかったからかむしろ似合っていた。
「くっ……何やら負けた気がするのぢゃ……」
 でもまあ、嬉璃がそう思うのも分からなくはない……。

●中身を決めましょう【6】
 ひとしきり嬉璃がからかわれた後、桐伯は皆に向かってこう言った。
「箱は出来上がりましたが中身……すなわちメニューを考えなければならないのですよ」
 確かに。メニューが少な過ぎてもあれだし、多過ぎてもまたてんてこまいすることだろう。ある程度挙げて、絞り込むのがよいのかもしれない。
「アイデアを出すのと、実際に作ってみるのを並行した方がよさそうね」
「そうですね。とりあえず、調理器具の方は揃えていますから」
 シュラインのつぶやきを聞いて桐伯が言った。
「そうね……じゃ、大根はあるかしら?」
「あ、持ってきますね」
 シュラインに聞かれ、恵美が部屋に大根を取りに行った。
「大根……さっきも聞いたけど何に使うの……?」
 ミリーシャがそんな疑問を口にする。
「大根はね……」
「大根おろしは消化にいいんだよ! だから、お餅と一緒に食べると吉なの」
 シュラインが説明しようとしたのと同時に、出雲が一気にミリーシャに説明を終えた。
「そうそう、缶入りの小豆もあるのぢゃ」
「ではおぜんざいも作れますね」
 嬉璃の言葉に亜真知が反応する。まあぜんざいと雑煮、それから磯辺焼きなどはオーソドックスな物だし確定だろう。
「あんこやきな粉をつけてもおいしいのでぇす♪」
「俺は焼いて蜂蜜かけて食うっての結構好きだぞ。元々米なんだから、ふりかけ振って食うのも乙かもなー」
 口々に言い合う八重と北斗。それを聞いていた零が感心したようにつぶやいた。
「色々とお餅の食べ方ってあるんですねえ……」
「そうよ零ちゃん。主食にもなるし、おやつにもなるし。粉状に削ってドリアやグラタンなんかに振りかけて焼いても美味しいのよ」
 お餅というのは変幻自在な食材である。工夫次第で色々と使い道は広がるのだ。
 とまあ、あれこれとアイデアを出してお餅料理を一同は作ってみる。ある程度の品が出揃って、さあ試食してみようかという時にあの男が現れた――。
「あの〜、いったい何をされているんですか……?」
 そう、あやかし荘の住人にして不幸の代名詞である三下忠雄だ。
「ふむ、三下よい所に来たのぢゃ。ちょっと来るがよい」
「えっ? 嬉璃さんどうしたんですか、その格好?」
「……聞いてはならぬ! それより三下、とっとと来るのぢゃ!」
 無理矢理三下を引っ張ってテーブルにつかせると、嬉璃はたっぷりきな粉をまぶしたお餅の乗った皿を差し出した。
「食べて味の感想を聞かせるのぢゃ」
「は、はあ……」
 よく分からないまま、嬉璃の指示に従う三下。
「三下しゃん……落ち着いて食べるでぇすよ〜」
「はは、大丈夫ですよ」
 心配する八重に対し、三下はそう返す。そしてきな粉たっぷりのお餅を口の中へ入れて……。
「げほっ!!」
 むせた。
 どうやらきな粉が気管の方へ行ったようだ。
「うぐっ!!」
 その次の瞬間、三下は喉元を押さえて身悶える。案の定……喉にお餅を詰まらせてしまったらしく。
「と、このように、喉に詰まらせることがあるから気を付けて食べるのぢゃぞ」
 そんな三下を他所に、嬉璃は冷静にミリーシャに向かってお餅の食べ方の注意点を説明していた。
「……三下しゃん、お正月からやっぱり不幸なのでぇすか……」
 がっかりする八重。その間にも三下は喉元を押さえて悶えている。
「うぐぐぐぐぐっ……!?」
「誰かお水!!」
 慌ててシュラインが言うと、桐伯から水を渡されて亜真知が三下へ持っていった。
 ……ともあれそんなハプニングがありつつも、一通りメニューは決まったのだった。
「あとは宣伝でしょうかね」
 とつぶやく桐伯。箱が出来た、中身も決まった。残すは告知である。
「……雫に頼んでゴーストネットに情報を書き込んでもらうのはどうだろう」
 少し思案をしてから啓斗が言った。雫とはもちろん瀬名雫のことである。
「福を分けると考えて、無償で振る舞えば人は来るだろう。それに初詣帰りだったりすると温かい物が欲しくなるし」
「と言っておられますが?」
 桐伯が嬉璃の反応を見た。無償で振る舞うと損失は埋められないが……。
「ふーむ、そうするのなら賽銭箱でも用意するのがよいぢゃろうな」
 これは一種の妥協案である。振る舞いは無償、しかし賽銭箱に来客者がお金を入れてゆくのはやぶさかではないということで。
「……そういえばアリアしゃんはおしょーがつのお餅はもう堪能したんでしょーかねー」
 試食を続けていた八重が、ふと思い出したようにつぶやいた。それに反応したのがシュラインである。
「せっかくだから呼んであげたら?」
「それはいいでぇすね!!」
 シュラインの提案に八重が顔を輝かせる。アンティークショップ・レンの店主である碧摩蓮へもお土産に持って帰ってもらえれば、お餅も減るし一石二鳥である訳だし。
「……武彦さんも呼ぼうかしら。そろそろ起きてるかもしれないし」
 シュラインもそんなことを考える。
「こうなったら、心当たりにあちこち声かけるのもいいんじゃね?」
 北斗が笑いながら言った。訪れる者が増えれば、それだけお餅の減りも早くなることだろうし。
 かくして、あやかし荘のお正月はこのように過ぎてゆくのであった。
 余談だが……零や呼ばれたアリアも袴姿に着替えて手伝ったことを付け加えておく。

【おもち・オモチ・お餅 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 1009 / 露樹・八重(つゆき・やえ)
          / 女 / 子供? / 時計屋主人兼マスコット 】
【 1593 / 榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)
  / 女 / 中学生? / 超高位次元知的生命体・・・神さま!? 】
【 6814 / ミリーシャ・ゾルレグスキー(みりーしゃ・ぞるれぐすきー)
               / 女 / 17 / サーカスの団員 】
【 7185 / 猿渡・出雲(さわたり・いずも)
         / 女 / 17 / 軽業師&くノ一/猿忍群頭領 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全6場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。お餅の美味しい食べ方のお話をここにお届けいたします。……え、違う?
・たっぷり入ってお手頃価格のお餅、高原は結構好んで食べていたりします。今回のお話は時期もありますが、そこからのネタという感じもしますね。今回出てきた食べ方、まだ試したことないのは高原も試してみようと思います。
・あと年末年始にかけて、東京怪談のボイスドラマをお聞きになられた方も居られるかと思いますが、もしよろしければご感想などいただけると高原は嬉しく思います。
・シュライン・エマさん、137度目のご参加ありがとうございます。という訳で、お餅は色々と料理法がありますね〜。ドリアやグラタンに振り掛けるというのは初耳でした。そうそう、あやかし荘を訪れた時間軸としては草間興信所のお話の後になりますね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。