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<HappyNewYear・PC謹賀新年ノベル>


ネズミ年に見る猫の夢 〜 森林の星 〜



 年が明け、新たな始まりの爽やかな風に包まれた世界。
 新年の楽しみといえば、お雑煮に御節、凧揚げに福笑い、そして何より―――

 カツカツとブーツの踵を鳴らしながら、ミネコは眼鏡をすっと上げると自動ドアを通り抜けた。
 広い応接間の中央、タプンとした体型の男性がデスクに足を乗せて踏ん反り返っている。
「ボス、被害は拡大し続ける一方です。ネズミー達に洗脳された人々は、今では世界の9割に及んでいます。子供も親もお年玉をチューオウに捧げています」
「くそっ‥‥子供の楽しみ、お年玉を狙うとは‥‥!」
「彼らはそれでチーズを買い占めており、世界中の市場からチーズが姿を消しつつあります」
「チーズまで奪うとは、許すまじネズミーどもめっ!」
「挙句、猫を閉じ込める作戦に出ています。狭い部屋に押し込められる猫達‥‥許すまじ、ネズミーどもめっ!!」
 ミネコがフーっ!と髪の毛を逆立てる。彼女は猫と人のハーフなのだ。
「ボス、この状況を打開できるのはあたし達しかいません!」
「‥‥しかし、2人ではどうにも出来まい」
「確かに、チューオウもネズ四天王も強いと聞きますが‥‥」
「そもそも、ネズ四天王とは何なんだ?」
「ネズ四天王とは、チューイチ、チューニ、チューサン、コーイチの4人からなるネズミー国きっての兵で‥‥」
「おいおい、何だよ最後。何でコーイチ?チューって来てたのに何で最後だけそんな落ち!?」
「ボス、中学は3年生までですから」
「いや、知ってるって、そんな哀れむような目で見るなよ!知ってるっつの!でもさ、別に中学の話してるわけじゃなかっただろ!?」
「‥‥彼らを倒し、鍵を奪う事によって始めてチューオウの元へ行けるのです」
「上司の華麗なツッコミを無視かよ!」
「‥‥デボス、ここはネズミー達に洗脳されていない人間の中から適当に勇者を見繕いましょう」
「デボスって何だよ!思いっきりDの発音いらないだろ!?そもそも、適当にって、勇者がそんな切ない選ばれ方して良いのかよ!?」
「デス、事は一刻を争うのです」
「何でデス!?Dの発音いらねーっつってんだろ!?」
「確かに、普通の人間をネズミーの元へ行かせるのは酷です。そのため、あたしは夜を徹してコレを作りました」
 ミネコが背後から取り出したソレは‥‥‥猫耳、だった―――
「これを頭の上に乗せれば、ニャンコ戦隊ニャンレンニャーの誕生です!」
「ニャンコ戦隊ニャンレンニャー!?言い難っ!」
「適当に見繕った人間の頭にこれを乗せれば、必殺猫パンチと必殺猫ジャンプ、そして必殺ネコじゃらしが使えます!」
「‥‥最後の何だよ、どんな技!?」
「ちなみに、語尾がニャーになるのはお約束です」
「うわぁ‥‥‥」
「ボス、偏見はいけません。猫耳は種族です。どんな年齢でも似合うべきなんです!」
「そんな力いっぱい言われても‥‥」
「‥‥コレはネズミーに洗脳されていない人間の頭にしかくっつきません。そして、くっついたが最後、チューオウを倒すまで絶対に外れません」
「呪われてんじゃないのかソレ!?」
「ニャンコ戦隊ニャンレンニャーが全員集まり、ネズ四天王を倒して心が一つになった時、巨大ロボニャンジャーが出現します」
「ニャンジャー!?」
「チューオウはネズミのクセに巨大だと聞きます。最後はロボに乗っての戦いになるかと。‥‥おそらく巨大生物対巨大ロボの戦いですので周囲に莫大な被害が出るでしょうが、世界の猫の幸せのため、チーズのため、お年玉のため、ここは目を瞑って‥‥」
「瞑れるかーーーっ!!!」
「とにかく、猫の為に早いところ勇者っぽい人間を適当にとっ捕まえて猫耳を装着させましょう!」
「‥‥結局は猫のためかよ‥‥」



☆ ★ ☆ 森林の星の下に生まれし勇者 ☆ ★ ☆



 アラビアン風の衣装に身を包んだ清水・コータは、先ほどから感じる人々の視線に首を捻っていた。
 お正月ムードに変わった町並みはどこまでも華やかで、それでいて数週間前まで輝いていたはずのイルミネーションは全て取り払われ、何となく寂しい様な気もする。
 お目出度い雰囲気と、新しい年の始まりに浮かれているような雰囲気が混じりあい、一種独特の新鮮な空気に染められている。
 前方から歩いて来た親子が、突然ピキリと止まると不思議そうに顔を歪める。
 母親がサッと子供の前に手を翳し、見ちゃいけませんと囁くと手を引っ張る。
 ―――― 何なんだ?
 はっきり言って、意味が分からない。
 先ほどからこの調子で、女子高生には青ざめられ、小学生男子は賑やかな会話を中断すると、無言で俯いて歩いて行く。いずれもコータを見て、急に顔色を変えていたのだ。
 ――― 俺、変なことして無いよな?
 自分で自分に尋ねたところで有益な答えが返ってくるとは思えなかったが、孤独なコータは自分と対話をするしかない。隣を友人でも歩いていれば声をかけられるのだが‥‥‥。
 確かに服装は少々変わっているかもしれないが、特におかしくは無いと思う。コータ自身の見た目にしたって、黄色人種特有の肌の色に茶色い髪、青い瞳は日本人と言うくくりから見れば特殊だが、現在はカラーコンタクトと言うものもあるため、さほど特異ではないだろう。
 よく見れば美形なコータは、顔の造形がやや日本人とは違っている。それは彼が生粋の日本人では無いからなのだが、今時ハーフだからなんだ、クオーターだからなんだと言うのは流行らない。そうなんだー程度で流されてしまうコトに過ぎない。
 前方から、サラリーマンの二人組みが歩いてくる。
 茶色いコートを羽織った30代後半くらいの男性に、黒いコートを羽織った20代半ばくらいの男性。彼らは真剣に何かを話し合いながらこちらに歩いて来て ――― ふとコータを見ると、顔を強張らせた。
 ‥‥‥‥‥いや、違う。
 コータを見ているのではなく、コータの後ろを見ているのだ‥‥‥!
 瞬間的に振り返った時、ピョンと何かが飛び上がった。
 ヒラリと布が揺れ、甘いコロンの香りが鼻腔をくすぐる。
 茶色い髪がふわりと揺れ ――――― コータの頭の上に、何かが乗った。
「貴方をニャンコ戦隊ニャンレンニャーの一員と認めます」
 腰近くまである髪を三つ編に編んで両肩に垂らした眼鏡少女はそう言うと、コータに小ぶりの手鏡を手渡した。

「にゃ、ニャンじゃこニャーーーーーーーーっっっ!!!!!!」

 ――――― って言うか、この喋り方もなんだーーーっっ!!!



★ ニャンジャー集結 ★



 カツカツとブーツの踵を鳴らしながら歩くミネコについて、自動ドアをくぐる。
 広い応接間の中央、タプンとした体型の男性が踏ん反り返っている。
「ボス、これでニャンジャー全員揃いました」
「そうか‥‥‥初めまして、勇者諸君。私の名前はボス。本名は‥‥‥私も忘れてしまうくらい、このボスと言う呼び名が‥‥‥」
「おのれ、チューオウめ!私を差し置いてチーズ独り占めとは許せんニャー!必ずやチーズを奪還し、とろとろチーズ乗せパンを食べてやるニャーっ!」
「そうニャーっ!チーズを奪うだなんて許せないニャー!お料理に影響が出ちゃったら大変にゃもニョ。あたしの力でばっちし奪い返してみせるんにゃから!」
「て言うか、人が真剣に話してる時に何ちゃっかり割って入っちゃってんのー!?人の話は最後まで聞きましょうって習わなかったの君達!?」
 ボスのツッコミに、ラン・ファーとミルカが顔を見合わせる。
「にゃらった事はにゃらったんニャけど‥‥‥聞く必要はニャイかニャーって‥‥」
 悪意0%の笑顔で、ミルカがそうボスに言い返す。
 可愛い顔して、言葉は10tハンマーのようだ‥‥‥。
 ボスが哀しそうな顔で俯く。ガクリと肩を落とした様は、思わず声をかけたくなるほどに哀愁漂っていたが、ランとミルカはそんな些細なことは気にしない性格で、ミネコはボスの様子を見て薄ら笑っている時点でアウトだし、清水・コータは面白ければ何でも良いと言った様子で成り行きを見守っているし、ケヴィン・フォレストは優しい言葉をかけたとしても、声に出すのは面倒臭いので心の中で、だ。
 四面楚歌‥‥‥なんと悲しき状況か。
「さぁ、ボスが打ちひしがれているうちにチャチャっと予定を立てましょう」
 優秀な部下・ミネコが手を叩きながら全員の前にしゃしゃり出てくる。
「まぁ、予定を立てるといっても、見つかり次第ネズ四天王をぶっ潰してチューオウを粉々に破壊すれば良いだけなんですけどね」
「‥‥‥ミネコ、言い方怖いって」
 ツッコミ・ボスの脱落を受けて、コータがツッコミを入れる。
 万が一自分が精神的問題でここを離れる事になったとしても、コータがいてくれるのならば安心だ。 ボスがそんな生易しい瞳で状況を見守っていたが、コータは純粋なツッコミではない。
「ぶっ潰すのも破壊するのもぶっ殺すのも、あたしには無理ニャわ」
「‥‥ぶっ殺すとは言ってないって!」
「力任せに暴れるニョって、ヲトメらしくニャイわ」
 胸の前で腕を組み、瞳をキラキラと輝かせたミルカがバックに花を背負う。
 大輪の百合の花に囲まれるミルカ ――― 黒子達に目線で“花持って来いよ、今、すぐに!”と脅しをかけていたのは見なかったことにする ――― はどこか可憐で儚げだった。
「ヲトメだってやるときはやるんニャけどね、例えばジャンプにゃんてしちゃったら、スカートがめくれちゃう訳でしょう? そうしたら絶対領域(?)が見ちゃうニャ! それはまずいわよねえ、色々と‥‥」
「いや、絶対領域って、既に見えてるし」
 茶色いロングブーツの上には黒のニーソックス、そして短いスカートから伸びる細い脚。ニーソックスとスカートの間の絶対領域は、常に人々の目にさらされている。
「ニャンですとーーーっ!!?」
「そもそも、君のスカートの中が見えたくらいで動揺する人はこの中にはいない。 いや、そもそも君のスカートの中を見て興奮するような人は、確実にロリ‥‥‥」
 少し復活したボスがツラツラと言葉を続ける。
 ミルカが金色の瞳をキラーンと光らせ、フーっと髪の毛を逆立てる。
「必殺☆猫パンチニャーーーーーっ!!!」
「ちょ、仲間に必殺って、おい、ちょ、うそーーーーっ!!!??」
 ミルカの右ストレートがボスの顔にめり込む。
「‥‥‥自業自得だニャー」
「ランの意見に賛成だニャー」
「ボスは妙な拘りを持ってるんですよ。 例えば私は猫耳猫尻尾がついていており、語尾にニャーをつけて話していたのですが、ボスが“猫耳眼鏡、三つ編娘ハァハァ”と、気持ちの悪い事を言ってきたので、尻尾を引き抜き、猫耳を引き千切りました。そして、語尾のニャーも血の滲むような努力で言わないようにしました」
「す、凄いにゃミネコは‥‥‥」
 思わずランが称賛の眼差しを向ける。
「いやー、でもあれだよニャー、絶対コーイチ仲間外れにされてるよニャー。だって、一人だけチューじゃにゃいニャン。‥‥‥可哀想ニャー」
 コータの言葉に、ランが「しかもコーイチは一番年下のはずだしニャー」と言葉を続ける。
「つーか、可哀想っつえば俺も可哀想だよニャー、にゃんだ猫耳って、にゃんだよニャーって」
「私にいたっては猫尻尾までついてるんだニャー」
「個人の体質に合わせて、猫耳+ニャーだけで良い場合と、その他の部分にも影響が出る場合があるんです」
 ランが尻尾をクネンと動かす。 クネクネクネ‥‥‥あぁ、じゃれ付きたい衝動が ―――
「‥‥‥猫耳可愛いかもしれにゃいけど、別に萌にゃいし」
「猫耳は神だっ!!」
 ムックリと起き上がったボスが、ミルカの必殺☆猫キックで撃沈される。
「‥‥‥まして自分ならなおさらだニャー」
 ミルカの猫キックを見なかったことにして、コータが話を続ける。
「ついでに語尾ニャーは女でも許せんニャー! とりあえず、この怒りをネズミーにぶつけてやるニャーっ!!」
「そうです、その意気です! ‥‥つーか、十二支に入ったからなんだっつーんだよ。こちとらオメーらのせいで変な印象植え付けられちまったじゃねぇかよ」
 ボソリとミネコが悪態をつく。
 瞳に光がなくなり、今にも誰かに飛び掛りそうな殺気を滲ませている。
「‥‥‥て言うか、あの人は何でさっきから無言なんだニャー?」
 部屋の隅でジーっと成り行きを見守っていたケヴィンに、コータがチラリと視線を向ける。
 服装と宵、背中に背負っている銃刀法違反しまくりの剣と良い、どことなくファンタジーな雰囲気を発しているケヴィンは、部屋の隅でボスをしめている ――― いや、ボスと戯れている ――― ミルカ同様、どこか別世界のにおいがする。
「それ以前に、ミルカとケヴィンはどこから来たんだニャー?」
「私が空間をひん曲げて、ソーンと言う所から強制的に連行してきました。 なにせニャンコ戦隊ニャンレンニャーの一員の勇者様ですから」
 ‥‥‥強制的に連行される勇者‥‥‥。 そんなの聞いた事がない‥‥‥。
 例えば、村人Aの家捜し中に壷からお金を発見、その瞬間を帰宅した村人Aに見つけられ、村長宅に連行される ――――― 強制的に連行される勇者と言う言葉にピタリと当てはまるシチュエーションだが、もはや既にそれは勇者ではなくただのこそ泥だ。
 勇者が強制的に連行されるのは、敵のアジトに侵入する際に卑劣なトラップに引っかかり見つかった場合か、仲間が人質に取られているために仕方がなく連行される場合か、とにかく、そんな様な格好良く、なおかつ敵の非道さに視聴者、またはプレイヤーの心に正義の炎が灯るような瞬間でなくてはならない。
「強制的に連行して勇者にするにゃんて、絶対ロクな勇者が誕生しにゃいと思うニャー」
「‥‥大丈夫です、勇者だと名乗った瞬間から、貴方は勇者ですよ」
「自称勇者にゃのか!? つか、にゃんでそんな生暖かい目で見るんにゃよ!?」
 ポンと、優しく肩を叩くミネコに怒涛のツッコミを入れるコータ。
 少しだけ、ボスの日頃の苦労が分かる瞬間だった。
「それで、ケヴィンはにゃんで喋らないのニャ?」
 ケヴィンとは初対面ではないランが臆することなく声をかけるが、ケヴィンは複雑な顔をしたまま固まっている。
「ケヴィンさんは、ニャー言葉で話すのが恥ずかしいんですよ」
「にゃんだ、そんな事か。でも、住めば都、ニャー語もじきににゃれるニャよ」
「元々ケヴィンさんはそれほど話さない方ですし‥‥‥え? 何ですか? ニャー語はイヤ? でも、そんなこと言われても、語尾にニャーをつけるのは猫耳族の慣習ですし。 ミネコはニャーつけてないじゃんって、だから、さっきも言ったとおり、ボスのせいなんですって! クセって直すの大変なんですよー!」
 ミネコの独り言のようにも聞こえるが、ケヴィンの視線での言葉を読み取り、それに対して言葉を返しているわけであって、立派に会話が成立している。
「でも、そうですねぇ‥‥‥あたしも鬼ではないですので、誠心誠意お願いをしてくだされば考えても良いですよー。 あぁ、そんな視線で訴えてこないで下さいよー! ちゃんと、こ・と・ば・に、してくーださい♪」
 ニヤリと邪悪な笑顔を浮かべるミネコ。
「‥‥‥気をつけろ、ミネコはドSだぞ‥‥‥」
 不良少女に絡まれて‥‥‥失礼、可愛らしい少女に構ってもらっていたボスが、ボソリと声をかける。
「‥‥‥‥お、おね‥‥‥お願い‥‥‥‥し、ます‥‥‥ニャー」
 蚊の鳴くような声だったが、ミネコは満足げに微笑むとケヴィンの背中を強く叩いた。
「はい、これでニャー語は出ませんよー!」
「にゃんだよソレ! そんにゃんでニャーつけなくて良いんにゃら、俺もそうして欲しいんにゃけど!」
「‥‥‥気分的にコータさんはニャーが似合っているような気がするので、そのままで良いと思います」
 コータの意思を無視したような形で、ミネコが作文のような感想を言う。
 そもそも、強制的に猫耳をつけてニャンコ戦隊ニャンレンニャーの勇者だと決めつめた時点で、彼女に人の意見を聞く耳がないという事が分かる。
 緩く気だるげな雰囲気が支配するダメダメな空間に、突如として警報が鳴り響いた。
「‥‥‥どうやらコーイチの居場所が分かったようだぞ」



☆ コーイチ登場 ☆



 バイクにまたがり、颯爽と現れるニャンジャー達‥‥‥
「おい、ちょ、何でそうなるのおおおお!!?? つーか、思いっきりお前ら新聞屋さんとか郵便屋さんとかのバイクじゃねぇか! さっきまで思いっきり電車乗ってたじゃねぇか!!」
 ドスドスと走ってきたボスが、バイクを降りたメンバーにつばを飛ばしながらツッコミを入れる。
 そう、実はニャンジャー達、ココに来るまで電車を使って来ていた。 思いっきり猫耳が恥ずかしかったが、お昼時の中途半端な時間に乗り合わせている人々は少なかった。 これから動物園にでも行くらしい親子が青ざめた顔で視線を逸らしながら前のシートの座っていたのも、人数ならこっちのが勝ってるもんね!多数決ならこっちの勝ちだもん!と言うくだらない理由を捏ね上げ、自分達を納得させた。
 猫耳つきでないミネコとボスは思いっきり遠くの席に座り、他人の振りをしていたが、微かな殺意を覚えたものの、悔しくはなかった。
「勇者はバイクで登場と相場が決まってるニャー!」
「決まってねぇよ!勇者は徒歩だろうがよ! レンジャーにしたって、自分のバイク使ってるだろうが皆ー!」
「だって、バイクの支給がなかったニャー」
「ねぇよバイクの支給なんか! つか、何で皆電車降りた途端にそこら辺にあるバイクに跨っちゃうわけ? 思いっきり窃盗じゃねぇかよっ!!」
「勇者は窃盗スキルが高いにゃ!」
「高くねぇよ!シーフと勘違いしてるんじゃねぇよ! 窃盗スキルの高い勇者って何!?何事?! そんな危ない勇者に何の命運託せってわけ!?」
「っていうか、ミルカとケヴィンはどうしたニャー?」
 ランの言葉にツッコミを入れ続けていたボスが、肩で息をしながらコータの素朴な疑問に「あ」と間の抜けた声を出す。
「そう言えば、ミルカさんはスカートが短い事を気にしてバイクに乗らなかったんですよね。それで、ケヴィンさんも人の物に乗る抵抗から徒歩を選んで‥‥」
 ‥‥‥バイクに跨り、颯爽と現れたニャンジャー達。だが、人数は揃っていない‥‥‥
「異世界から来た人達置いてきてどうするんですかボス!だからデボスなんですよ!」
「だから、Dの発音いらねぇだろ!?何なんだよDって、どっから来んだよDって!この体型のこと言ってるのか!?遠まわしに痩せろって言ってるのか!?上司イジメか!?」
「もー、ボスもミネコもにゃか良くするニャー! 今ここで争ってたって意味にゃいと思うニャー」
「コータの言うとおりだニャー。今は、この家のどこかに置いてあるチーズを探す事が先決だニャー!」
「チーズ!?すげーどうでも良いことじゃねぇかよ! チーズなんか探してる暇ないだろ俺らーーーっ!!」
「そうです!あたし達は、この家のどこかに閉じ込められているはずの猫たちを‥‥‥」
「お前はまだ猫か! 猫が解放されれば満足なのか!?」
「だーかーらー、喧嘩してたって始まらニャイだろー? 今は、ミルカとケヴィンを置いてきたボスの責任問題について話し合わなくちゃにゃらにゃいニャー!」
「そうでした!」
「そうだったニャー!」
「お前らがバイクなんか乗るからこうなったんだろー!?」
「人のせいにするのは良くにゃいニャー!部下の失敗は上司がとる、これが常識ニャー!」
「お前らの尻拭いなんかしてたら、首がいくつあっても足りんわあああああっ!!!!」
 コータのもっともな、けれども何処かズレた発言にボスが声を荒げた時、突然目の前の豪邸の扉が開いた。
「お前らああああっ!!!住宅地でなに声張り上げとんのじゃあああっ!!騒音問題で訴えられたいのかあああっ!!」
 門の向こうに続く白い道、その先にある中世ヨーロッパ風の豪邸の前、ネズ耳とネズ尻尾をつけた青年が仁王立ちになっている。
 外見年齢は20代前半から20代後半、片手に赤ワインの入ったグラスを持ち、白のバスローブを来たコーイチは見事な金髪に染め上げた髪から雫を垂らしていた。
 水も滴る何とかやらを目指しているのかも知れないが、外見はいたって普通だ。
「お前の声のがでかいにゃあああああっ!!」
 コーイチの声の大きさに負けじと、ランが声を張り上げる。
「つか、なに昼間っから風呂なんか入ってるんニャー!」
「風呂なんてはいるかああ!シャワーだシャワーっ!!」
「その格好は夜だろうがニャー!昼間にはあわないんニャーーーっ!!」
「そうニャそうニャーーーっ!!」
「うるせえええっ!!お前ら全員、警察に連れてくかんな!閑静な住宅街、しかも高級住宅地で大声を張り上げた罪、ものっそ重いかんな!!お母さんの手作りクッキー千枚あっても足りないんだかんなああああ!!」
「‥‥‥基準が分かんねぇよ。お母さんのクッキー千枚って具体的にどのくらいの価格なんだよ」
 ギャァギャァと騒ぐランとコータ、そしてコーイチ。
 ボスが両耳を塞ぎ、自身の喉の調子を考えてツッコミを放棄する。
 上司の職務放棄に優秀な部下・ミネコが代役を買って出ようとするが、ツッコミ慣れしていない彼女は悲惨だった。
「お母さんのクッキー千枚って、何事やねん!なんでやねーんっ!」
 ‥‥‥意味が分からない。
「ネズ耳よりも猫耳の方が市民権獲得してるニャーーーっ!!!」
「うるせえええ!!猫耳なんてもう古いんじゃあああ!!これからはネズ耳の時代じゃあああ!」
「なんだと!?貴様!ゆ、許せんっ!!!」
 猫耳萌のボスが鉄製の門をガチャガチャと揺らし、ランとコータ、そしてミネコもソレに続く。
「不法侵入かあああ!?警察呼ぶぞ貴様らあああ!!」
「うるせええ!!お前らこそチーズを返すにゃーーーっ!!」
「猫を返せーーーっ!!」
「お年玉とプリンをくれにゃーーーっ!!」
 コーイチがバスローブ姿で片手にワイングラスを持ちながらこちらに駆け寄ろうとした時、隣の家の窓が開き、中から怒りで顔を真っ赤にしたおば様が顔を出した。
「うるせえええ!!貴様ら今何時だと思っとんのじゃああ!! こちとら折角の至福の昼寝タイムだったのに、オメーらのせいで台無しじゃぼけえええ!!」
「「「‥‥‥あ、スンマセン」」」
「「スミマセンニャー」」
「謝ってすむなら警察はいらんのじゃぼけええ!!! 今度やったらどうなるか分かってんだろうな!? 私が寝るまで延々子守唄歌ってもらうぞお前らあああ!!」
「あの、マジ、ホントすみません。それは勘弁してください‥‥ あの、僕、こう言っちゃ何なんですけど音痴で‥‥。四天王の中でも一番ヘタで、忘年会とかで歌うと場が盛り下がるって言うかなんで、あの、マジ勘弁してください‥‥」
「膝枕もしてもらうかんなああ!そこの猫耳少年!!」
「本当反省してるニャー。俺の脚、ニャイーブにゃんで、勘弁してくださいニャー。長時間正座してたら、立てなくなっちゃうニャー」
「と、とりあえずお前ら家に入れ」
 コーイチが門を開け、ニャンジャー達は隣のおば様に頭を下げつつ、彼の家へと入ったのだった。



 出された紅茶を飲み、クッキーを頬張る。 コータのためにとコーイチが冷蔵庫からプリンを取って来てくれ、まったりとお昼の番組を見ながら食べる。
 ソファーは柔らかく、室温は快適で、思わずトロリと睡魔が襲う。
「もう少しで焼きそば出来るからな」
「なんか悪いな、昼ご飯まで作ってもらって」
「そうですね、私も何かお手伝いしてきます」
「俺も手伝おう」
「あ、俺も行くニャー」
「私はここで待っててやるニャー」
 キッチンからは甘いソースの匂いが漂って来ており、空腹を訴えてお腹が鳴く。
 ピンポーン。 不意に鳴ったチャイムの音に、手が離せないコーイチの代わりにランとコータが玄関まで出る。内鍵を外し、扉を開けた先には制服姿の警察官とミルカとケヴィンの姿があった。
「良かったニャー!もう皆に会えにゃいかと思ったニャー!」
 ミルカが涙目になりながらランに飛びつく。
「あ、良かった。君達この人達の探してた人? いやー、迷子だって言うから話を聞いてみれば、連れがいなくなって何処に行ったら良いのか分からないって言うじゃない? コーイチを倒しに行かなくちゃならないんだって言うからさ、色々人に聞いて回ったら、ここの住人がコーイチさんって言うんだって教えてもらってさ、ダメ元で来てみたんだ。 あー、でも、見つかって良かったねー」
「有難う御座いましたニャー!」
「ご迷惑をおかけしましたニャー。 ご苦労様でしたニャー」
 コータが頭を下げながらミルカとケヴィンを家の中にいれ‥‥‥ランと顔を見合わせるとキッチンにダッシュした。 一瞬ポカンとした顔をしたミルカとケヴィンだったが、すぐに二人を追って走り出す。
「ネズ四天王めっ!貴様らの思い通りにはさせにゃいニャー!」
「ボスもミネコも、なにまったり焼きそば作り手伝ってるニャー!」
「‥‥‥ああああああ!! 何で俺、敵のアジトでまったりお茶淹れてんのおおお!? 意味わかんないんだけどコレっ!意味わかんないんだけどー! それ以前に、自分達だって紅茶飲んで寛いだり焼きそば作り手伝ったりしてたのに、上手く編集しましたっぽく登場してるのも意味わかんないんだけどおお!!」
「くそっ!俺とした事が、ニャンジャー達の思惑にはまるなんて!」
「はまってねぇよ!どっちかっつーと、こっちがはまった感じだったじゃん!完全にここ、俺らにとってみればアウェーだし!」
「ふん、やっぱりネズ四天王なんて大したことにゃいニャー!」
「俺達の思惑に踊らされたコーイチの負けニャー!」
「ランもコータも、何わけ分かんないこと言っちゃってるのおおお!?」
「コータにゃんもランにゃんも、作戦は成功だったににょね!」
「え!?これ作戦だったの!?どっから作戦だったの? って言うか、ミルカもケヴィンもグルだったわけ!?作戦内容知らなかったのってもしかして俺だけ!?」
 ボスがキョロキョロと視線を彷徨わせる。 同じく当惑したようなケヴィンと目が合い‥‥‥いつだって、ツッコミはボケに振り回されるのだ。
「ふん、まぁ良い。ネズ四天王の力、思う存分見せてやる。いでよ、G!」
 Gと言われ、ジーと脳内変換し、さらにジィと変換する。 もしやジイヤが出てくるのか?本物のジイヤが!?と、期待すること数秒、出てきたのは茶色っぽい羽をつけた不思議な集団だった。
「ふははははっ!!いくらニャンジャーと言えど、これだけのGを相手に無傷でいられるかな?」
「‥‥‥これだけのって、三人しかいねぇじゃねぇか」
「五月蝿い!!事情があるんだよ、事情が!」
「それより、Gとはにゃんにゃんだ?」
「GだよG!ほら、台所とかによくいる‥‥‥」
 ランの言葉に、コーイチがしどろもどろになりながら身振り手振りで説明する。
「‥‥‥もしかして、ゴキブ」
「わーわーっ!!言うんじゃねぇっ! そもそも、そんな虫も殺さぬような乙女ちっくな顔して真顔でGの本名を言うな!」
「‥‥‥あにゃた、ゴキ」
「わーわーわーわーわーっ!!!」
 どうやらゴで始まってリで終わる4文字のものが苦手な様子のコーイチ。 それなら何で手下にしているのかと言う話しだが、おそらく彼ら以外に手下になってくれる者がいなかったのだろう。
「とにかく、ネズ四天王の中でもビジュアル系のこの俺様を倒す事が出来るかな?」
「ビジュアル系って‥‥‥別に関係にゃいと思うニャー」
 顔が良いから強いと言う科学的根拠は何処にもない。 コータのそんな的を得た発言にも、コーイチは顔色一つ変えなかった。
「薔薇を背負い、常に輝きを撒き散らすネズ四天王きっての美青年、コーイチとは俺の事! この俺の顔に傷をつけられるものなどいるはずもない! ‥‥‥ふっ、お嬢さん方、俺に惚れると怪我す‥‥‥ぐぎゃっ!」
 何処から取り出したのか、薔薇の花を一輪胸元で持ちながら気色の悪い長台詞を吐くコーイチに思わずフリーズしていたニャンジャー達の中で、いち早く立ち直ったコータが台所にあるものを物色し、大き目の鍋を掴むとコーイチに向かって放り投げた。 綺麗な放物線を描いて飛んでいった鍋は、コーイチの顔面に直撃すると地面に落下した。
「おま‥‥‥人の見せ場を‥‥‥」
「だって、にゃがいんだニャー。日が暮れちゃうニャー」
「しかもお前‥‥‥顔に投げるか、フツー。顔以外を狙うだろ」
「情けは無用ニャー」
「ふっ、まぁ良い。所詮お前達はGによって‥‥‥」
「あぁ、そのGさん達ならケヴィンさんがバッサバッサと斬り倒してますよ。 さすがファンタジーワールド出身、剣さばきが見事ですよねぇ」
「え、剣さばきって、銃刀法違反じゃ‥‥‥」
 言いかけるコーイチの頭の上に、純白の竪琴がぶつかる。
「しまったニャー!手が滑っちゃったニャー! 大丈夫かニャ?」
 虫も殺さぬような顔したヲトメ・ミルカがてへっ☆と笑いながら走ってくる‥‥‥が、すでにコーイチに息はない。
「ふー、とりあえず、一人目は抹殺しましたね。亡骸から鍵を奪って逃げましょう」
「ミネコ‥‥‥その言い方はにゃんか、犯罪っぽいニャー」
「何言ってるんですかコータさん。現実を見てください。明らかに犯罪でしょう?」
 足元に横たわるコーイチ(ネズ耳とネズ尻尾をつけた普通の人間)とG(ゴキ羽と触角をつけた普通の人間)が血を流しながら倒れている。 どこからどう見ても完璧な犯罪現場に加え、遺体から装備品を引っぺがす始末‥‥‥とんだ重罪だ。
「さ、警察が来る前に逃げましょう」
 こうして殺人鬼ヒーロー達は犯行現場を後にしたのだった ―――――



☆ 三天王がおわすマンション ☆



「思うに、私達も何か登場時の台詞を考えた方が良いんだと思うんです」
 チューサン以下、チュートリオが住んでいると言うマンションに向かう道すがら、おもむろにミネコがそう言った。
「いや、別に必要な‥‥‥」
「それで、私は夜を徹して台詞を考えてきました」
「ミネコ、俺達が会ってからまだ夜は越えてにゃいニャー」
 ボスとコータのツッコミをものともせず、ミネコはポケットから紙を出し ―――
「あ、降りなくちゃニャー」
「何ボサボサしてるニャー!」
 胸を張って皆の前に出そうとする前に、シッカリ者のミルカとランによって車外に引っ張られる。 何とか乗り越しは免れたものの、見せ場を台無しにされたミネコがホームの隅っこで膝を抱えて延々のの字を書いている。
「ミ、ミネコ‥‥それで、台詞はにゃんにゃんだニャー?」
 周囲の痛い視線を気にしながら、コータがミネコの肩を優しく叩く。 猫耳の変な集団が女の子 ――― あまり認めたくはないが、ミネコは美少女だ ――― を苛めていると通報されては困ってしまう。挙句彼らは前科があるため、チューオウと戦う前に法律に負けてしまいそうだ。
「皆さんに指令書を配ります。各自書いてある事をよく読んで、ネズ三天王との戦いの前に名乗るようにしてください」
 コーイチが死亡したため勝手にマイナス1にしてしまうミネコだったが、三人しかいないのに四天王と言うのもおかしいので、仕方がない。
 各自チラリと指令書に目を通すと、苦虫を噛み潰したような顔で唇を噛んだ。



 地上15階建てのマンションを仰ぎ見ながら、一同は一番下の階に住んでいるチューサンの部屋番号を押した。
「それにしても、やっぱりコーイチは仲間はずれにされてたんだニャー」
「そもそも、同じ場所に住んでいるとはなんとも無用心だニャー」
 ゲームでも、敵が全員同じところに住んでいればとてもやり易いだろう。 ただし全員が同じところに住んでいた場合、勇者と名乗るパーティがノコノコ入って行ったら袋叩きにされる危険性が高い。
「でも、コーイチにゃんの家の方が大きかったニャー」
 おそらく、コーイチのプライドがあれだけの豪邸を建てさせたのだろう。 仲間はずれにされても、ただでは屈しない精神は素晴らしいが、残念ながら彼はすでにこの世にはいない。
「もう、面倒なんで一気に崩します?ブルドーザーでも戦車でも大砲でも持ってきて」
「そんニャにゃげやりになってどうするニャー!」
「‥‥でも、良い考えだなソレ‥‥」
「ツッコミしか能がないボスのくせに、にゃに言ってるのニャー! ツッコミこそがボスのステージじゃにゃいニョー!」
 ミルカが叱咤激励する。が、叱咤の方が100tハンマーなみの威力を誇っていたため、ボスの心は激励を聞く前に撃沈した。
「って言うか、何で直接敵の部屋に連絡入れてるのニャー!?」
「なに言ってるんですかコータさん。昨今のマンションはここでこうやって部屋の番号を入れて向こうから鍵を開けてもらわないと、来客者は入れない仕組みになってるんですよ」
「そんにゃのは知ってるニャー!でも、だからってわざわざ‥‥‥」
「前科がどれだけ積み重なろうとも、勲章にしかにゃらにゃいニャー!」
「‥‥‥それはランだけだろ」
「そもそも、相手が開けてくれるわけにゃいニャー」
『はい、チューサンですが、貴方達誰ですか?』
「ニャンジャーです。貴方を殺しに来ました」
「どこの暗殺者ニャー!?」
 とても素直な宣言は、警察を呼ばれてもおかしくない、完璧な脅迫だった。
「おいミネコ。そんなんで開けてもらえるはずないだろう。もっと、宅配便とかなんとかって言っておけば良かったのに‥‥‥」
「ヒーローは闇討ちなんてせこい事はしないんだぜ!」
「‥‥‥なにキャラニャー!?」
「ふん、まだまだだにゃミネコ! 住宅から金目の物を全て盗み去り、時にはだまし討ちのような形で敵の城を占領し、突然目の前に現れた雑魚いモンスターをも惨殺する、それをしてこそヒーローニャー!」
「そんなヒーローがいるかあああ!!悪の手先じゃねぇかソレ!!」
「まぁ、当たらずとも遠からずってところかニャー?」
「当たってねぇし!掠ってもねぇし!って言うか、遠いだろ!対極の位置にいるだろ!北と南くらい違うだろ!」
『ふふ、やっと来ましたね、ニャンジャー諸君。 コーイチを倒したからと言って、良い気になっていてはこの私は倒せませんよ! なにせコーイチは四天王の中でも一番‥‥‥』
「綺麗事だけでヒーローが勤まると思ったら大間違いニャー!」
「確かにそうですが、闇討ちをしてしまうと影のヒーロー色が強くなるじゃないですか」
「どっちの言う事も分かるニャねー。どうせにゃら、ダークヒーローで行くかにゃ?」
「‥‥ケヴィンはどう思うニャー?」
 コータの質問に、ケヴィンは困ったように微かに眉根を寄せただけで首を振った。
「一先ずここは、じゃんけんで勝負ニャー!」
「望むところです!」
『おいいいいい!!人のこと呼び出しておいてどうして放っておくわけ!?めっちゃこっち、放置されてたんですけどおおおっ!!』
「ちょ、今忙しいんで後にしてください」
『忙しいとか、意味わかんないんだけど!君たち何しにココまで来たわけ!?闇討ちにするか正々堂々といくかなんて、最初から決めとけよ!ここで争う問題じゃないだろうが!』
「‥‥もー、五月蝿いですねぇ。今それどころじゃないんですってばー!」
「いや、まずはあっちを先に片付けた方が良いと思うんニャよ。簡単な問題から片付けたほうが効率が良いしにゃ」
「そうですね。それじゃぁ、一先ずこの問題は後回しにして‥‥」
『どう考えてもこっちの問題のが重要だろ!?っていうか、何で俺がいちいちツッコミを入れなくちゃならないんだ!?』
「ツッコミはボスの担当ですが、たまに‥‥と言うか、結構な頻度でサボるんです」
「いちいちお前らの全ての発言にツッコミ入れてたら気が狂う!」
『とりあえず、他の住人に迷惑だからとっとと上がって来い』
 ゆっくりと開く扉の中に入り、ミネコとランが顔を見合わせてニヤリと笑う。
「作戦成功ニャー」
「このくらいの作戦を見切れずにやすやすと入れてしまうなど、笑止! ネズ四天王と言えど、所詮はこの程度なんですね」
「お前ら、ここまで見越してあの馬鹿な話を‥‥‥」
「さぁ、とっととチューサンを始末してさっきの続きを話し合いましょう」
「望むところニャー!」
「‥‥ボスもいい加減ミネコとランの性格を分かった方が良いと思うニャ」
 コータの台詞に、ボスは複雑な顔をして溜息をついたのだった。



 予め調べておいたチューサンの部屋の前に着くと、ランが乱暴にドアを開けた。 無用心にも鍵のかかっていなかった扉の先、まったりとお茶を飲んでいたチューサンが慌てて腰を上げる。
「お前ら、ノックくらいするのが常識って‥‥」
「ケヴィン、叩き切るんだニャー!」
「頑張れ頑張れケヴィンニャーン!」
 ビシリとチューサンを指差して命令するランと、歌い踊りながらケヴィンを鼓舞するミルカ。 こういう場面は普通、相手が名乗るのを待ち、自らも名乗ってから戦闘に入るのではないか? そんなお約束な展開にすれば良いのか、それとも彼女達の言う事に従って不意打ち的に叩きのめせば良いのか、困惑するケヴィンの背中をランが思い切り押し飛ばす。
 玄関に並べられていた靴を踏みつけ、蹴飛ばし、段差に足を取られて上体がグラつくケヴィン。お約束知らずな連中を追い返そうとノコノコやって来たチューサンの頭に剣が刺さり ―――――
「うわああぁあああぁあぁ!! さ、最悪な展開だ‥‥‥! 会っていきなり何も言わずに瞬殺!暗殺者かお前ら!?こんなヒーローアニメがあったら、リモコン投げるぞ俺は!」
「しょうがにゃいニャー、ボス。こういう不幸だってあるんだニャー」
「そうニャー、そうニャー。ヒーローだって、カメラ回ってないところでは何してるか分からにゃいニャー」
「たまには雑魚キャラを蹴散らしてるって言う事だってあるでしょうしね。バイクとかで、バーンと‥‥」
「それに、四天王のうち誰かがやられて、何々は四天王の中でも一番弱かったのでとか言う人は、大抵弱いにゃよね?」
 ミルカの冷静な分析に、ランとコータが大きく頷く。 何処の世界でもお約束はお約束として存在しているようだ。
「それにしても、四天王と言う割りに弱いニャー」
 コーイチもチューサンもこの程度ならば、残るチューニとチューイチも大したことはないだろう。
「そりゃそうですよランさん。だって、幾らネズ耳とネズ尻尾をつけてネズ四天王と名乗っていようとも、所詮はこの世界の人間ですから。日本の法律を遵守して武器も持ってませんし」
 チラリとケヴィンに視線が集まるが、彼の持っている物になんら罪はない。なぜならば、あちらにはそんな法律は存在していないのだから。
 ミネコがゴソゴソとチューサンの亡骸から鍵を探っている間、ボスが思案顔で俯き、不意に口を開いた。
「一旦ここで二手に別れないか? この人数で動いても時間がかかるだけだ」
「そうですね。部屋もさして広くないですし、ボスの言うとおりここは二手に‥‥‥」
 ミネコの言葉が途切れ、目を見開いたまま固まる。 ただならぬ様子の彼女の視線を追って振り返り ――― 穏やかな冬の昼下がり、夕方に差し迫ろうと言う住宅街が広がっているだけで、何もない。
「ミネコ、どうしたんにゃ?」
「重大な事を忘れていました。 どうしましょう‥‥」
「重大にゃことって、にゃんにゃにょニャー?」
 ミルカの質問に、ミネコがクルリと室内に向き直ると片手を高々と上げた。
「漆黒の闇を纏い、鴉と戯れる聖少女 ――――― 冷たい視線が敵をズキュン☆クールビューティーミネコ!」
「桜の花を愛し、桃色の魚に愛される聖少女 ――――― プリティな笑顔でメロメロにしちゃうんだから☆スウィーティープリンセスミルカ!」
 ミネコに続いて思わず名乗ったミルカ。 しかし、その後に続く者は誰もいない。
 妙な沈黙が流れ、次第にそれは、名乗らなくてはならないと言う重圧に変わっていく。
「おい、どうやら名乗らないといけないらしいぞ」
「このままじゃ、永遠にずっとあのままになってそうだニャー」
「仕方がにゃい。ボス、行くニャー!」
「え、俺!?」
 ドンとランに押され、渋々ボスがポーズをつける。
「檸檬を愛し、ひたすら檸檬を愛する聖少年‥‥‥って少年!?俺もう25なんだけど!」
「え、25にゃのか!?」
 もっと年上だと思ってたと言うようなコータの発言に、ボスがプチショックを受ける。
「その前に、檸檬のところにツッコまにゃいとダメニャー」
「あぁっ!!ランにツッコまれてしまった‥‥‥」
 冷静なランの言葉に項垂れるボス。普段ボケ道を突っ走っている人からたまにツッコミを入れられると、意外と精神的にダメージを食らう。
「しょうがにゃいニャー、ボスの前に俺が自己紹介するニャー」
 ボス以上の渋々さ加減でコータがミルカとミネコの隣に立つ。
「草木を愛し、森に守られる聖少年 ――――― 俺の行く手を阻む者はプリンにしてやる☆プリンプリンプリンスコータ!」
「漆黒の闇を纏い、鴉と戯れる聖少女 ――――― 冷たい視線が敵をズキュン☆天上天下唯我独尊ラン様だ!敬え!!」
「おいいい!!なに人の台詞パクってんだよソコぉおおおおお!思いっきり紛らわしいじゃねぇかあああ!!」
「自分のは覚えてにゃいニャー。それに、ミネコの方が良さそうだったニャー」
「ランがちゃんと紹介しないとずっとあのままだぞあの三人!!」
「よし! ‥‥この際あいつらは置いていくニャー」
「ダメだろそれ!!」
 しょうがにゃいニャーと言いつつ、腰に手を当ててポーズをとるラン。
「紅蓮の炎を身に纏い、赤色の月を支配する聖少女 ――――― 熱い心なんてまやかしだ!騙されるな☆フレイムマジッククイーンラン!」
「‥‥おい、ケヴィン。お前も名乗れ」
 面倒臭いが、名乗らなければ永遠にこの状態が続くだろう。一時停止状態から復活するためには、ケヴィンが名乗らなくては始まらない。
「深い海を従え、高き空をも跪かせる聖少年 ――――― 銃刀法を蹴散らし剣で敵をバッサバサ☆ソードマスターキングケヴィン!」
「檸檬‥‥‥」
「ミネコブラック!」
「ミルカピンク!」
「コータグリーン!」
「ランレッド!」
「ケヴィンブルー!」
「その他一名!」
「俺か!?その、その他一名っての俺なのかあああ!!!?」


「「「「「我ら、ニャンコ戦隊ニャンレンニャー!!!!!」」」」」


「おいいいい!!ニャンレンニャー 一名足りてない!俺の事思いっきり置き去り!!!」
「ふー、皆合わせると爽快感がありますね!」
「‥‥まぁ、敵はもう力尽きちゃってるんにゃけどニャー」
「ダメですよコータにゃん。その部分には触れちゃ‥‥‥」
「って言うか、俺の名乗りは!?」
「檸檬を愛し、ひたすら檸檬を愛する聖少年‥‥‥って少年!?俺もう25なんだけど! で、良いじゃないですか」
「何でそんな投げやりなわけ!?」
「とりあえず、二手に別れてチューニとチューイチも片付けるニャー」
「それで、どうやって別けるんだニャー?」
「ここは戦力を考えて、あたしとランさん、ケヴィンさん、ボスとミルカさん、コータさんで行きましょう」
「‥‥まぁ、コータもミルカも強いと言えばつよ‥‥‥」
「ヲトメは弱いニャー!」
「ご、ごほん‥‥‥ま、まぁ、コータがいるから安心だ、なぁ?」
「俺に聞かれても反応に困るニャー。 でも、ミネコの方は大丈夫にゃのか?」
「ケヴィンさんがいますし」
 この中で最強の戦力を誇るケヴィンさえいれば、何も不安なことはないではないか。 そんな不思議そうな顔をしてチューニの元へと向かう三人の後姿を見送りながら、コータがポツリと呟いた。
「戦力じゃなくて、ツッコミ力のことニャー‥‥‥」



 チューイチと書かれた扉の前で、ミルカとコータが顔を見合わせる。
 ケヴィンと言う最大戦力を失った今、わざわざインターフォンを押して礼儀正しく自己紹介をしながら戦い始めると言うようなことはしない。扉を開け、中になだれ込み、寛いでいるはずのチューイチに奇襲をかける‥‥これぞ手早く安全な方法だ。
 扉を破壊する勢いで蹴り開け、雪崩れ込む。 チューサンの部屋は何だったのかと言うくらい広いチューイチの部屋を前に面食らう。 部屋の奥にはGを従えたチューイチが余裕の笑顔で待っていた。
「君たちのする事なんて、お見通しなのさ」
「‥‥チューイチがまさかのストーカーだったにゃんて‥‥」
「何でそう、いちいちボケるのかなぁ。‥‥まぁ良い。ニャンジャーもここでおしま‥‥‥って、どうして三人しかいないわけ!?他のメンバーは!?」
「チューニのところに行ったニャー」
「四天王倒す時は下から順番にってお約束はどうしたんだよ!」
「だってあにゃた達、大して強くにゃいんだもの」
 いちいち相手にしていたら面倒臭いと、ミルカが遠まわしにチューイチの心を抉る。
「ふん、まぁ良い。 数が少ない方がこっちにとっても有利だしな」
 ザッとチューイチの前に進み出たG達を前に、コータがポケットから殺虫スプレーを取り出した。 ポケットに入るような大きさでないことだけは確かだったが、この際そんな些細なことには目を瞑っておく事にする。
「こっちだって、奇襲だけに全てを賭けてたわけじゃにゃいんだニャー!」
 スプレーをG達に噴射するが ――― ゴで始まってリで終わるあの生物は、なかなかしぶとい。それでもって、現在目の前にいるGは見た目こそは羽と触角をつけているが、普通の人間と同じだ ――― まったくもって効かない。
「くっ‥‥‥なかなかの強敵だニャー!」
「強敵もなにも、その攻撃効いてねぇよっ!!」
「フレーフレー、コータにゃん!」
 歌って踊りながら必死に応援するミルカだったが、あまり効果はない。 歌魔法の効果によって多少は影響があるのかも知れないが、魔法よりも科学が支持されるこの世界では、あまり威力を発揮できない。
 クルクルと回りながら耳をピコピコと動かし‥‥‥開けっ放しのドアから吹き込んできた風と、ミルカの回転に伴うスカートの揺れが上手い具合に合わさり、ひらりと捲れそうになる。
「にゃああああああぁあぁぁぁ!!!」
 その声に驚いたGが動きを止め、スカートの中が見えたのではないかと勘違いしたミルカがそばにあった椅子をむんずと掴み、振り回す。
「うわあああああぁぁぁぁ!!!」
「お、落ち着くんにゃミルカ!!」
 狂ったように暴れまわる乙女・ミルカを必死に止めようとするボスだったが、地獄の大回転をしながら敵を粉砕していく彼女に近付くのは容易ではない。 阿鼻叫喚の地獄絵図の中、コータとチューイチだけは安全そうな場所に避難し、対峙していた。
「Gはあっちに任せるとして‥‥‥こっちはこっちで行くにゃ!」
「ふん、私を倒す事が出来るかな」
 邪悪な笑顔を浮かべるチューイチに、無言でガムを差し出すコータ。意味が分からずに眉根を寄せるチューイチに、いつの間に口に入れたのか、ガムを噛みながら彼の無言の質問に答える。
「ガムでも一枚どうかにゃと思ったんニャー。冥土の土産ってヤツニャー」
「ふん。冥土の土産はどっちが必要かな? まぁ、良い。お前の最後の優しさくらい受け取って‥‥‥」
 ガムを一枚引き抜こうとしたチューイチの指が、挟まれる。 バチンと軽い音の後に来た鋭い衝撃に、チューイチの顔が強張る。
「戦場で敵の差し出す物を受け取ろうとしてはいけにゃいって習わなかったにゃ?」
「き‥‥‥貴様ああああ!!地味に痛いじゃねぇかよコレええええ!!!」
 こういう地味な悪戯が一番腹が立つ。 チューイチがコータに殴りかかり、それを簡単に避ける。
 頭に血が上っている分、彼は冷静な判断が出来なくなっている。人並みはずれて強いと言うわけではないが、護身術くらいは身につけているコータは、状況を見極めると拳を握り、半歩足を引いた。 襲い掛かってくるチューイチに、距離を見極めながら体重を移動させ ―――――
「必殺☆ヲトメパンチニャー!!」
 Gとボスを片付けたミルカが突如乱入してくると、チューイチの頭にボロボロの椅子を振りかざす。 どこら辺がパンチなのかは分からないが、可憐な乙女は一撃で相手を床にねじ伏せると、凶器を足元に落とした。
「は‥‥‥恥ずかしかったニャー!」
「うん、俺は怖かったニャー」
 床に倒れて血を流ししているGと、床にひっくり返って伸びているボス、そしてこの一連の地獄を作り出した少女を見比べる。
「ボスまで殴ったのニャー?」
「ボスは、あたしを止めようと思って近付いてきて‥‥床に転がったGを踏みつけて転んで頭打ったみたいにゃにょよー」
 つくづく使えないボスだ。 コータはチューイチの亡骸から鍵を取ると、ボスの首根っこを掴んで引きずり、犯行現場を後にした。



★ チューオウと破壊神 ★



 何の魔法か、やけに表情豊かに口調も皇かになったケヴィンに困惑しつつ、コータとミルカは別働隊と合流した。
 伸びていたボスが起き、四つの鍵を重ね合わせた時、突然世界が白く光り輝き始めた。 鍵が七色の光りを白色の世界に撒き散らし、光りが弱まるに連れて鍵が溶け始める。カッと一瞬、目も開けていられないような光りが世界を満たし、ドスンと遠くで重たい何かが落ちる音が聞こえてきた。
 目を開けてみれば、はるか前方に有り得ないくらい巨大なネズミの張りぼてがあり、それは目の錯覚でなければ街を破壊しながらどんどん遠ざかって行っている。
「あれがチューオウか‥‥‥」
 厄介なデカさだと、溜息をついたのはケヴィンだ。
「このままでは戦えません。あたし達の心を合わせ、巨大ロボ・ニャンジャーを召喚するのです!」
 ミルカが差し出した手の上に手を重ねる。
「漆黒の聖少女★クールビューティーミネコ!」
「桜色の聖少女★スウィーティープリンセスミルカ!」
「檸檬の聖少年★スッパイクエンサンボス!」
「森林の聖少年★プリンプリンプリンスコータ!」
「紅蓮の聖少女★フレイムマジッククイーンラン!」
「空海の聖少年★ソードマスターキングケヴィン!」


「「「「「「 ニャンコ戦隊ニャンレンニャー、集結!!!!!! 」」」」」」


 合わさった手から力があふれ出し、凄まじい衝撃と共に地面に亀裂が入る。 すぐ後方の地面を割って出現した、子供の落書きのようなロボに全員が閉口する。もっと格好良いロボを想像していたのに、アレでは乗る気も起きない。
「私がデザインしたんです。首もとのリボンが可愛いでしょう?」
「‥‥耳があるからには、アレは猫にゃのか?」
「そうですよ。何に見えるんですか?」
「どこが目でどこが口なのかいまいち判別がつかないな」
 ちなみに、今の台詞はケヴィンだ。 今まで喋っていなかった分、急に喋りだされると誰が喋っているのか一瞬不思議になる。
 声での判別方法は、ボスよりもやや低く、全体的に甘い感じで、もっと言ってしまえば色香を纏っている方がケヴィンだ。 色気も何も感じない、ただ怒鳴っているだけの方がボスだ。
 文字での判別方法は、やたら怒鳴らなく、冷静なツッコミを入れているほうがケヴィンだ。なりふり構わず怒鳴っているだけのツッコミは、ボスだ。
「それでは、早速乗り込みましょう。‥‥と、その前に、皆さんが何処に乗るのかなんですが‥‥」
「勿論、私が中心部に乗ることは天地誕生の時から決まっていたことにゃんだ。なんなら、司令官役でもよろしいニャー」
「‥‥中心部って言うことは、胸元ですか? えぇっと、それじゃぁランさんが胸元で‥‥」
「ふふん、ロボに乗ってビーム出しまくりと言うのも一度やってみたかったんニャー」
「他は適当に決めちゃっても良いですか?」
「とにかく早くしろ。街が破壊されるぞ」
 ケヴィンの指摘に、ミネコが真剣な眼差しでジッと考え込むとそれぞれの乗り込む場所の指示を出す。 各自不服なところもあるだろうが、グズグズしていては被害は拡大するばかりだ!
「右手を高く掲げ、乗る場所を言うんです。 例えばボスの場合は、スッパイクエンサンボス★レフトフット!と叫ぶんです」
「よーし! フレイムマジッククイーンラン★チェスト!」
「プリンプリンプリンスコータ★レフトハンド!」
「スウィーティープリンセスミルカ★ライトハンド!」
「ソードマスターキングケヴィン★ライトフット!」
「スッパイクエンサンボス★レフトフット!」
「クールビューティーミネコ★ヘッド!」


「「「「「「 ニャンジャー合体!!!!!! 」」」」」」


 一瞬の浮遊感の後、一同はニャンジャーの内部へと強制的に転送させられた。 目の前には良く分からない計器がズラリと並んでおり、大画面には仲間達の困惑したような顔が映し出されている。
「シートベルトを着用してください」
 無機質な女性の声に従ってシートベルトをつける。 大画面に映し出されていた仲間の顔が小さくなり、左右の端に押しやられる。代わりに画面いっぱいに映し出されたのは破壊を繰り返すチューオウの姿で、ビルをあっという間になぎ倒すと平屋を踏み潰した。
「とりあえず、前進しましょう!」
 ミネコの声に反応してドスドスと進むニャンジャーだったが ―――――
「「うおぉぉおおおぉぉぉおおお!!!!」」
 悲痛な叫び声が聞こえてくる。 切羽詰ったような声は、足元にいるボスとケヴィンのもので‥‥‥ロボが足を動かすたびに、急上昇を急降下を繰り返して大変な事になっている。
 走るのは危険だと判断したミネコが歩くようにと指示を出すが、歩いたからと言って上昇下降が緩やかになるだけで大して嬉しいとは思えない。 それに、歩く事によってチューオウとの距離は急速に離れて行ってしまう。
「ミネコ! にゃんか、必殺技みたいにゃのはにゃいのか!?」
「必殺技ですか?」
「目からビームが出るとか、手からビームが出るとか、口からビームが出るとかニャー!」
「ラン、ビームばっかりだニャー」
 歩行時の衝撃によってツッコミを入れている場合ではないボスとケヴィンに代わり、コータがその役を買って出る。 ちなみにコータもミルカも多少前後に揺れてはいるものの、人間のように手を脇に垂らして振っているのではなく、脇に固定して前後に動かしているだけなので大した被害はない。
「ビームは出ませんが、ロケットパンチなら出来ます」
「よし、それニャー!」
「「ちょ、ちょ、ちょちょちょちょ!! ちょっと待ったニャーーー!!!」」
「ロケットパンチって、俺らのことニャー!?」
「ロケットパンチにゃんかされちゃったら、あたし達どうにゃっちゃうのニャー!?」
「少々の犠牲はつきものだニャー!」
「「イヤにゃーーー!!」」
「仕方がないですねぇ。それでは、ロケットキックで‥‥」
「「おいぃいいいいいぃいぃ!!!」」
「何で俺らばっかりそんな茨の道を歩ませようとしてんだお前らあああぁああ!!」
「第一、ロケットキックを飛ばした後、このロボは立っていられるのか?」
 ケヴィンの指摘にミネコが黙り込む。
 ロケットキックを繰り出して、一本足で立っていられるような構造ではない。危ういバランスで立っているこのロボは、足が一本でもなくなればたちまち崩れ落ちてしまうだろう。
「それじゃぁ、やっぱりロケットパンチニャー!」
「ダメダメダメダメダメにゃぁぁああぁぁ!!」
「ロケットパンチも両方打たないと傾く可能性がありますね。なので両方発射して‥‥‥」
「勇者が仲間を犠牲にして良いわけにゃいニャー!」
「時にはそう言う場面も必要にゃんだニャー!」
 コータとミルカ対ランの言い争いを聞いていたミネコは、ふとある事に気づいて顔を上げた。
「特定の誰かが被害を受けるわけではない、一撃必殺技があるんですけど‥‥」
「にゃんですって!?ソレを早く言ってニャー!」
「皆さん、目の前にある赤いボタンを押すんです!」
 いつの間にかコチラに近寄ってきていたチューオウが、腕を振り上げる。 巨大生物のパンチは、乗っている人の身体にどれほどの衝撃を与えるか分からない。
 コータが、ミルカが、ランが、ボスが、ミネコが赤いボタンに手を伸ばし、ケヴィンも恐る恐る手を伸ばすが‥‥‥
「そう言えば、特定の誰かが被害を受けるわけではない一撃必殺技って、つまり ――― 」
 ポチリ、六つのボタンが押し込まれる。
 ――― つまり“特定の誰か”が被害を受けるわけではないが“誰も”被害を受けないとは言っていない。さらには一撃必殺技‥‥つまりは、一回しか発動できない究極の必殺技なわけであって‥‥
「それってさ、平たく言うと自ば‥‥‥」
 自爆と言いかけたケヴィンの言葉が止まる。 腕と足、胴体と頭がバラバラになったニャンジャーは、一斉にチューオウに突き刺さった。パーツごとに分かれたニャンジャーは、確実にチューオウの急所に突き刺さり、傾いだ体が地面に倒れこむ。
 そして、お約束とでも言うべきか、謎の巨大生物は周囲の物を巻き込みながら、派手に爆発した。
 自爆ほど捨て身ではなかったが、結果は限りなくソレに近い物となり、チューオウに突き刺さっていたニャンジャーも、それに乗っていたニャンレンニャーも爆発に巻き込まれはしたのだが、そこはヒーロー、たかだか周囲数十キロメートルが吹き飛ぶ程度の爆発になんて負けていられない。自己再生能力は化け物なみだ。



☆ 世界に平和が戻り ☆



 焼け野原と化した大都会、東京の真ん中で、コータはミネコとボスと向かい合っていた。
「コータさんのお陰で、ネズミー達の野望は阻止されました。あたしは予め猫達に特殊な結界を施してありましたので、先ほどの爆発でも猫は無事です」
「人は!?って言うか、猫以外の全生物は!?」
「チーズも市場に出回るでしょうし、お年玉ももらえるでしょうし‥‥世界に、平和が戻りました」
「焼け野原の中心でそんなこと言われても、全然説得力がないんだけどぉおおお!!!」
「それじゃぁ、これはもう取れるんにゃね」
 コータが自身の頭の上に生えている猫耳をグイと引っ張り ――――― 引っ張り‥‥‥と、取れない。
「にゃ、にゃんでニャーーー!!!??」
「まだネズミーの下っ端が残ってますし、それに‥‥‥コータさん、猫耳似合ってるので良いんじゃないですか?」
「似合ってたって嬉しくにゃいニャー!」
 必死に耳を引っ張るが、抜ける様子は全くもってナイ。
 そうこうしているうちに、ネズ耳とネズ尻尾をつけたチンピラ風の男達に周りを囲まれ、さらには遠くからはパトカーのサイレンが聞こえて来る。
「ヤバイ、俺らを捕まえるつもりだぞ!」
「えぇぇぇ!?にゃんでニャー!?」
「周りを見てみろ!焼け野原じゃねぇか! それに、殺人の容疑もかかってるし‥‥‥」
「とりあえず、ネズミー達を蹴散らしてから逃げましょう! あぁ、良いですねこう言うの。大抵勇者って、最初は悪者から追われてるもんですよねぇ」
 呑気にそんな事を言うミネコが、キックとパンチを駆使しながらネズミーを蹴散らして行く。 ボスもアレでいてなかなか強く、コータは二人の後に続きながらポケットに入っていたネズミ花火を取り出して敵の足元に投げつけた。
 ――――― あぁぁぁ、何でこんな事に ‥‥‥!!!
 鬼神の如く暴れまわる二人の背中を見つめながら、急速にコータの意識が闇に呑まれて行った ―――――



「う‥‥‥うぅん‥‥‥?」
 顔を上げ、口の端についた涎を拭い、コータは目を擦った。
 穏やかな昼下がり、窓から差し込む日差しとぬくぬくとしたコタツの暖かさに、いつの間にか眠っていたらしい。
「変な夢見たな‥‥‥」
 どうしてあんな夢なんて見たんだろう? 考え込むコータの耳に、テレビの発する音が聞こえてくる。
『貴方の思い通りになんてさせないわ! ニャンコ変身!』
 ――― あぁ、コレのことか‥‥‥
 ニャンコ戦隊ニャンレンニャー。 主人公の少女が確か、ミネコと言う名前だ。
 月間少女テラーに漫画が連載されており、少女に限らず、全国的な人気を誇っている。
 コータは読んだことはなかったが、ニャンレンニャーファンの知り合いなら何人もいる。
 テレビから聞こえてきたものをそのまま夢の中に引き入れるなんて、我ながら単純だな。 そう思いながら苦笑した時、ピンポーンと軽やかにチャイムの音が鳴った。
 コタツの温もりから離れるのは気が進まないが、コータはノロノロと立ち上がると玄関を開けた。
「あれ、ラン?」
 そこには夢の中に出てきた聖少女☆フレイムマスタークイーンランならぬ、ラン・ファーが腕に何かを抱えて立っていた。
「ちょっとコータ、コレを見てみろ!」
 そんなところに立っていては何だからと家の中に上げ、ランの持ってきた箱に視線を落とす。
 宛名はランとコータの名前になっており、送り主は笹原・美音子と棒田・鈴彦となっている。
「ささはら・みねこと‥‥‥ぼうだ・すずひこ?」
「あぁ、そうだ」
 少々青ざめた顔のランを気にしながらも、コータはガムテープを引っぺがした。
「なぁ、コータ。お前、変な夢を見なかったか? ニャンコ戦隊ニャンレンニャーの‥‥‥」
「え、ランも見たのか?」
 変な偶然もあるものだと驚きながら箱を開け ―――
「ミネコと、ぼうだ・すずひこ‥‥ぼうだ・すずひこ‥‥‥ぼ・す‥‥‥ボス‥‥‥」
 箱の中には、月間少女テラーと見慣れないフィギュアが入っていた。 猫耳をつけたソレは、どこからどうみてもランとコータだった。
「な、なんだこれ‥‥‥」
 慌てて数冊入っていた雑誌を捲ってみれば、登場人物の欄にコータとランの名前が入っている。 もっとも、多少苗字を弄られているが、見る人が見ればすぐに分かってしまうレベルだ。
『俺の学校を荒らされちゃ、迷惑なんだよ!』
『同感だ。ニャンコ変身!』
 聞きなれた声がテレビから流れ、コータとランはビクリと肩を震わせた。
 恐る恐る振り返ってみれば、そこには雑誌の中にいたコータとランが出ており ――― 声までも、二人のそれと全く同じだった。
「ラン。 このアニメって、年齢性別を問わず大人気なんだよな?」
「そうだ。 しかも、全登場キャラクターに熱狂的なファンがついていると聞く」
 サァっと、二人の顔から血の気が失せて行く。 見る人が見れば、モデルが誰なのか分かってしまうようなイラストと名前と、さらには声までも本人の承諾なしに使われている‥‥‥。
 コータやランの知り合いが、ポロリと情報を漏洩させてしまう危険は大きい。 と言うか、誰かしらは必ず言ってしまうだろう。 俺の知り合いに、ニャンコ戦隊ニャンレンニャーのコータに似てるやつがいると。
「に、逃げるぞラン!」
「そ、そうだな‥‥‥」
 こうして二人は手を取り合い、一時草間・興信所に避難した。 熱狂的なニャンレンニャーブームは、ひとえに書き手の嵯浦・瑞子(さうら・みずこ)の不可思議さ ――― 取材の一切を拒否し、本名その他も謎に包まれている ――― と声優陣の不明さ ――― 無名の声優ばかりを使ったらしく、誰もが知らない名前ばかりだった ――― が火をつけた感が大きい。話し自体はお約束に乗っ取っており、登場人物達もやたら非現実的な性格をしていた。
 コータとランは草間・武彦に頼んで送り主である笹原・美音子や棒田・鈴彦のこと、そしてニャンレンニャーの書き手である嵯浦・瑞子の事を調べてもらったのだが、手がかりは何もつかめなかった。
 それから数ヵ月後、熱狂的なニャンレンニャーのブームは終わり、コータとランにも平和な時が訪れたのだが、結局あの時のことがなんであったのかは分からない。 ほんの一時のニャンレンニャーブーム、不思議な夢、全てが幻のようにも思えるのだが、手元に残った月間少女テラーとフィギュアは消えはしない。
 嵯浦・瑞子の名も、ニャンレンニャーのブームの終わりと共にいつしか人々の記憶から忘れ去られていき、コータの記憶からも淡く消滅して行ったのだった ―――
 そう、翌年のお正月までは ‥‥‥‥‥



 コータは先ほどから、人々のおかしな様子に気づいていた。
 茶色いコートを羽織った30代後半くらいの男性に、黒いコートを羽織った20代半ばくらいの男性。彼らは真剣に何かを話し合いながらこちらに歩いて来て ――― ふとコータを見ると、顔を強張らせた。
 ‥‥‥‥‥いや、違う。
 コータを見ているのではなく、コータの後ろを見ているのだ‥‥‥!
 瞬間的に振り返った時、ピョンと何かが飛び上がった。
 ヒラリと布が揺れ、甘いコロンの香りが鼻腔をくすぐる。
 茶色い髪がふわりと揺れ ――――― コータの頭の上に、何かが乗った。
「貴方をモーモー戦隊モーレンモーの一員と認めます」
 腰近くまである髪を三つ編に編んで両肩に垂らした眼鏡少女はそう言うと、コータに小ぶりの手鏡を手渡した。

「な、なんだこモーーーーーーーーっっっ!!!!!!」

 ――――― って言うか、今年もまたこのパターンかあああぁぁーーーっっ!!!



★ 特別付録 ★


 * ニャンコ戦隊ニャンレンニャーグリーン・スペシャルデータ *

名前:清ヶ咲・コータ(しがさき・こーた)
年齢:20歳
職業:ニャンコ大学二年生(民俗学)
家族構成:秘密
好きな食べ物:プリン
性格:明るく元気で誰とでも仲良くなれる
初登場時:ニャンコ戦隊ニャンレンニャー第三話『貴方の野望はあたしが砕いてみせるニャー!』
登場台詞:「新緑の戦士・コータグリーン!全世界の平和の為に、いざ参る!」

・主人公、笹原・美音子の憧れの先輩
・学園理事のボス、市谷・玲一(いちがや・れいいち)と仲が良い
→玲一は25歳にして学園理事を任される秀才で、容姿端麗
・ニャンコ特殊能力として、木々と言葉を交わす事が出来る

*萌台詞投票
・第三位 : 第六話『可憐なるピンク色の舞』より
「楽しいことは好きだけど、ただの快楽は嫌いなんだ。 ‥‥俺の事、甘く見ないでくれるか?」
→敵の淫魔の色香に惑わされることのなかったコータに女性の支持票が集まった

・第二位 : 第十話『正義の心を持つ子供達』より
「お前達のママやパパは、俺が絶対元に戻してやる。約束する。 ‥‥全部終わったら、一緒にプリン食べような」
→優しい笑顔とプリンが好物と言う可愛らしさにメロメロになった女性が多いとか‥‥

・第一位 : 第三話『貴方の野望はあたしが砕いてみせるニャー!』
「この先に行きたいなら、俺を倒してからいけよ。 ‥‥俺の事を倒せるんならな!」
→校舎内に残っている生徒を美音子が逃がす時間を作るために進んで敵の前に出たコータの勇敢な姿に支持が集まった

・最終話『ニャンコ戦隊ニャンレンニャーサヨナラの日』では美音子から想いを告げられるも優しく断り、海外へと旅に出て行く。何者にも縛られず、自由を求め、平和を愛する姿に今もなおコータファンが多い。
・コータと美音子のその後や、ボスとコータの麗しき日々など、同人誌ではコータのその後がバリエーション豊かに描かれている。
・コータには実在するモデルがいるという話もあるが、定かではない。



END


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


 4778 / 清水・コータ / 男性 / 20歳 / 便利屋


 6224 / ラン・ファー / 女性 / 18歳 / 斡旋業

 3425 / ケヴィン・フォレスト / 男性 / 23歳 / 賞金稼ぎ

 3457 / ミルカ / 女性 / 17歳 / 歌姫 / 吟遊詩人


 NPC / ボス
 NPC / ミネコ


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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もう二月になってしまいましたが‥‥あけましておめでとう御座います!
OPからいきなりテンション高く発進した猫夢ですが、如何でしたでしょうか。
コータさんはボケもツッコミも出来るという事で、足りない方に色々と手を貸していただきました。
ニャンジャーでは腕と言う、ある意味危険なポジションに乗り込んでいただきました!
‥‥ロケットパンチが発射されたら大変でした‥‥
最後の特別付録は、本編との直接的な関係はありません。
月間少女テラーに出てきた、コータさんをモデルにした清ヶ咲・コータがどんなキャラクターだったのかの簡単な説明です。
生暖かい目で眺めてくださればと思います。
それでは、ご参加いただきましてまことに有難う御座いました!