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人材派遣会社
ジリリリンと黒電話が鳴った。
そこで素早く電話を取ったのは見習い探偵、草間・零である。
「はい、草間興信所です」
「あなたの興信所、良い人材が欲しいと思いますか?」
「それは所長に直接聞いてもらうしかありませんので、
お電話代わりますね」
受話器は零から草間武彦に変わった。
「で、どんな用件なんですか?」
「最近、心霊や超能力に関する依頼が多くありませんか?」
「多いですけど、ウチは普通の興信所ですから」
「嘘をつくな」
「我々を甘く見るな。それならなぜ霊鬼兵がいるのだ?」
「それは……ゴミ捨て場に置いてあったから……」
「その頃だろう。怪奇現象の依頼が増えたのは。一度挨拶に来なさい」
「挨拶に行けったって……」
プツッ。電話はこと切れた。
「あ、みてください、少年が手を振ってます」
少年をみつけた零は、その場にいた武彦を呼んだ。
窓から見ると15歳前後の少年がぽつんと立っている。あの電話のあとすぐに。
携帯電話でかけた?いやそんなことはないはず。
あの電話の主の太い声とは明らかに違う。
そこで武彦の恋人、草間興信所で働いているシュライン・エマは、
「怪しいわね……まずは興信所らしく電話会社とIO2に連絡しましょう」
そうやって、いくつもの電話会社に交渉し詳細を調べた。
どこの電話会社も返ってきたのはこの言葉。
「そこはまずいんです。我々の命がかかってるんで教えられません」
そんな危ない電話回線があるのだろうか?
「これは裏組織の可能性ありねー。どうしよっか?武彦さん」
武彦がコーヒーを飲んでいる様子を流し眼に見て、
優しく、色っぽく話しかけてくるシュラインにドキドキしていた。
「そうだ! IO2がまだだった!」
すぐにIO2に電話をした。
「あの電話ですか? 確かウチに入ったばかりの馬鹿な社員がかけたようで、
深く反省しています。お詫びも兼ねて招待させていただきます。
是非来てください」
あっさり。あの電話はIO2のものであった。
「で、我々はどうすればいいんですか?」
「すぐに少年を派遣します。待っていてください」
しばらく事務所前で武彦とシュライン、零の3人は少年を待っていた。
すると、黒い縦線が三人の目線に現れる。そこから黒い空間が開かれ、
一人の少年が現れた。あの以前立っていた少年である。
赤毛に染めて、ぼんやりした瞳を持ったその子の最初の一声がこれだった。
「迎えに来たぞ。早く空間の中に入れよ」
そこでシュラインと武彦は怒りの小枝がピキっと折れた。
ここで小枝の折れたお姉さんが少年に質問した。
「電話相手や用件、住所に、それとあなたの名前と身分を聞いてもいいかな?」
「めんどクセー。行けばわかるよ」
ここでシュラインの怒りの小枝がもう1本折れた。
少年はマッチに火をつけて、持ってきたランタンに明かりを灯す。
「俺から離れるなよ」
異空間に入ったのは3人とも初めてで、ただ少年の言う通りにするしかなかった。
そこは、ただ、ただ、暗い闇の中で自分で歩き、進んでいるのかさえ
疑ってしまうほど、暗い空間だった。
やがて少年が黒い空間に円を描いて、そこから光が見えてきた。
最初は眩しい光だと思っていた。でもそうじゃない。昼間なのにどこか暗い感じ。
そしてヨーロッパ風の建物で格式高い造りの大きな屋敷。
しかし、簡単に侵入されないように鉄格子で固められている。
これがれっきとしたIO2の日本支部である。
少年は入力機にカードをスライドさせた。すると鉄格子が開いてゆく。
そして次は虹彩認証である。少年は目を赤外線レーザーで読み込むと、
やっとドアが開いた。
赤絨毯が敷かれている洋館みたいなところだが、人気は全くない。
いや、施設がそう感じさせているようだ。
少年が案内した先には、洋館の一室である。不思議だ。
その部屋はただの白い会議室であった。
手前の方にIO2のエージェントと思われる暑苦しいスーツの者が何人か。
その隣に変わった面々が集まっていた。
一人は金髪の内巻きボブの女性。大人の魅力ある女性なので年は武彦と
そう変わらないようだ。
問題は残り二人。
明るい茶髪で、長い髪をそのまま垂らしている。
そこらへんの女子高生のような格好をし、マンガを読みふけっていた。
その隣は口応えのなってない赤い髪の少年が座る。なんなんだ。この集団。
「紹介します。こちらが『超常組織スピリッターズ』の……」
武彦とシュラインは耳が遠くなって「〜スピリッターズ」のあたりで
2人はあきれ、枝がぽきんと折れたように脱力した。
「(ひそひそ)ねぇ零ちゃん、あの人たち何だって?」
シュラインは零にこそこそ聞くと、
「霊能力があって、二人の世話を焼くお姉さんのエル・レイニーズさんと
超能力が強く、様々な能力を兼ね揃えてる、故河あずささん15歳。
最後の子は不登校中で空間を自由に操れる波多野くん14歳だって。
波多野くんは名前を呼ぶのを嫌がって、ちゃんと聞けなかったよ」
武彦は携帯電話をいじってる波多野の名前を聞いて、からかってやろうと思った。
「波多野くん。君、下の名前はなんだい?」
「……別に関係ないじゃないか」
すると隣の女の子――故河あずさがからかうように、
「由宇っていうんだよー。女の子にもありがちな名前だよね」
「うるさいあずさ!」
「由宇くん。目上の人に敬語くらい使えないと大物になれないよ?」
と、あずさは念を押すと由宇は黙り込んでしまった。
そこでIO2の人が重い口を開け、本題に入ってきた。
「本来ならばこちらからご挨拶に行くべきでした。最近怪奇現象の発生が
あまりにも増えています。そこで何か情報が入ったら教えていただきたいのです」
そこにいるみんなは、その言葉を真摯に受け止めていた。
「そして、その報酬にこの3人を使ってやってください。何せこの3人は」
と、エージェントの言葉をさえぎって。
「それ以上は言わないで!」
とエルは言葉を遮った。
そういうわけで、エルと武彦は名刺交換をした。
やがてトントンとドアが叩かれ、コックさんが次々とご馳走を運んできてくれた。
「ここまで来てくださった、せめてものお礼です」
そうやって食事会を終えると、お互いよろしくお願いますと挨拶をして終わった。
しかし納得のいかない人が一人いた。シュラインである。
帰った後、武彦に、
「私、どうしても納得がいかないから。『超常組織スピリッターズ』。
名前からしてセンスを疑うし、独自で調べてみるわ」
そうして独自調査が行われた。
まず郵便会社にあの手この手で情報をぎゅっとつかんで、
スピリッターズの事務所、故河あずさ、波多野由宇の住所がわかった。
まず故河あずさの家から尾行していこうとしたら、
人気のない裏口に入っていった。シュラインも入って行ったら
あずさの姿はなかった。どうもテレポーテーションを使ったらしい。
一方、由宇は普通に学校に行くフリをしたら、やはり空間に入っていった。
しかたなくスピリッターズの事務所を調査しようと訪れることにした。
そうしたらびっくり。プレハブ小屋である。
「こないだの姉さん。なにしに来たの?」
波多野由宇に背後から声をかけられた。
「尾行? 別にいいけど。せっかくだから上がれよ」
シュラインはつい乗せられて上がってしまった。
古い、まるでゴミ捨て場から持ってきたような家具に占領されている。
この場所はどこか草間興信所に似てて、懐かしく、
初めての場所じゃないように感じさせる。
由宇は台所に行って何かしている。どうやら紅茶を作ってるようで、
できあがったらこちらへ持ってきた。
「はい紅茶」
「あ、ありがとう」
するとすぐに由宇は話しだした。
「俺らのこと調べ回ってる? 大丈夫。怖い組織じゃないから」
「怖い組織じゃなくても、未青年のあなた達を怖い目に会わすなんて」
「エルはそんな人間じゃない。俺らのこと一番考えてくれてる。
あずさも俺もいわくつきの人間なんだ。俺は自主的に行かなくなった不登校生、
あずさは神奈川にいたんだけど、強力な超能力によって怪我させてしまって。
エルは東京での保護者的存在なんだよ。俺らにとって。それに俺ら、
エルより力、強いし、エル、面倒みてくれるし、あずさも同じ気持ちじゃないかな」
ぶっきらぼうに答えた由宇の目はいつになく真剣だった。
「たっだいまー」
あずさが事務所に入ってきた。
「あ、草間興信所の方ですよね。先日はお世話になりました」
深々とお辞儀をするあずさは、由宇と違って敬語の使える礼儀正しい女の子であった。
「由宇ーキムチ鍋の材料買ってきたから、今日は鍋にしよう!
……あの、よろしければシュラインさんや、草間興信所のみなさまも!」
調査に来たはずなのに、なぜか夕食を一緒にすることに。
すぐエルが帰ってきた。そこにはシュラインを始め武彦、零、由宇、あずさが
顔をそろえて、おいしそうなキムチ鍋ができあがっていた。
「まぁ興信所のみなさんまで……」
そこで武彦は、
「せっかくなんでお邪魔してみました、あ、材料は半額出しますから」
そこでエルの目がキラリと光り、
「当然よね〜ふふふ」
「エルさんはね、うちの経営が大赤字だからドケチなんですよ」
「あずさ! それは言わないの」
そこで武彦が、
「いや、いいですよ。じつはウチも……」
シュラインが足をつねったが遅かった。
「お互い協力しまいましょうね」
ここで興信所と超常組織との貧乏同盟が発足した。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【NPC / 草間武彦 / 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵】
【NPC / 草間零 / 女性 / ― / 草間興信所の探偵見習い】
【NPC4783 / エル・レイニーズ / 女性 / 32歳 / 女刑事】
【NPC4829 / 故河あずさ / 女性 / 15歳 / 女子高生】
【NPC4852 / 波多野由宇 / 男性 / 14歳 / 中学生(不登校児)】
他
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■ ライター通信 ■
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こんにちは。いつもありがとうございます。
自分ではIO2と答えが出ていたので、第三者の組織と踏んだシュラインさんの
プレイングを上手に表現できてないと思います。
それにIO2があの電話をするのもおかしいですしね。
せめて細かいところまで疑うという意味で、表現させていただきました。
気に入ってくださると嬉しいのですが……。
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